11話 武器を買いましょう【その2】
「ええい……出血大サービスだ! 金貨千枚……これでどうだ、お嬢ちゃん!」
「まだ高すぎるよ。そうだなぁ……金貨五百ってところかな」
「ぐぬ……!? そ、それは勘弁してくれよ、お嬢ちゃん。そんな値段で売ったら……ウチが儲からない」
おっさんとエミリアの攻防戦。こんな感じで続いている。
最初は金貨二千からスタートだったかな。
俺には異世界の金貨の価値が、分からないが……お高いんだろうなぁ。
「お嬢ちゃん。あんたも分かってるだろ? こんな逸品は、そうそうお目にかかれないって事を……金貨千枚。これ以上は譲れないよ。武器には相場ってのがね……お嬢ちゃん?」
おっさんが力説しているにもかかわらず。
エミリアは、さっきから店内をキョロキョロと見回している。
「ねえ、おじさん。この店に飾ってある調度品や美術品……良い品ばかりだね。あの壺もドルヴェンスのだよね?」
エミリアは壺以外にも、店内に飾ってある絵画や調度品の製作者や、歴史について語りはじめてた。
おっさんは、同じ趣味の仲間を見つけたような表情をしている。
「お!? お嬢ちゃん、分かるのかい? どれも素晴らしい美術品なんだ。ワシは昔から収集癖があってね……ところで……」
おいおい。剣の売買の話はどうなった?
なんで美術品談義が始まっているんだよ。
エミリアは、急にどうしてしまったんだ?
「いや〜……なかなか分かってくれる人が周りにいなくてな。久しぶりに楽しかったよ。
……そうだ、お嬢ちゃん。剣は金貨九百に負けといてやるよ。ワシの気持ちだ」
おお! おっさんが値引きしてくれたぞ!?
これが狙いだったのか。やるな、エミリア!
って、あれ?
エミリアの様子がなんか変だぞ?
「おじさん……この店、結構儲かっているよね?」
「おかげさまでなって……急どうしたんだい、お嬢ちゃん?」
「領主に納める税を……誤魔化してるでしょ?」
エミリアの言葉に、おっさんの表情が一変する。
なんか焦っているように見える。
「な……なにを言ってるんだい、お嬢ちゃん。ウチはちゃんと税金を納めてるんだ。お天道様に誓ってな。ウチはまともな店なんだから、言いがかりはよしてくれ」
おっさん、めっちゃ早口で言ったよ。
お天道様に誓ちゃったし。
エミリアはというと。
カウンター端に飾ってあるドルヴェンスの壺を手に持ち、その縁を指で触っている。
「……ボクさ。この街の領主と、ねぇ。それとこの店のこと……領主に紹介しても、いいんだよ?」
おっさんの顔が、一気に青ざめていく。
……領主に知られたら、不味いことがたくさんあるんだろう。
それにしても……エミリア、なんて恐ろしい子!
「わ……わかったよ。あんたの言い値で売ってやるよ……えっと、金貨五百だったね……?」
おお!? 金貨九百より値引きしやがった!?
どんだけボッタクろうとしてたんだ、このおっさん。
「……あ、ここにある武器ってさ……かなり安く買い取って、売るときにはものすご〜く高い値で売り捌いてるよね?」
エミリアの笑顔は、おっさんにとって悪魔の微笑みに見えたことだろう。
「ぐ……あ、あんた……何もんだい?」
「ボクは、ただの高位エルフだよ。お・じ・さ・ん!」
「お嬢ちゃん……じゃないな。エルフのお姉さん。あんたやるね……分かった金貨四百でいいぜ……」
いったい何処まで値引きできるんだ?
おっさんの顔、かーなーり引きつっているぞ。
「四百……? 何言ってるんだい? 金貨二十枚だよ」
「「え!?」」
おっさんと俺は、同時に驚きの声を上げた。
そ……それはいくらなんでも、無いんじゃないかな……エ、エミリアさん。
「か……勘弁してくれよ。エルフの姉さん……それじゃウチの売り上げがぁ……」
「いいのかなぁ……違法な買取りに法外な売値……領主に……」
「わ……わかりましたよ……金貨に……に……二十で」
「ホントかい! ありがとう、おじさん!」
「ただ……このことは……」
「分かってるよ、おじさん」
おっさんの手から剣を奪い取ると、金貨二十枚をカウンターに置いた。
「あ……ありがとうございました〜……」
あんな気の抜けた「ありがとうございました」は、聞いたことがない。
ちょっと同情する。
俺とエミリアは、また中央大通りに戻ってきた。
買った剣は、腰にソードベルトに取り付けている。
腰の横ではなく、後ろに取り付けるタイプのベルトなんだが……剣が足に当たって、少し歩きづらい。
これが普通だよって、エミリアに言われたんだが。
街行く冒険者たちは、ほとんどが腰の横に装備してる。
またエミリアの中二病なのかと、勘ぐってしまう。
「剣も買ったし……次はキミの服だね」
エミリアは何事も無かったかのように、街の地図を見ている。
「なあ。さっき言ってた、領主と……本当に知り合いなのか?」
疑問。
ずっと塔に引きこもっていたのに、現在の領主といつ知り合いになったのか。
「ん? ボク、領主と知り合いなんて、一切言ってないよ? おじさんが勝手に勘違いしただけだよ?」
は?
思い出してみる……たしかに知り合いなんて、一言も言っていない……
エミリア曰く。
店の作りの割に、あんな高価な美術品を飾ってるのが、まず変。
裏通りに店を構えてるし、お客もそれほど来ている風でも無い割にだそうだ。
となると、納める税を誤魔化してるんじゃないかって、カマをかけたそうだ。
「どうだい。ボクの交渉術は」
「いや……あれは、交渉術じゃない。ただの脅しって言うんだ……」
「え〜? 交渉術だよ、あれは〜」
納得いかない表情をエミリアはしている。
歩きながら武器屋にあった美術品の話題になった。
武器屋にあった美術品の殆どが、エミリアが引きこもる前の時代の美術品だったそうだ。
もちろん新しい時代の美術品もあったらしい。
美術品に詳しくなった理由を聞いたら、
「捻くれエルフにたくさん自慢されてたら、勝手に鑑定眼がついた」
と、嫌な顔をしながら教えてくれた。




