6話 スキル獲得
魔獣ディアボーン。
テグラメントの塔の第九階層に住む大型魔獣。
狼のような頭に、トレードマークの赤いモヒカン。
筋肉で盛り上がった長い四肢と、青黒い色の皮膚をした危険な魔獣。
基本は捕食者だが、たまに捕食対象としてではなく、人間や亜人を弄ぶ、タチが悪い面も持つ。
エミリアはそう言った。
「これが……そ、そうなんだよ!」
「な、なるほど……って、逃げながら説明してる場合じゃないだろうっ!」
俺とエミリアは、その魔獣ディアボーンに追われて、全速力で逃げていた。
身体能力を上げているから、今のところはなんとか追いつかれていない。
いや、ディアボーンは弄ぶ性格らしいから、追って楽しんでいるのかもしれない。
「ど、どうすんだ!? こ、このまま無意味に走っても、いつか追いつかれるぞ!」
こっちは体力が無くなれば、一巻の終わり。
疲れて逃げなれなくなった二人を、ディアボーンは、ゆっくりと捕食すればいいだけなんだからな。
「ど、どうしようか、カケルくん!」
「どうしようか、じゃないだろ! エミリア! なんで、お前も逃げてんの!? 賢者だろ!」
「つ、ついにキミにつられて……それに走りながらだし、反撃するチャンスがないよ!?」
釣られて、一緒に逃げる賢者って……ポンコツめ!
どうすれば反撃できる? 考えるんだ……考えろ、俺ぇ!
反撃……反撃……そうだ! これなら上手くいく可能性がある!
「よし、エミリア。二手に別れるんだ」
「ふ、二手に?」
「ああ、二手に別れる。で、どっちかが囮になっている間に、残った方が倒す……これで行こう!」
「……さすが、ボクの弟子だよ、カケルくん!」
そこは賢者さまが考えろよ。あと弟子になって、まだ数時間しか経っていないのに……さすがって……
とりあえず後で文句を言おう。
今は、ディアボーンを倒すのが先決だ。
「じゃあ、三つ数えたら……二手に別れるぞ!」
「いいよ、始めて!」
「1……2……3! 今だっ!」
合図と同時に、エミリアは右、俺は左に方向を変える。
これで上手くいったはず……あれ?
後ろから追ってく気配が無くなった。
俺の方に来ていないってことは……ディアボーンはエミリアを追っていることになる。
走るのを止め、背後を振り返った。
エミリアと俺が左右に別れた場所に、ディアボーンは、じっとその場に止まっていた。
追いかけっこは終わりで、諦めて立ち去るのか。
それはそれで助かるんだが……どうも、そうではないらしい。
ディアボーンは、確認するように首を左右に振っている。
そして、俺とバッチリ目が合ってしまった。
直感的に、ヤバイと感じました。
ディアボーンは、裂けた口の端を吊り上げ、にぃぃと笑った。次の瞬間。
俺に向かって、一直線に走り出してきやがった!
「ぬおおお!?」
再び始まる。
ネズミと猫のような、命がけの追いかけっこ。
(ポーン! おめでとうございます。新しいスキルを獲得しました。新スキル『加速』をご利用されますか?)
「お……おめでとうございます、じゃねえ!!」
この状態で、おめでとうって……全然めでたくないだろ!
バカか? この音声ガイダンスはバカなのか!?
いや、待て待て待て。
今、新スキル『加速』って言ってなかったか。
加速ってことは、もっと早く走れるってことじゃないのか?
ディアボーンと距離が取れれば……倒せるかも!
「よ、よし! スキル加速を……使用!」
(ポーン! スキル『加速』を使用します。ご利用者様の半径1キロメートルの周囲を、1/75秒に時間速度を落とします。
時間制限は、30秒となります……カウントダウン……スタートします)
時間を落とす!?
加速って、走る速度を上げるんじゃなく……時間!?
スキルを発動と同時に、周囲のスピードが緩慢になっていた。
岩場の跳ねる球体が、スローモーションのように、ゆっくり動いている。
背後のディアボーンも、動きが止まって見える。
実際には、少しずつ動いているんだが……
(ポーン! 加速の制限時間……残り15秒……)
おっと、関心してる場合じゃないな。
「悪いな……こんな形で勝負が決まるなんて、な」
次は加速なんて無しで、こいつに正々堂々と勝ってやる。
ズバシュウッ!!
ディアボーンの身体は、剣から放たれた斬撃によって真っ二つに切り裂さかれた。
(ポーン! 時間です。スキル『加速』が解除されます。お疲れさまでした)
再び時間の流れが、通常の流れに戻る。
「ぐごぉ!?」
ディアボーンには自分に何が起きたのか、分からなかっただろう。
気づいた時には、身体が真っ二つになっていたのだから。
「うわぁ〜……真っ二つだね……カケルくん。キミはいったい何をしたんだい?」
エミリアは、真っ二つになったディアボーンを、じっくり観察するよう見ていた。
驚き隠せないエミリアに、俺は何があったのか答えようとしたのだが……
「実は……ぬおおおお!?」
全身に痛みが走り抜ける。
こ……これは筋肉痛……だ! ぜ、全身に……うごぉ! ち、力が抜けて……いく……
ドサ!
「カ、カケルくん!?」
俺は、その場に倒れてしまった。
意識を失っていく中で、あの流暢な音声が聴こえてきた。
(ポーン! おめでとうございます。スキル『剣聖』のレベルが15に上がりました)




