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クールな巳波がデレるまで  作者: 涼ミ音エイ
川原で見た夕焼けは良い思い出になる
7/12

第七話 カラオケよりも川で歌いたい

川が夕日を反射しキラキラと流れている。涼しい風が吹き、伸びた草が揺れた。


「ら〜ら〜ら〜♪」


風に乗って歌声が流れてくる。

春樹(はるき)が自転車を止めていつもの場所へ視線を向けると、岸辺に座り歌を口ずさむ少女がいた。——巳波(みなみ)である。


「よぉ、こんなとこで何やってるんだ?」


巳波はハッと振り返った。すぐに声の主に気が付き緊張が解ける。


「聞いていたんでしょ?」

「上手かったよ」


春樹が手を叩いた。


「そう」


彼女はつれなく視線を川に移す。しかし、春樹には頬が朱に染まったのが見て取れた。


「よくカラオケに行くのか?」


春樹は巳波の隣に腰を下ろす。座りながら聞いた質問に彼女は首を振って答えた。


「歌う場所はどこでもいいもの。わわざわざお金を払ってまで行かないわ」

「家じゃうるさいって言われない?」

「だからここに居るんでしょ?」

「ああ、なるほど」


巳波が地面を指指し、春樹が納得した。


「それにカラオケは嫌いだもの」

「カラオケにはカラオケのいい所もあるだろ」

「例えば?」

「飯が食える」

「私は歌いたいの。食べたいんじゃないわ」


彼女は呆れたようにため息をする。


「あいにく食事には困ってないわ。一日三食ちゃんと食べている死ね」

「あれ? 今、語尾おかしくなかったか?」

「ほんと、なんでカラオケにフードメニューがあるのかしら? 必要なの?」

「歌っていて小腹が空いたときにありがたいだろ」

「じゃあ、ポテトとかでいいじゃない。ピザとかカルボナーラとか売っている場所もあるわ」

「それは勉強しに来た人用とか?」


蛙が鳴いて川に飛び込んだ。


「いるわよね。カラオケで勉強する人。理解できないわ」

「そうか? 意外と集中出来るぞ」

「バカなの? 集中とはかけ離れた場所じゃない。うるさい上に、側にはカラオケ機器、フリーwifiまで完備って……。遊んでくれって言っているようなものでしょ」

「まぁ……実際遊ぶ場所だしな」

「昨日クラスでカラオケ行って勉強会しようぜ! って言っていた人がいたけど、絶対勉強する気ないわよね」

「確かに……」

「それなら素直に遊びに行こうって言えば良いのに、中途半端に勉強しなきゃって日和って……。どうせろくな点数とれないんだから、開き直って零点でも取ればいいのよ」

「そうだな。ってか俺の事だな」


二人の目の前で蛙が川を流れていった。


「そうだったっけ?」

「身に覚えがあり過ぎる。昨日そう言ってカラオケに行ってきたところだ」

「楽しかった?」

「ああ。いや、勉強しに行ったんだけどな」

「カラオケも今日のテストも零点だったと」

「取ってねぇよ!」


流れていった蛙が川の流れを遡っている。見事な平泳ぎだった。


「案外教室での会話とか聞いてるんだな」


春樹が言った。


「偶々よ」


巳波が答える。


「いつも一人いるから、クラスメイトには興味ないのかと思っていた」

「そんなことないわ。ただ……一人の方が気楽なの」

「ふーん」


春樹はおざなりな返事をすると空を見上げた。雲が日の光で黄色く色づけされている。教科書に出てくる絵画に使われているような、水に溶いていない絵の具のような黄色だった。


「聞いておいて生意気な反応ね」

「一人の方が気楽な巳波が俺とは一緒にいてくれるんだなって」

「そんなこと?」


彼女は「簡単な話じゃない」と笑った。


「あなたとなら気楽に話せるのよ」


そう言った表情が余りにも可愛くて、春樹は言葉に詰まってしまう。


「からかうと面白いし」


巳波の細い指が彼の額を軽く押した。

春樹は額を手で押さえる。


「なにすんだ」

「あははは」


彼女は笑った。肩の力が抜けるような気楽な笑い方だった。

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