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47話 罠

 領主が計画していたと思っていた、王国への反乱。

 だが、実際は元同級生の鈴木が画策していたと言う。


「戦争が起こるかも知れないのが……遊びだと? 貴様、そのためにミト様を!」


「……許さない……あなたのような人は……」


 たしかに許されるようなことじゃない。

 エレスとダイアが、鈴木に対して怒りの表情を向けている。


「ああ? 戦争が起こればいいじゃないか。なんか問題でもあるのかよ? くっはははは!」


 そんな下らない理由で、ミトやディナ……いや、この国の人たちが傷つくのは、絶対にダメだ。


「……鈴木ぃ。今、ここでお前を止めて、こんなくだらない茶番は……終わらせてやる」


「天野ぉ……残念だけど、お前たちにそれは出来ないな……何故なら!」


 鈴木が指を鳴らした瞬間だった。


 エレスとダイアが立っていた床が、いきなり口を開けた。


 仕掛け床……罠か!?

 入り口付近にわざわざ作るとは……だが、加速スキルを発動させて、二人を助ければ!


時間停止(ストップ)


 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

 俺が気づいた時には、既に二人の姿がなかったのだ。


 鈴木のやつ、何をしやがったんだ。

 ストップって言っていたが、まさか本当に時間が止まったって事なのか?


「って、そんな事を考えてる場合じゃない!」


 俺は二人を追うように、自ら落とし穴に飛び込んだ。


 落ちていく俺たち上から、鈴木の高笑いが聞こえてくる。


「魔獣の餌になってしまう連中にぃ、俺の邪魔はできねぇよ! くっははははは!!」


 言いたいこと言いやがって、絶対這い出てやるからな!

 そんで思いっきりぶん殴ってやる!



 落ちる高さは、それほどなかった。

 一分もしないうちに、下に広がるブロックの床が見えてきた。


 俺は態勢を整え、難なく床に着地した。


 エレスとダイアも無事に着地している。

 慌てずに対処したのは、さすが騎士と言うべきか。


 上を見上げてみるが、仕掛け床はすでに閉じられている。


 そんなに高くはないと思うが、落ちてきたところを登っていくのは無理そうだ。


 他に方法はないか、辺りを見渡してみた。


 床の真ん中には水路が流れている。

 どこに流れているだろうか? 館の位置からすると湖にでも流れてるのかも知れない。


 その水路の上流に向かって、通路が真っ直ぐに続いている。


 幸い通路の壁には、篝火が焚かれている。

 常に誰かが来ているんだろうか?


 だとしたら、上に通じる階段が絶対にあるはずだ。


「……よっし。このまま上流に向かって進むぞ。エレスもダイアも、それでいいよな?」


 あれ? エレスの返事がない。


「おい、エレス……どうしたんだ?」


 エレスは、着地したときから、ずっと膝を立ててしゃがんだポーズをしている。


 左足首を手で抑えている。

 もしかして、着地したときに痛めたのか。


「私は……大丈夫だ、気にするな。それよりも早くここを……うっくっ!」


「……エレス……無理しないで……」


 ダイアも心配そうにしている。

 このままここにいる訳にもいかないしな……どうすれば……あ、そうだ。


「……なにをしているんだ、君は?」

「なにって……エレスを背負ってやろうかと」


「な!? そ、そんなのは必要ない! 私はこんな痛みなんて!?」


 痛みに耐えて立ち上がったんだな。

 無理しているのが、エレスの表情に出ている。


「無理すんな。ほら乗れよ」


 そのうち痛みも引くだろう。

 それまでは俺が背負ってやろうって言うのに、なに躊躇(ためら)ってるんだ?


「……エレス……ミト様を助けるためにも……ね?」


「……分かった……ただし、変なところを触ったら、許さないからな!」


 触るわけがないだろ。


 こう見えて、俺は紳士なんだぞって……女の子なんて背負ったのは、中学生以来だ。

 なんか変に緊張してきた。格好つけすぎたかなぁ。


 そんな考えを他所に、エレスは俺の背中に体を預けてきた。


「……意外と……重いんだな」


 見た感じ華奢な体つきから、もう少し軽いかと思っていたが……見た目よりも結構重い。


「ばっ!? こ、これは、中に楔帷子(くさびかたびら)を着ているからであって! 私が重いわけじゃない!」


 あ〜……それで重いのか。

 それならそうと、最初に言ってくれればいいのに。


「君にはデリカシーと言うものがないのか!? これだから男は……」


 エレスは、何かぶつぶつ呟きながら怒っている。


 ぷっと吹き出して、ダイアが笑いを堪えている。

 俺が見ているのに気づいたのか、ダイアは顔を真っ赤にさせている。


「よし、行くか」


 俺はエレスを背負って、通路を歩き始めた。

 その後ろからダイアが付いてきている。


 ダイアもよく分からない性格だ。

 気が強いエレスと、大人しい雰囲気のダイア。


 性格が全く違う二人が、よく護衛騎士なんてやっていけるな。


「なあ聞いてもいいか? あんた達は、どうして護衛騎士なんてやってるんだ?」


 この二人は、ミトへの思い入れが強すぎる気がする。

 まあ護衛騎士なんだから、護衛対象の姫を心配するのは当然っちゃ当然なんだろうが。


 俺にはこの二人が、ミトともっと強い繋がりのようなものを感じていた。


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