10位 キチジロー (隠れ切支丹)、沈黙 (遠藤周作)、小説
なまこ師匠、お誕生日おめでとうございます!!
キチジロー。
江戸時代、長崎の住人である。
漁師、隠れ切支丹。
そして、裏切り者。
キリスト教迫害下にある信徒を救おうと、密かに日本に渡ってきた主人公 (宣教師ロドリゴ) を裏切り、役人に引き渡す男である。
当然、彼に対する主人公・ロドリゴの嫌悪感はすごいものである。
卑屈、卑怯、狡猾、惰弱。
そして、口くさい。
後程、主人公は、信徒の命と引き換えに表向きの棄教を決意する。
そして、かつて嫌悪したキチジローを 「己と似た者同士」 的に認め、許すのだ……。
しかるに、主人公目線で小説を読む限り、この人物に対する評はこの一言に尽きる。
胸 く そ 悪 い 。
最初読んだ感想。
「いやコレ、キチジローいなければ何とかなったんじゃ?」
次に読んだ感想。
「ていうかさ、『俺は弱い。どうしても強くなれない』 とか言う前に、頑張ってみろよ!」
次の次に読んだ感想。
「弱さゆえにずるい。弱さゆえに卑怯。……それってやっぱり、言い訳じゃないの?」
…………
…………
…………。
私の読書感想文は小学校3年生から中学校3年生まで、毎年 『沈黙』 だったのだが、結局最後まで彼のことは分からずじまいだったのだ。
やがて遠藤周作が亡くなり、私は読み物への興味を失って、彼のことをすっかり忘れた。
思い出したのは、つい1年ほど前。
小説を書き始めてからだ。
自分の書き物の中に、必ず、彼がいる。男の場合も、女の場合も、複数に分かれている場合もある。
どんなに姿を変えても、彼は必ず、こう問いかけてくる。
「弱い者は叩かれ、非難されるだけの存在なのか?
弱い者は生きていっては、いけないのか?
弱い者をも幸福に生きていける世の中こそが、良いのではないか?」
……そう。
私は、強く、正しく、立派な大人にはならなかった。
己のずるさを、卑怯さを、弱さを知りながら大人になっていった。
胸くそ悪かったキチジローは、いつの間にか、答えの出にくい問いを投げかける悲しいヒーローとして、私の中に存在するようになったのだ。
……ダントツでカッコ悪いが故に、10位である。
ちなみに、映画 『沈黙』 のキチジローは、演技はめちゃくちゃ上手い (全役者の演技力が光る映画である) が、ちょっとイケメンすぎると思う。