表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/53

3話 ボクっ娘エルフは中二病でした

「……空に現れた魔方陣ねえ」


 エミリアは、一人でぶつぶつと小さく呟いていた。


 キミの話を聞きたいと、エミリアはそう言った。


 俺は同窓会からこの世界へ移転してくるまでの経緯を、出来るだけ詳しく話した。


 異世界(こっち)に無い言葉……例えば同窓会や、元同級生。

 その都度彼女が聞いてくるので、分かりやすいよう説明しながらだ。


「ねえ、カケルくん」


 経緯を説明するときに、名前も教えておいた。

 最初に来た時、名乗ったはずなんだが……どうやら彼女は、名前をロクに聞いてなかったらしい。


 人を久しぶりに見たので、我を忘れたそうだ。


「あのさ、キミが見た魔方陣……それを正確に描いて欲しいんだ。できるかい?」

「もちろんだけど……それでなにが分かるんだ?」


 エミリアはフフンと鼻を鳴らすと、得意そうな顔をした。


「魔方陣の種類が分かれば、何の目的でキミたちをこの世界に呼んだのか。それがまず分かるんだよ」

「魔方陣の……種類?」


「そう、種類だね。勇者召喚魔法なのか、たまたま偶発的な召喚なのか……その辺が分かれば、人探しの手掛かりになる……って、思わない?」


 魔方陣の種類なんかで手掛かりが分かる……のか?

 こっち世界の法則が分からないから、なんとも言えないが……エミリアには、何か考えがあるんだろう……たぶん。


「……分かった。どこに描けばいいんだ? 地面?」


 彼女は、違うよっとクスリと笑うと、腰の小さな袋から茶色紙とペンとインクを取り出した。


「……なあ……その袋のサイズから出てくるはずがない物が、どうして出てくるんだ……?」

「えっと……簡単に説明すると、この袋の中の空間を捻って、魔法で中を拡張してるんだ。そんなことよりも、早く早く」


 急かす彼女は、テーブルの上にA4サイズの紙を置いた。


 絵、か……こう見えても実は絵を描くことには、かなり自信がある。


 中学の頃、あだ名がピカソとまで呼ばれた俺だ。

 あの夜見た魔方陣なんざ、目を瞑っても描ける。


「さあ! 高天(たかまが)中のピカソと言われた……この俺の腕を見るがいい!」



 ――1分後。


 描き終えた魔方陣を、エミリアの目と鼻の先に突き出した。


 何故だろう。

 俺が描いた魔方陣を見ているエミリアの顔が、苦虫を噛み潰したよう表情をしている。


「……ずいぶんと……独創的な魔方陣……だね……うん、これは……これでボクが……調べてみるよ……うん」


 彼女は紙を手に取り、素早く袋に戻した。


 俺の絵のセンスにエミリアは、きっと感動のあまり何も言えないのだろう。

 たかだか魔方陣で感動するとは……感性が豊かな証拠だ。


「えーと……コホン! それで、カケルくんはこれからどうするんだい?」

「どうするって……そりゃ、こっちに来ているかもしれん連中を探すに決まってる」

「……具体的には?」


 具体的な考えは無い。

 ただ漠然としか、探すことしか考えていなかった。


「……魔法で、その湖畔の街まで俺を送るとか……できない?」

「うーん……出来ないことはないよ。でも、その後はどうするんだい?

 めぼしい場所とかあるのかい? それに、武器やお金も持たずにどうやって、探すっていうのかい?」


 うっ……エミリアの言ってることは正しい。

 見ず知らずの土地で、勝手に動き回るのは得策じゃない。

 それくらいは分かっているのに……


「困っているね……ねえ、もしキミさえ良ければ、ボクの弟子にならないかい?」

「弟子……?」


 と、唐突だな。弟子にならないかって。どういう意図があるんだ……って、あれ?

 なんか目が泳いでるし、またモジモジし始めてる。


「あの……ボクが寂しいからとかじゃなく……うん、決して寂しいからじゃないよ? 寂しいから、弟子になってくれたらな〜……とかじゃ……ないよ?」


 ……三回も寂しいとか言ったよ、このエルフ。

 たしか、人と話すのが二百年ぶりみたいなこと言ってたよな。


 ん? 街があることは知っていたんだよな……


「なあ、湖畔に街があるとか言ってたよな? どうして、そこで人と話さなかったんだ?」


 エミリアは急に遠い目をした。


「……それをボクに聞くのかい、カケルくん。聞いて後悔しても知らないよ?」


 物悲しそうな表情を浮かべ、エミリアは思い出すように遠くに視線をやる。


 なんだ……何か聞いてはいけない事を、聞いてるような気がしてきた。


 ゴクリと、つばを飲み込む音が耳の奥で大きく聞こえる。


「あれは……二百年前の、ある晴れた日のことだったよ……」


 二百年前。


 エミリアはこの場所に住むことになり、近隣の街に訪れた。

 高位(ハイ)エルフという事もあり、一目みようと街の住人が集まった。


 街の人の注目を集めた彼女は、緊張のあまり高らかに、こう叫んだ。


 ――我は暗黒邪神の申し子! 闇の大魔道士である! 我の邪心眼に封じられし闇を、今ここで解き放ってやろうぞ!


 そのあとの街の人たちの反応は言うまでない。


「……ええ……あの冷ややか目……忘れないです……あんな白い目……はい……ちょっと調子にのってました……ごめんなさい……」

「……それに耐えられず、二百年間、ここに引きこもっていたと?」

「……はい……」

「お……お前が悪いんじゃねえかあ!!」


「ぴぃ!! だってだって……なんか賢者だけって、印象が薄いから……闇の大魔道士とかの方が、なんかカッコいいじゃないか!」


 いや、カッコいいとかじゃねーよ。

 このエルフ(ひと)……なんか、ポンコツに思えてきたぞ。

 自分は悪くないと言わんばかりに、エミリアは頬を膨らませている。


「で、それからどうなったんだ?」

「えっと……なんか、ボクを討伐するために、王国の兵士がたくさん来て……えへへ」

「笑って誤魔化そうとするな。で、討伐隊はどうなったんだ?」

「あれ? そう言えば言ってなかったっけ?」


 彼女はキョトンとした表情をし、


「ここは世界七大迷宮の一つ、テメングラトの塔だよ。攻略難易度最高級の迷宮なんだ。と、言っても二百年前の情報だけど」


 難易度最高級って……いったいどれくらいの難易度なんだろうか。

 最高級っていうくらいだから、そう簡単に踏破できる迷宮じゃないんだろう……


「え……それってどれくらいの難易度、なんだ?」


 エミリアは、うーんと言いながら腕を組んだ。


「そうだねぇ……並の剣士や魔術師なら、10階層までたどり着けないくらいかなぁ。並以上でも20階層が限界じゃないかな?

 あ、さっきの話の兵士たちは、ここまで来れなかったね。たぶん5階層あたりで、全滅か逃げたんだと予想してるけどね」


 強さの想像ができない。

 でも屈強であろう兵士たちが、踏破できなかったくらいの難易度なんだろうなぁ。


「……まあその話は置いといて。とりあえず、あんたの弟子になってみるよ」

「ほ……本当かい!? ウソついてたら、ボク怒るからね?」

「ウソじゃないって。ま、よろしくだ」

「うん、よろしくだよ、カケルくん!」


 なんだ、そのめちゃくちゃ嬉しそうな顔は。

 そんなに嬉しいのかね……まぁ、人との交流がなかった訳だから分からないでもない。


 立場は違うけど、俺も同じ境遇だったわけだし。

 それにだ。こんなポンコツ賢者を一人放っておくわけにもいかないしな。




 んで、後から知ったんだが。

 どうやらこの塔の最上階には、邪悪な闇のエルフが住みついていて、そのエルフ討伐に王国が莫大な懸賞金をかけていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ