15話 市場で串肉を
ウォムの街の西側にある市場。
そこで当面の食料を買っているんだが……
元いた世界と似たような食材が多いことに驚いた。
とはいえ、若干の違いもある。
たとえ南瓜に似た形の野菜(?)は、外側は赤くて中身が青かったり。
人参のような野菜も、大根くらい太くて長い。
「へえ〜……魚もあるんだな」
「そうだよ。ここは湖が近いからね。昔は漁業が盛んだったんだよ」
やたらカラフルな魚が多いな。熱帯魚っぽい。
肉も売っている。
家畜の肉らしいが……なんの家畜なんだろうか?
そういえば。エミリアはエルフなんだよな。
肉とか魚は食べても問題ないんだろうか?
俺が知っている知識。
主にゲームや漫画になってしまうが……だいたいエルフは、宗教上の理由から肉とかが、食えないってのが多い気がする。
「なあ、エミリアは肉とか魚とかは食えないのか?」
「そんなことないよ。急にどうしたんだい、カケルくん」
「いや……宗教上の理由で、エルフは野菜しか食べないのかなって。まあ素朴な疑問」
「……う〜ん。ボクが知っているエルフ達は人間たちと同じで、お肉も魚も食べるよ。お肉が好物だったりするエルフも多いよ。もちろんボクもね」
そうなんだな。
だからどうしたって事はないんだが。
一緒に生活する上で、その辺はキッチリと聞いておかないといけないからな。
なんか同棲みたいな感じもするが、ただの師匠と弟子だ。
そんな感情は無い。
俺には橘アンナがいるからな。まあ告白すらしてないけど。
「じゃ、さっさと食料を買うとするか」
「うん、そうだね。買おう買おう!」
俺たちは市場を見て回って、野菜や肉、魚を買い漁った。
一週間分くらいは、買ったんじゃないのかってぐらいの量だ。
それくらい買ったら、持ち運ぶのに苦労しそうなんだが……そこでエミリアの例の袋の出番となる。
買った食料は、どんどん袋に入れていく。
それにしても。エミリアの腰にある袋は不思議だ。
魔法で中の空間を拡張してるとは言え、無限と思うくらい物が入っていく。
なんかのアニメキャラの袋を思い出すな。
「その袋の中は、どれくらい広いんだ?」
「……ちゃんと調べたことはないんだけど……多分、大きな倉庫くらいはあるんじゃないかなぁ?」
多分ってなんだよ。
エミリアは作ったんじゃないのか?
「……知らないのかよ……自分の道具だろ?」
「大きさなんて決めずに、作ちゃっただけだからね」
いい加減だなぁ、こいつは。
あらかた買い物は終わった。
このまま塔に戻るのも、少し勿体ない気がする。
「もう少し街を回ってみるか? どうする、エミリア」
「そうだねぇ……ボクも昔に来た時から、街もずいぶん変わってるからね。もう少し見て回ってもいいかな」
「決定だな」
行き先は決まってないが、ぶらぶらするのも悪くない。
そう思って、市場の中ほどまで差し掛かったときだった。
肉の焼けるいい匂いが俺の鼻をくすぐる。
エミリアもその匂いに気づいているのか、鼻をひくひくさせている。
「なあ……これは調べないと……いけないよな?」
「そうだよ、カケルくん! 知的探求心を満たさないといけないんだ。賢者として!」
匂いを辿り、俺たちはその匂いの元の屋台の前にいた。
ちくしょう! ジュ〜ジュ〜と焦がした美味そうな音を立ててやがる!
串に刺したブロック肉を、炭火で焼いている。
なんの肉なのかは不明だが、美味そうだからこの際関係はない。
異世界に来てから、肉はまだ一口も食べていない。
基本、桃だけしか食ってないんだが……くそう……身体が肉を欲しているじゃないか!
反応するように、俺の腹が鳴る。
となりのエミリアの腹も、同時に鳴った。
お互いの顔を見合わせて、
「一人二本まで! いいな!」
「うん、二本だね!」
気合いを入れ、一歩屋台の前に踏み出す。
「おっちゃん! その串肉を四本くれ!」
「オッサン。その肉、六本だ!」
ほぼ同時に注文したぞ?
いや違う。俺の方が若干早かったはずだ。
向こうの男も、俺を訝しそうに見ている。
赤いバンダナに、茶髪のツンツン頭。左耳にはピアス。
皮の鎧っぽいのを着ているところをみると、冒険者なんだろう。
背中には、棒のようなものを背負っている。
「悪いな。注文は俺の方が早かったんだ。ちょっと待っててくれ」
「あン? オレの方が早かっただろ? お前が待てよ」
なに言ってるんだ?
このチャラ男が! 絶対俺の方が早かったはず。この野郎……
「おっちゃん。俺の方が早かったよな?」
「いや、オレの方だよな。オッサン」
「待てよ。俺だって言ってるだろ?」
「……ふざけんなよ。オレだって言ってるだろうが……見ろ、オッサンが困ってるだろ?」
屋台のおっちゃんは、ものすごく困った顔で俺とチャラ男を見ている。
「……剣を装備してるのか……冒険者なら決着方法は一つしかねえよな」
チャラ男は屋台から離れると、背中の棒を手に持って構える。
肉だけで決闘ですか!? 頭大丈夫か、このチャラ男は。
それに俺、冒険者でも無いんだが……
「どうした。怖気づいたのかよ……情けねえなあ」
いや〜……肉の争いで、血を見るわけにもいかんだろ。
これで決闘って、どんだけ煽りに弱い人なんだよ。
「カケルくん! 肉のためだよ、頑張っておくれ!」
なんて無責任な発言なんだ?
誰が戦うと思ってるんだよ!
というか……いつの間にか、俺とチャラ男の周りに、観衆が集まってきている。
「鉢巻の兄さん! おれはあんたに賭けてるんだ! 頑張れよ!」
「ヒョロヒョロのにいちゃんもやれ!」
おいおい。こっちは、これが普通なのか?
なんかとんでもない事になってきたぞ……大丈夫か、俺……




