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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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忍び寄る影

 その後、レクトとサクラの解説を聞きながら鷹舞ヶ原を一通り見て回った一行は、予定通り先程の茶屋まで戻ることにした。

 相変わらず観光客で賑わう通りを歩きながら、ニナが先導するレクトに質問する。


「せんせー!あのお店は何が有名なの!?」


 どうやらニナの頭の中は既に食べることでいっぱいのようだ。とはいえニナの食い意地が張っていることなどS組メンバーにとっては周知の事実なので、今更誰も何も言わない。


「前に俺が言ったヨウカンと、あとは『ダンゴ』だな」

「ダンゴ?ダンゴってなに?」


 レクトの口から新たな食べ物の名前が出たことで、ニナは更に興味津々といった様子を見せている。


「確か、コメか何かを挽いた粉を丸めて焼いたようなものだった気がする」

「気がするって、また曖昧な答えですね」


 言葉通り曖昧なレクトの回答に、エレナが言及した。

 無論、レクトだって全知全能の神ではない。知らないことがあるのは当然なのだが、やはりS組メンバーにとっては普段の授業であれだけの博識ぶりを披露しているレクトが曖昧な答えを何度も返しているのが新鮮に映っているようだ。


「俺が菓子の作り方に精通してるっていう方がおかしいだろうが」

「それはそうなんですけどね」


 至極真っ当なレクトの意見に、エレナも納得したように返事をする。そんなレクトに変わって説明を買って出たのは、やはりヤマトの民であるサクラであった。


「団子というのは、レクト様の仰ったように米の粉から作られたお菓子です。それにただ食べる物というだけでなく、ヤマトでは昔から神への供え物としても重宝されているんですよ」

「へえー」


 サクラの話を聞き、ニナが感心したような声を上げる。だがサクラの知識はそれだけにとどまらず、更に詳しい説明が続く。


「小豆という豆から作られた餡と一緒に食べるのが一般的ですが、近年では果物と合わせたりすることもありますね。外国の方々には糖蜜をかけたものが人気ですよ」

「姫巫女って、そんなことまで知ってるの?」


 かなり詳細なサクラの説明に、リリアが驚いたような様子を見せる。巫女という立場上、少なくとも神事に関することに詳しいのはわかるのだが、流石に茶菓子に詳しいとまでは思わなかったからだ。

 しかし、その理由は意外と単純なものであった。


「昔から私の付き人をしていたコンゴウという男は料理が得意でして、私が小さい頃はそういった茶菓子をよく用意してくれていましたから。その作業を間近で見ていたので自然と覚えてしまったというだけですよ」


 サクラは懐かしそうに語るが、心なしか少し元気が無い。もっとも、その理由自体は明白である。サクラが口にしたコンゴウという男は、先刻の暗殺者の襲撃の際に彼女を庇った親衛隊のリーダー格であった男だからだ。

 レクトが暗殺者を退けた直後、倒れていた侍たちは周囲に居合わせた医者によって治療を受けた。だが残念な事に侍たちは皆正確に急所を突かれており、生存者は1人として存在していなかったのである。当然、それはサクラの親衛隊であったコンゴウも例外ではなかった。


「その…ごめんなさいね」


 サクラに辛い事を思い出させてしまったと感じたのか、リリアが謝罪の言葉を口にする。しかしサクラはしっかりとリリアの顔を見据え、首を横に振った。


「いえ。ここで私が落ち込んでしまっていては、むしろ私を守ってくれたコンゴウに顔向けができません。私は姫巫女として、精一杯の務めを果たさなければなりませんから」


 サクラが力強い言葉を口にしたのを見て、リリアは感心を通り越して呆気にとられてしまった。それはリリアだけでなく、話を聞いていた他のメンバーも同様のようである。

 ここで、ベロニカがふと思った疑問をサクラに投げかける。


「そういえば、姫巫女って具体的には普通の巫女とは何が違うんだ?センセイからは守り神である不死鳥と関係があるとしか聞いてないんだけど」

「あぁ、それはですね…」


 サクラはベロニカの質問に答えようとするが、ちょうどその時に彼女の言葉を遮るように前方から突然声がした。


「そこのお嬢さん方、ちょっといいかい?」


 不意に話しかけてきたのは、大きな鞄を携えた男であった。しかし全身には厚手のローブのようなものを纏っており、更にフードを深く被っているので顔もよく見えない。

 いくら人通りの多い街中といえども相手の素性がわからないので、フィーネが少し不安そうになりながらも男に尋ねる。


「えっと…私たちのことですか?」

「あぁ、その通りさ」


 男は頷くと、そのまま携えた鞄を地面に置く。当然、フィーネたちも男に対してまだ警戒を解いてはいない。


「実は私、行商人でね。お嬢さん方に似合いそうな織物がいくつかあるんだが、よかったら見ていかないかい?」


 フィーネたちの返答も聞かず、行商人は鞄から色とりどりの織物を取り出した。その内の1枚を広げると、それを全員に見せびらかすかのように高く掲げる。


「どうだい?綺麗だろう。柄も外国人には大人気のものだからね」


 行商人は得意気に織物の説明を述べている。確かに彼の言うように柄や色は非常に鮮やかであり、布自体もそれなりに上質なもののようだ。


「でも、これだけ上質な織物なら値段も結構するんじゃないですか?」


 フィーネのすぐ横にいたエレナが率直な疑問をぶつける。無論、学生である自分たちにとっては下手にものを売りつけられて法外な値段を要求されてはたまったものではないからだ。

 ところがそれを聞いた行商人はあっさり納得したように頷くと、広げていた織物をたたんで鞄にしまう。すると今度は代わりに小さな布切れらしきものを取り出した。


「それだったら、ハンカチなんかはどうだい?値段も普通のハンカチとそんなには変わらないよ」

「それなら…」


 どうやら行商人は自分たちに対して厄介な押し売りをするつもりはないとわかったからか、エレナが少し安心したような様子を見せる。


「そうかいそうかい。それじゃあまず、そこのヤマト美人のお嬢さんから…」


 そう言って、行商人はサクラに近付く。だが行商人がサクラの体に触れようとした途端、いつの間にか彼の横に回り込んでいたレクトが無言のまま行商人の顔面をいきなり殴りつけた。


「グハッ!?」


 何の前触れもなく殴られた行商人は吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れこむ。余りにも衝撃的な展開に、S組メンバーは騒然となった。


「先生!?一体何やってるんですか!?」


 フィーネは驚愕の表情を浮かべながら、問い詰めるようにレクトに言う。喧嘩を売られたというのならまだしも、ただ近寄ってきただけの商人を何の前置きも無しにいきなり殴ったのだから当然ではある。


「なんだなんだ!?喧嘩か!?」

「一体、何なの!?」

「警備隊は!?警備の侍はどこ!?」


 当たり前だが、周囲にいた観光客たちも突然の出来事に一体何事かと騒ぎ始めた。ところが殴られた商人は鼻血を垂らしながらも立ち上がると、レクトを睨みつけながら態度が豹変させる。


「くっ…!何故わかった…?」


 商人…いや、暗殺者は鼻血を拭き、懐に隠し持っていた短剣を取り出す。どうやらその短剣でサクラを刺す算段であったようだが、その目論見は見事にレクトによって阻まれてしまった。


「暗殺者ならもう少し殺気を消す練習をしやがれ。この半人前野郎が」


 レクトは暗殺者を軽蔑するような目で見ながら、吐き捨てるように言った。どうやらレクトは僅かな殺気を感じ取っただけで、男が敵の刺客であると見抜いたようだ。

 その事実にS組メンバーは驚きを隠せなかったが、一方で暗殺者はすぐさま次の手を打った。偶然自身の一番近くにいたニナを強引に引き寄せ、彼女の首筋に短剣を当てて叫ぶ。


「動くな!一歩でも動いたらこの娘を殺すぞ!」

「「ニナ!!」」


 暗殺者の目論見通り、その言葉を聞いた他のS組メンバーは皆動揺したような表情を浮かべている。無論、周りの観光客たちの間でも騒ぎがより一層大きくなった。

 だが、肝心のレクトだけは至って落ち着いた様子のままである。レクトは冷ややかな目になると、暗殺者に向かって冷静に言い放つ。


「アホだねぇ。そいつ、ウチのクラスで一番人質に向いてない奴だぞ」

「何!?」


 暗殺者が戸惑いの声を上げると同時に、首筋に短剣を突きつけられた状態のニナが即座に動いた。暗殺者の腹部に肘打ちを食らわせ、怯んだ隙に今度は右腕にしがみつく。


「一体何を…ぎゃあああぁぁぁ!!」


 ゴキッという鈍い音と共に、暗殺者が叫び声を上げた。おそらくはニナに関節を外されたか、骨を折られたかのどちらかだろう。

 完全に人質から解放されたニナはバック転で暗殺者と距離を取ると、レクトの方を見て得意げに質問する。


「どうせんせー、今の!?」

「上出来だ」

「やった!」


 つい先程まで人質になっていたというのに無邪気に喜ぶニナをさておいて、レクトは腕の痛みに耐えている暗殺者を見据える。


「お前、商店街で姫巫女を襲った奴の仲間だな?奴より腕前はかなり劣るみたいだし、さしずめ部下ってところか」


 レクトは暗殺者に対して確認するように問うが、暗殺者は答えない。とはいえ答えてしまえばレクトに自身の素性を教えてしまうようなものなので、当然といえば当然ではあるのだが。


「く、くそ…ここは一時撤退を…!」


 暗殺者は苦しそうな表情を浮かべながらも、何とかこの場を脱しようと試みる。懐から何かを取り出そうとするが、何分右腕が使えないので四苦八苦しているのがはっきりと見て取れた。


「2度も同じ手を食うかよ!」


 暗殺者が取り出そうとしているのが先刻使われた煙幕だと見抜いたレクトは、そうはさせまいとすかさず背負った大剣の柄に手をかける。

 だがレクトが剣を正面に構えると同時に、暗殺者の後方から観光客の悲鳴が上がった。


「オ、オボロ様…!一体…何を…!?」


 何者かの名を叫びながら、暗殺者は地面に倒れる。その背には、投擲ナイフに似た黒光りする刃物が何本も突き刺さっていた。


「死に際に同胞の名を漏らすとはな。最期まで未熟な奴よ」


 倒れた暗殺者のすぐ後ろで吐き捨てるように侮蔑の言葉を口にしたのは全身を漆黒の衣で覆い、覆面のようなもので顔すらも隠した新たな刺客であった。

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