51話 決着
「よう、待たせたな……鈴木ぃ」
「……こんな形で、俺の遊びが邪魔されるとはな……」
ずっとこの場所にいたのか。
鈴木の周りには、倒れたまま動かない冒険者たちの姿があった。
鈴木に仕掛けて、返り討ちにあったんだろう。
人を殺めることに、なんの抵抗も感じないのか、鈴木は……
この一年の間に、なにがあったのかを知りたい。けど、俺には教えてはくれないんだろう。
それ以外にも聞きたいことがある。
これには、きっちりと答えて貰わないといけない。
「鈴木。お前たちがこれを作ったのか?」
ポケットの首飾りを、取り出した。
首飾りをみても、鈴木の表情に変化はない。
「その首飾りは……ドルフィが熱心に研究してたヤツか」
「知ってるのか。じゃあこれ使って、犬神を操ろうとしたことも……お前の計画だったのか?」
計画。その言葉に、鈴木の眉がピクリと動いた。
「計画じゃねえ……遊びだ、どれもこれもな……くっははは」
遊びか……どうやらそれ知っているようだ。
「なんだ? ムカついてんのか、その顔は? たかが遊びにイラつく必要あんのか? なあ、天野ぉ」
「……知ってんだな、お前。犬神のことを」
鈴木の顔が、ニヤリと歪んだ。
「知ってるも何も、俺がドルフィにやらせたんだからなぁ。もちろん、ただの暇つぶしでだがな……もう、聞きたい事は終わりか、あまのぉ〜」
「ああ、もう十分だ。お前のつまらない遊びとやらは……ここで潰す」
「やってみろよ、天野ぉ……」
鈴木が持っているのは日本刀か?
わざわざ似せて作らせたのかもしれないな。
鈴木は、見下した表情で俺を見ている。
元の世界で俺を虐めていたことから、来る余裕なのか。
それとも異世界でつけた実力から来る余裕なのかは、分からない。
なんにせよ。
あいつにも何かしらスキルがあるに違いない。
落とし穴の時に使ってみせた、謎にスキルがだ。
スキル発動される前に、俺の方から先手必勝で仕掛ける。
突進からの抜刀。鈴木を左薙ぎで斬りつける。
ガキぃん!
爆ぜる金属音をさせて、鈴木の剣がそれを受け止めた。
俺の剣を弾くと、鈴木は素早く剣を振り下ろしてくる。
それを軽く捌くと、俺は鈴木から一定の間合いを取った。
鈴木が霞の構えをとると、そのまま突進の勢いを利用しての連続突き攻撃を仕掛けてきた。
そんなのに当たる俺じゃない。
鈴木の攻撃を全て避けると、俺の反撃が始まる。
繰り返し行われる剣と剣の応酬。
そしてまた何度目かの鍔迫り合いになった。
斬り合いをやっている鈴木の顔は、顔をますます嬉々と歪ませていた。
「楽しいなぁ、天野ぉ……レベル20の剣豪である俺と互角に戦えるなんて、思ってもみなかったぜぇ」
鈴木の職業が剣豪だって言うのか。
『予測』で攻撃を読んでいるとは言え、あいつの反撃速度が異常に速いわけだ。
「……なあ、お前さ……何人殺したんだ?」
「なんの事だ? 俺は誰も殺してなんかいないさ」
「くっははは……嘘をつけ。人を殺して殺して、強くなったんだろう?」
「残念だが、俺はそんな方法で強くなったわけじゃない」
まるで自分は人をたくさん殺して、強くなったみたいな言い方だな。
「……鈴木……お前、まさか?」
「俺はこっちに来て、ずっと人間を殺してきたんだ! どんな相手でも、時間を止めるスキルを使えば一撃でな」
時間を止めるスキルだ!? 本当に時間を停止させたのか。
それでか……それで落とし穴の時、エレスたちの姿が消えたように見えたのか。
「何が起こったのか、分からないまま死んでいくヤツ……強い相手にも余裕で勝てっきたな……
それに無抵抗なガキまで。くっははは! この時間停止があれば、俺は無敵なんだよ! くっはははは!」
スキルをそんな事の為に使って、無抵抗な子供までも手にかけたって言うのか。
「こっちはいいなあ、天野ぉ……何人殺しても罪に問われないんだぜ? 人を斬る快感、お前にも分かるよなぁ? くっははははは!」
こいつ……狂ってやがる。
人を斬る快感だと? そんなの分かるつもりはない。
……こんなヤツを、本当に元の世界に連れて帰っていいのか?
連れて帰ったら、元の鈴木に戻るのか?
ダメだ……こんな危ないヤツを連れて帰るわけには、いかない。
元同級生として……俺がこいつを終わらせる。
「なんだあ? 急に黙って……ぐぼぉ!?」
鍔迫り合いの態勢のまま、鈴木の腹に一発蹴りを入れる。
「け、蹴りだとぉ? 天野ぉ、お前ぇ……」
嬉々と歪んだいた表情が、苦痛の表情に変わっている。
「鈴木……お前をここで斬ってやるよ!」
「はあ? 斬る……俺を斬るだって? くっははははは! 面白い冗談だな、天野ぉ!」
冗談なんかでこんな事を言えるかよ。
元に戻れないなら、お前を生かしておく訳にはいかない。
「は〜……お前は俺を斬ることすら出来ないんだよ、天野ぉ」
「どういう意味だ、鈴木? 俺が本当に斬れないとでも……」
「くっははは! そういう意味じゃねえよ。お前の剣が届く前に、俺に斬り裂かれて……死ぬんだよっ!!」
「時間停止!」
ヤバい、またあの時のスキルか!!
「くっははははは!! 今この時、俺以外の時間を止めてやった。
お前の時間だけ止めてもいいんだが、それじゃ邪魔が入っちまうからな。だから邪魔が入らないように、周囲全ての時間を止めてやったのさ……って、聞こえる訳がないよな、天野ぉ」
「……時間停止ね。ずいぶんと凄いスキルだな、また」
「なななななんで、お前は動いていられるんだ、天野ぉおおお!?」
お、やっと鈴木が驚いた表情を見せたな。
俺がこの中で動けるのが、よほど驚いたようだ。
「知らねえよ。どうして俺が動けるかなんてな……」
俺がその理由を知りたいくらいだ。
だが、その理由は後で考えよう。
「くっははは……おかしいだろ……なんで止まった時間の中で……おかしいだろおおおっ!!」
「知らねえって言ってんだろうがああ! 鈴木ぃい!!」
――加速!
勝敗は一瞬で決まった。
俺は一撃で鈴木を斬り捨てた。
「……お……お前は……な……んなん……だ……」
「……ただの無職さ」
絶命する鈴木に、俺はそう答えた。
(ポーン! おめでとうございます。『時間停止』を奪取しました。新しいスキル『時間停止』を覚えました)




