9話 ウォムの街
ガルハナ大陸の北西に位置するミラズ湖。
その中央の島にそびえ立つ塔は、世界七大迷宮の一つ……テメングラトの塔。
塔から南東の湖畔にある街へ、エミリアと来ていた。
目的は、俺の異世界で着る服と武器買うため。
あとは食料。庭園には桃と薬草しか無いからだ。
「うわぁ〜……これがあの寂れてた、ウォムの街なのかい!?」
街に来て一番驚いていてたのは、エミリアだった。
まあ、俺も異世界の街なんて初めてなわけだし、驚きはあったが……
街の入り口に入った瞬間から、エミリアはキョロキョロと街を見渡している。
「あんまりはしゃいでると、田舎者と思われるぞ?」
一度言ってみたかったこの台詞。
まさか異世界で使うとは、夢にも思わなかったけど。
「そうは言うけどね、カケルくん。二百年前は、今と比べてモノにならないくらい、寂れてたんだよ!? 人間って……ホントにすごいね……」
なにを感心しているんだか。
「わかったわかった。さっさと行くぞ、エミリア」
「う〜……待っておくれよ、カケルくん!」
とは言ったものの。
俺はこの街は初めてだから、どこにどんな店があるのか……分からない。
困ったな。
その辺りを歩いてる人たちを捕まえて聞いてみるか。
……筋肉ムキムキの冒険者っぽいのか……頭に耳を着けている獣人っぽいのに聞くか……
「ねえねえ、カケルくん……あれ、案内所って看板に書いてあるよ?」
俺、異世界の文字読めないんだが……見ても何が書いてあるのか分からないけど。
「……案内所か。よし、ここで店の場所とか聞いてみるか」
「うん、そうだね。行こう!」
俺たちは西部劇に出てくるようなスイングドアを開け、案内所に足を入れた。
「案内所へようこそ!」
元気のいいお姉さんが、満面の笑みで出迎えてくれた。
お……おう……ちょっとビックリした。急にデカイ声で言わないでほしい。
案内所のお姉さんは、俺とエミリアを一瞥すると、
「えっと……すみません。ここは迷子を預かる場所じゃないんです」
「むっ! 失礼だよ! ボクは迷子じゃないよ!」
「え!? 違うんですか?」
え? 本当に? みたいな驚いた顔で、俺を見ないでほしい。
たしかに、見た目は子供と大人。
顔や髪の色が違うから、兄妹には見えないだろうけど。
「……迷子を連れてきたんじゃなくて、この街でいろいろ買い物をしたくて……」
「ああ、そうでしたか……これは失礼しました。で、どのようなお店をお探しですか?」
「えっと……剣とこっちのカケルくんの服だね。後は雑貨のお店と……食料が欲しいんだ。おすすめ、あるかい?」
「……なるほどですね……よし、ちょっとお待ちくださいね!」
案内係のお姉さんが、突然部屋の反対側に走り出した。
そしてカウンター横の壁に貼った、大きな街の地図の前に立つと、
「お二人は、この街は初めてでしょうから……不詳、案内所の看板娘こと、イセリアがお教え致しましょう!」
いつの間に眼鏡をかけた!?
暇なのか? このお姉さんは、普段は暇なのか!?
案内所の看板娘ってなんだ?
イセリアの妙なテンションに、エミリアが呆気に取られていた。
「じゃあ、イセリアお姉さんが、二人にこの街の歴史から……教えちゃうぞ!」
ちゃうぞ! じゃない。
エミリアはワクワクした様子で床に座ると、イセリアの話し聞く体制になっている。
はぁ〜……エミリアのヤツ、すっかりその気になってるのか。仕方がない……俺も座ろう。
さて、イセリアの話しによるとだ。
今から二百年前のある日。
ふらっと街に現れたエルフが、突然闇の封印を解こうとしたそうだ。
恐怖した街の人たちは、当時の領主に助けを求めた。
相手が闇のエルフとなると、簡単には倒せないと判断した領主は、王国へ応援を頼んだ。
数日後には、百人以上の兵士達がやってきた。
街に居座る闇のエルフを倒すために。
エルフはテグラメントの塔に逃げ出すが、兵士達もそれを追って塔へ入っていく。
だが塔から戻ってきたのは、たった数名の兵士だけだった。
国王は宣言する。
塔に巣食う闇のエルフを倒した者には、莫大な恩賞を与えると。
「それ以降。この街には闇のエルフを倒して、自分たちの名声を上げたい冒険者や、恩賞目当ての人達が押し寄せて……発展していったのよ」
どっかで聞いたことがある話だな。
エミリアは視線を下に落とし、苦笑いしている。
「なるほどなぁ……街の歴史は分かった。で、店の場所はどうなった?」
「あ! あはははは……そ、そうでしたね。こ、こちらをご覧ください」
うん。さっきから見えてましたよ、街の地図。
碁盤の目にような区画に別けられた街。図面の上には船着場がある。
湖畔の街だから、船着場があるんだろう。
「ここが今いる案内所です」
イセリアは、地図に描かれている街の入り口のその少し右上の建物を指差す。
「いいですか。この街には武器屋は四店舗。衣装屋は三店舗……雑貨屋は二店舗あります。
お店の場所は、無料でお配りしてる街の縮尺図にも描かれています」
地図真ん中には、中央大通りがある。
その通りに、まず武器屋が二店舗。
大通り右手には、ベイルの店。
そこそこの値段割に、安定して壊れにくい武器や防具を販売している。
ベテラン冒険者からの信頼が厚い店。
その反対側の斜め右上には、ノーズの店。
魔力を持った強力な武器を販売している。
防具類は一切売っていない。
安易に強さ求めるその手の連中には、人気がある。
図面左の端に描かれているサンガイの店。
裏路地にある店。
曰く有りの武器や、呪われた武器を売っている。
怪しい連中が出入りしている。
最後は、案内所のすぐ隣にあるイットの店。
安い武器と防具を販売している。安いから壊れるのも早い。
リーズナブルな値段なので、新人冒険者に人気。
「どれも良いんだけど……一回全部まわってみようよ、カケルくん」
「そうするか」
案内所を出た俺たちは、武器屋巡りをすることにした。




