表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長崎本線 殺しの分岐点<ジャンクション>  作者: にちりんシーガイア
第二章
2/11

殺された犯人

 城戸と南条が捜査本部に着いた頃、似顔絵の二人の名前が割れていた。

「警部の思惑通り、似顔絵の二人は前歴者の中に居ましたよ」

 川上が、前歴者カードを城戸に見せた。

 城戸は、その前歴者カードの写真を見た時、心のモヤモヤがどこかへ消え去った。

「思い出した、羽田はだ山路やまじだ!」

「警部、ご存じだったんですか?」

 川上が、城戸に訊いた。

「ああ、羽田志郎(しろう)と山路(ゆう)だよ。こいつらには、手錠ワッパを掛けた事があるから覚えている。その時も、ある宝石店で強盗事件を起こしたんだ。確か、去年出所だったな?」

「ええ、仰る通りです。あと、この二人と同時に逮捕された人間がいます」

「確か、田上吾郎たのうえごろうじゃないか?」

「ええ、その通りです」

「同時に逮捕された三人は、グループだった。田上がリーダーで、他二人が実行犯だ」

「今回の強盗事件も、同じ構図でしょうか?」

 南条が訊く。

「三人組で人数は合う上に、羽田と山路が質屋で宝石を換金したのは確かだ。今回も恐らく同じ構図に違いないよ」

「では、白ミニバンから見つかった指紋と、田上の指紋を照合してみます」

 そう言って、川上が捜査本部を後にした。

「よし。我々は、三人の自宅にガサ入れするぞ」

 川上以外の捜査員で、三人の家宅捜索を行うことにした。

 まずは、渋谷しぶや恵比寿(えびす)に住む、山路の自宅へと向かった。

 彼は、五階建てマンションの三階に住んでおり、ドアをノックしてみたが、留守だった。

 そこで、管理人を呼んで、ドアを開けてもらった。

「山路さんは、一昨日おとといにマンションを出たきり、帰ってきていません」

 管理人が、言った。

「どこに行くか、聞いていませんか?」

「さあ、わかりませんね」

 部屋は、実に質素なもので、特に目立つものはなかった。

 次に向かったのは、同じく渋谷区の笹塚ささづかにある羽田の自宅である。

 アパートの一室にある羽田の住居だが、これも山路と同じく質素な部屋で、特に収穫はない。

 管理人に訊いても、

「最後に見たのは、一昨日ですね。その時から留守のままです」

 と、羽田のマンションの管理人と同じことを言った。

 最後に、練馬ねりま区上石神井かみしゃくじいにある、田上のマンションへと向かった。

 部屋の様子は変わらなかったが、そのマンションの管理人の話は、前の二軒と異なっていた。

「田上さんは、つい昨日外出なさってから、帰っていませんね」

「外出したのは、昨日なんですね?」

 門川が、そう訊き返した。

「ええ、間違いありません」

「一昨日はどうです?田上さんは、どこかへ外出していませんでしたか?」

「一昨日なら、田上さんはずっと家に居たと思いますよ。見ていませんから」

 門川は、困惑した。事件が起きた時、田上は、実行犯の二人に宝石を強奪させておいて、自分は知らぬふりをして、家に居たのだろうか?

 だが、そうなると、白ミニバンを運転した人物は誰なのだろうか?

「このマンションは、管理人室の前を通らずに外に出る方法はありませんか?」

「いや、ないね。駐車場に出るにしても、ここは皆通りますよ」

 管理人が、答えた。

「この二人が訪ねてくることはありませんでしたか?」

 城戸が、羽田と山路の写真を見せながら質問した。

「ああ、最近訪ねてきましたよ」

「最近とは、具体的にいつですか?」

「一昨々さきおとといだったと思います。この二人に、もう一人、男性がいましたね」

「もう一人いたんですか?」

「ええ、三人でいらっしゃいました」

 どうやら、田上の自宅を拠点にして、羽田と山路の実行犯が動いていたようである。

 しかし、もう一人とは、いったい誰なのだろうか?城戸は、管理人に協力を求め、そのもう一人の似顔絵モンタージュを作ることにした。

 城戸達が捜査本部に戻ると、川上が、指紋の照合結果を持って待っていた。

「警部、田上の指紋と、ミニバンに残っていた指紋の照合結果です」

 そう言って、城戸に一枚の紙を渡した。

「不一致だったのか?」

 城戸は、驚きを隠せなかった。

「ええ、全くの別人の指紋でした」

「それなら、田上のマンションに出入りしていたもう一人の指紋じゃないんですか?」

 隣に居た、山西刑事が言った。

「ああ、そうなんだろうが、そいつはいったい何者なのかというのが問題だよ。私が彼らを逮捕した時、確かに三人組で犯行に及んでいた。知らないうちに、仲間を増やしたのか──」

 すると南条が、捜査本部に飛び込んできた。

「警部、もう一人の男の似顔絵モンタージュができました」

 城戸は、その似顔絵を見た。

 その男は、サングラスをかけていて、目元の様子はよくわからない。

「南条君、前の二人と同じように、前歴者カードと照合してくれ」

 城戸がそう指示を出すと、南条は返事をして、再び捜査本部を出た。

「やっと強盗犯の全様を掴んだと思ったんだがね──」

 城戸は、そう言って、煙草を一本取り出し、口に咥えて火を付ける。

 翌日になって、今度は殺人事件が発生した。

 その知らせを受け、城戸班の刑事たちは、現場の赤羽荒川あかばねあらかわ緑地へと急行した。

 城戸が、二つの死体を目の前にすると、近くの鑑識課の人間が、

「これは、溺死だね。死後、六時間ぐらいだと思うよ」

 と、言った。城戸は、それを聞いて、腕時計を見る。

「犯行は、午前一時。深夜だな」

「死因は溺死だがね、どちらの死体にも腹にあざができている」

「つまり、二人は殴られてから川に突き落とされたと?」

「ああ、それで間違いないと思うよ」

 鑑識の男は、肯いた。

「第一発見者によると、そこの荒川に死体が浮いていたのを、今日の午前六時頃に発見したようです」

 山西が、城戸にそう報告した。

「おい、ちょっと待て。この二つの死体、羽田と山路じゃないか!」

 城戸が、死体の顔を見て、そう大声で言った。

「所持品を調べるんだ」

 すると、部下の刑事たちが、被害者の所持品を調べだす。

「警部、ありました!羽田と山路で間違いないようです」

 小国が、二枚の運転免許証を持って言った。

「貴重な情報源を失ったか──」

 城戸が、そう呟くと、

「貴重な情報源?」

 門川が、反応した。

「ああ。この二人を取り調べば、田上ともう一人の男の居所を掴めるかもしれないと思ったんだがね」

「確かに。死人に口なしですから。もうどうしようもありません」

 門川が、悔しそうに言う。

「よし。鑑識に、死体の足形を調べてもらえ。宝石店で見つかった、強盗犯の足形と照合するんだ」

 城戸が、そう部下に指示を出した。

 数時間後、捜査本部へと戻った城戸に、足形の照合の結果が知らされた。

「どちらの足形も、宝石店の中にあった足形と一致しました。殺された二人は、あの強盗事件の犯人ですよ」

 書類を持ってきた門川が言った。

 すると、今度は南条がやってきた。

「あの似顔絵の男ですが、前歴者にはいませんね。まあ、サングラスをかけていて、目元がよくわからないので、いないとは言い切れませんが──」

「ご苦労さん」

 城戸は、再び煙草を口に咥え、火を付けた。

 数時間後、中本も参加した上で、捜査会議が開かれた。

「城戸君、殺された二人は、本当にあの宝石店に押し入った強盗犯なのか?」

 中本が、城戸に尋ねた。

「ええ、間違いありません。宝石店で見つかった足形と、被害者の足形が、二つとも一致しています」

「それで、身元は分かったのか?」

「ええ。羽田志郎と山路裕です。二人共、強盗罪の前科があります。課長も記憶にあるのでは?」

 すると、中本は、目を大きく見開いた。

「確かに、居たなあ。その二人と、田上という男を君が逮捕したのを覚えているよ」

「ええ、課長の言われるとおりです。その三人は、去年出所していますが、今回、再び犯行に及んでいるようです」

「今回も、その三人組で犯行に及んでいるのか?」

「それが、どうも違うようです。今回は、もう一人仲間が増えている様なんです」

 城戸は、サングラスをかけた男の似顔絵を中本に見せた。

「こいつが、その仲間かね?」

「ええ、そうです。前科者カードを調べさせましたが、ご覧の様にサングラスをかけていて、身元を特定するのは困難な状況です」

「その男が、あの宝石店の事件に一枚噛んでいるというのは、何故いえるんだ?」

「事件の直前、田上のマンションに、羽田と山路、そしてこの男が集まっていることが確認されています。それに、逃走に使われたミニバンのハンドルに付着していた指紋は、田上の指紋ではありませんでした。そうなると、この男の指紋である可能性が高いと思われるのです」

「殺人事件の方に話を戻すぞ。この荒川の事件だが、目撃者はいないのかね?」

 中本が、そう訊くと、

「川上君、報告してくれ」

 と、城戸が促した。

「はい。周辺を聞き込んでみたものの、目撃情報は特にありませんでした」

 川上が、手帳を見ながらそう報告した。

「問題は、強盗犯が何故殺されなければいけなかったのだという事だ。城戸君、何か意見はあるかね?」

 中本が、城戸に言った。

「ええ、いくつか考えられるケースはあります」

「聞かせてくれ」

「まず、第一のケースは、仲間割れです。被害者の二人は、藤沢市の質屋で、奪った宝石を換金していることがわかっています。その額は一億に上るわけですが、被害者二人の通帳を調べてみたところ、それらしい大金が振り込まれた記録がないんです。自宅も捜索しましたが、やはりそのような大金はありません。つまり犯人は、同じ強盗犯の仲間で、一億を四人に分ける前にこの二人を殺してしまったわけです」

「今回殺されたのは、四人いると思われる強盗犯のうちの二人だが、犯人は、残りの二人が結託しているのか、それとも、これから生き残っている二人のうちもう一人が殺されるのか、城戸君はどう思うかね?」

「それは、わかりません。どちらのケーズも考えられます」

「まあ、いいだろう。そして、もう一つのケースは?」

「先程のケースだと、犯人が、手に入れた一億円を半分、もしくは独り占めしようとして行った犯行という事になりますが、必ずしもそうではないと思います。今回、既に犯人と断定していた二人が殺されたことで、仲間であると思われる田上の居所、そしてもう一人の男の正体を掴むことが困難になったんです」

「つまり、君が言いたいのは、警察の捜査の手が及んでいることに勘付いて、自分たちの身を守ろうと、仲間の口を封じたという事かね?」

「ええ、課長の言われるとおりです」

「まあ、まずはその田上という男を探し出すのが先決の様だね」

 中本が、城戸に言った。

「ええ、私も同意見です」

 結局、田上吾郎の居所を直ちに突き止め、もう一人の強盗犯の正体を掴む必要があるというように結論付けられ、捜査会議は解散となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ