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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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姫巫女のパレード

 レクトたちは歓声の上がった方を見る。そこでは人々が手を振ったりジャンプしたり、中には写真機を構えている者までいた。


「姫巫女だぁー!姫巫女サクラ様が通られるぞぉー!」

「きゃーっ!巫女様ぁー!」

「おい!やたらと手を振るな!サクラ様が見えないだろ!」


 レクトが例えたように、周囲からはまるでスターを見に来たかのような声が飛び交っている。しかし、レクトがいくら辺りを見回しても巫女らしき人物は見当たらない。だが目を凝らしてよく見てみると、遠くに何か乗り物らしきものが小さく見えた。


「んー。遠くに小さく見えるけど、あれがそうなのか?」

「えー?見えないよー」


 レクトの呟きを聞いて、ニナが不満そうな声を上げる。言葉を発したのはニナであったが、どうやら見えないのは他のメンバーも同様のようだ。


「何?お前ら見えないの?」


 レクトが真顔で尋ねる。彼としては何の気なしに聞いたのだが、不覚にもそれが生徒たちの反感を買ってしまったようだ。


「この人混みじゃ見えるわけないでしょ」

「先生は私たちより身長が高いから見えるんですよ」


 リリアとルーチェがやや不満そうな顔をしながら答えた。

 ヤマトの民の平均身長は男性でも165cm前後、女性に至っては150cm台とフォルティス国民に比べるとかなり低い。そのため身長が180cmちょっとあるレクトは集まった人だかりの中では頭1つ分は高いことになる。


「ベロニカは見えないの?あんた一番背が高いんだし」


 リリアがベロニカの方を見る。何故ならS組の中で一番背が高いのはベロニカだからだ。しかしベロニカは目を閉じながら首を横に振った。


「高いっていっても、アタシとセンセイじゃ頭1つ分ぐらい違うからなぁ」


 どうやらメンバーの中では一番背が高いベロニカにも見えないらしい。しかしそれもそのはず、メンバーの中で一番背が高いベロニカでも身長は167cm、反対に一番低いアイリスに至っては151cmしかないのだ。この人混みの先を見ることなど、とてもじゃないがS組メンバーにはできる筈がない。

 そんな不満そうな生徒たちを見て、レクトがなだめるように言う。


「まあ待てって。姫巫女がこの通りをまっすぐ歩いてくるっていうのなら、もう少ししたらもっと近くで見られるってことだろうが」

「まぁ、そうなんですけどね」


 レクトの言う事ももっともだと思ったのか、ルーチェが納得したように返事をする。しかしそんな中、周りをキョロキョロと見回していたニナが何かを発見し、閃いたようにレクトの袖を引っ張る。


「ねー、せんせー!肩車して!」

「はい?」


 あまりにも唐突なニナの提案に、レクトもつい間の抜けたような声を漏らしてしまう。どうやらニナは、肩車している親子連れを見て思いついたようだ。


「ちょっとニナ、あんた肩車って意味わかって言ってんの!?」


 リリアが驚いた様子でニナに問う。無論、驚いているのは他のメンバーも同様である。しかしニナはあっけらかんとした様子でリリアを見ている。


「知ってるよ?だってよくお父さんにやってもらってるもん」


 その答えを聞いて、リリアはため息をつきながら頭を押さえた。


「そうだ、ニナって確かファザコンなんだった…」


 S組の中ではニナがファザコンであることは割と有名なことであるようだ。しかしリリアの呟きはニナ自身には聞こえなかったのか、ニナはリリアの顔を見ながら首をかしげている。


「リリアちゃん、何か言った?」

「何でもないわよ。やるんだったら早くしなさい」


 呆れながらも止める気は無いのか、リリアはさっさと肩車してもらうよう促す。ニナは頷くと、改めてレクトを見た。


「うん!じゃあせんせー、お願い!」

「ったく、仕方ねえなあ」


 ニナに懇願され、レクトの方も渋々ながら了承した。とは言ってもレクトは背中に巨大な大剣を背負っているため、背中から登るのは無理である。

仕方がないので、レクトが前のめりに屈んで正面から肩に跨ることになった。


「よいしょっと…オッケーだよ、せんせー!」

「よし、じゃあ立つぞ」


 ニナの合図と共に、レクトが立ち上がる。肩車など遠目に見ればかなり目立つものであるが、幸いなことに今は皆が姫巫女の方に夢中になっているのでレクトたちの肩車など眼中にないようだ。


「どうだニナ?見えるか?」

 

 ニナを担ぎながら、レクトが尋ねた。ややバランスが悪いのかニナは少しふらつきながらも、目を凝らして姫巫女がいると思われる方向を見る。


「んーとね、遠くに馬車みたいなのが見えて、その上に真っ赤なキモノを着た女の人がいるみたいだよ。」

「多分、そのキモノの女が姫巫女だ」


 ニナの話を聞いて、レクトが答える。その女性が姫巫女だと決まったわけではないが、状況的に見ればレクトの言っている事もまず間違いないだろう。


「ニナ、他には何か見える?」


 肩車されたニナを見ながら、フィーネが尋ねた。ニナはもう一度目を凝らし、先程と同じ方向を凝視する。


「馬車の周りにサムライがいっぱいいる!」


 ニナの目に映っていたのは、言葉の通り馬車の周りにいるたくさんの男たちであった。それを聞いて、アイリスが思ったことを呟く。


「サムライ…姫巫女の護衛でしょうか」

「おそらく、そうなんでしょうね」


 アイリスの意見に、リリアも同意するように頷く。まだ距離があるからか姫巫女自身の姿はよく見えないものの、とりあえずはどういう風に歩いてくるのかがわかったのは事実だ。

 だがここで、ニナが自身の真下にいるレクトに向かって至極どうでもいい難癖を付ける。


「っていうかせんせーの肩、お父さんより座りにくい!」

「どんなクレームだよ。というかまず、肩車してもらっておいてその言い草はねえだろ」


 ニナの文句に呆れつつも、レクトは彼女をゆっくり地面に降ろす。一応、レクトが先程言ったようにこのまま待っていればじきに姫巫女もこちらへ向かって来るのは間違いないのだが、何を思ったのかベロニカが少し恥ずかしそうにレクトの腕を引っ張った。


「セ、センセイ!アタシも肩車してくれ!」

「お前もかよ」


 恥ずかしそうにしているベロニカに対し、レクトをはじめとしたS組メンバーは当然のように呆れ顔だ。しかし最早理由を聞くのも面倒だったのか、ニナの時と同じようにレクトは前のめりに屈んでベロニカを自身の肩に跨らせた。


「どうだ?見えるか?」

 

 ベロニカを担ぎながら、レクトが尋ねる。小柄なニナよりも更に体格のいいの娘が肩車されているなど、何とも言えないシュールな光景ではあったものの、ベロニカは気にせず姫巫女がいると思わしき方向を見る。


「うん。遠くに馬車が見える。あと、馬車の周りにいるサムライだけなんか着てる鎧が豪華だな」

「姫巫女直属の親衛隊か何かじゃないかしら」

 

 先程よりも姫巫女が近くに来ているからであろうか、より細かい部分まで見えるようになったらしい。ところがここで、ふとある事に気付いたリリアが唐突に口を開く。

 

「そういえば、心なしかベロニカを肩車してる時の方が安定してない?」

「あ、本当ね」


 リリアの疑問に、エレナが同意するように頷く。確かにリリアの言うように、少しふらついていたニナと違ってベロニカの肩車はかなり安定している。体格で言えば身長も体重もベロニカの方があるのは間違いないので、リリアとしては少し不思議に思ったようだ。

 そんなリリアの疑問に対し、レクトが真顔のまま口を開く。


「多分、ベロニカはケツがデカいから重心が…痛って」

 

 デリカシーの欠如した発言の途中で、顔を赤くしたベロニカの掌底がバシッという音と共にレクトの顔面を襲った。普段のレクトの反応速度であればこんなもの避けるのは容易いのだが、肩車をしている当の本人から食らっては流石に避けることもできない。


「けど、何だかんだ言って近くまでやって来たっぽいな。ベロニカ、降ろすぞ?」


 あとは姫巫女がこちらに向かってくるのを待とうということになり、レクトはベロニカを地面に降ろす。というより、レクトたちが肩車など色々とやっているうちに姫巫女を乗せた馬車は割と近いところまでやって来ていたのだ。


「どんな人なのかと思ったけど、随分と若いのね」

「本当。私たちとあまり変わらないんじゃないかしら」


 巫女の顔を見て、リリアとエレナが率直な感想を漏らす。2人の言うように姫巫女のサクラは意外に若く、自分たちと同じ10代のように見えたからだ。

 姫巫女は周囲の人々に笑顔を振りまきながら、右手を軽く振っている。彼女が顔を向ける度にあちこちで歓声が上がっていた。だが、それを見たレクトはとんでもない事を口にする。


「何だよ。どんな美人かと思ったら、未発達な体つきのガキじゃねえか」

「せ、先生!ちょっと!」


 レクトの爆弾発言をフィーネが慌てて止めようとするが、時すでに遅し。その言葉を聞いてしまった周囲の男性数人が、こめかみをピクピクさせながらレクトの方を睨んでいる。


「おい兄ちゃん。てめえ今姫巫女様のこと何つった!?」

「俺たちのサクラ様を侮辱して、タダで済むと思ってんのか!?」


 怒っている男たちの中でもやたらと体格の良い2人が、レクトのことを物凄い形相で睨んでいる。やわな人間なら腰が引けてしまいそうな状況ではあるが、不運なことに相手は強いどころか最強の傭兵レクトだ。


「何だぁ?やんのかコラ?俺は強えぞ?」


 当然の事ながら、レクトの方もビビるどころか拳を手のひらに叩きつけてやる気満々である。しかし、S組メンバーだってそれを黙って見過ごすわけにもいかない。


「先生!やめてくださいって!」

「そうです!ここは穏便に済ませましょう!」


 とにかくレクトを止めようと、フィーネとアイリスがレクトにしがみつく。レクトが喧嘩に負けることなどまずないのはわかっているが、この人混みの中で騒ぎを起こすのは流石にまずい。

 だがそんな一触即発の状況も、直後に上がった大きな悲鳴によって一瞬のうちに吹き飛ばされてしまうこととなった。

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