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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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衝撃の尋問タイム

「これで最後ね」


 そう言ってルーチェは、ニナと対峙していた最後の土人形に向かって風の弾を放つ。風の弾はニナがハルバードを振りかぶる前に人形の胴体部分に着弾し、突風を巻き起こすと同時に人形の体を粉々に吹き飛ばした。


「あっ!ルーチェちゃん、横取りなんてずるい!」

「モタモタしてるあんたが悪いのよ」


 獲物を横取りされてぷりぷり怒っているニナを尻目に、ルーチェは左手に持っていた杖を背中に戻す。戦いの中で杖自体はほとんど使っていなかったが、魔術師にとって杖とは魔力の増幅装置の役割も兼ねているので手に持っているだけでもきちんと意味はあるのだ。


「よし!これで全部倒したな!」


 辺り一帯に散らばった土塊…もとい土人形の残骸を見渡しながら、ベロニカが得意気に声を上げた。

 とりあえず全員レクトに指示された数はクリアできたようなので例のお仕置きコースになってしまった者はいないが、やはり撃破数の差があるのは明白である。


「せんせー!聞いて聞いて!ニナね!11体倒したよ!」


 先程までの怒りは何処へやら、ニナは褒めてと言わんばかりの様子でレクトの方へと駆けていった。しかし当のレクト本人は、あまり興味の無さそうな顔をしながら頭をかいている。


「あー、悪い悪い。ぶっちゃけた話、数なんてどうでもいいんだ」

「どうでもいい?」


 レクトの言葉を聞いて、フィーネが首をかしげた。当然だが、1体でも多く倒そうと張り切っていたニナとベロニカは2人して「えー!?」と驚愕の声を上げる。

 しかしレクトはそんな2人を無視して自身の思惑、もとい今回の授業の目的の説明を始めた。


「あぁ。今回はあえて連携の取れない乱戦を想定してお前らに戦ってもらったんだ。3体っていうのも多分サポート向きのメンバーがギリギリ達成できそうなラインを設けたってだけの話だし、誰が何体倒したとかは正直どうでもいい」


 その説明を聞いて大半のS組メンバーは唖然とするが、レクト自身は至極当然といった様子である。確かに必死になって戦っていた彼女たちにとって、ある意味では身も蓋もない話であるのだが。


「じゃあ先生は、やっぱり武器の相性とかもわかってたんですね?」


 レクトの予想通り、今回の授業のノルマをギリギリ3体でクリアすることができたアイリスが質問を投げかけた。その横では、同じく3体でクリアしたエレナが苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「当たり前だろ。俺を誰だと思ってやがる」


 レクトは悪びれもせず、真顔のまま答えた。もっとも質問したアイリス自身も、今回の課題には明らかに有利不利があるということ自体には途中で気付いていたが。


「えぇー!?せっかく頑張ってたくさん倒したのに!」


 ニナが再び不満そうに唸った。相変わらず感情表現の豊かな娘だと改めて思いつつも、レクトは腕を組んでニナの顔を見る。


「そもそも、俺は最低3体倒せとしか言ってねえぞ。誰が数を競えっつった」

「むぅ…!」


 レクトに揚げ足を取られ、ニナは思わず口をつぐんでしまった。


「確かに、より多く倒せとは一言も言ってませんでしたね」


 更に追い討ちをかけるかのように、フィーネが苦笑しながら口を挟む。そもそも彼女たちにとってレクトに騙されたり嵌められるのは今に始まったことではないので、大半のメンバーは今更文句を言ったところで何も変わらないというのも理解しているのだが。


「そんなのずるい!おーぼーだ!」

「それのどこが横暴なのよ」


 ニナは憤ったように声を荒げるが、即座に呆れた様子のリリアからツッコミが入る。とはいえニナのポンコツ発言は今に始まったことではないので、他のメンバーは軽くスルーしている状態だが。

 兎にも角にも戦いが終わったことに皆が安堵する中、ここで命を狙われている身であるサクラ自身がある重要な事に気付いた。


「レクト様!敵の女忍者がいません!」

「あ、ホントだ」


 サクラの言う通りそれまで土人形たちの影に隠れていた筈の敵の女忍者、オボロの姿が忽然と消えてしまっていた。おそらくは2人がS組メンバーの戦いに気を取られている間に何処かへと移動したのだろう。

 ところが慌てた様子で叫ぶサクラに対し、レクトは至って冷静…というより全く意に介していないような様子である。


「人形も全部やられちゃったんだし、不利だと思って逃げたんじゃね?」


 刀を鞘に戻しながら、呑気な様子でベロニカが言った。他のS組メンバーたちもサクラと同様に大なり小なり驚いている中、唯一1人彼女だけはレクトと同様気楽に捉えているようだ。

 そんなベロニカに対し、同じく戦闘を終えて武器をしまったアイリスは正反対の意見を述べる。


「でも、もしかしたら逃げたように見せかけて近くに潜んでいるかもしれませんよ?」

「えー、そうかなぁ」


 心配性なアイリスを見て、ベロニカはやや呆れたような表情のまま腕を組んでいる。確かにベロニカの言うように状況的に見れば逃げたという可能性も考えられなくはないが、相手は暗殺者である。アイリスとしては素直に諦めてくれたとは思えなかったのだ。

 そして、気楽な態度からは想像もつかなかったが実はレクトも同意見であった。


「そうだな。多分、逃げたフリでもしてどこかからサクラを暗殺しようと狙ってるんだろう」

「そんな!どうすれば!?」


 自身を狙う暗殺者がまだ近くにいると聞いて、サクラは血相を変えた。しかし、それに対してレクトは相変わらず微塵も心配した様子を見せていない。


「大丈夫大丈夫。俺の近くにいれば平気だって」

「は、はい…」


 自信満々かつお気楽なレクトの姿を見て、サクラも少しだけ安心したのか素直に頷く。


「とりあえず、全員集合〜」

「「はい」」「はーい!」


 気の抜けたようなレクトの声に、S組メンバーは各自返事をする。だが彼女たちがレクトの元へ駆け寄ろうとしたその時、突然サクラの背後の地面がボコボコと音を立て始めた。


「姫巫女、覚悟!」


 いきなり土の中から飛び出してきたのは、つい先程までレクトたちが姿を見失っていた女忍者のオボロその人であった。先の戦いでも土を操って人形を作り出していたのだ、おそらくは何らかの術を使って土の中に潜んでいたのだろう。

 あまりにも突然かつ予想だにしない不意打ちに全員が言葉を失い、不意を突かれたことで棒立ちになってしまった。ただ1人の男を除いては。


「はい、残念でした!40点!」


 完全におちゃらけた態度ではあったが、レクトの反応速度は凄まじいの一言に尽きた。一瞬のうちにしてサクラに飛びかかろうとするオボロの右手に握られた短刀を左手の手刀で弾き落とし、そのまま彼女の首を右手でガシッと掴む。


「ほら。言った通りだろ?俺がいれば何も問題ないんだよ」


 オボロの首を掴んだまま、レクトはサクラの方を見て言った。一般的な人間の感覚からすれば桁外れの反応速度なのだが、レクトは至極当然といった様子である。

 レクトはその状態から、オボロの首を掴んだまま高く持ち上げた。


「は…離せ…!」


 首を絞められているオボロは苦しそうな声を漏らしながらもレクトの右腕をなんとか振りほどこうとするが、あまりにも力の差があり過ぎるのかビクともしない。それを見たレクトは、何とも言えないような下卑た表情を浮かべる。


「んー、いいねえ。その声、そそるねぇ〜」


 オボロの苦しそうなうめき声は、ドSのレクトにとってはただ快楽をもたらすだけのものであった。

 レクトのすぐ横にいたサクラは、事態が二転三転したことで思考が追いつかないのか、呆然と立ち尽くしている。一方レクトの人となりをよく知る生徒たちは、彼の行為を見ていつものように少しだけ感心しながらも普通にドン引きしていた。


「不意打ちなら俺を出し抜けるとでも思ったか?そもそも俺がいる時点で暗殺の成功確率なんざ無いに等しいんだよ」

「くっ…!」


 冷たく威圧するようなレクトの言葉に、オボロは低く唸る。何とか振りほどこうと両手でレクトの手首を掴んではいるが、レクトの右手は微塵も動く気配がない。


「さて。お前には色々と聞きたいことがあるんだが、その前にまずはその覆面を剥がさせてもらおうか」


 レクトは言うや否や、左手でオボロの顔を覆っている覆面を掴む。側から見ればその行為は尋問以外の何物でもないが、敵の情報を得るには必要不可欠なことには違いない。

 ただし、レクト自身はこの尋問を楽しんでいるのは誰が見ても明白ではあったが。


「あっ…!」


 覆面を剥がされ、オボロは小さく声を上げる。その下から現れたのは、S組メンバーよりも少し年上と見られる女性の素顔であった。


「なんだよ、随分と綺麗な顔してんじゃねえか。隠すなんて勿体ねえなあ」


 そう言って、レクトは空いていた左手でオボロの顔を撫で回す。オボロにしてみれば不快極まりないのは間違いないが、それ以前に首を軽く絞められた状態なのでそれどころの話ではない。

 その様子をサクラは呆然と、そして生徒たちは若干引き気味に見守っている。


「これじゃあ、どっちが悪者なんだかわからないじゃない」

「とりあえず、あの女のニンジャはこれから酷い目に遭うのは間違いないわね」


 嫌味っぽく言うリリアに、続けてルーチェが冷静に毒づく。そんな彼女たちをさておいて、レクトは一体どこから取り出したのか長いロープを手にすると慣れた手つきでオボロのことを縛り始めた。


「おう、いい光景だな。やっぱ尋問はこうでなくっちゃな」


 縛ったオボロを見下ろしながら、レクトは嬉しそうに言う。もう首は絞められていないので普通に喋ること自体は可能なのだが、オボロは黙ったままだ。


「さて。もし俺の質問に素直に答えてくれたら手荒な真似はしないと約束するが、どうする?」


 レクトはそれらしい事を言うが、その表情は完全に何かを待ちわびているかのような期待に満ちている。その様子を遠巻きに見ながら、エレナは隣にいたアイリスにヒソヒソと耳打ちした。


(先生、相手が何て答えるかわかって言ってるわよね?)

(多分、やりたくてたまらないんでしょうね。尋問)


 本人から直接聞いたわけではないが、レクトの性格上どう考えても尋問や拷問は得意…というより好きであるのは想像に難くない。唯一、彼の本性をまだよくは知らないサクラだけは、レクトは情報を得るために真面目に尋問をするのだと思っているようであるが。


「ふん。私は既に女である事を捨てた。どんな辱めを受けようと口を割る事はないと思え」


 オボロは下衆を見るような目でレクトを睨みつけながら吐き捨てるように言う。が、真のゲスであるレクトは怒るどころかむしろ喜んでいるようだった。


「ほう、俺の一番得意な分野で勝負しようってのか。いいぜ、何ならとことん楽しませてもらおうか」

「…っ!」


 レクトの言葉を聞き、オボロの背筋に一瞬だけ悪寒が走る。後ろにいたS組メンバーも、自分たちが言われたわけではないのに何故か同様に悪寒が走ったのを感じた。

 一方のレクトは何を思ったのかおもむろにポケットから数枚の硬貨を取り出すと、それを自身の一番近くにいたフィーネに手渡す。


「フィーネ、みんなを連れてさっきの茶屋で少し休憩してろ」

「えーと、は、はい…」


 フィーネはややぎこちない様子でレクトから硬貨を受け取った。普通なら理由を聞くところだが、この時点でフィーネをはじめとした数名はレクトが何を考えているのかある程度の察しがついていたからだ。


「さーて、それじゃあ存分に楽しませてもらおうか?」


 レクトは嬉々とした様子で、オボロに向かって一歩一歩近付いていく。

 最早この男は本来の目的など関係なしに、完全に私情を交えているのは明白である。しかし敵の情報を得ること自体は現時点では必要不可欠なことである為か、普段ならこういう事にうるさいエレナもこの時ばかりは苦々しい顔をするだけで何も言わなかった。


「さあみんな、茶屋で先生を待ちましょう」

「お、おう…」

「うん、そうね…」


 フィーネに背中を押され、サクラとS組メンバーは釈然としないままその場を後にしたのだった。

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