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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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はじめての制服

「おーい、終わったかー?」


 ヤマトを治める将軍マサムネの居城の一室にて、間の抜けたようなレクトの声が響いた。レクトはリラックスした様子で足を思いっきり伸ばし、椅子に座りながら本を読んでいる。

 すると、襖の奥の部屋からは姫巫女サクラの声で返事らしきものが返ってきた。


「も、もう少しだけお待ちを…!えっと、ここはどのようにして閉じれば…?」

「横にファスナーが付いているので、それを引っ張ればいいんですよ」

「ふぁ、ふぁすなー?」


 おそらくサクラのすぐ横にいるのだろう、アイリスの声も一緒に聞こえてきている。

 あの後、特に何の問題もなく予備の制服が届けられ、早速サクラはその制服に袖を通し始めた。が、無論ヤマトの民であるサクラはブレザーの制服を着た経験などある筈もなく、アイリスが着替えを手伝い、他のメンバーはそれを待っているといった状況である。


「ったく、女の着替えと買い物とトイレと風呂に時間がかかるのは年齢や国籍一切関係ねえのな」


 本を読みながら、レクトは独り言のようにぶつくさ文句を垂れる。そんなセクハラ同然のデリカシーに欠ける発言を聞いて、リリアが呆れたようにレクトの顔を見た。


「自分以外は女しかいない空間で、よくそれを堂々と言えるわね?」

「清々しいぐらい堂々とし過ぎて、逆に尊敬に値しますよ」


 リリアに続き、ルーチェが本を読みながらも容赦の無い毒を吐く。レクトの傍若無人ぶりに関しては正直なところ今更ではあるが、やはり当然というべきか聞いていていい気はしないのだろう。もっとも、レクト自身はその反応を見て楽しんでいる節もある真性の外道であるというのも事実なのだが。


「お、お待たせしました!」


 少し慌てた様子で、襖の奥から再びサクラの声がした。それと同時に、閉じられていた襖が開かれる。襖の奥から姿を現したのは、先程までの真っ赤な着物ではなく、サンクトゥス女学園のブレザー制服に身を包んだ姫巫女サクラであった。

 その姿を見て、エレナとフィーネが率直な意見を漏らす。


「なんかちょっと、留学生が来たみたいで新鮮ね」

「あ、それ私も思った!」


 パレードの時の着物姿が印象深かったというのもあり、多少の違和感は拭えなかったのも事実ではあるが、それでも決しておかしい格好というわけではない。

 しかし初めてブレザー制服というものを着る…というよりスカートを履くという事に関してはサクラ自身には多少なり抵抗があるようだ。


「が、外国の方がよく足の見える服装をしているのは存じていましたが、いざ自分がそういった格好してみると少々恥ずかしいものですね…」


 サクラは少し恥ずかしがりながら、スカートの前を押さえている。ところがそれを聞いたリリアは少し怪訝そうな顔になった。


「何それ?あたしたちが普段から恥ずかしい格好してるってこと?」

「あっ!いえ!決してそういうわけではなくって!」


 誤解を招いてしまったようなので、サクラは何とか弁明しようとしどろもどろになっている。しかしここで、レクトからリリアに対して唐突な指摘が入った。


「普段からスカート折って短くしてるくせに威張るな」

「な、なんで知ってんのよ!?」


 急にスカートの長さを指摘され、リリアは思わずうろたえる。そんなリリアの質問に対し、レクトは目を細めながら当然といった様子で答えた。


「知ってるも何もお前がスカート折って短くしてることぐらい、見りゃわかるに決まってんだろうが。特にフィーネと並んだ時なんざ一目でわかるっての」


 身長で言えば、フィーネとリリアは共に160cmちょっとなのでかなり近い。一方で制服に関してはリリアがスカートを折って短くしているのに対し、フィーネは模範生徒とでも呼ぶのに相応しいほど一切の乱れがない。レクトの言うようにスカートの長さなど、2人が並んだ時は一目瞭然である。

 余程慌てたのか、リリアは自身のことを棚に上げて別の人物の名前を羅列する。


「そ、それを言うならベロニカだって折ってるわよ!しかもあたしなんか目じゃないぐらいの短さよ!」

「ベロニカは折ってないぞ」


 レクトが当たり前のように答えたのを聞いて、リリアは間髪入れずにベロニカの下半身を見る。確かにレクトの言うようにベロニカのスカートの長さは割と標準的であり、折って短くしているような形跡はない。


「え!ウソ!?ちょっとベロニカ!あんたなんで折ってないのよ!?」


 リリアは大きな声で問い詰めるようにベロニカに言った。一方で聞かれたベロニカの方は呆れたような目でリリアを見ながら答える。


「なんで折ってるって言うのならともかく、なんで折ってないって質問はおかしくないか?」

「だってあんた、前はものすごい短くしてて散々注意されてたじゃない!」


 リリアの言うように、ベロニカが素行だけでなく服装に関しても教師陣から散々注意を受けていたというのは有名な話ではある。もっともそれについては素行と同じで“レクトが来る前まで”の話なのだが。


「前に俺が何かのついでに指摘したんだよ。そうしたらちゃんとやめたぞ」


 ベロニカの代わりに、レクトが横から説明を入れる。今まではどんなに教師側が注意しても一向に直す気配は無かったのに、レクトが一言指摘するだけで一発で改善されたというのだからこの男の影響力は凄まじいものがある。


「というかアタシがスカートを直してること、今気付いたのかよ?」


 ベロニカは呆れた様子のままリリアに尋ねる。というのもレクトが来てから既に1ヶ月以上が経過している、つまり自身がスカートの長さを直してから大分経っているというのに、リリアがそれに全く気付いていなかったからだ。


「う、うるさいわね!誰もあんたの足なんか見ようなんて思わないからでしょ!」

「何だよソレ!どういう意味だよ!?」


 リリアの反論にカチンと来たのか、ベロニカも思わず声を荒げる。それを見たレクトは仲裁する気があるのか無いのか、2人の口論に割って入った。


「リリア。ベロニカはただでさえケツがデカいんだからそれに比例して多少足が太くなるのは仕方ねえだろうが。それに肉付きの良い足が見えるっていうのも、ちゃんと一定の層には需要はあるんだぞ?」

「フォローになってねえ!」


 どう考えてもフォローする気のないレクトの発言に、思わずベロニカがツッコミを入れる。これには流石にリリアも反論する気が失せてしまったようだ。

 ここでふと、エレナがある事に気付いた。


「そういえばレクト先生はスカートの長さに関しては1度もリリアに注意したことがないですよね?」


 エレナの疑問を聞いて、他の生徒たちも少し不思議そうに思ったようだ。言われてみれば確かにレクトは自分の授業を真面目に受けない人間に対してはやたら厳しいのに、スカートの長さなどに関してはとやかく言っているのを見たことがないからだ。

 しかし、その質問に対するレクトの回答は実に彼らしいものであった。


「別にスカートの長さとか、校則に関しては俺が決めたルールじゃないからな。それを破られても俺自身は何とも思わないし」


(((自由過ぎる!!)))


 相変わらずの唯我独尊な答えに、生徒たちは呆れるのを通り越して感心すら覚えた。

 ところがここで、レクトからはある意味で的を射たような発言が飛び出す。


「ただ、スカートの長さも守れないような小娘が法と秩序を守る騎士になるとか、超が付くほどのお笑い種だよなぁ」

「ぐっ…!」


 痛いところを突かれ、リリアはぐうの音も出なくなってしまう。もっとも、こればかりはレクトの言っていることが正論に違いないので、他のメンバーも誰も何も言わない。

 流石にいたたまれなくなったのか、リリアは無言でスカートの丈を直し始めた。


「さて。それじゃあ雑談もここまでだ。時間も勿体ねえし、さっさと行こうぜ」


 そう言ってレクトは読んでいた本を閉じると、畳の上に置いていた大剣を拾って背負う。それを見た生徒たちも、各々自身に荷物を身に付け始めた。


「それで先生、まずはどこに行くんですか?」


 小さな鞄を肩に掛けながら、フィーネが尋ねる。おそらく先刻の事件の収拾を行っている間は中心街はしばらく回れない筈なので、行くとすればそれ以外の場所ということになる。


「そうだな…修学旅行らしい所、かな?」

「修学旅行らしい所?」


 多くを語らないレクトの回答に、フィーネは首をかしげている。結局具体的な場所までは教えてもらえないまま、S組メンバーは将軍の居城を後にすることになった。




 


 城を出たレクトたちは、歩いて目的地に向かうことにした。レクトの話によれば、どうやら次の目的地はここからそう離れてはいないとのことである。


「で?センセイ、結局どこに行くんだよ?」


 先頭を歩くレクトに向かって、ベロニカが尋ねる。しかしレクトから返ってくる答えは相変わらずのままだ。


「直にわかる。今は黙ってついてきてくれ」

「何だよ、まだ教えてくれないの?」


 代わり映えのしないレクトの返答に、ベロニカは不満のようだ。無論、不満なのはベロニカだけではないようで、他のメンバーもさっきから聞きたそうにしている。レクトの秘密主義は今に始まった事ではないが、やはり修学旅行なのにどこを巡るかを教えてもらえていないのは納得がいかないのだろう。


「というかまず、どうして私たちに教えようとしないんですか?」


 エレナは質問の意図を変え、行き先ではなくなぜ自分たちにそれを教えようとしないのか、その理由を尋ねる。だが、それに対するレクトの返答は彼女たちの予想とは掛け離れたものであった。


「どこで誰が聞いてるかわからないからな」

「え?」


 レクトの言っていることがいまいちわからなかったのか、エレナは素っ頓狂な声を上げる。レクトはそれを意にも介さず、説明を続けた。


「もしあの城の中に敵側のスパイや内通者がいたとしてみろ。俺があそこでどこに行くかを口にすれば、それはつまり俺たちの行動が敵に筒抜けになっちまうって事だろうが」


 確かにレクトの言うように、城の中に敵側との内通者がいたとしたらこれからの行動が筒抜けになってしまうのは明白だ。ちゃんと明確な理由があった上でレクトは黙っていたという事実に対し、アイリスが驚いた様子で質問する。


「先生がずっとどこに行くのかをわたしたちに言わなかったのは、それを警戒した上でのことだったんですか!?」

「他に何がある?」


 レクトはさも当然といった様子で答えた。生徒たちの大半はてっきりレクトが気まぐれで黙っていたと思っていたので、これには感心せざるを得なかった。


「でも先生、本当にあの城の中に内通者がいたんですか?」


 フィーネが根本的なことをレクトに問う。なぜなら、もし本当にあの場に内通者がいたとしたらその者は今もまだ城内に残っているということになるからだ。


「それはわからないが、警戒しておくに越したことはないだろ」


 具体的に誰が内通者であるか、誰が疑わしいかなどはヤマトに来たばかりのレクトにわかる筈もない。だが可能性がゼロではない以上は最善の行動をすべきだというのがレクトの考えのようだ。


「俺は基本、用心深いからな」

 

 自信満々で言うレクトの発言を聞いて、生徒たちは改めて「はぁー」と感心したような声を上げる。この辺りは性格上のことだけでなく、数多くの戦場を渡り歩いてきたという経験によるものも大きいだろう。


「今更ですけど、先生って人の事見てないようでしっかり見てますよね」


 唐突にアイリスが言った。今の話と直接関係があるわけではなかったが、それを聞いた数人のメンバーもうんうんと同意するように頷いている。その点に関してはレクトの方も心当たりがあったようだ。


「ルークスの奴がとにかく人を疑うことを知らない純真野郎だったからな。おまけにテラは脳味噌まで筋肉の単細胞だし、カリダはカリダですぐにボロを出すような大根役者だったから、必然的に俺が用心深くなるしかなかったんだよ」


 さりげなく悪口を言いながらも、レクトは感慨深そうに語っている。一般人からしてみれば強大な力を持つ四英雄にも欠点があるという事は意外なのかもしれないが、普段からレクトと接している上にカリダの激昂した姿を目の当たりにしたS組メンバーは今更驚きもしない。

 ただ1人、四英雄はおろかレクトの人となりすらよく知らないサクラだけは興味深そうに話を聞いていたが。


「四英雄って先生以外の3人が苦労してるイメージがありましたけど、先生もそれなりに苦労してたんですね」


 若干トゲを含みつつ、ルーチェがレクトに同情するように言った。何しろ自他共に認める問題のある人間がパーティにいれば、他のメンバーが苦労するのは必然である。今まではその苦労を引き受けていたのがレクト以外の3人だと思っていたので、レクト自身が他の四英雄相手に苦労させられていたというのが少し新鮮だったのだ。


「当たり前だ。騙されやすい純真勇者、短気で口の悪い魔術師、酒好きの脳筋武闘家、ついでに傲慢なドS剣士だ。誰も何も問題を起こさないっていう方がおかしいだろ」

「「「確かに」」」


 やや自虐的にも聞こえるレクトの発言に、S組メンバーが声を揃えて答えた。

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