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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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S組 VS 人形軍団 前編

「砕け散れぇ!!」


 土人形目掛けて、ニナが勢いよくハルバードを振り下ろす。人形の右肩にヒットしたハルバードの一撃は粉砕とまではいかなかったものの、見事に人形の右腕を切り落とす事に成功した。


「うわっと!」


 途端に背後から別の人形がその大きな腕を振り回してニナに襲いかかる。ニナはそれを間一髪で避けると、すぐさま体勢を立て直してハルバードの槍部分を人形の顔面に突き刺した。


「どうだ!!」


 クリーンヒットしたのか、今度は人形の頭部が粉々に砕け散る。しかし生物ではない無機物だからであろうか、頭部を失った状態でもまだ人形は動き続けていた。


「うえ〜、まだ動くのぉ?いい加減に倒れてよぉ!」


 頭部を失って尚自身に向かってくる土人形を見て、流石のニナも呆れたように大きな不満を漏らす。そんな彼女にアドバイスを送ったのは、魔法に詳しいルーチェであった。


「ニナ!ゴーレムは大抵の場合、胴体を壊せばそれ以上は動かないわ!」

「ほんと!?よーし!」


 ルーチェの助言を受けてやる気が出たのか、ニナは再びハルバードを構えて土人形に突撃する。人形の攻撃を難なく躱し、ハルバードを高々と振りかざした。


「今度こそ!どうだ!」


 振り下ろしたハルバードが人形の胴体部分を抉ると、瞬く間に人形の全身がボロボロと崩れていく。どうやら今度こそ本当にトドメを刺すことができたようだ。


「ぃよし!1体目ぇ!!」


 ニナは高らかに声を上げる。しかし日頃のレクトの教えの賜物とでも言うべきか、油断することなくすぐさま次の土人形に向かってハルバードを繰り出した。

 その光景を土人形たちの影に隠れながら見ていたオボロは、少し予想外といった様子で鼻を鳴らす。


「ふん、少しはできるようだな。小娘だと思って少々侮っていたか」


 あっと言う間に1体の人形がやられてしまったのは確かだが、言い方を変えればたかだか1体やられただけである。オボロにしてみればまだまだ余裕と言える状況なのだ。

 だが、戦っているのはニナだけではない。他のS組メンバーも各々の得意な戦法で大量の土人形たちと激闘を繰り広げている真っ最中であった。


「ブラストボール!」


 正面に立ち塞がっている数体の土人形と対峙していたルーチェが魔法を詠唱すると、荒れ狂う突風を凝縮した球体が彼女の手のひらに出来上がった。


「吹き飛びなさい!」


 掛け声と共に風の弾はルーチェの手を離れると、近くにいた土人形の1体にヒットする。すると着弾と同時に猛烈な突風が発生し、直撃した土人形だけでなく周囲にいた2体の人形を巻き込んで粉々に吹き飛ばした。


「はい、ノルマお終い。暇だし他の人形もぶっ壊してやろうかしら」


 早くもノルマを達成したルーチェは悪戯っぽく笑いながら呟くと、まだ残っている人形軍団に向かって先程と同じように風の弾を連続で放つ。再び巻き起こった突風によって4体の土人形が砕け散り、それ以外の人形にも手や頭部を破壊されるなど多大な影響を及ぼしていた。

 それを見て、あることを危惧したベロニカがルーチェに言及した。


「ルーチェ!1人で倒しすぎだ!アタシたちの分が無くなるだろ!」


 このままでは自分たちのノルマの分までルーチェ1人に倒されてしまう勢いだったので、ベロニカは思わず不満を漏らす。もっとも、当然ルーチェの方もそれに関しては承知の上である。


「知ったこっちゃないわ。お仕置きコースにならないよう精々頑張りなさい」

「うえぇ、センセイのお仕置きは嫌だぁ!」


 ルーチェの返しが冷たかったからか、ベロニカは焦ったような様子で刀を握りしめる。とはいえ、焦っていても戦況はしっかりと見ているのか無闇な動きはしていない。敵の人形との間合いを見据え、タイミングを見計らって一気に斬りかかった。


「そこだ!」


 ベロニカの渾身の一太刀は土人形の胴体を斜め一閃に切り裂き、それによって大きなダメージを負った人形はボロボロと崩れていく。ようやく1体目が倒せたことに対してベロニカは「よし!」と唸るが、それを横目で見ていたルーチェから茶茶が入った。


「あと2体ね」

「うるさいなぁ!言われなくてもわかってるよ!」


 折角倒したというのに横から水を差され、ベロニカは少し不機嫌そうになる。しかしルーチェの言うように、最低でもあと2体は倒さなければこの後に恐ろしい目に遭うのは明白だ。

 ベロニカは再び刀を構えると、別の人形に向かって切りかかった。


 一方、2人から少し離れた位置ではリリアが2体の土人形に挟まれていた。彼女の身のこなしであれば攻撃を避けるぐらいはわけないが、避けてばかりいても状況は変わらない。


「これでどう!?」


 土人形が振り回した大きな腕を避けながら、リリアは人形の胴体を真一文字に切り裂く。だが斬撃自体は浅かったのか、人形の動きが多少鈍った程度で撃破するまでには至っていなかった。


「くっ、あたしの剣じゃ大きなダメージは与えられそうにないわね…!」


 思ったよりも手応えがなかったことに、リリアは少し悔しそうに唸る。しかし彼女には別の考えもあったようで、すぐさま次の策に打って出た。


「それなら!」


 リリアは土人形から一旦離れると、手に持った片手剣を自身の胸元に対して水平に構える。そしてそのままの状態で魔法を詠唱しながら、空いている左手の指を刀身に這わせた。


「人形っていったって、結局は土なんでしょ!?」


 強気な発言と共に、瞬く間に刀身が水らしき透明な液体に包まれていった。リリアは水を纏った剣を構え、もう一度土人形に斬りかかる。


「スプラッシュソード!」


 水流のような剣の一撃は、あまり有効なダメージを与えることができなかった先程の一撃とは打って変わって人形の胴体を深々と抉った。この一撃が決め手となったのか、人形はまるで水を吸った泥のようにグズグズと崩れていく。


「やっぱり!水に弱いのね!」


 この調子でいけると確信したリリアは即座にもう一度刀身に手を這わせ、再び剣に水を纏わせる。

 そんな彼女の様子を後ろから見ていたレクトは、感心したように声を漏らした。


「ほう、魔法剣か」

「まほうけん?」


 聞きなれない言葉であったのか、レクトのすぐ横にいるサクラは頭に疑問符を浮かべている。どうやら、レクトの言う魔法剣はヤマトではあまり馴染みがないらしい。


「自分の魔法を刀身に纏わせて戦う剣術だ。剣術と魔法の両方に精通していないといけないから、使い手自体は割と少ないがな」


 レクトの言うように、魔法剣というのは剣と魔法の両方を扱えなければ成立しない。一応、剣士と魔術師が連携して放つ技としても存在しているのだが、それでも互いの呼吸を合わせなければならないためやはり難易度は高い。


「なるほど、それなら斬撃に強い相手にも魔法で有効打を与えられるということですね?」


 サクラは納得といった表情を浮かべている。確かに魔法剣は扱いが難しいが、使いこなすことができればかなり便利な技でもあるのだ。

 何しろ魔法というもの自体、様々な属性や種類が存在している。つまり使える魔法が多ければ多いほど魔法剣の幅も広がるということだ。


「相手は土の塊みたいなもんだからな。リリアも水で流せば手っ取り早いと踏んだんだろう」


 土が水流に削られるというシンプルな理屈ではあったものの、実際にそれが有効打になっていたのだからレクトとしても特に文句は無い。この調子であればリリアも問題ないだろうと判断したレクトは別の方向を向いた。


「さて、問題は残りの3人だな」


 レクトの言う3人とは、フィーネ、エレナ、アイリスのことだ。しかしレクトの発した“問題”というワードが気になったのか、サクラは首を傾げている。


「どうしてフィーネさんたちが問題なのですか?」


 S組メンバーについてまだそこまで深くは知らないサクラにとっては、何が問題なのかがよくわからないのだ。それに、彼女からしてみれば少なくとも3人は人間性に問題があるとも思えない。

 無論、レクトの言う問題とはやはり戦いに関するものであった。


「お前は3人の戦い方を見たことがないからわからないだろうが、あいつらはどっちかというと本質的にはサポート向きなんだよ」


 レクトがサンクトゥス女学園にやって来てからまだ2ヶ月も経っていないが、彼としてはS組メンバーに対してそれなりに戦い方を教えてきたつもりである。

 とはいえやはり戦いは適材適所、見方を変えれば得手不得手があるのもまた事実だ。1対複数の乱戦が得意な生徒がいれば、苦手な生徒だっている。


「つまり今は個別に戦っているから、御三方は苦戦するのではないかということですか?」

「ま、そういうことだ」


 サクラの意見を肯定するように、レクトは腕を組みながら頷く。しかしその事に関して、サクラにしてみれば根本的な疑問が残されていた。


「それでしたらなおのこと、皆さんには連携して戦うよう指示された方がよろしかったのではないでしょうか?」


 サポート向きのメンバーがいるのであれば、連携して戦った方が遥かに効率がいいに決まっている。戦闘に関しては素人であるサクラにも、それぐらいの事はわかった。

 無論、戦闘におけるエキスパートであるレクトであればその程度の事など百も承知である。


「俺も最初はそうしようかと思ったんだが、さっきの鷹舞ヶ原で戦ったことをふと思い出してな。たまには個々に戦う乱戦を経験しておくのも悪くないと思ったんだよ」


 どうやらレクトは、かつて侍たちと戦った時のことを思い出してこの授業を思いついたらしい。

 もっともレクトたちの場合は2000人の侍を数百人ずつ(大半はカリダが担当したらしいが)に分けて相手をしていたので、たかだか数十体の土人形に比べれば規模も全く違うのだが。


「仲間との連携ももちろん大事だが、あいつらは学生だ。競わせるのも悪くないと思ってな」


 サクラは知る由もないが、これまでのS組の実戦はほとんどが数人での連携を重視したものであり、個々に敵と戦うという経験は全くと言っていいほど無かった。

 一見、思いつきだけで行動しているように見えて実は意外と明確なビジョンをレクトが持っている事に、サクラは驚きを隠せなかったようだ。


「レクト様は、皆さんへの教育を随分と楽しんでいらっしゃるのですね」


 サクラは笑顔で言ったが、捉えようによっては皮肉ともとれなくもない内容だ。そんな彼女を見ながら、レクトは腕を組んで目を細める。


「何だ?自分の命が狙われてるっていうのに、俺が余裕かましてるのが気に食わないってか?」

「あ、いえ、そういうわけでは…」


 サクラは否定するが、完全に的外れというわけではなかったのか少し不安そうな様子である。とはいえ、彼女自身は命を狙われている立場であるのだから不安になるのも無理はない。

 そもそも護衛を引き受けたにも関わらず要人に対する暗殺への対処を学校の授業の一環として組み込むという考え方自体、常識的に考えれば不謹慎もいいところである。それもレクトらしいといえばレクトらしいのだが。


「まあ黙って見てなって。俺の目論見が外れることなんざ無えんだからよ」

「は、はい…」


 側から見れば傲慢としか言いようがないレクトの発言を聞いて、若干の不安が拭いきれないままサクラは小さく返事をした。

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