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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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S組 VS 人形軍団 後編

 レクトたちから十数メートルほど離れた位置では、フィーネがレイピアを構えて土人形と対峙していた。


「急所を突いて倒す…っていうのは無理よね」


 自問自答するようにフィーネは呟く。相手が生物であれば心臓なり何なり急所は存在するのだが、目の前の人形は言うなれば土の塊だ。胸元を貫いたところでただ単に細い風穴が空くだけという結果しか想像できない。


「でも、ヤマトの術といっても原理は多分ゴーレムと一緒なのよね?」


 ふとフィーネはある事に気付いた。ヤマトの術師が具体的にどういったものなのかまでは詳しく知らないが、魔法で動くゴーレムの事なら授業でも習ったことがある。つまり、ゴーレムに対して有効な攻撃や魔法自体は知っているということだ。


「試す価値はありそうね」


 フィーネは軽く頷くと、すぐさま行動に出た。レイピアを右手に持ちながら、一番近くにいる土人形に向かって駆け出す。


「はっ!」


 人形は大きな腕を振り回して迎撃するが、フィーネは体をひねってそれを回避する。フィーネはそのまま飛び上がると、空いていた左手を人形の頭部にかざした。


「これでどう!?」


 その瞬間にフィーネの手のひらから魔法による光が放たれ、人形の頭部を包み込む。ところが光が消えた後も人形には傷一つなく、一見すると何かが変わったようには見えない。

 だが、フィーネの魔法の効果はすぐに現れた。それまでフィーネの前に立ちはだかっていた人形はゆっくりと反転すると、なぜか他の人形の方へ向かって歩き出す。そしてそれは正に、フィーネの想定通りであった。


「粉砕しなさい!」


 フィーネの掛け声と共に、土人形は味方であるはずの別の人形の胴体に向かって勢いよく拳を振るう。同じ土人形であるが故に戦闘能力でいえばほぼ互角なのであるのは間違いないが、不意を突かれたからか殴られた方の人形の胴体は粉々になり崩れ去った。


「やっぱり!魔法で動くということは、魔法が効くってことよね!」


 完全に自分の予想通りの結果になったからか、フィーネは勝ち誇ったような声を上げた。だが、それでもまだ1体倒しただけである。フィーネは油断することなく、別の人形にも同じ魔法をかけようと動き出した。


 遠くでフィーネの一連の戦い方を見ていたサクラも気になったのであろう、隣にいたレクトに尋ねる。


「レクト様、フィーネ様は土人形に対して一体どんな術を使われたのでしょうか?」

「幻覚を見せる魔法だな。周りの人形を敵だと錯覚させることで、同士討ちを狙ったんだろう」


 レクトの見解通りフィーネが使ったのは相手に幻覚を見せる魔法であり、それによって他の人形を敵だと錯覚させたのだ。相手を妨害する魔法に長けている彼女ならではの戦術であるといえよう。


「術で作り出した人形に魔法が効くのですか?」


 こういった戦闘に関することにはあまり詳しくはないのであろう、サクラは率直な質問を投げかけた。それに対しレクトは、さも当然といった様子で答える。


「別におかしなことじゃないだろう。そもそも無機物を魔法で動かしてんだ、むしろ魔法が効かないっていう方がおかしい」

「なるほど、確かに言われてみればそうですね」


 レクトの説明を聞いて、サクラは納得したような表情を浮かべる。確かにレクトの言うように、魔法で動かされているのであれば他の魔法が効くのもある意味当然といえよう。


「まあ、術師によっては作り出したゴーレムに相手の魔法をシャットアウトするプロテクトをかけたりもできるがな。ただ数十体も作るとなるとそんな余裕はないだろう」


 レクトは補足説明を述べながら、今度は視線を別の方向へと移す。その視線の先では、ナイフを構えたアイリスが数体の土人形と向き合っていた。


 戦わなければならない以上、武器を構えるのは当然である。だが、ただでさえリーチの短いナイフで大きな土人形に有効な一撃を与える事ができるかと言われれば難しいところではあった。


「使う武器から言えばわたしって、この課題不利ですよね?」


 アイリスはやや不満そうに呟くが、担任であるレクトは離れた位置に立っているので聞こえるわけがないし、他のメンバーたちは既に周囲で人形たちと戦い始めているのでそんな小さな声など耳に入る筈もない。無論、アイリスだってそれぐらいはわかっている。

 そもそも、百戦錬磨の傭兵であるレクトならゴーレム相手にナイフは不利だという事は当然のように理解している筈だ。確かにレクトは人としては無茶苦茶な性格をしているが、戦いの中で無茶な事を生徒にやらせるような男ではない。つまりレクトの目から見れば、この人形も今のアイリスなら十分に勝てる相手だということなのだ。


「とにかく、動かなければやられてしまいますね!」


 ただ突っ立っているだけでは無意味なので、アイリスはとりあえず行動を起こす。とはいえ闇雲に突っ込んでも返り討ちに遭っては元も子もないので、まずは様子見といった形で一番近くの土人形に切りかかった。


「はぁっ!」


 掛け声と共に人形に一太刀浴びせるが、胴体に少し深めの傷が付いただけで人形は怯んだような様子を見せない。更には反撃とばかりに大きな腕を振るってアイリスに殴りかかってきた。


「くっ、やっぱりダメですか…!」


 人形の攻撃をバックステップでかわしながら、アイリスは悔しそうに呟く。幸い人形の動きは鈍重であるために攻撃を避けるのはわけないが、かといって倒すための良い手段をひらめいたというわけでもない。


「この様子だと、多分身体能力を強化しても状況が大きく変わるわけではないでしょうね…」


 身体能力強化の魔法はアイリスの得意分野ではあるが、それでも彼女の武器は決して攻撃力が高いとは言えないようなナイフだ。相手が人間であればともかく、素早く動いて首筋を切り裂いたところで所詮は土の塊、胴体を破壊しない限りは動き続けるだろう。


「でも…やるしかない!」


 他に有効な手段が無い以上、今の彼女にできる事は1つだけだ。アイリスは自身に身体能力強化の魔法をかけると、先程よりもスピードアップした状態で一気に人形との距離を詰める。


「はあぁぁぁ!!」


 大きな掛け声と共に、アイリスは高速でナイフを振るって人形の胴体を切り刻む。一撃一撃の攻撃力はそれほどでもないが、アイリスは次から次へと人形に反撃する間も与えずにナイフを振り続けた。

 少しずつではあったが、絶え間ない攻撃によって人形の胴体部分はボロボロと崩れていく。そうやって胴体の半分ほどが崩れたところで、アイリスは一気にナイフの振りを大きくした。


「これで…どうです!!」


 人形の胴体の丁度ど真ん中を突き刺すように放たれた一撃は、そのまま人形の胴体を貫通した。この一撃が決め手となったようで、ダメージ許容量の限界を超えた人形はただの土となって崩れていった。


「なんだか…力任せで先生に怒られそうな戦い方です…」


 アイリスは少し強張ったような声を漏らす。倒せたことには変わりないが、普段から戦闘ではサポートに徹していることが多いアイリスにしては誰がどう見てもかなり強引な倒し方であったからだ。

 だがアイリスの心配とは裏腹に、遠くから彼女の戦い方を見ていたレクトは怒るどころかむしろ満足気な様子であった。


「そうだ、それでいいアイリス。こういう場合、余計な事は考えるな。時には強行突破も必要になることがあるっていうのをしっかり覚えておけ」


 普段の彼女であればまずありえないであろう強行突破という作戦をアイリス自身が選択したことは、実はレクトにしてみれば想定通りかつ理想的な展開であった。


 そしてその点は、同じく本来はサポート向きで回復魔法が得意なエレナにも共通する事であった。


「喰らいなさい!」


 エレナは勢いよく鞭を振るい、先端部分を正確に土人形の胴体部分にヒットさせる。ところが攻撃自体は綺麗に決まったものの、結果は先程のアイリスと同じように人形の腹部の表面が少し崩れただけだ。


「まだまだ!」


 間髪入れずにエレナは鞭を振り続ける。彼女の使う鞭は他のメンバーの使う武器と比べてリーチが長いという利点があるので、少し離れた位置から攻撃すれば人形に反撃される危険性も少ない。

 そうやって鞭による高速の連撃が人形の胴体に当たる度、人形の表面がボロボロと崩れていく。一応ダメージ自体は与えられてはいるようだが、決定打にはなっていない事にエレナは顔をしかめた。


「ただ無闇に叩くだけじゃ駄目みたいね。だからといって魔法だと1発じゃ倒せそうにないし…」


 自問自答するように呟く。確かにこうやって鞭による攻撃を加えていけばいつかは倒す事ができるのだろうが、それでは体力の消耗も大きい上に時間がかかってしまうのも明白だ。かといって彼女自身は強力な打撃攻撃や規模の大きな上級魔法も持ち合わせてはいない。


「それなら、両方使うのが一番かしら」


 エレナは腹を決めたように言葉を漏らすと、再び鞭による乱撃を人形に浴びせ始めた。相変わらず鞭が当たっても表面の土が崩れていくだけではあったが、エレナは構わず攻撃を続ける。

 だが人形の腹部がある程度まで抉れたところで、頃合いだとでも言わんばかりの様子でエレナは一旦鞭を手元に引き寄せた。それと同時に空いていた左手を中空に滑らせると、瞬く間に光でできた矢が出現する。


「ライトニングアロー!」


 エレナの手から放たれた光の矢は高速で直進し、そのまま人形の胴体を貫通する。その衝撃により、胴体部分を構成していた土が粉々に吹き飛んだ。

 魔法の威力自体はそれほど大きなものではなかったが、それでも鞭による連撃によってダメージを受けた胴体を吹き飛ばすには十分であったようだ。


「よし、とりあえずは1体ね」


 ボロボロと崩れていく土人形を尻目に、エレナは油断することなくすぐさま次の人形を見据える。何しろ最低でも3体は倒さないとこの後どんな目に遭わされるのかわかったものではないのだ。


 そんな普段とは随分と違ったエレナの戦い方を、レクトは遠くから楽しげに見ていたのだった。


「いいじゃねえの。想定通りの収穫があったな」


 暗殺者の襲撃という予期せぬ事態にもかかわらず自身の想定通りに事が運ばれていくのを楽しんでいるレクトを見て、サクラは驚愕と多少の呆れが入り混じったような何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。

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