表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
85/152

古戦場と戦いの跡

 神社を後にした一行は、次なる目的地…もとい観光地を目指してとある通りを歩いていた。


「なんだかこの辺、飲食店が多いわね」


 辺りに立ち並ぶ飲食店を見渡しながら、リリアが言った。その言葉の通り周囲には様々な茶屋が軒を連ねており、中には明らかにヤマトのものではない、おそらく観光客に対する商売目的であろうコーヒーの店までもが存在している。


「この先にある観光地までは少し距離があるからな。途中で立ち寄って休憩できるような場所が必要なんだよ」


 レクトの説明に、リリアは「ふーん」と幾分納得がいったような声を上げる。確かに通りは観光客だらけであり、茶屋で休憩しているのも大半がヤマトの民ではない外国人だ。


「ちなみに、あの茶屋には前にルークスたちと寄ったことがある」


 そう言って、レクトはとある茶屋を指差した。店自体はこぢんまりとしており、その古ぼけた外観はお世辞にもお洒落とは言い難い。ところが店自体はそれなりに繁盛しているのか、外から店内の様子を伺うと半分以上の席は埋まっているようだ。


「いかにも老舗って感じですね」

 

 フィーネが的を射たような表現をした。確かに店は古いが、良く言えば伝統のある、彼女の言うように老舗という表現がふさわしいだろう。


「そこの茶菓子が有名だって、事前にルークスの奴が下調べしてたんでな。魔物退治のついでに寄ったんだ」

「そういえば勇者ルークスは食通だって、前に先生が言ってましたね」


 レクトの話を聞いて、アイリスは以前レクトから勇者ルークスが食通かつ料理好きだと聞かされたのを思い出す。その言葉に、ベロニカ等その場にはいなかったメンバーは「へぇー」と少し驚いたような声を漏らす。


「あぁ。それにあいつの本当に恐ろしいところはただ食うだけじゃなくって、後でそれを自分で再現しようと試みることなんだよな。しかも、なまじ器用なもんだから再現度も妙に高いし」


 そんなに前の事ではないにも関わらず、まるで旅をしていた頃を懐かしむかのようにレクトは語っている。

 ただその話自体はやはり魔王を倒した勇者ルークスとのギャップが大きいのか、S組メンバーやサクラは皆意外そうな顔をしていた。


「なんだか先生の話を聞いていると、四英雄のイメージが次々に変わっていきますね」

「人間なんてそんなもんだ」


 フィーネの意見に対し、レクトは率直に答えた。おそらくこれは自分のことも含めた上での回答なのだろう。


「さて、もう行くぞ。目的地まではまだ10分ぐらいは歩くからな」


 そう言ってレクトは踵を返すと、さっさと先へ進もうとする。だがそれを見て、茶菓子を食べる気満々だった様子のニナが驚愕した。


「えっ!?このお店には寄らないの!?」


 ニナは驚きと落胆が入り混じったような表情を浮かべている。しかしがっかりしているのはニナだけであり、他のメンバーは同情するどころか、まるでいつも通りだとでも言わんばかりの様子である。


「あんたさっき、お城でおスシたくさん食べてたじゃない」


 リリアの言うように、ほんの1時間ほど前に将軍の城でニナが尋常ではない量の食事を平らげていたのは全員が知っている。しかしニナはドヤ顔で胸を張りながらリリアに反論した。


「リリアちゃん!甘いものは別腹だよ!」

「デザートもしっかり食べてたけどね」


 リリアが呆れるよりも先に、ダメ押しの如く横からルーチェの嫌味が入る。とはいえ雑談をして時間を潰し過ぎる訳にもいかないので、話を一旦切り上げるかのようにレクトが間に入った。


「ニナ、休憩するなら帰り際にしようぜ。今はまだそんなに疲れてないだろ?」

「はーい…」


 ニナはまだ不満そうであったが、一応後で寄るということになったので渋々ながらも了承した。

 先導するレクトに皆がついて行こうとした矢先、ふとアイリスが店のすぐ横にあった大岩を見る。


「何でしょう、この岩。大きな力で何かがぶつかったような跡がありますけど」


 アイリスの言う通り、高さ2mほどの大岩の真ん中には何かがめり込んだような痕跡とひび割れが見られる。岩自体もかなり硬そうなので、これだけの跡を残すにはそれなりに大きな力が必要になる筈だ。

 だが、それを見たレクトはあっけらかんとした様子でとんでもない事実を口にする。


「あぁそれ?俺の頭がめり込んだ跡だ」

「えぇっ!?」


 あまりにも衝撃的な事実に、思わずアイリスは驚愕の声を上げる。当然ではあるが、驚いているのは他のメンバーも同様のようだ。


「一体、何があったんですか?」


 やや動揺しながらもエレナが尋ねた。レクト自身は平然と語っているが、大岩に頭がめり込むなど普通では起こり得る筈もない。しかしレクトから返ってきた答えは皆の想像の斜め上を行くものであった。


「いや、その時にいた店の看板娘がすげえいいケツした美人でな。思わず撫で回しちまったんだよ」

「先生のオープンなセクハラは当時から既にあったんですね」


 堂々とセクハラを公言するレクトに対し、ルーチェが呆れたように言及する。それでもレクトのセクハラとこの大岩の跡にどんな関係があるのかと思いきや、その答えは割と単純なものであった。


「そうしたらテラの野郎が物凄い剣幕で俺の頭を掴んでよ、“何やっとるんじゃこの阿呆が!”って言いながら思いっきりこの岩に叩きつけやがってなあ。その時の跡がこれな」

「もの凄くかっこ悪いエピソードだな!」


 正に自業自得といえるレクトの昔話に、呆れ果てた様子のベロニカが思わず大声になる。その話を聞いて、リリアとルーチェはある種合点がいったような表情を浮かべていた。


「これまで先生のセクハラ癖があまり世に知られていなかったのは、それを止めるストッパーがいたからだったのね…」

「今は完全に野放し状態だものね」


 何故レクトの外道かつ傍若無人な性格が世間にあまり広まっていなかったのか、ようやくその真相を知ることができた2人は納得と呆れの入り混じった複雑な様子である。

 そうやって呆然としている2人に、先を行くベロニカが大声で呼びかけた。


「リリア!ルーチェ!置いてくぞ!」

「そんな大声出さなくても聞こえてるわよ」


 リリアはぶっきらぼうに返事をしながら急ぎ足になり、ルーチェもそれに続く。

 そんなレクトたちの様子を茶屋の店内から1人の男が静かに見つめていたことには、まだ誰も気付いていなかった。


 


 


 それから更に十数分歩いたところで、急に視界が開けた。というのもレクトたちが立っている高台の先には広大な草原が広がっており、上空には猛禽類と思わしき鳥が数匹、優雅に飛び回っている。

 一見すると何も無さそうな草原ではあるが、それでも立派な観光地ではあるらしく、あちこちに本や写真機を手にした人々が点在しているのが目に入った。


「さ、着いたぜ。ここが古戦場『鷹舞ヶ原』だ」

「タカマガハラ?」


 レクトの言葉に、ニナが疑問に満ちた声を上げる。彼女は全く知らないようだが、数人のメンバーはどこかで聞いたことがあるのか、必死に思考を巡らせているのが見てとれた。


「誰か、ここがどんな場所だかわかる奴いるか?」


 生徒たちを試すかのように、レクトが解答者を募る。皆自信が無いのかすぐには答えようとしなかったが、やがてフィーネが少し自信がなさそうに口を開いた。


「えっと、確か数百年前に国の覇権をかけて激しい戦いが起こったという場所でしたっけ」

「ま、ほぼ正解だな」


 フィーネの言った答えはほぼ正解であったようで、レクトも頷いている。別に成績等には一切関係はないのだが、そういう性分なのかフィーネは正解であったことに対してほっと胸をなで下ろしていた。


「サクラは当然知ってるよな?」


 側から見れば意地悪な質問の仕方ではあるが、レクトとしては単純に知っているだろうという確信があってのことであった。そしてそんなレクトの質問にも、サクラは全く動じることなく答える。


「はい。今から約200年前、東西に分かれていたヤマトを統一すべく両軍が全勢力をもってこの鷹舞ヶ原で激突しました。結果として勝利したのは東軍、今の将軍マサムネ様の先祖だと記録に残されています」


 神社の時と同様、サクラは当たり前のようにスラスラと解説を述べる。その話の中で気になる点があったのか、リリアが少し不思議そうに呟いた。


「ヤマトって、昔は1つの国じゃなかったのね?」

「ええ。元々はいくつかの小さな国だったのですが、やがて国の統一を賭けて国々が争いを始め、最終的に残った東西の国が争ったのがこの場所なんです」


 リリアの質問に対しても、サクラは詳しくかつ丁寧に解説する。元々は彼女を護衛するという目的で一緒にいる筈であるのに、もうすっかり修学旅行のガイド役が板についてしまったようだ。


「古戦場っていう割には、静かな平原って感じの場所ね。とても大軍が争ったような場所には見えないわ」


 リリアの言うように草原には草木が生い茂っており、よく見るとウサギやトカゲといった生き物がチョロチョロと走り回っているのがわかる。一見すると、のどかな平原であるとしか言いようがない。


「でも、この場所で死霊使い(ネクロマンサー)が魔法でゾンビや死霊(ゴースト)を召喚したらかなりの数が集まるんじゃないかしら」

「物騒なこと言わないでよ」


 真顔で物騒なことを語るルーチェに、しかめっ面をしたリリアがすかさず言及する。

 死霊使い(ネクロマンサー)とは死者の怨念を利用して戦う魔法使いであるのでルーチェの意見はある意味では正解なのだが、修学旅行中にそんな事を言われれば気分が削がれてしまうのも当然と言えよう。


「まあ実際のところ、合戦があったのももう200年以上も昔のことだからな。けど、今でもその名残はあちこちに残ってるぞ。ほら、見てみろ」


 そう言って、レクトは数十メートル先にある場所を指差す。そこには古ぼけた木の柱が数本立っているだけなのだが、なぜかその周りには数人の観光客が集まっていた。


「あれは?何かの建物の跡地ですか?」


 エレナが物珍しそうな目でその場所を見ながらレクトに問う。実際、彼女の予想は遠からずも当たっていたようであった。


「かつてサムライたちが陣地として使っていた場所らしい。何でも、簡易的な塀や見張り台を作って陣地にしていたそうだ」


 レクトは説明しながら、その陣地跡に向かって先導するように歩き出す。皆もそれについて行き、今度は歩きながらフィーネがレクトに尋ねた。


「今でいう、キャンプのようなものでしょうか」

「まあ、そんなところだろうな」


 間近で見てみると、やはりただの古ぼけた木の柱にしか見えなかった。しかしその表面にはかなり古い刀傷や矢じりが刺さったような跡があるので、ここがかつて戦場であったことは事実なのだとS組メンバーは改めて実感する。

 ふとここで、ベロニカが少し離れた位置に見えるあるものに気が付いた。


「あれっ。何だかあの辺り、大きな力で削り取られたような跡がないか?」


 それを聞いたメンバーがベロニカの指差す先に視線を向けると、確かにそこの地面には何か大きな力で深々と抉られたような跡があった。しかもその跡に関して、フィーネが更に意外な事実に気付く。


「本当。しかもそんなに古いものじゃなさそうよ。多分だけど、ここ数年の間にできたものじゃないかしら」


 フィーネがそう思ったのは、草木が生い茂る他の場所に比べてその跡がある場所にはあまり草が生えていなかったからだ。つまり、その場所は抉られてからまだそれほど時間が経っていないということになる。

 これにはS組メンバーだけでなく、サクラまでもが不思議そうな様子であった。しかしその答えは、他ならぬレクトによって語られることとなる。


「あぁ、あれは俺の剣の跡だ。あの時はサムライ連中に対する威嚇の為に強めに振ったから、結構派手に抉れたんだよな」

「先生の剣!?」


 とんでもない事実に、アイリスが驚愕の声を上げる。無論、驚いているのは彼女だけでなく、サクラも含めた全員であった。


「じゃ、じゃあまさかあの大きなくぼみみたいな場所は?」

「くぼみ?」


 唐突なリリアの言葉にベロニカは疑問の声を漏らすが、リリアは答える代わりにおずおずと別の場所を指差す。どうやら現時点で気付いていたのはリリアだけのようであったが、彼女の指差す先には大きなクレーターのようなくぼみがあった。

 しかしどうやらレクトはその跡に関しても心当たりがあるようだ。


「ありゃあカリダの『メテオフォール』の跡だな。確かにあの時の爆発の規模はとんでもなかったもんなぁ」


 当事者であるにも関わらず、レクトはまるで観戦でもしていた観客だったような様子で語っている。もっとも生徒たちの一部はレクトの口にした魔法の名前の方が引っかかったようだ。


「メテオフォールって、広範囲を攻撃できる超上級魔法じゃないですか」


 メンバーの中でも特に魔法に精通したルーチェが、冷静な表情のまま言及した。しかしその質問に対し、レクトの口からは更に驚くべき事実が語られることとなる。


「そうだな。もっとも、カリダ自身はあれを秒単位で連発できるバケモノなんだが」

「おぉ…流石は大賢者の末裔…」


 超上級魔法を連射するという規格外の魔力に驚きを隠せないのか、リリアが顔を引きつらせながら呟いた。ここで、既に全員が薄々勘付いているであろう事実に対してアイリスが質問する。


「もしかして、先生たちと2000人のサムライが全面衝突したのってこの場所だったんですか?」

「その通りだ。まあ全面衝突って言っても、カリダの魔法の威力を目の当たりにした時点で大半のサムライたちは戦意喪失してたがな」


 レクトの返答に、全員が納得したような表情を浮かべている。無論、並みの戦士であれば、地形を変えてしまう程の力を持った魔術師と戦うなど素直に受け入れろという方が無茶ではあるのだが。


「あの時は大変だったんだぜ?元々原因を作ったのはウチのアホ貧乳だし、ルークスはルークスで絶対に死者は出すなって言うもんだからよ、相手を殺さずに刀だけを折って対処してたからな」


 感心どころか若干引いている皆を横目に、レクトは当時の事を感慨深そうに語っている。もっとも、城での将軍の話からすると更に元を辿ればレクトにも原因があったのではないかと言いたくはなる状況であるが、あまりにスケールの大きな話故に誰も突っ込む気すら起きないようだ。


「先生って一見すると力任せな印象がありますけど、大剣1本でかなり器用な事までできますよね」


 一方で話の内容にあったレクトの対処については感心すべき部分があったのか、エレナが的を射たような発言をした。もっともそれに関しては、聞いていた他のメンバーも同意見のようだ。


「ま、何事も経験と慣れだよな」


 当たり前のように語るレクトを見て、S組メンバーは改めてレクトの計り知れない強さと技術を実感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ