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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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いざ、炎の都へ

 レクトがクラウディアに修学旅行の事を依頼されてから5日後、つまり今日は修学旅行の当日である。

 そういう理由でレクト率いるS組は現在、クラウディアが自身のコネで使用にこぎ着けた政府関係者御用達の高速船に乗って海上を飛行している真っ最中だ。


「わあー!はやーい!!」


 ニナが思わず歓声を上げる。というのも、今自分たちが乗っている船が先程から次々に貿易用の飛行船を追い抜くのを見て、いかにこの高速船のスピードが桁外れであるのかを実感しているからだ。


「流石は政治家御用達の船ね。この前の飛行船よりも遥かに速いわ」


 リリアが関心したように言う。彼女の言うこの前の飛行船とは、レクトがS組メンバーをカリダの元へ連れていった時に利用した船のことだ。

 高速船がこれほどまでのスピードを出すことができる理由に関しては事前にレクトから説明があり、原理自体は同じ飛行船ではあるものの動力やフレームの強度が全く違うので飛行速度に結構な差が出るとのことである。


「先生、ヤマトまではどれくらいかかるんですか?」


 フィーネが尋ねた。勿論、いくら高速船と言えども海を越えなければならないことに変わりはないので、少なくとも30分や1時間といった範囲では到底無理であることは承知の上だ。


「普通の飛行船なら半日近くかかるが、この高速船ならざっと5時間ちょいってところだろう」

「えー、長いよぉー!」


 レクトが発した5時間という長さを聞いて、ニナが文句を垂れる。何しろ落ち着きのないニナにしてみれば、5時間も船内に閉じ込められるのは我慢ならないものがあるのだ。

 しかし実際には、半日を5時間に短縮できるだけでも十分といえよう。それがいまいち理解できていないニナに対し、レクトは半ば呆れたような口調になった。


「アホな事言うな。むしろ半日かからなかっただけでもありがたいと思え」

「ちぇー」

 

 ニナは少し不満そうになりながらも、再び船外の景色に目を向ける。そうは言っても窓の外に広がっているのは広大な海原と、その真上を行き来する飛行船が偶に見られるだけなのだが。

 そんなニナを余所に、ふとエレナが疑問に思った事を口にした。


「そういえば先生、どうしてヤマトは炎の都って呼ばれてるんですか?」


 ヤマトが炎の都と呼ばれるのは一般的にも有名な話ではあるが、よくよく考えてみれば彼女たちにしてみれば何故なのかは詳しく知らない。

 だがこの辺りは流石は博識なレクトとでも言うべきか、聞かれたことに対して迅速かつわかりやすいように説明する。


「ヤマトは国土面積の3分の1ぐらいが火山地帯なんだよ。というかそもそも、ヤマトの国がある島そのものが大昔の火山の噴火によって出来たとも言われているしな」


 その説明を聞いて、数名のメンバーが納得の表情を浮かべる。しかし説明の内容に疑問を持ったのか、アイリスがやや不安そうな表情になった。


「そんな場所が観光名所になってるんですか?なんだか危なそうですけど」


 火山だらけの国と言われたら、確かに危ないと思うのも無理はないだろう。そんなアイリスを諭すように、レクトは穏やかな口調で補足する。


「火山っつっても、年がら年中噴火してるわけじゃねえ。それに、ヤマトではその火山の熱を利用した文化も沢山あるからな」

「火山の熱を利用した文化って?」


 レクトの言っている事がいまいちピンとこなかったのか、ベロニカが疑問に満ちた声を上げる。そんな彼女にもわかるよう、レクトは更に具体例を挙げた。


「一番有名なのは温泉だな。あとは溶岩を利用した料理なんかもあるぞ」


 それを聞いて、ベロニカはなるほどといった顔をしている。しかし今の説明で理解できない部分があったのか、それまで窓の外の景色を見ていたニナが急にとんきょうな声を上げた。


「え!?ヤマトの人たちって溶岩を食べるの!?」

「そんなワケないでしょ」


 最早お約束とでも言わんばかりに、即座にリリアが指摘した。ニナを除いた他のメンバーは大体どういう事なのかは想像がついていたのだが、未だに理解できていないニナの為にレクトは更に補足する。


「溶岩を食うんじゃなくて、溶岩でできた道具なんかを使って料理をするんだよ。例えば、溶岩でできた岩の板を使って肉を焼いたりとかな」

「へぇー、おいしそー!」


 レクトの説明によってようやく内容が理解できたようで、食い意地の張ったニナは目を輝かせている。


「ま、でも食うかどうかはヤマトに着いてからの話だ。他にもヤマトには現地だけでしか食えないような物も多いからな」


 レクトの言葉を聞いて、ニナは更に期待に満ちたような表情になった。一方でエレナは、レクトの話を聞いてある事を思い出す。


「前に先生が言っていた、ヨウカンとかですか?」

「あぁ、そうそう。よく覚えてたな」


 以前レクトから聞いたヨウカンを食べたという“東の島国”は、やはりヤマトのことであった。

 レクトは船のキャビンに備え付けられている時計を確認すると、メンバー全員の顔を見渡す。


「とりあえず、わかってると思うが到着まではまだ時間がかかる。この航路はモンスターもほとんど出ないし安全だから、安心して各々自由に過ごしてていいぞ」

「「はい」」


 生徒たちは返事をすると、早速到着までの時間をどう使うか模索し始める。レクトはそんな生徒たちを横目に、備え付けられてソファーに座って1人本を読み始めた。

 



 とはいえ、たかが5時間、されど5時間である。自他共に認める本の虫であるルーチェはともかくとして、他のメンバーにとってはその5時間をどう過ごすかが大きな課題となった。


「あ。わたし、あがりです」

「嘘、またアイリスが一番?引き強すぎない?」

「その前にまずリリアはすぐ顔に出る癖を何とかした方がいいわよ」

「確かに。見てる方からすれば、すぐにわかるもの」


 アイリス、リリア、エレナ、フィーネの4名は船のキャビンの真ん中に備え付けられたテーブルに座ってカードゲームに没頭している。時間潰しとしては、ある意味定番ともいえよう。

 そんな彼女たちから少し離れた位置では、ルーチェが一人用の座椅子に腰掛けながら読書をしていた。こうなる事はあらかじめ想定していたのであろう、椅子の横には他にも数冊の本が積み重なった状態で置いてある。


「刀身…刃こぼれなし、柄…緩みやがたつきなし、と」


 一方、ベロニカは部屋の隅で自身の刀の手入れをしていた。流石は鍛冶屋の娘、おそらくは日頃からこういった武器の手入れも怠らないように言い聞かされているのだろう。

 そんなベロニカから少し離れた位置では、ニナがソファーの上で爆睡していた。最初は高速船からの景色を堪能していたのだが、海ばかりが続くので早々に飽きてしまったらしい。


「…」


 レクトはレクトで、ルーチェと同じように1人で本を読んでいる。実はほんの少し前にレクトが何を読んでいるのか興味を持ったニナが横から本を覗いたのだが、何が書いてあるかサッパリ理解できなかったので少なくとも専門的な学術書であることは間違いないだろう。




 それから数時間が経過し、する事が無くてゴロゴロしていたベロニカは何気なく窓の外に目を向けた。すると、何かに気が付いた様子で口を開く。


「あれっ、島が見えるぞ?」


 そんなベロニカの声を聞いて、カードゲームに飽き始めていた4人がぞろぞろと窓の周りに集まる。そこから見えたのは、大きな火山がいくつも点在している緑豊かな島であった。


「先生、火山のある島が見えますよ」

「もしかして、あれがヤマトじゃないですか?」


 フィーネとアイリスがレクトに声をかけた。レクトは相変わらず本を読んだままだがフィーネたちの言葉はしっかり聞いていたようで、顔は本に向けたまま答える。


「だろうな。時間的にそろそろ着いてもいい頃だ」


 そう言ってレクトは読みかけの本をパタンと閉じると、皆が集まっている窓の所へと向かう。ちなみにルーチェはその景色に興味が無いのか未だに本を読んだままであり、ニナは変わらず爆睡中である。

 レクトは窓の外を確認すると、1人納得したように頷く。


「間違いないな。ヤマトだ」


 そう言ってレクトは伸びをしながらキャビンの中央まで戻ると、改めてメンバーに指示を出した。


「距離的にあと15分ぐらいで着陸って感じだな。各自、いつでも降りられるように荷物をまとめておけよ」

「「はい」」


 生徒たちは返事をすると、それぞれ準備をする為に自分の荷物の置いてある場所へと向かっていく。レクトはそれを確認すると、キャビンの隅で本を読み続けているルーチェの方を見た。


「ルーチェ!聞こえてたか?」


 レクトはやや大きな声でルーチェに声をかける。それを聞いたルーチェは読んでいた本から顔を離し、レクトの方を向く。


「はい、大丈夫です」

「よし、ならいい」


 レクトはそのまま、ルーチェとは反対の方向にあるソファーに目を向ける。そのソファーの上では、相変わらずニナが爆睡している最中であった。

 レクトはそんなニナの元へズカズカと近寄ると、頰をペシペシと軽く叩きながら声をかける。


「ニナ、起きろ。もうすぐ着くぞ」

「んにゃ…ふぁい?」


 ニナは寝ぼけ眼のまま体をゆっくりと起こすと、キョロキョロと辺りを見回す。いつもならばここで寝ぼけながら珍妙な事を言うのがお約束なのだが、今回は珍しく数秒で状況を理解するとソファーからゆっくりと立ち上がった。


「はぁーい…」


 ニナは気の抜けた返事をすると、目をこすりながらとぼとぼとキャビンの隅、自分の荷物が置いてある場所へと向かう。それを見届けたレクトは、自身も降りる準備を始めることにした。

 それから程なくして、高速船はヤマトの地に降り立ったのだった。

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