表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/53

8話 エミリアの過去

 仙果の桃。


 天界の神や仙人が、好んで食すと言う不老長寿の桃。

 猿の妖怪も食べた、あの伝説の桃が……今、俺の目の前にあった。


「なあ。人間の俺が食っても、問題無いんだよな? 身体が急に爆発なんて……しないよなぁ?」


 なんたって神様が食う果実だ。

 普通の人間が食えば……どんな影響が出るか、わかったもんじゃない。


「大丈夫大丈夫……モグ……ボクだって……モグモグ……こんなに食べても……ゴクッン……ふぅ〜……大丈夫なんだからね」


 てか、何そんなに大量の桃をモリモリ食ってんの!?

 ローブの裾にどんだけ桃詰めてんだ、このエルフは!?


「ぷは〜……はぁ〜美味しかった。あ、そうだ……桃はね、キミが食べても大丈夫だよ」


 なんか言い方が軽いな。

 ……神の食い物を気安く人が食べるなんて、不安でしかないんだが。


「……説明が難しいんだけど……どこか違うんだよ」

「味とかが違うって言うのか?」


 エミリアはかぶりを振り、


「なんて言ったらいいのかな。昔食べたときはね……体の奥から魔力や、生命力が湧き上がってきた感覚あったんだけど……こうブワ〜って」


 ここにある桃食べても、そんな感じはしなかったな。

 生命力が湧き上がるような感覚……そのブワ〜って、なんだ?


「ここで作った桃とは、それと違うっていうのか?」


「うん。全然違うよ。この桃を食べても、湧き上がるような感覚が少ないんだ。こっちのはフワ〜って……キミにも分かるよね、カケルくん」


 いや、全然分からなん。

 同意を求めるような顔で見られても、そのブワ〜は理解出来ない。


 ただ桃を食べた時、なにかが変な感覚はあったような……気のせいだろが。


「だから! ボクは必ずいつの日か……この桃をあのときと同じように、再現できるよう研究していくんだ」


 そんな決意があったのか……ただ単に引きこもっていた訳じゃないんだな。


「それでこんな庭園作って、桃を育てようってか。その熱意には感心するよ」

「……ん? ボクはこの庭園は作ってないよ?」


 エミリアは、キョトンとした表情をしている。


 いやいやいや。じゃあ誰がこの庭園を作ったって言うんだ?

 高難易度の迷宮の最上階に、わざわざ庭園を作ったヤツがいるのか? どんだけ捻くれ者なんだ?


「エミリアが作ったんじゃなきゃ……何の目的で、誰が作ったって言うんだ?」


「それはボクの知り合いで……ホントに天才って呼ばれているエルフが作ったんだ。確か千年だかそれくらい前にとか……言ってたかな」


 千年ほど前!? そんな昔から、この塔はあるのか!

 どれだけ生きてるんだ、そのエルフは。


 どんな経緯で、エミリアがここに住んでいるのか……興味が出てきた。


「……なあ、詳しく教えてくれよ。その辺りの話を」


「うん、そうだね。話すには、いいタイミングかも知れないね。じゃあ、ボクの話を聞いておくれよ……」



 今から二百年前。


 エミリアが湖畔の街で事件を起こす、ほんの少し前。


 世界を旅していたエミリアがこの国に来た時に、そのエルフと出会ったそうだ。


 なにか通じるものがあったのか。すぐに打ち解けて仲良くなったらしい。


 そんなある日、エミリアにそのエルフが、こう言った。


「そろそろ、この塔にも飽きたから、君に譲ってあげるよ。ただ……最上階まで自力で登って来れたらね……まあ君には、無理だと思うけど」


 その挑戦をエミリアは受けた。

 理由は、上から目線がムカついたからだそうだ。


「で、ボクは、二ヵ月くらいで塔を踏破してやったんだ。

 最上階で待つアイツの驚いた顔は……今でも忘れられないなぁ」


 ムカついたって言う理由だけで、高難易度の迷宮を攻略してしまうとは。


 天才なのかバカなのか……まあ、おそらくは後者だろうが。


「そいつは、その後どうしたんだ? 祝ってくれたのか?」


 俺の問いに、エミリアはフッと口の端を上げ、


「……そんな訳ないじゃないか。負け惜しみを散々浴びせられて、最後なんて言ったと思う?」


 ――次は君が攻略できない迷宮を作ってやるからな! この貧乳チビ!


「だって……ふはははは! あの捻くれ者の天パ……め……」


 あ、目が笑ってない。


 今頃、そのエルフはどっかで、エミリアに勝つため新しい迷宮を作ってるのかね。


 いい迷惑な気もするが。


 なんにせよ、エミリアの事を少しでも知ることが出来た。


「話し聞かせてくれてって……あ〜寝ちゃってるよ」


 俺の体の上に頭を置いて、エミリアはスゥスゥと寝息をたてている。


 無理もないな。

 寝ずに、ずっと看病してくれてたんだ。


 桃をあんなに食べて、腹一杯になれば寝るよな。普通は。


 今はゆっくり寝てくれ、エミリア。


 明日からは、また特訓再開だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ