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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
92/152

教団と姫巫女

「つまり、自分が姫巫女の暗殺に失敗したから今度は部下にやらせてるってことですか?」


 フィーネはこれまでの出来事を整理しながら、確認するようにレクトに尋ねた。


「そうだな。どうして2回目は自分でやらずに部下に任せたのかがイマイチよくわからんが」


 レクトは腕を組みながら、少し悩んだような様子で答える。

 確かに最高幹部であるシラヌイが相応の腕前の忍者であるならば、レクトの言うように部下に任せずに自分で実行した方が確実だ。そうなると、何故それをしなかったのかという部分がわからないままである。


「例のオボロっていうニンジャからは聞けていないんですか?」


 エレナがもっともな質問を投げかける。今のところ、レクトがその女忍者から聞き出してきた情報だけが頼りなのだ。だがその質問に、レクトは小さく首を横に振る。


「奴はあくまでも命令に従っただけで、作戦の細かい部分までは聞かされていないってよ」

「そうですか…」

 

 レクトの返答を聞いて、エレナは少し肩を落とす。だがそれを聞いて、ベロニカが意外そうな反応を見せた。


「ってことは、あのオボロってニンジャは理由も聞かされないでアタシたちを狙ってきたっていうのか?」

「狙われたのはあたしたちじゃなくて姫巫女のサクラでしょ」


 ベロニカの発言に対し、間髪入れずにリリアが間違いについて言及する。


「うるさいなあ!今はどうでもいいじゃんか、そんなこと!」


 指摘されて少し恥ずかしくなったのか、ベロニカの声がやや荒くなった。もっともそんなベロニカの間違いなど今は大した問題でもないので、レクトは彼女の質問にだけ答える。


「組織なんてそんなもんだ。下の人間はただ上の人間の指示に従うだけで、質問や反抗することは許されない。ましてや、いつとっ捕まって死んでもおかしくはない暗殺者を抱える組織なら尚更だ」


 頭の後ろで手を組みながら、レクトは達観したような様子で語った。まだ学生の身である彼女たちとは違い、世界を幅広く見てきたレクトにとってはこの程度の事など驚くには値しないようだ。

 そんな中、ふとアイリスがある疑問を口にする。


「それなら反対に、どうして昼間の暗殺は部下に任せなかったのでしょうか?」


 アイリスが疑問に思ったのは、何故二度目の暗殺を部下に任せたのではなく、反対に何故最初の暗殺は最高幹部自らが出向いたのであるかということだ。しかしそれに関しては、レクトもある程度の想像がついていた。


「最高幹部が単独で暗殺に来たんだ、さっきもリリアが言ってたようによっぽど腕に自信があったんだろう。下手に部下に任せるよりも自分で動いた方が確実だと踏んだってところかな」


 思いっきり自分が交戦したというのにも関わらず、レクトはあくまでも客観的な意見を述べている。逆に言えば冷静に状況を見極められている、ということの表れなのかもしれないが。

 そんなレクトの意見に、ルーチェが一石を投じた。


「実際、護衛のサムライは手も足も出ずにやられてしまいましたからね」

「ルーチェ!」


 先の襲撃で臣下を失ったサクラへの配慮が一切感じられないルーチェの発言に、フィーネは思わず怒鳴り声を上げる。しかしルーチェは冷静な眼差しのままその言葉を訂正することなく、憤っているフィーネを見た。


「事実だもの。目を背けたって現実は変わらないわ」

「だからって、わざわざ口にすることはないでしょ!」


 ルーチェの言う事も一理あるが、やはりフィーネとしては先程の発言がどうにも不用意に感じられたらしい。しかし2人のちょっとした対立によって、他のメンバーの間にも緊張が走った。特に、図らずも話題の中心になってしまったサクラに至ってはバツの悪そうな表情で黙りこくっている。

 そんな険悪な空気をぶち壊したのは、やはり担任であるレクトであった。


「いちいちケンカすんなっての」


 やれやれといった様子で、レクトが仲裁に入る。だが次の瞬間、レクトは誰もが予想だにしない行動に出た。


「「きゃあああぁぁぁ!!」」


 フィーネとルーチェの両者は、2人同時に大声で悲鳴を上げた。それもそのはず、両者の間に割って入ったレクトが何故かフィーネとルーチェの胸元をいきなり鷲掴みにしたのだ。

 あまりにも斜め上過ぎる展開に他の生徒たちは呆然とし、当事者…というより被害者のフィーネとルーチェは両手で胸元を押さえて一気に飛び退いた。


「だ、大丈夫ですか?何だか大きな声を上げられていましたけど…」


 騒ぎを聞きつけ、店の奥にいた女将が大慌てで駆けつける。また奥の席では、閉店間際の店内に唯一残っていた老夫婦が心配そうな面持ちでこちらを見ていた。

 とりあえずこの場を収めるため、レクトは簡単に女将に説明をする。


「あー、大丈夫だ。気にしないでくれ。軽いセクハラが起こっただけだ」

「軽くないです!」


 エレナが憤慨しながら指摘するが、レクトは一切気にすることなく女将にジェスチャーで大丈夫だとアピールした。そうして再び店の奥に戻った女将を見送りながら、今度は心配そうにこちらを見続けている老夫婦に「問題ない」とアイコンタクトで伝える。

 とりあえず店内が落ち着いたのを見計らってレクトは視線を生徒たちへと戻すが、肝心の問題自体はまだ解決していなかった。


「っていうか、いきなり何やってんのよ!?」

「そうですよ!公の場でセクハラするのはやめてくださいってこの前言ったばかりじゃないですか!」


 当然といえば当然なのだが、リリアとエレナが憤った様子でレクトを問い詰める。それに対してレクトは物凄く面倒臭そうな表情になりながら、先程の行動について一応の弁明を述べた。


「何って…喧嘩両成敗的な?」

「そんな両成敗があるワケないでしょ!」


 誰がどう見てもいい加減なレクトの応答に、すかさずリリアが言及する。しかしレクトは悪びれる様子もなく、面倒臭そうな表情のまま話を続けた。


「違うっての。こうすりゃ嫌でも意識が別の方向に向くだろ」

「いや、確かにそうだけど!もっと良い方法があるだろ!?」


 レクトの発言が完全に的外れという訳でもなかったので、ベロニカはやや戸惑いながらツッコミを入れる。依然として生徒たちのヘイトは静まる様子が見られないが、レクトは全く意に介さない態度で軽口を叩いた。


「何なら直接触るんじゃなくて、スカートでも捲った方が良かったか?」

「一緒です!」

「えー?スカートの方がまだマシじゃない?」


 相変わらずデリカシーに欠ける発言を繰り返すレクトに対しエレナの声がより一層大きくなるが、横からニナのポンコツ発言が挟まれて自体はより一層複雑化の一途を辿る。

 そうやって生徒たちがレクトに対して罵詈雑言を浴びせる中、それまで黙りこくっていたサクラはある事を考えていた。


(もしかしてレクト様は、自分が悪者になるように仕向けてお2人の喧嘩を止めたのでは?)


 サクラ自身はまだレクトの人となりについて知らない部分が多いが、もし先程のレクトの蛮行がフィーネとルーチェの喧嘩を止める為のものであったとすれば合点がいく。しかし残念ながら、普段のレクトの言動をよく知るS組メンバーはそこまでの考えには至らなかったようだ。

 一方で未だに生徒たちから集中砲火を浴びているレクトは、埒が明かないと判断したのか一旦話を切ろうと試みる。


「というか、それについては後にしてくれ。今はそれより重要な話がある」

「これより重要な話なんてありませんよ!」


 面倒な状況になったら適当なことを言って上手い具合に話を逸らすのは普段からのレクトの常套手段であったので、そうはさせまいとエレナは詰め寄る。

 だが今回のレクトはいつものようにのらりくらりと躱すことなく、急に雰囲気を一変させた。


「いいから黙って聞け」


 突き刺すようなレクトのその言葉に、生徒たち全員がビクッと反応する。真面目ながらもどこか威圧感を含んだレクトの態度に、誰もが一瞬で反抗する気が失せてしまった。

 だが、S組メンバーはこの感覚に覚えがあった。レクトが赴任してきてまだ間もない頃、反発するリリアを瞬時に黙らせた時だ。こういった部分にレクトの芯にあるような恐ろしさを感じる一方、この男が敵でなくてよかったと心底安心できると多少なり感じてしまうのが不思議だ。


「俺が言いたいのは、どうして奴らがサクラを狙うのかってことだ」


 真面目な話ではあったものの、正直なところ今更という部分もあったので生徒たちは呆気にとられたような表情になった。


「どうしてって…サクラさんが姫巫女だからじゃないんですか?」


 ようやく落ち着きを取り戻した様子のフィーネが、確認するようにレクトに言った。しかし、本当にレクトが知りたいのはその先にある事であった。


「それなら、何の為に姫巫女を狙う?ターゲットが国家元首の将軍じゃなく、姫巫女でなければ駄目な理由は何だ?」

「そういえば…」


 これまで気にしていなかったが、よくよく考えてみれば当たり前の疑問を聞かされ、フィーネは少し考え込む。要人の暗殺自体はどんな国でも起こり得る事なのは間違いないが、レクトの言うように国家元首である将軍でなくわざわざ姫巫女を狙うのには何か特別な理由があるのは間違いないのは明白であった。


「えっと…センセイが言いたいのは、奴らは何の為にサクラを狙ってるのかってことか?」

「そういうことだ」


 考えるのはあまり得意ではないが、何とか話についていこうとベロニカは必死に思考を巡らせている。そんな彼女の言葉を肯定すると、レクトは改めて今回の件について向き合う。


「正直、最初は狙われる理由なんて聞こうとも思わなかった。こういう要人警護っていうのは大体が政治的な問題が絡んでるのが相場だし、下手に深入りするのは御免だったからな」

「そういえば、将軍に依頼された時にも先生は詳しい事情を聞こうとはしませんでしたね」


 アイリスはレクトの話を聞いて、将軍に護衛の依頼をされた際にレクトが一切事情を聞こうとしなかったのを思い出す。あれは単にレクトが聞き忘れたというのではなく、最初から聞く気がなかったのだ。


「あぁ。俺…というか俺たちが今まで経験してきた要人警護は大体が遺産の相続争いだとか、政府側と反政府側の小競り合いとかが原因だったからな。余計な事まで知ってしまうとこっちまで狙われるハメになるのがオチだった。そのくせお人好しのルークスはすぐに何でもかんでも首を突っ込むしな」


 自身の過去の苦労話を交えながら、レクトは話を続ける。だがここで、それまで黙って話を聞いていただけのニナがある意味で核心をつくような言葉を投げかけた。


「よーするに、せんせーは余計なことに巻き込まれるのがめんどくさかったってこと?」

「まあ、そういうことだな」


 ニナの質問に対し、レクトはあっさりと肯定する。確かにレクトらしいといえばレクトらしいのだが、それまで張り詰めていた空気が少し緩んだようになった。


「そう思っていたにも関わらず、よく護衛を引き受けましたね?」

「見殺しにするのもなんか後味悪かったしな」


 若干嫌味を含んだようなエレナの意見にも、レクトは隠すことなくきっぱり答える。だが、レクトが護衛を引き受けた理由はそれだけではなかった。


「それに万一暗殺が成功してみろ。事件のことが新聞にでも載っちまった場合、俺が現場に居合わせてたことがバレたら後でカリダたちに何言われるかわかったもんじゃねえ。“なんでヤマトにいながら何もしなかったのよ!?”とか言われそうだしな」

「あぁ、なるほど…」


 今回の護衛を引き受けた理由の中に少なからずレクト自身の保身も含まれていると聞いて、エレナが少しうなだれる。確かに世界を救った四英雄が一国の要人を見殺しにしたなど、笑い話どころでは済まない。


「で、何故奴らがサクラを狙うのかって点に話を戻すが…」


 再びレクトは真面目な様子になると、改めて話を切り出す。それを聞く生徒たちも皆真剣な面持ちであり、つい先程のセクハラの一件などどうでもよくなってしまったようだ。


「奴らはこの国の人間に対する見せしめの為に姫巫女を暗殺しようとした、最初は俺もそう考えていた。もしくは自分たちがこの国でクーデターでも起こすための象徴として、とかな」


 レクトが自身の見解を話すと、それにピンときたのかルーチェがある点について言及する。


「あんな大勢の前で堂々と実行したから、ですか?」

「そうだ。むしろそうでないならわざわざ人目に付くような事をせず、普通に隠れて暗殺すればいいだけの話だからな」


 どうやらレクトとしては、やはりあんな大勢の民の前で暗殺を決行した事が引っかかっていたようだ。無論それについてはメンバーの数名も同様の考え方ではあったが、続くレクトの話で一転することとなる。


「だが2回目の暗殺、要するにこの場所は観光地までの道の途中にある飲食店街だぞ?決して人が多くないってわけじゃないが、ほとんど観光客しか通らない上にあの時刻は既に人通りも減り始めていたからな」

「確かに、最初の時とは状況が全然違うわ」


 リリアは顎に手を当てながら、最初の暗殺と2回目の襲撃の状況を思い浮かべる。確かに目的は同じでも、シチュエーションが違いすぎるのは誰がどう見ても明らかだ。


「これはあくまでも俺の考えなんだが、2回目は人の多さとかは一切関係なくただ姫巫女を殺すっていう点だけにこだわったんじゃないかと思うんだ」


 レクトの見解を聞き、メンバーの内の数名が何かに気付いたような顔になる。その中でも最初に話を切り出したのはアイリスであった。


「暗殺自体は大勢の前でなくともよかったってことですか?」

「そうだ。さっきも言ったようにあんな大勢の前で実行したのはおそらく民衆に見せつけるためだろう。だからその点に関しては、奴らにとって必ずしも必須という訳ではないってことだ」


 レクトは腕を組んで、まっすぐ前を見据える。


「つまり話を整理すると、奴らにとっては姫巫女を殺す事自体に何かしらの意味がある。そう考えるのが自然だ」

「何かしらの意味…」


 フィーネが小さく呟いた。ここまでの話でようやく敵の目的が明確になり始めたが、レクトをはじめとしたS組メンバー全員にはまだわからない点が1つある。それを明らかにするため、レクトは改めてサクラの方を見た。


「サクラ、姫巫女ってのはただのアイドル的存在じゃあないんだろ?詳しく話してくれ、姫巫女ってのは一体何なのか」


 レクトの問いかけに、サクラは何かを決意したような顔つきになった。サクラは一呼吸おくと、静かに口を開く。


「わかりました、お話し致します。この国における姫巫女の存在意義と、それにまつわる伝承についてを」

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