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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
81/152

護衛の依頼

 巫女を救った事で将軍の居城に招かれたレクトたちは、城の大広間で豪勢な食事を振る舞われていた。

 ヤマトの国の主である将軍マサムネはレクトたち8人を見渡せる位置にあぐらをかいており、すぐ横では先刻レクトに命を救われた巫女が正座して座っている。


「久しいなレクトよ。そして我が国の巫女を救ってくれて礼を言うぞ」

「あぁ」


 口調からして、どうやらレクトと将軍マサムネは顔見知りのようである。将軍に礼を言われレクトは一応の返事をするが、全く嬉しそうな素振りを見せない。

 レクト本人としては将軍にお呼ばれなど別に喜ばしい事でもなかったのだが、それ以上に今の状況が余計にそうさせていたのだった。


「うわっ!エビが上半身だけなのにまだ動いてるぞ!気持ちわるっ!」

「これがおスシかぁー。お米を手で掴んで食べるなんて変わってるね!」

「ちょっとニナ!がっつき過ぎ!お行儀悪いわよ!」

「何この緑色のソース!?辛い!」


 一国の主の前だというのに、まるで会食だとでも言わんばかりにS組メンバーはキャイキャイ騒いでいる。ただ正確に言えば、はしゃいでいるメンバーとそれを注意するメンバーとの相乗効果で余計にうるさくなってしまっているという話ではあるのだが。

 完全に雰囲気をぶち壊しにされて何とも言えない表情になっている将軍に対し、レクトは一応の謝罪も含めて断りを入れておく。


「騒がしくて悪いな将軍。何しろ、どいつもこいつもついこの前初潮が来たような小娘どもばっかなんでな」


 皮肉交じりに言いながら、レクトは目の前の寿司に手を伸ばす。しかしそんなレクトの台詞を横で聞いていたベロニカが、気に入らないといった様子で反論する。


「何言ってんだよ!初潮なんてもう5年も前だっての!」

「なんでそこをマジメに答えてんのよ」


 どこかズレたベロニカに、呆れた様子のリリアが指摘した。将軍はそんな騒がしい少女たちを横目に咳払いを1つすると、改めてレクトの方を見る。


「こうして貴殿に国を救われるのは2度目だな」

「そうだな。あの時は化け物相手だったから別の意味で大変だったが」


 そう言ってレクトは何故か天井を見上げる。と言っても、そこに何か特別なものがあるわけではない。むしろ、そこに“天井がある”こと自体に対してレクトはどこか懐かしそうな表情を浮かべていた。


「カリダのバカがぶっ壊した天守閣も、すっかり元通りになってるじゃねえか」

「カリダ様が壊した?」


 フィーネが少し引いたような様子でレクトに尋ねる。何しろ唐突にカリダの名前が、しかも“天守閣を壊した”という物騒なワードと共に出てきたので多少なり驚くのも無理はない。


「この将軍に貧乳呼ばわりされてブチ切れたカリダが、城の天守閣を魔法でブッ飛ばしたんだよ」


 レクトは軽く笑いながら親指で将軍を指す。カリダに貧乳が禁句である事は既にS組メンバーにとっては周知の事実であるので、話を聞いた時点で皆納得したような様子だ。しかし、将軍の方はかなり不満そうに声を荒げてレクトに反論する。


「我はただ着物が似合いそうだと褒めただけだ!それを貴殿が貧乳などと申したのだろう!」

「あれ、そうだっけ?」


 将軍の文句に対し、レクトはいつものようにあっけらかんとした様子で答えた。というより、レクトの性格からしてみれば100%ワザと言っていることは誰の目から見ても明白である。


「センセイ、なんでキモノが似合うと貧乳なんだ?」


 ベロニカが率直に思った事をレクトに質問した。カリダに対して貧乳が禁句だということはわかっていても、キモノ=貧乳という式が成り立つ理由がわからなかったからだ。それは他の生徒たちも同様のようで、疑問に満ちた表情を浮かべている。


「キモノはカリダみてえに胸元が真っ平らな人間が着ると、美しく見えるんだとさ」

「ふーん」


 レクトの回答を聞いて、ベロニカはあまり興味のなさそうな返事をする。一方でそれを横で聞いていた将軍は、額を押さえながら呆れたような様子であった。


「あながち間違いではないのだが、もう少しまともな言い方をしていればあの惨劇も防げたのかもしれぬのにな…」


 既に済んだ事ではあるものの、やはり天守閣を吹き飛ばされた城主としては未だに納得がいかないようである。しかしレクトが今更そんな話を真剣に聞いてくれるとも思っていないので、将軍はただただ渋い顔をするばかりであった。


 


 食後に出されたデザートまで全員が堪能し終わったところで、侍女たちによって食事の台や皿が下げられた。

 S組メンバーたちが初めてのヤマト料理に満足している中、7〜8人前の量は間違いなく平らげたであろうニナがげぷっと噯気をする。


「こらニナ!はしたない!」

「あははー。ごめんごめん」


 エレナの注意に、ニナは若干申し訳なさそうに笑っている。普通に考えれば国家元首の前でそういった失礼な事をするなど当たり前のように罰されるか、下手をすれば投獄だって考えられる。

 とはいえ将軍にしてみれば彼女たちは恩人であるレクトの連れなのだし、多少の愚行には目を瞑るのも当たり前だろう。何より、そんな事をしようとすれば投獄する前にこの場でレクトに切り刻まれてしまうのがオチだ。


「時にレクトよ。1ついいか?」

「なんだ?」


 食事が済んだところで、将軍が話を切り出してきた。


「実は今回の姫巫女の暗殺未遂事件とほぼ同時刻に、市街地を警備していた侍たちが謎の剣士に惨殺されたという話は聞いておるか?」

「いや、初耳だ」


 物騒な話であったが、そういった凄惨な話は戦いの中でいくらでも経験しているのか、レクトは落ち着き払った様子で冷静に答えた。が、当然のように周りで聞いていた生徒たちは皆驚いたり、怯えたような表情を浮かべている。

 将軍の方もレクトの反応は予想の範囲内といった様子で、気にせず話を続けた。


「そうか。実は残念なことに街の出入り口を警備していた侍たちが先刻、謎の剣士によって皆殺しにされたと報告があってな」

「ひどい…」


 将軍の話を聞いて、思わずアイリスが口元を押さえる。その横では自身も似たような経験をしているからか、エレナが何とも悔しそうな表情を浮かべていた。


「けど、それだけ目立つことをしたんだ。犯人の目星とか目撃情報ぐらいはあるんだろ?」


 レクトは変わらず冷静な態度のまま、将軍に尋ねる。将軍はやや気難しそうな表情を浮かべながら懐から1枚の紙を取り出し、そこに書かれている内容を確認する。


「目撃者の証言によると、犯人は顔を覆面のようなもので隠した二刀流の剣士だったそうだ。貴殿は何か心当たりがあるか?」


 将軍は暗殺者と交戦したレクトなら何か手掛かりになるような事を知っているのではないかという淡い希望を抱いて質問したが、レクトは当然といった様子で首を横に振る。


「悪いが、俺たちはほんの2時間ぐらい前にこの国に着いたばかりでな。今この国で何が起こっているかはほとんど知らない状態だ」

「そうか、それならば仕方ないな」


 予想はしていたもののやはりがっかりした気持ちは隠せなかったのか、将軍は落胆した様子で懐に紙をしまう。そして改めてレクトの顔を見て、真剣な様子で自身の見解を話し始める。


「確証はないのだが、この2つの事件には何らかの関係があるのではないかと我々は考えている」


 巫女の暗殺未遂と警備兵の虐殺。そんな大きな事件が同時刻に起きるなど確かに偶然とは言い難い。その考えに関してはレクトも同じのようで、いつになく真剣な表情をしながら答える。


「そうだな。偶然にしちゃあ出来過ぎだ。多分、敵も1人じゃなくもっと組織的なものなんだろう」

「うむ。やはり貴殿もそう思うか」


 将軍もレクトの考えに同意する。明確な動機や目的は定かではないが、少なくともこの件にはかなりの腕を持った人間たちを抱えた組織が絡んでいるのは確かなようだ。

 話が要点まで進んだところで、将軍が本題だとでも言わんばかりにある話題を持ち出した。


「そこで、だ。実は折り入って貴殿に頼みがあるのだ」

「頼みだと?」


 将軍の頼みという単語を聞いて、レクトの表情が一気に曇る。というのも、レクト自身にしてみればその頼みの内容についてある程度の予想がついていたからだ。


「祭りが終わるまでの間で構わん。貴殿の腕前を見込んで、どうか巫女の護衛を引き受けてもらえないだろうか?」


 将軍からの頼みは、正にレクトの予想通りであった。親衛隊が全員やられてしまった以上、残ったサムライだけでは巫女を守りきれるかどうかがやはり不安なのだろう。何より敵は四英雄レクトを相手にして生き延びたような人間なのだ。並みの兵士レベルでは足下にも及ばないのは誰にだってわかる。

 しかし、そんな将軍の頼みに対してレクトから返ってきた返答は驚くべきものであった。


「断る」

「「「ええぇーっ!!?」」」


 バッサリ切り捨てるレクトを見て、将軍よりも先にS組メンバーたちが驚きの声を上げた。そんな驚く生徒たちを余所に、レクトは真顔のまま理由を将軍に説明する。


「そもそも俺が今回この国へ来た目的はこいつらの修学旅行だ。悪いが俺にはこいつらを引率する義務がある。あんたらの都合に合わせるほど暇じゃない」


 変な所で律儀なレクトを見て、S組メンバーは皆呆然としている。しかしそんな理由が受け入れられる筈もなく、将軍も怒りのこもった様子で声を荒げた。


「この国の行く先よりも、娘どもの修学旅行の方が大事だと申すか!?」

「あぁ、そうだ」


 相変わらず唯我独尊を地で行くレクトであったが、そんな事で一国の主が納得する筈などない。将軍はやや落ち着き払った口調でありながらも、煽るようにレクトに尋ねる。


「レクト・マギステネルよ。これは国家元首でもある余からの依頼なのだぞ?断れば、どうなるかわかっているのだろうな?」


 急に態度を変えた将軍の脅迫じみた言動に、S組メンバーたちは少なからず恐怖心を覚える。彼の言う通り、国家元首直々の依頼をふいにすれば国際問題に発展するのは想像に難くない。

 だがそんな彼女たちの恐怖心も、次のレクトの一言によって一気に吹き飛ばされることとなった。


「将軍さんよぉ、あんたの方こそ大事なことを忘れてねえか?あの時はウチのド貧乳魔術師が盛大にやらかしたおかげで俺たち4人とあんたの部下のサムライ2000人が全面衝突するハメになったが、結果はどうなったんだっけ?」

「うっ…!」


 レクトに過去の話を持ち出され、将軍の顔が一気に引きつる。4人と2000人が戦うなど普通であれば結果は容易に想像できるのだが、その4人が他でもない四英雄となると話が変わってくる。


(もしかして、2000人の大軍に勝ったってこと?)

(信じられないけど、先生たちならやりそうね)


 レクトと将軍のやり取りを見て、エレナとルーチェが小声でヒソヒソ話している。何よりレクトが余裕の表情を浮かべている以上、どう考えてもサムライ2000人の方が敗北したというのはまず間違いないだろう。

 そんなレクトの切り返しに将軍はたじろぐが、すぐに頭を横に振って態度を改めるとレクトに向かって頭を下げる。


「だ、だからこそ!それほどの腕前を持つ貴殿の力を借りたいのだ!どうか聞き入れてはもらえないだろうか?」

「無理」


 一国の主が頭を下げながら懇願しているのにも関わらず、ドSで外道な傭兵は容赦無く突っぱねる。

 最早、将軍の方が可哀相に見えてくるぐらい最悪な雰囲気の中、それまでただ満腹になった腹をさすりながら1人幸福感に浸っていたニナが急に口を開いた。


「それならさー、巫女様もニナたちと一緒に修学旅行すれば?それならせんせーもずっと一緒だから、悪い奴が来てもやっつけてくれるよ!」


 状況がイマイチよくわかっていないのか、相変わらずのニナのポンコツ発言に他のS組メンバー全員はがっくりと肩を落とす。しかしこんな展開もすっかり慣れっこなのか、リリアが呆れた様子でニナに指摘した。


「お馬鹿。なんでヤマトの巫女が自分の地元で修学旅行しなきゃなんないのよ?」

「えー?だってさぁ…」


 ニナ本人にしてみればグッドアイディアだったのだろうが、当然のように他のメンバーからはいつものこと程度にしか捉えられていないようだ。

 だがそんなニナの意見を聞いて、ここまで黙って事の成り行きを見守っていた巫女があらぬ事を言い出した。


「いえ。その申し出、お受け致します」

「なっ!?」


 巫女がニナの提案を受け入れたことに、将軍は思わず驚きの声を上げる。無論、S組メンバーも驚いているのは同様だ。しかし、巫女もただ思いつきで言っている訳ではなさそうであった。


「要するに私が皆さんと同じ格好をして、祭の当日まで一緒に行動すればよいのですよね?それでしたら敵の目も欺けるでしょうし、何より四英雄レクト殿が側にいるのは非常に心強いです」


 驚く面々を余所に、巫女は淡々と話を進める。その話を聞いて、将軍の方も幾分納得したような表情を浮かべていた。


「ふむ…確かにそれなら安全かもしれん。レクトよ、貴殿はどうだ?」

「んー。まぁ、それならいいぞ」


 それまでの態度とは打って変わって、レクトはあっさり承諾する。どうやら彼としては、修学旅行さえしっかり行う事ができれば特に問題はないらしい。

 兎にも角にも話は決まったので、レクトは改めて将軍のすぐ奥に座っている姫巫女を見る。


「それじゃあ姫巫女の…えーと、何ていったっけ?」

「サクラと申します」


 レクトが思い出せそうにないので、姫巫女は改めて自身の名を名乗った。それを聞いたレクトは疑問が解決したような晴れやかな表情を浮かべると、続けてサクラにあることを質問する。


「サクラ、お前身長いくつだ?」

「152cmですが」

「体重は?」

「…46kgです」


 やはり巫女とは言えども、年頃の少女であることには変わりはない。自身の体重を口にするのは少々恥ずかしいのだろう、2つ目の質問の際には少し声が小さくなっていた。

 レクトは少しの間考え込むように顎に手を当てていたが、やがて納得したような様子で軽く頷く。


「よし。それなら、体型的に一番近いのはアイリスだな」


 そう言いながらレクトはコートのポケットから手帳とペンを取り出すと、適当なページを開いて何かを書き始めた。そうして数秒もしないうちに書き終えると、今度はそのページをちぎって将軍に手渡す。


「将軍。温泉街にある『あめのや』っていう名前の旅館に俺たちの荷物が置いてあるから、その紙に書かれている荷物を取りに行くようあんたの部下に命じてくれ」

「わかった。すぐに向かわせよう」


 将軍はそう返事をすると近くにいた侍女を呼んで耳打ちし、レクトから渡された紙を侍女に見せる。話を聞いた侍女は将軍に向かって一礼すると、足早に広間を出て行った。


「先生、一体何を持ってくるように頼んだんですか?」


 侍女が出て行くのを見届けたすぐ後で、フィーネがレクトに尋ねた。無論、それが気になっているのは他のメンバーも同様である。


「俺の荷物の中にお前らの制服の予備が入ってるから、その中からアイリス用の物を持ってくるように指示したんだよ」

「予備の制服なんて持ってきてたんですか?」


 レクトの回答を聞いて、エレナが驚いたような声を上げた。何しろ自分たちの着替えを自分たち自身が持ってきているのならともかく、何故か担任であるレクトが持ってきているのだから疑問に思うのは当然である。


「汚れたり濡れたりすることも視野に入れてな。一応お前らも着替えは持ってきてるだろうが、予備は多いに越したことはないだろ」

「あぁ、なるほど。流石、準備がいいわね」


 意外に真っ当なレクトの意見を聞いて、リリアが感心したように頷いた。とはいえ流石にこのような状況になるとは想定していなかったのであろう、レクトはやや気難しそうな表情を浮かべている。


「ただ俺もまさか、他の人間に着せるとまでは思っていなかったがな」

「でしょうね」


 レクトに同意するように、ルーチェが一言呟く。というより国家元首からの依頼で姫巫女を修学旅行に同行させるなど、いくら百戦錬磨の英雄レクトであったとしても想定しろという方が無理である。

 とりあえず、今のところはサクラに着せるための制服が届くのを待つということになった。ここで、アイリスがふと思ったことをレクトに尋ねる。


「というか先生。さっきの巫女様への質問ですけど、身長はともかく体重なんて聞く必要はあったんですか?」


 アイリスとしては、遠回しに自分の体重のことまで言われてしまったようで少々不満なようである。もっともS組メンバー全員の体重に関しては以前の薬学の授業でこのドSに暴露されている為、全員がお互いの体重を知ってしまっているのも事実ではあるのだが。


「無えよ?単にどんな反応するか見てみたかっただけ」


 レクトは悪びれることなく、さも当然といった様子で答える。そんな外道に対して最早突っ込む気すら起きないのか、S組メンバーと将軍はただ呆れるばかりであった。

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