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19話 シロを救うため

 犬神(いぬがみ)がいなくなったことを知った盗賊たちは、シロの村人たちを連れ去ったようだ。


「お願い。ウチの一族たちを助けて……」


 こんな少女の願いを断るわけにはいかない。

 助けを求められたら、全力で助けてやるさ。


 そういやこれが俺のポリシーだったな。

 引きこもってる内に、そんな気持ちすら忘れてしまっていたなんてな。


「当然だ。俺たちに任せておけ! な、エミリア」

「うん。ボクたちに任せておけば、大丈夫さ!」


「……ありがとう……賢者に剣聖……」


 お礼言うには、まだ気が早いぞ。

 とはいえ、どこからどう探せばいいのか。


「シロくん。ちょっとこれを見て欲しいんだ」

「……これは……森と塔?」


 エミリアが袋から取り出した地図を、シロは食い入るように見ている。


「キミがいた村はどの辺りだい?」

「……いつも塔は、南東に見えていたから……ここ。ウチたち一族の村はここ」


 シロは地図に描かれた樹海の左上を、指差している。


「……ふむ……となると……帝国との関所が、ここだから……」


 今度はエミリアが考え込むように、地図とにらめっこしている。


「……そうか……うん……多分……ここだね……よし!!」

「よしって、いったいなにが分かったんだ? 俺たちにも分かるように説明してくれ、エミリア」


「ああ、ごめんよ……カケルくん、シロくん。よく聞いておくれ」


 エミリアは地図の森を指差す。


 盗賊たちの目的は、連れ去った犬人族(けんじんぞく)を帝国に奴隷として売ること。

 この国では奴隷売買は死刑の重罪だ。大昔の法律だけど、今でも変わってない可能性があると、エミリアは言う。


 だから盗賊たちは、村人たちを必ず帝国へ連れていくしかない。

 シロの話しでは、連れて行かれたのは若い女子供たち。

 村での対象者は、約四十人ほどらしい。


 そんな大人数を、樹海の中を連れていくのも苦労するだろうと、エミリアは考えていたようだ。


 そしてここからが重要だよ、とエミリアは言う。


 そんな大人数を関所まで連れて歩いていれば、冒険者たちに必ず見つかってしまう恐れがある。


 だから関所まで連れていくのは、夜しかないと。

 大人数を一気に連れていく方法は、檻を搭載した馬車が最低でも、二〜三台必要となる。


「ここを見ておくれよ」


 エミリアが地図のある場所を指している。

 街道から外れていて、ちょうど森が終わっている場所。


「ここが、帝国との国境に一番距離が短い場所だよ。夜の間に馬車で走れば、明け方までには関所を抜けれるんだ」


 ……関所を抜けてしまえば、帝国領になるから奴隷は合法。そうなると、村人たちを救う事が出来ない……と言う事か。


「でもさ。関所に荷物を確認されたら、盗賊たちはマズイんじゃないのか?」

「門番に賄賂を渡しておけば、荷物を調べずに通過できる……かもね」


 あ〜……そう言うこともあるのか。

 荷物がノーチェックなら、そのまま通過すればいいだけか。


 そうと分かれば、ジッとなんてしてられない。

 今すぐに行動しなければ……ん? 夜まで、その場所で待てばいいのか?


 盗賊たちが来るまで……それは辛いな。


「まずは作戦を練らないといけないよ。無策で上手くいくとも限らないからね。

 相手の人数は……そこはボクとカケルくんがいるから、人数は関係ないかな」


 たしかに相手の人数は、俺とエミリアにかかれば関係は無いんだろう。


「ただし! 村人さんたちが盾に取られたら、ボクたちでも手が出せないからね。そうならない為の作戦を立てないと、いけないんだよ」

「……な、なるほど。で、どんな作戦なんだ?」


「はぁ〜……それをこれから考えるんだよ? まったくカケルくんは……」


 呆れた目で、俺を見るんじゃない。

 どうせ、俺はなにも考えていませんよ。はいはい。


「……落ち込まないで、剣聖。おまえの力に、ウチは期待してるから……」


 シロは優しいなあ。

 どっかのエルフとは、大違いだ。


 尻尾もモフモフしてるし……


「あの……ウチの尻尾をどうして触っているの?」

「え、ああ〜……いや、つい」


 危なかった。

 癒されるモフモフを、無意識のうちに触っていたなんて。

 昔飼ってた犬を思い出してしまう。


「……賢者。もし時間があるなら、ウチは村に戻りたい」

「うん? 今からかい?」


「今から。あの後、村がどうなっているのか、知りたい。それと……戦うなら父が残した武器が、必要」

「親父さんが残した武器? もしかして親父さんは……」

「父は死んだ。犬神がおかしくなったときに」


 犬神と戦ったときのことか。


 シロは、どことなく寂しそうな表情をしている。

 これ以上は、聞かない方がいいだろう。


「……分かった。でも、今から村まで歩いて行ってたら、盗賊たちの合流地点まで行く時間が……」

「う? 時間は問題ないよ、カケルくん」


 問題ないって……地図を見る限り、ウォムの街から村まではかなり距離があったぞ。

 湖を岸を周りを行くとなると、相当な時間をロスしそうなんだが。


「転移魔法があるじゃないか。昔、樹海には何度か薬草を取りに行った事があるからね。そこから歩いてシロくんの村まで行けばいいのさ」


 転移魔法か。一度行った事がある場所なら転移できたな……

 それなら時間はかからない。


「よし……行くぞ、シロの村に」

「じゃ、ボクの手を握っておくれ……転移!」


 俺たちは塔の最上階から、樹海へと転移した。


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