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32話 魔法をこの手に



 テメングラトの塔最上階。

 グローリエルと出会って、あれから数日が経っていた。


「エミリア。折り入って頼みたいことがあるんだ」

「うん? 急に改まってどうしたんだい、カケルくん?」


 エミリアは、朝食のパンを食べている手を止め、キョトンとした表情で見ている。

 シロも食べるのをやめ、ジッと俺を見ている。


 レンドルとの一件以来、俺はずっと考えていた事があった。


 レンドルが見せた、魔法と剣技の組み合わせ。

 奴は使い方は……まあ見かけだけだったけど。


 使い方によっては、戦い方の幅が広がるんじゃないだろうかと、俺は思っていた。


「魔法を俺に教えてくれないか?」

「え? キミに魔法かい?」


 ふぅとため息をつくと、エミリアは食べかけのパンを皿の上に置いた。


「どうして急に魔法を覚えようと思ったんだい?」

「レンドルとの一件で俺は思ったんだ。魔法を使えれば、戦いがもっと有利になるんじゃないかって」


「……なるほどだね。たしかに一理あるよ」


 理解してくれたんだよな?

 でもエミリアのは、難しい表情を浮かべている。


「……何か問題でもあるのか?」

「うん。大きな問題があるんだ……うん。まずは魔法体系の説明から入ろうか」



 魔法は三つの体系に別けられる。


 一つは最も一般的な魔法だ。

 空気中にある魔素を自分の魔力と融合させ、呪文を唱えることで魔法を発動させることが出来る。


 魔力の総量や資質、職業(ジョブ)によっては、魔法の威力や効果が変わってくる。

 それ以外に強力な魔法は、古文書や魔道書を読んで意味を理解し発動させる呪文を、覚える必要があるそうだ。



 次に精霊魔法。

 そもそも魔素とは、精霊が寿命を終えて散った後に残るもの。いわば精霊の成れの果て。

 なので、散る前の精霊に力を借りて行使する魔法となる。


 これにより精霊魔法は、術者本人の魔力に依存せず、発動させることが出来る。

 ただ、これを使えるようにするためには条件が難しい。


 火水木風土、それぞれの精霊の(おさ)と契約を交わしてじゃないと無理だとか。


 最後に召喚術。

 自分の魔力を餌に、描いた魔方陣から召喚獣を呼び出す魔法。

 強い魔力なら召喚獣の個体の中から、強い召喚獣を呼び出すことができる。

 釣りみたいな物ってエミリアは言っていたが、言い得て妙だなと感心した。


 ただエミリアはこっちは専門外らしく、文献で読んだ程度の知識しかないらしい。

 読んだ程度とは言うが、エミリアの書庫を見たことがあるが……

 昔、行ったことがある私立図書館より、本が多かったことはたしかだ。


 人間は主に魔法を使い、エルフは種族特性を持ち最初から精霊魔法を使えるようだ。


 ずるい感じがする。

 まあその代わりに人間の種族特性として、無限に近いスキルを覚えることが出来るそうだ。


 そんなにスキルを覚えてる人間は、エミリアもまだ見たことはないそうだが。理論上は可能性らしい。


「これらを踏まえた上で、説明するね」


 エミリアはそう言って、食べかけのパンを口に頬張った。

 シロはエミリアの話にときおり頷いていた。理解できているんだろうか?


 エミリアの話は続く。


 まず、物理系職業に高度な魔法を使うことは出来ない。

 使えても初歩の魔法攻撃しか使えない。


 だから覚える人は、ほとんど居ないらしい。

 戦闘中に魔力切れを起こして、倒れてしまう可能性があるからだ。

 そうなったらどれだけ危険か、それは俺が一番よく知ってる。


 続いて魔力系職業。

 そもそも魔法系職業に就く人は、知識が豊富だったり、魔力が強かったりと資質が大きく影響する。


 剣を持ってわざわざ戦おうとはしない。

 物理系職業に比べて筋力は無いし、素早さも無いから、前衛には向かない。


「だからボクは魔力温存するために、弱い魔物には剣で倒すことにしてるんだよ」


 なるほど。

 だから賢者に必要じゃない剣を持っていたんだな。


 あれ? レンドルはどうなんだ?

 ずいぶんと魔法にも剣にも自信を持っていたような……魔法を剣に付与するのが、初歩魔法なんだろうか?


「エミリア。あのレンドルは騎士(ナイト)だったろ? あの魔法も初歩の魔法だったのか?」


「ああ、あの鎧の人だね。あれは初歩魔法なんかじゃないよ。もっと高度な魔法だったはずさ」


「物理系職業は、魔法苦手なんじゃないのか?」


「おそらくだけど。あれは彼の資質だと思うよ。

 これはボクの想像だけど、並大抵じゃない努力をしてきたんじゃないかな」


 努力の方向を間違えた結果なんだろうが……それでもレンドルは、あり得ないことをやってのけたんだろう。


 物理系は魔法が苦手で、魔法系は物理攻撃が不得意か。

 無職レベル99の俺なんかじゃ、到底無理な話って事なのか。

 たしかに大きな問題だ。


「じゃあ、俺は才能も無いから、無理ってことなんだな……」


 少し残念ではあるが、そこは仕方がない。

 諦めるしかないのか。


「う〜ん……もしかしたら、そうとは言えないかもしれないね」


 どっちなんだ?

 無理なのか無理じゃないのか。


「えっと、つまりどう言うことなんだ?」

「……うん。キミの職業(ジョブ)は、なぜかスキル扱いになってるよね?」

「……たしかにそうだけど……それがなんだって言うんだ?」

「つまりだね。スキルに魔法系職業が付与することが、出来る可能性があるかもしれない……そう考えたんだよ」


 スキルは人間の種族特性。覚えれる数は無限に近い。


「よし! じゃあ片付けが終わったら、早速試しに行こうじゃないか」


「行くって何処にだよ?」


「ふふん〜。キミにも懐かしい場所……第一階層にさ」


 そう言って、エミリアはコップの果汁を一気に飲み干した。


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