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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パーティーから追放された魔力ゼロのお荷物冒険者、十年の時を経て再会したヤンデレ気質の幼馴染達に求婚を迫られる~幼馴染達がSランク冒険者や立派な令嬢に成長した中、俺だけ【ワケアリ】になっていた~

作者: 三氏ゴロウ

連載候補の短編です。


幼馴染(Sランク冒険者)編の序盤となっております。


※タイトルがまだしっくりこないので改変するかもしれません。

「うぇぇ……ひっく……ひっく……ぅぅ」

「やーい! 弱虫リンゼ!!」

「やーいやーい!」


 町の路地で、二人の少年が少女を虐めていた。

 少女は泣き、彼らはそれを見て楽しんでいる。


「いつもいつもおどおどしてて気持ちワリィんだよー!」

「それに何だよその髪! お化けみてぇ!」


 少女の前髪は目元を通り越し、鼻辺りまで伸びていた。


「それじゃあ前見えねぇだろ! 俺が切ってやるよ!」

「や……いやぁ……!!」


 いじめっ子の内の一人が、少女の前髪を思い切り掴み上げた。

 それに痛み感じた彼女は堪らず声を上げる。


「何やってんだてめぇらぁぁぁぁ!!!」


 その時だった。

 彼らの元に、ものすごい勢いで走って来る一人の少年が現れる。


「リンゼを虐めるなお前らぁ!!」

「ス、スーちゃん……!」


 自分を助けてくれる存在の到来に、少女は歓喜の涙を流す。


「スパーダ!! うるせぇぞ、そんなの俺らの勝手だろうが!!」

「そうだそうだー!」


 スパーダと呼ばれた少年はそう言われると、ニカッと笑って歯を見せる。


「そうかよ……なら俺も、勝手にやらせてもらうぜ!!」


 彼はそう言うと、いじめっ子たちに殴りかかって行った。



「ち、ちくしょーが!!」

「覚えてろー!!」


 喧嘩の開始から十分後、敗れたいじめっ子の二人はそんな捨て台詞を残してその場を立ち去って行った。


「だ、大丈夫? スーちゃん……?」

「っててててて……おう、まぁな」


 助けられた少女は、自分を助けてくれた少年に駆け寄る。

 少年は強がるが、体中はボロボロで「勝ち」とは言え、それは「辛勝」だった。


「ごめんね……いつもいつも、私がこんなんだから……」

「ばーか! 気にすんなよ。俺は冒険者になる男だからな! あんな奴らなんて屁でもねぇぜ!!」


 少年はそう言って少女に笑顔を見せる。

 その笑顔は、いじめっ子に見せたモノとは違い、大切な人に見せる……確かな表情だ。


「うぅぅぅぅぅ……スーちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

「ちょ、バカお前くっつくなって……!?」


 涙腺が決壊し、多量の涙を流しながら少女は少年に抱き着く。


 いじめられっ子な幼馴染の少女を、幼馴染の少年が助ける。

 それがこの二人の日常だった。 



 事が収束し、町の大通りまで二人で戻って来た。

 向かいには冒険者が入り浸るギルドの地方局があり、それを見ながら彼女はこう言った。


「ねぇ、スーちゃんはどうして冒険者になりたいの?」

「あぁ?」


 何を今更、と言わんばかりの表情を見せる少年だったが、すぐさま表情を輝かせる。


「決まってんだろリンゼ!! 冒険者ってのは自由だからだ!! 色んなものを見て、色んな事をして、色んな人に出会って……それってすっごいワクワクするだろ!!」

「う、うん……」


 少年が力説するが、どうやら少女にはあまり伝わっていないようだ。


「おまけに冒険者ってすっごいカッコよくて強いんだぞ!! 三十年前には冒険者の中でも最高峰の『勇者パーティー』ってのが魔王まで倒したんだ!! くぅーーー!! 俺がもっと早く生まれてれば魔王を倒した英雄になってたのになぁ……!!」


 拳を握りしめ、少年は何故もっと早く生まれなかったのかと後悔する。


 しかしそんな事を悔いても仕方の無い事だ。


 そう思い、切り替えるように少年は声を上げる。


「とにかく! 俺は冒険者になる!! それも、誰もが認める世界一の冒険者にな!!」


 少年は少女を指差し高らかに宣言した。


「……そ、そっか」


 少女は微笑むと、意を決したように少年の目を見た。


「ス、スーちゃん!」

「ん? ど、どうした?」


 突然覚悟を決めたように顔を強張らせる少女に驚いた少年は一歩後ずさる。


「あ、あのね……お、お願いがあるの!」

「お願い?」


 リンゼが俺にお願いなんて珍しいな。

 いつも俺の後ろを付いて回るような奴なのに。


 少年はそう思わずにはいられなかった。

 だが、この幼馴染がこうまで意思を示すとは珍しい……少年は興味に引かれるようにその願いに耳を立てた。


「え、えっとね……わ、私も冒険者になる!! そ、それで……も、もし私がSランク冒険者になったら……そ、その……わ、私とけ、けけけけ……////」

「け……?」


 顔を真っ赤にしながら俯き始めた彼女を少年は訝し気な目で見る。

 やがて、何かを堪えるように再び彼の顔を見た少女はこう言った。


「私と、け……結婚して下さい!」

「……は?」


 結婚?


「ど、どゆこと?」


 唐突過ぎる「結婚」という単語に少年の脳は理解が追い付かなかった。


「ス、スーちゃん冒険者になるんでしょ? だ、だから私もなる! そ、それでスーちゃんの隣に並んでも恥ずかしくない冒険者になる!! だから……!!」


 顔を真っ赤にしたまま少女は少年に思いのたけをぶつける。


「……」


 初めての事に戸惑う少年。

 だが七歳の彼はまだ、無邪気で無垢だった。


「おう!」


 特に何も考えず、少年はオーケーした。

 自分の申し出受け入れられた少女はたちまち晴れやかな笑顔を見せる。


「うん! 約束だよ?」


 心底嬉しそうに、少女は言った。





「ん……んぅ……?」


 懐かしい昔の記憶を夢として見ていた俺は、重い瞼を開け目覚める。


「こ、こは……?」


 キョロキョロと辺りを見渡す。

 どうやら誰かの家の中にいるらしい。


 周辺の家具や生活感あふれる匂いが俺にそう判断させる。


「……え?」


 次いで、俺は体を動かそうとした。

 しかし、そこに異変が生じる。


「な、何だよこれ……!?」


 俺は今椅子に座っている……いや、()()()()()()


 俺の体は、椅子に縛り付けられていた。


「あ、起きた? スーちゃん」

「……リンゼ!」


 部屋の扉が開いたかと思うと、そこから幼馴染のリンゼが現れる。


「こ、これはどういう事だよ……?」


 縛られている腕に力を籠めながら、恐る恐る俺は彼女にそう尋ねた。


「んー? それはスーちゃんが酷い事を言うからだよ……?」


 人を縛り上げ、半ば監禁のような状態に追いやったであろう彼女は、ニッコリと笑い掛けた。


「ひ、酷い事……」

「うん。私ショックだったなぁ……」

「は、はは……」


 な、何がどうなってる……!?


 俺は平静を取り繕ったまま、軽い頭痛にまみれながらも頭を働かせる。

 

 本当に……どうしてこんな事に……!!


 俺は自身の記憶を巻き戻そうとする。


「いいよ。状況を理解させるために、教えてあげる」


 そう言って、目の前に立つリンゼもまた俺の記憶を辿るように、事の経緯を語り出した。





「スパーダ、てめぇは今日で俺達のパーティを抜けてもらう」

「……え?」


 王都から馬車で一日程度掛かる距離にある町、『ロードス』。

 そこにある地方ギルド局、その待合室で俺は突然パーティーからのクビ宣告を受けた。


「い、いやいやいやいや!! ちょ、ちょっと待ってくれよ! 何で急に!?」

『そうじゃそうじゃ!』


 焦った俺は堪らず声を上げる。

 だがそんな様子を見せても眉一つ変えずにパーティーリーダーであるリュードは口を開いた。


「お前が全く役に立たないからだよ!」

「……っ」


 リュードの言葉に俺は何も返す言葉が無かった。


「その通りです。どのクエストを受けても、貴方の無能ぶりは目に余ります」


 更に追い打ちを掛けるのは同じくパーティーメンバーのミランだ。

 彼女は酷く突き放すように俺に棘のある言葉を刺す。


「そ、そんな……! な、なぁレナも何か言ってくれよ?」


 俺はパーティー内のもう一人の女性であるレナに助けを求めた。

 気弱な彼女なら、こう言えば俺に手を差し伸べてくれると思ったのだ。


「え、えぇ……と。ご、ごめんなさい……」


 しかしその期待はあっさりと裏切られる。


「ま、待ってくれよ! きゅ、急にクビなんて困るって!!」

『全くじゃ!! 儂らはこれからどうすればよいのじゃ!!』

「そうは言うがなスパーダ。なら自分が有能だと証明してくれないか?」


 そう言って俺を見たのはパーティーメンバー最後の一人、ロイドだ。


「うっ……」


 彼の言葉に、またも俺は反論ができなかった。


「お前の剣の腕には時折、目を見張るものがある。だがそれだけだ……魔法の使えないお前は、パーティーにはいらない」


 そう……彼の言う通り俺は魔法が使えないのである。

 本来魔法は差こそあれど誰でも使えるものなのだ。

 だが俺はそれが使えない。

 そもそもの話として、体内に魔力が存在しないのである。

 

 大勢の魔獣を殲滅するにも、強力な魔獣を倒すのにも魔法による攻撃や強化、回復は必須だ。

『戦士』であるリュードは魔法によって自身を強化したり剣に火属性の魔力を付与したりして攻撃する。

『騎士』であるロイドは魔法によってターゲットを自分に集め、魔法によって強化した盾と肉体で攻撃を防ぐ。

『魔法使い』であるミランは様々な属性の攻撃魔法を用いて、魔獣の大群は殲滅し、大型魔獣には大きなダメージを与える。

『回復師』であるレナは、その名の通り回復魔法でメンバーを回復させる。


 対して俺はと言えば……本当に何もしていなかった。

 強いて言えば道中で襲って来た小型魔獣数匹を倒すくらいだ。


「という訳だ。俺達Aランクパーティーに、てめぇみたいなお荷物はいらねぇんだよ!!」


 吐き捨てるように、リュードは俺を睨み付ける。


「な、なぁ本当に俺クビか!? 困るって、俺これからどやって金稼げばいいんだよ!? 貯金も無いしさぁ!!」

「それはあなたが食費に使い過ぎなのが悪いのでは?」


 全く以てその通りである。

 ミランの正論が耳に痛い。


「そ、それはしょうがないだろ!! 腹が減るんだから!!」

「どこの世界に一日の食事で報酬金の半分を使う人間がいるんだ?」

「いるんだよ!! ここに!!」

『むしろお前らが食わなすぎなんじゃ!!』


 俺は自分を勢いよく指差した。

 空腹は自然現象で生理現象なのだ……いや、本当は違うのだが仕方ない事である。


『おいおい、このままじゃ本当にぱーてぃーを追放されてしまうのかスパーダ!?』

「そうなんだよ!! お前からも何か言ってやってくれゼノ!!」


 俺は背中に背負っている剣に話しかけた。


「ほらそれ……」

「え?」


 呆れたように言うミランの方に俺は目を向ける。


「あなた時々背中の剣に向かって話すでしょ。正直不気味なのよ、レナも怖がっているし」

「ス、スパーダさんは本当に、いつも誰と話してるんですか……?」

「ミラン、レナ! 聞いてくれ!! 君達には聞こえないかもしれないけど、俺にはちゃんと聞こえるんだよ!! だから安心してほしい!!」

「な、何も安心出来ないんですけど……」


 レナは肩を縮こませる。


「それにスパーダ。何故お前はいつもその剣を抜かず、腰の剣で戦う?」


 そう言ってロイドは俺の腰に携えている剣を見る。

 彼の言う通り、俺はクエスト中、背中の剣を使わずに腰の剣を使って戦っている。


「そ、それもちょっと……色々あって……」


 しかしその理由を答えることは出来ない。

 ロイドの質問を俺ははぐらかした。


「はぁ……質問には明確に答えられない、魔法は使えない、おまけに背中の剣と話し始める……。本当に、救いようがないわね。あなた」

「ぐはぁ……!?」


 ミランの言葉の槍が、俺の心の中心を穿つ。


『かぁ~! 高貴な儂の声が聞こえぬなどなんと下等な生物よ!! 哀れじゃ哀れじゃ!!』


 強がるようにゼノはそう言うが、この声も勿論皆には届いていない。


「とにかく!! てめぇは今日でクビ、これは確定事項だ!! じゃあな、達者でやれよ……もっとも、てめぇみたいな奴は誰もパーティーに欲しくないだろうがな!」


 嫌味ったらしい皮肉の込まれた言葉をリュードは放つと、そのままギルド局から出て行ってしまった。


「ま、マジかよ……」


『剣士』スパーダ、十七歳。

 パーティーを追放されソロになりました。



「あぁーーーー……」


 突然のクビ宣告の後、暫くして俺もギルド局を後にし、広場の噴水で肩を落としていた。


「どうすりゃいいんだよこれから……」


 俺は真剣に頭を抱えた。


『どうするもこうするもない! 早く次のぱーてぃーとやらを見つければ良かろう!』


 ゼノはさも当然のように言う。


「あのなぁ……俺達の食費を稼ぐには、最低でもAランク以上のパーティーに入らないと無理なんだよ!」


 冒険者個人、そしてその冒険者で構成されるパーティーにはランクがある。

 下からD、C、B、A……そして最高ランクがSだ。


 パーティーは誰でも作る事が可能。

 そして作った本人の冒険者ランクがパーティーランクとして反映される。

 つまりAランク冒険者がパーティーを作ればそのパーティーはAランクという訳だ。

 次に入団条件。

 これは様々で特にこのランクだから入れる入れない、というような事は基本的にはない。


 ただ、実際にはそれは建前だ。


 例えばCランクの冒険者がAランクのパーティーに入れるかと言えばそれはほぼ不可能だろう。

 理由は明快……Aランクパーティー側が拒否するからだ。

 Aランクのパーティーに集まるような冒険者は基本的に猛者ばかり、そこにCランク程度の冒険者が入れるはずがない。

 足手まといになるだけだ。

 なので実際パーティーに入るとなると、それはほぼ自分の身の丈にあった所に入る事になる。

 冒険者の個人ランクとは、それを見つけるための指針としても役立っている。

 Cランク冒険者ならばCランクパーティーに、Aランク冒険者ならばAランクパーティーに。

 これはごく自然な事。


 このようにして、パーティーは形成されていくわけだ。


『ぱーてぃーのらんくとはそんなに大事なのか?』

 

 きょとんといた声音でゼノは言う。


「当たり前だろ。個人ランク、パーティーランクが高ければ高い程色々な場所に行ける権利が与えられるし、難易度……要は報酬の高いクエストも受けられる。おまけにギルドからの待遇も良くなる」


 クエストには難易度というものがあり、これもまたランクで示されている。

 AランクのクエストはAランク以上の冒険者である者か、もしくはAランク以上のパーティーしか受けられない――――と言った風にだ。


『おぉ! いいことづくめじゃのう!』

「で、俺達の莫大な食費を稼ぐにはAランク以上のクエストを受けないといけないわけ」

『なら受ければ良いではないか』

「無理なんだよ!! CランクやDランクならまだしも、Aランク相当のクエストをソロでなんて!! そもそも俺は今ソロでBランク、つまりBランクかそれ以下のクエストしか受けられない!! だから詰んでんの!!」

『じゃあどうするのじゃ! このままでは儂もお前も死ぬぞ!! ていうかBランクって何じゃ!! 雑魚かお前は!!』

「うるさいよ!! 俺だって好きでBランクやってんじゃねぇ!!」

『ともかく事は急を要する!! 早く名案を出せい!!』

「分かってるよ!! だからこうして必死に考えてんだろうが!!」


 俺はゼノと言い合いを続ける。

 すると、


「おいおい……見ろよアイツ。誰と喋ってんだ……?」

「関わんない方がいいぜ。アイツここらじゃ有名な変人だ。何でも剣と話してるんだと」

「うわぁ……かなりヤバい奴だな……」


 周囲からそんな声が次々と俺の耳に入る。

 俺は度々ゼノと言い合いになり、衆目を気にする事無くこういった状況を引き起こす時がある。

 最早慣れたものだ。


『というか名案も何も、お前の話を聞く限り新しいぱーてぃーに入るしかないではないか! 早く見つけるのじゃスパーダ!!』


 急かすゼノ。

 彼女の言う通り、俺達がしなければならないのは一刻も早く新しいAランクパーティーを見つける事だ。

 だが、事はそう容易ではない。


「俺の噂はそこら中で広まってるからな……。入れてくれるAランク以上のパーティーなんて多分……」


 言いながら絶望した。


 実を言えば、俺がAランクパーティーに寄生し始めたのは今回が初めてではない。

 町を変え、パーティーを変え、俺は寄生行為を繰り返していた。

 そんな事ばかりしている俺の悪名は様々な町に轟いている。

 パーティーを見つけるのは相当厳しいだろう。


 あぁ……終わった……このまま空腹が到来し俺は死ぬんだ。


 そう思った時、


「ス、スーちゃん……?」


 彼女は現れた。



「え……?」


 どこか懐かしい呼び名に反応した俺は顔を上げる。


「や、やっぱり! スーちゃんだよね!?」


 俺の事を「スーちゃん」と呼ぶ彼女は一目散に俺に近付き、俺の手を握った。


「やっと見つけた!!」

「え……? 何?」


 突然の事に事態が飲み込めない俺は女の視線を引き気味に見る。


『おいスパーダ、誰じゃそいつは』

「い、いや分からん……」

『まさかお前の女か!? 儂というものがありながら……!!』


 ゼノの怒気が背中から伝わった。


「ち、ちげぇよ!! 本当に分かんないんだって……!!」

「スーちゃん? さっきから誰と話してるの?」

「うぇ!? い、いやぁ……はは」


 キョトンと首を傾げる彼女に俺は乾いた笑いを浮かべた。


「え、えーと……」


 ポリポリと頬を掻きながら、俺は恐る恐る口を開く。


「あ、あのぉー。申し訳ないんですが、どちら様……でしょうか?」

「え……?」


 俺の質問に、一瞬だけ場の空気が凍り付いた気がした。


「わ、私の事……覚えてないの?」

「いっ……!?」


 な、泣く!? 何で!? 今俺が何したんだよ……!?


 彼女は声を震わせ、目に涙を浮かべた彼女に俺は動揺する。


 ん……? ちょっと待てよ……?


 そしてそれは……俺の記憶を呼び覚ます契機へと繋がった。


「……お、お前もしかして……リンゼか……?」


 泣き出しそうな表情、おとなしそうな風貌。

 それが昔よく遊んでいた少女の面影と重なる。


「っ!! うん、そうだよ!! 良かったぁー! 本当に忘れちゃってるのかと思ったよー!」


 感極まるようにリンゼは俺に抱き着いた。


 いや、まぁ忘れてたんだけど……。


 泣き出しそうになった時は随分と面影があったが、俺は彼女をずっと初対面の美人として捉えていただろう。


 そう思ったが、それは一切言葉に出さず俺は彼女を引き剥がした。


「そ、それにしても久しぶりだなぁ……何年ぶりだよ?」

「十年と二か月と五日ぶりだよ!」

「へー、そんなにか」


 やけに具体的な数字に対し、特に気にすることなく俺は答える。

 

「十年か、随分変わったなお前……確か親の都合で王都に引っ越したんだっけ?」

「そうだよ。あの時私、スーちゃんと離れたくなくて大泣きしてた」


 リンゼの言葉を聞きながら、俺は彼女の姿を見る。

 艶やかな黒の長髪とそれに見劣りしない美しい顔立ち。

 服は白い制服を着ており、腰には剣を携えていた。


「お、おい誰だよあの美人……」

「何でアイツと話してるんだ……?」


 すると周囲からそんな言葉が俺の耳に入って来る。


 安心しろお前ら、何でこんな事になっているか俺が一番分からん。


 そんな事を思いながら、俺はリンゼの容姿を情報として脳に刻み込む。

 だがそこで、何かおかしい事に気が付いた。


「……って剣?」


 冷静にリンゼの容姿や恰好を分析していた俺は彼女の装備品に目を奪われる。

 そう……何故か彼女は帯刀していたのだ。


「あぁこれ? 私が普段クエストで使う剣だよ」


 俺が腰に目をやっていたのに気付いたのか、リンゼは自分の目線を腰の剣に向けながら答えた。


「ん? クエスト……?」


 ちょ、ちょっと待て……それじゃあまるで……。


「お、お前……冒険者なのか……?」


 信じられないものを見る目で、俺は彼女を見た。


「うん!」


 そして俺の質問に、彼女はきっぱりと答える。


「へ、へー。お前が冒険者って……何か意外だな」


 俺は昔のリンゼを思い出す。

 そこにはいつもおどおどしていて俺の後ろを付いて歩いていたイメージが非常に印象に残っていた。


「う、うん……。で、でも……約束だから」

「約束? 誰の?」


 あっけらかんとした様子で俺は彼女に聞く。


「い、言わせるの……?」


 すると、何故かリンゼは俺をチラチラを見ながら顔を赤く染め始めた。


「え……、いや、まぁ……うん」


 不可解な彼女の様子に疑問符を浮かべながらも、俺は肯定の返事をする。


「ま、まぁそうだよね。私が約束したんだもん……。私が言うのが筋だよね……」


 そう言ってリンゼは一回、大きく深呼吸をして……俺を真っすぐに見つめると、言った。


「わ、私Sランク冒険者になったよ! だから、結婚してスーちゃん!!」

『何ぃ!?』

「……は?」


 リンゼの言葉の意味が、全く以て理解出来なかった。


 え、何……? 結婚……? リンゼと俺が……? どして……?

 っていうか……。


「お前Sランク冒険者になったの!?」


 それが一番驚きだった。


「う、うん! 大変だったけど、頑張ったよ!」

『おいスパーダ!! 今すぐその小娘を突き放せ!! これは命令じゃ!!』

「い、いやぁ……頑張ったって……」


 冒険者ランクはその者の実績に応じてギルド側から打診がされる。

 ただ、それがSランクとなると話は少し変わる。

 SランクになるにはSランク冒険者の最低三名がギルド内の最高機関である『慟哭の宴』に推薦状を送り、受理される必要がある。

 簡単に言えば、Sランクに昇格するのはAランクまでとは比較にならない程難しいのだ。


 そのSランク冒険者にリンゼがなった。

 とてもではないが、信じられない。


「う、嘘だろ……?」

『おい聞いとるのか!? 返事をせい!!』


 俺は素でそう言った。


「う、嘘じゃないもん。ほら、これ」


 少し頬を膨らませたリンゼは、懐から冒険者の身分を示すための『冒険者カード』を取り出した。


「……ホントだ……」

『え……おい儂を無視するな!! 泣くぞ、いいのか!?』

「分かってるよゼノ! ちょっと待ってくれ」


 ランクを記載する箇所には、『S』の文字が刻まれている。

 つまり、リンゼは正真正銘Sランク冒険者という事だ。


「ね? だから、約束通り……私と結婚して!」

「い、いや……それは意味が分からんけど」

『そうじゃそうじゃ!!』


 俺は即答した。

 リンゼがSランク冒険者になった事は素直に凄いと思うし尊敬する。

 だが、それが何故俺との結婚に結びつくのか……疑問でしかない。


「……え、どうしてそんな事言うの?」

「え、い、いやだって……意味分かんないだろ。Sランク冒険者になったから俺と結婚してくれって」

『スパーダの言う通りじゃ!! さっさと元の場所に帰れ!! この女狐が!!』


 当然の事を俺はリンゼに告げる。

 その時だった。


「や、約束……。約束したのに……」

「っ!?」


 ポツリ、ポツリと……言葉を漏らし始めた彼女から、とてつもなくドス黒い何かを俺は感じ取る。

 先程、俺が彼女を思い出せず空気を凍り付かせた事など比にならないくらいの危機感を俺は直感した。

本作が少しでも面白いと思って下さった方、よろしければ感想や評価、ブックマークなど頂けると嬉しいです!


連載する事になったらこちらの後書きに連載版のURLを貼らせていただきます!



連載決定!! 詳細は追って連絡いたします!


連載版のURLです!! 短編と少し流れや設定の変更があります!!

https://ncode.syosetu.com/n1186gl/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゼノを捨てて普通の剣にすればソロでもやっていける気がする。 空腹の原因てこいつじゃね? 魔力もこいつに吸われてる気がする。
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