イントロ
TSモノが好きで書きたいと思い続けてはや5、6年。色々と試行錯誤した上で考えた設定を元に描く作品でございます。TSモノにおけるテンプレ要素はストーリー的に弱めになってしまうかと思いますが、是非TSモノ好きの同士にも、そうでない方にも目を通して頂けたらなという思いで書いていきます。よろしくお願いします。
「調査班は壊滅...か...」
眼帯を左目に付けた男はそう呟くと、小鳥の風貌をした使い魔に「調査班は壊滅。至急、応援求む」のメッセージを持たせると、古びた遺跡の様な場所へと足を踏み入れた。
「さて...鬼が出るか、蛇が出るか...」
男は辺りを警戒しながら短剣を構えて奥へと進んで行った。
そこの外見は古びた遺跡の様な出で立ちではあったが、中は何かの研究施設の様だった。しかし、男が中で見た光景は研究施設というよりも、『戦場跡』と例えた方がいいだろう。辺りには爪か何かで身体中をズタズタに引き裂かれた男の死体や、見るも無惨に腹を抉られた女の死体があり、鋭い牙や、爪を持った異形の怪物の死骸や肉片が散らばっていて、壁や床には銃痕や、焼け焦げた後が残っていて、酷い匂いが立ち込めていた。
中には微かに息をしている死にかけの怪物もいたが、それを見た男は咄嗟に短剣で頭を一突きし、息の根を止めた。
「ここで一体何が...」
怪物は見た事もない異形だったが、どこか見覚えのある特徴を幾つか持っていて、男はどこか恐ろしくなって深く考えない事にした。
男は辺りに転がる『調査班であったもの』を一瞥しながらさらに奥へと進んでいくと、部屋の隅に地下に繋がる階段を見つけた。元は隠し階段であったのだろう、棚がずらされた跡がある。何か大切なものをここにいた連中が隠していたのだろうか。
男は迷うことなく階段をゆっくりと下っていった。階段を降りていくと、少し長い廊下に繋がっていて、廊下の先には何か大きな力で吹き飛ばされた両開きの扉がついていた部屋の入口があった。
男は息を少し飲むと、ゆっくりと警戒をしながら部屋へと入った。
その部屋には、硝子でできた円柱がいくつもあったが、その殆どが割れていて、中から緑色の液体が溢れ出ていた。
どうやらここから異形の化け物が出てきた様だ。さっきは深く考察をしないようにしていたが、これで合点がいった。恐らく様々な種類の生物を掛け合わせ、研究を行っていたのだろう。その証拠に、割れていない円柱の中には、歪な姿をした生物らしきものが浮かんでいる。
『それ』の頭の半分は蜥蜴族のだろうか?頭の縦半分は蜥蜴族の特徴を持ち、もう半分は人間族の特徴を持っていて、それらは歪な形で繋がっていて、身体の方は、鱗と皮が混じったような気色悪い肉の塊のようで、手足は身体と同化していた。この研究の残骸は実に見るに堪えないほど生物と呼ぶに相応しくなく、所謂『失敗作』というやつだろうか。
男は顔を顰め、部屋の奥へとピチャピチャと音をたてながら液体の上を進むと、部屋の奥に鎮座する作業机の後ろにシャッターがあることに気付いた。シャッターは二つあり、片方のシャッターは中から引き裂かれ、何かが逃げ出した痕跡が残っていた。ここから逃げ出した生物がドアを吹き飛ばしたのだろうか。
もう片方のシャッターは綺麗に残っていて、シャッターの横には誤操作を防ぐための硝子のカバーのついたレバーがあり、なにか大事なものを保管しているようだった。
男は一瞬躊躇った後、カバーを外してレバーを下ろした。
その時、ガコン!という大きな音と共にシャッターが重い音を響かせながらゆっくりと開いた。
シャッターの向こうには培養液で満たされた水槽があり、水槽の中には、ヒトのかたちをした生物が膝を抱えた状態で眠っていた。ヒトのかたちという表現をしたのは、男の知っているどの種族にも当てはまらないからだ。
それの頭部は、蒼い髪が水槽の中で扇状に広がっていて、美しく整った顔立ちで、顔の3分の1を鱗のようなゴツゴツとした鉱石のような物体が覆っていた。耳は竜人属特有の鋭く長い形をした耳で、首から胸部にかけて鱗が覆い、左手はおぞましい竜の様な手をしていて、右手は至って普通の人間の手だ。腹部は脚を抱えた体制をしているためよく見えないが、脚部は鱗や鉱石のような物体が覆っているもの、形は普通の脚だ。
この生物が厳重なシャッターの奥に保管されている、ということは生物を掛け合わせる実験の成果というやつだろうか。
男は水槽にそっと片手で触れ、呟いた。
「コイツは、一体何者なんだ...」
その刹那、水槽の中の生物がパッと眼を見開き、男の眼を凝視した。
男は自分の意識が遠くに行ってしまうような不思議な感覚に襲われた。水槽の生物の透き通るような紅い瞳に取り憑かれるように、呑み込まれるように...
気がついたら男は両手と前頭部を硝子に貼り付け、水槽の中の生物を凝視していた。水槽の生物も男に鏡合わせになる形で硝子に張り付き、男を凝視していた。そして、紅い瞳に呑まれる感覚のまま、男の意識は暗転した。
世界観としては、剣と魔法の世界です。銃痕と出てきましたが、銃と言ってもマスケット銃のような物をイメージしていただけたらなと思います。(某空のスマホRPGに出てくるようなやつ)
ここは「灰色の世界」第0話となる部分ですので、イントロ部分の良さを味わって頂けたらなと思います。
では、また第1話でお会いしましょう。
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