37話 市場再び
シロの職業も獲得した。
教会を出て街中を歩いていたエミリアが不意に、
「せっかくだから、市場のあの串肉を食べていこうよ」
「おお、そいつはいいな!」
「肉! お肉食べる!」
はいはい。嬉しいのは分かったから、ヨダレ出てるつーの。
シロのヨダレを裾で拭きとってやると、シロは俺たちの前へ駆け出した。
「師匠! エミリア! 早く早くっ!」
「……走って行っちゃったけど、シロくん場所知ってるのかい?」
そういやアイツ、場所知らないだろ……まったく世話の焼ける奴だ。
「追いかけるぞ、エミリア!」
「あ、ちょっと! 待ってよカケルくん!?」
はやるシロの首根っこを捕まえて、俺たちは市場へと向かった。
ここに来るのも随分と久しぶりだ。
街へは来てたんだが、市場には寄ることがなかった。
理由は特に無ない。
ただなんとなく寄るのを避けていただけだ。
たぶんあのチャラ男の事があったから、自然と避けていただけかも知れないけど。
「……いい匂いがしてきた。肉が焼けるいい匂い」
「え? 匂い? ボクにはまだしないけど……カケルくんは、匂いするかい?」
「いや……まったくしないな……」
シロは鼻をヒクヒクさせて、肉の匂いの方向へ進んでいる。
ここはまだ市場の入り口だぞ?
匂いなんて、まだしないんだけどなぁ。さすが犬と付く獣人、鼻がいいのな。
「肉っ!」
「シ、シロっ!? あ〜……」
シロの奴、四つん這いになって走って行きやがった。
ここは狩猟場か!
あっという間に、シロは人混みの中へ消えて行った。
通行人が、シロに驚いて声を上げていた。
「あ〜あ……シロくん、あんなにはしゃいじゃって。お肉好きだよねぇ……」
エミリアは、シロのはしゃぎように苦笑している。
先に勝手に行ってしまったがシロの事だ。
匂いを辿って、串肉の屋台に着いてることだろう。
目的地は同じなんだし、慌てることは無いしな。
市場の真ん中辺りで俺たちの鼻にも、あの肉が焼けるいい匂いがしてきた。
う〜ん。いい匂いだ。
前回は食べ損ねたから、今度こそは絶対に食ってやる。
「くんくん……いい匂いだぁ……えへへへ」
「エミリア。顔がニヤけてるぞ、顔が」
「そう言うカケルくんだってにやけてるよ、顔?」
さぞ周囲の通行人には、不気味に映っただろうな。
エルフと人間が並んで、ニヤニヤしてるんだ。
俺なら確実に引くな。うん。
見えてきた屋台の前には、大人しくおすわりをしているシロが待っていた。
尻尾をぶんぶんと振っている。
「あ! 師匠、早く早くっ! お肉が無くなってしまう!」
そんな簡単に無くならないから。
屋台のおっさんも、笑っているじゃないか。
「お……おおっ!? あの時の兄ちゃんじゃないか! また売り上げに貢献してくれんのかい?」
「残念ながら、今日は期待に添えそうにないな。悪いね、おっちゃん」
「そうかい。そいつは残念だ! がっはっはっは!!」
おっさんは、残念そうと言いながらも、歯をむき出して笑っている。まったく残念そうには見えないんだがね。
それに毎回あんな事があって、たまるかってんだ。
俺は決めているんだ……今回こそ絶対に串肉を食うとな!
なにが起きても、今日は無視だ無視。
「さて、エミリア……今更だけど重要な事がある……」
「うん、わかってるよ。ボクたちは串肉を何本買うか……重要なことだよ、カケルくん」
二本……いや前回食えなかったから、ここは三本必要だ。
エミリアと互いに無言で頷くと、俺は屋台の間に立った。
「今回も二本ずつにするかい、兄ちゃん!」
「……いや、今回は三本ずつ頼む、おっさん!」
「あいよ! 一人三本ね! ちょっと時間かかるから待っといてくれよ!」
おっさんは慣れた手で串に肉を次々と通すと、一本ずつ炙っていく。
ジュウジュウといい音と、肉の焼ける香ばしい匂いが堪らん!
シロじゃないけど、口の中に唾が溜まってしょうがない。
「あいよ! まずは獣人のお嬢ちゃんの分だ!」
「あ! お肉!!」
おっさんから串肉を奪いとると、シロは懸命に頬張っている。
口の周りを脂まみれにしながら。
「ほい! お次は、そこの小ちゃいお嬢ちゃんの分だ!」
「くふふふ……ああ、久しぶりだよぉ、串肉くん……はむはむ! む〜!!」
……美味そうな顔で食ってやがる。ちくしょう! 俺の分はどうしたんだ!?
「なあ、おっちゃん……俺の分は……?」
「なんだい、兄ちゃん。情けない顔してんじゃねえよぉ。まずは、レデーファーストだ」
そこはレディファーストだろ。レデーってなんだ?
……いや、異世界にも、そんな言葉があるのにもびっくりだ。
まだかまだか……辛抱たまらんぞぉ。
俺は肉が焼けるのを、ただじっと見守っている。
おっさんが迷惑そうな顔していても、そこは気にしない。
「ちょっと、あんた! 私たちを助けなさいよっ!」
「な、なんだ!?」
突然、女の子の声が背後から聞こえてきた。
そこには息を切らした少女が二人いる。
全速力で走ってきたかのように息が荒い。
金髪の髪を後ろにまとめたポニーテール。長いマフラーに、白いワンピースの中二っぽい服装をした少女。
もう一人は、大人しそうな感じのお嬢様っぽい服装の女の子。
ワンピースの女の子の姿に、俺は言葉を飲んだ。
一瞬、見分けがつかないくらいに、エミリアに似ていたからだ。
もちろん完全に似ている訳じゃないんだが……よく見ると顔のパーツがちょっと違うことが分かる。
いつも眠そうな眼のエミリアと違って、こっちは目がぱっちりと開いている。耳も丸い。
それ以外は本当によく見ないと、分からないくらいだ。
エミリアも串肉を食べる手を止めて、驚いた表情をしている。
自分に似た人間は、三人以上いるって言うが……まさか異世界でもそれが当てはまるのか?
「ちょっと、あんた聞いてるの!? その腰の剣……冒険者なんでしょ!? 早く助け――ああ、もう! 追いつかれちゃったじゃない!」
なんだ、この忙しい奴は……おや?
これはこれは……はっはっは。また厄介ごとか。
目の前にいるのは、俺はよぉく知ってる連中だ。
全身黒い衣装に身を包んだ黒い鬼の面……鬼人傭兵団。
俺の側にいる女の子たちを、追っかけて来たみたいだ。
ちくしょう……こっちは肉を食いたいって言うのに……毎回毎回、どうしてこうなるんだ?




