7話 仙果の実
目が覚めると、俺はベッドの上に横になっていた。
ベッドの傍らには、心配そうな表情のエミリアの姿があった。
「よ……よかったよ〜……うぅ〜……」
涙で顔をくしゃくしゃにしたエミリアが、覆いかぶさるように抱きついてきた。
「えっと……俺はどうなったんだ?」
「うぅ……覚えてないのかい?……ヒック……」
覚えていない。
ディアボーンを倒した後のことは、まったく記憶にない。
「丸二日も……ぶっ倒れていたのか……」
「うん……目が覚めないから、すごく心配したんよ。ボク」
この部屋は、庭園にあった石造りの建物の中。
ここまでエミリアが運んで、ずっと看病していてくれたらしい。
回復魔法も試したそうだが、あまり効果がなかったようだ。
魔法がダメならばと、布にすり潰した薬草を塗り、体中に貼り付けたそうだ。
だから体中に布が張り付いてるのか。
「心配かけてすまんな、エミリア」
エミリアは、首を横にブンブンと振る。
「いいんだ。キミが無事なら、ボクは十分さ」
今後はちょっと気をつけないとな。
スキルのことを話した方がいいだろう。
「エミリア。ちょっといいか?」
「……うん?」
スキル『剣聖』や加速スキルのこと話した。
話し終えた後、エミリアは少し険しい顔をしている。
「職業がスキルで加速スキル……うん……職業がスキルも、ボクの方で調べてみるけど。ねえ、カケルくん」
エミリアが真剣な顔で、真っ直ぐ俺を見ている。
「お……おう、なんだよ。急にそんな顔して……」
「加速スキルなんだけど。多用は禁止だよ! あとはどうしてもって言うとき以外は使わないこと! いいね!」
エミリア曰く。
あの時の俺の動きは、人を超越した動きだったらしい。
音声ガイダンスの説明じゃ、俺の周囲の速度が遅くなるとか……だったような。
ん? 他の人からは、俺の動きが上がったように見えて……どっちも同じことなのか?
「いいかい? あんな人間の限界を超えた動きを何回もなしてたら……いつか手足が千切れ飛ぶかも知れないんだからね!」
うわ……想像しちゃったよ。
本当に気をつけてよう……うん。
さて、二日も寝ていたんだ。
身体も鈍ってるだろうし……
「じゃ。体調も元に戻ったとこで、早速特訓再開といこうか!」
「ダメだよ! 今日一日はゆっくりすること。いいね、師匠の命令だよ!」
ダメ出しされてしまった。
無理するとまたエミリアが、また泣いたりするかもしれん。
ここは大人しくしてよう。
「あ〜はいはい。言うことを聞きますよ」
とはいえ、やる事がないのもどうしたものか。
「あ、そうだ。カケルくん、お腹減ってるだろ? ボク、いい物を持ってるんだ」
「……いい物って、なんだよ?」
エミリアはローブの裾に手を入れ、もぞもぞさせている。
そして取り出したのは……桃だった。
「この桃、結構美味しいんだよ。はい、あ〜ん」
いや、あ〜んじゃない!
恥ずかしい恥ずかしい! いい歳した俺がやる事じゃない!
「あ〜ん? なにを恥ずかしがっているんだい、カケルくん。キミは病人なんだから……はい、あ〜ん!」
「グボォ!?」
エミリアは、次々と俺の口に桃を押し込んでくる。
そんなに桃を無理矢理突っ込むな!
く……苦しいぃ!? 死ぬ死ぬ……加速スキル以前に、なんか死ぬ!
「ぶっはっ!! 死ぬわ!!」
「ぴぃ!? し、死んじゃダメだよ!?」
いや、お前に殺されかけたんだが……分かってるのか、こいつは。
「コレ……美味しいんだけどなぁ」
エミリアは、俺が吹き出した桃を手に取り、遊ぶようにコロコロと転がしている。
「げほッ……あ〜まだ苦しい……なあ、そう言えば桃って庭園で作ってるのか?」
「うん。ここから少し離れた場所でね」
まさか異世界で、桃を見るなんて思いもしなかったが。
知っている桃よりも、少し小さいし色も濃いが……形は間違いなく桃だ。
知らない場所で知っている物を見ると、なんだか安心するな。
「どうしたんだい、カケルくん。なんか嬉しそうな表情してるけど?」
「そうか? なあ、この桃って、この国でも作ってるのか?」
栽培してるなら、そんな場所を見てみたいな。
「うん? この国じゃ作ってないよ。そもそもこの大陸の何処にも、桃って言う果実は存在しないんだ」
え? 大陸に存在しない?
存在しない桃を、エミリアはどこから手に入れたんだ?
「じゃあ、この桃は……?」
「えっとね……昔、東方の大陸を旅した時に、手に入れたんだよ」
今から二百五十年前。
エミリアは、東方を旅していたそうだ。
その時出会った、柔和な表情の老人に桃を貰ったそうだが。
「へ〜……ちなみに、どんな爺さんだったんだ?」
「うーん……たしか頭が長くて……そうそう耳も大きかったんだよ。あとは白い立派なヒゲをしてて、杖を持ったお爺さんだったよ」
その話を聞いた俺は、頭の中で水墨画に出てくる仙人の姿が浮かんだ。
「あと、そのお爺さんが言ってたんだけど……その時貰った桃は……不老長寿の桃って言ってよ」
不老長寿の桃……?
そ……それってまさか……あの桃じゃないのか!?
おいおい……人間の俺が、そんなの食べても大丈夫なのか!?




