表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
75/152

S組の修学旅行

「あ、レクトさん。校長の用事って何だったんですか?」

 

 校長室から戻ってきたレクトを見るなり、早速と言わんばかりにジーナが聞いてきた。もっとも、レクトとしてもどの道ジーナには話しておかなければならない事であるは確かなのだが。


「1ヶ月先の予定だった修学旅行を早めて、5日後に決めたってさ」


 レクトは端的に説明したが、余りにも突然の決定であったからか当然のようにジーナは驚いたような様子だ。ところが彼女はすぐに何かを察したようで、確認するようにレクトに再度尋ねる。


「それはまた随分と急な話ですね。もしかしてヤマトの祭の時期に合わせたってことですか?」


 ジーナは何の気なしに聞いたようだが、彼女の質問の内容に今度はレクトの方が驚かされてしまった。


「ん?ヤマトに行くって事、知ってたのか?」


 今朝になって自分が聞かされたばかりの修学旅行の行き先を何故かジーナが知っていたので、レクトにしてみれば不思議で仕方がない。

 しかしそんなレクトとは裏腹に、ジーナの方はやや呆れたような表情をしていた。


「…初日にレクトさんにお渡しした行事予定表に、ヤマトへの修学旅行の事についても書いてあった筈なんですが」

「あれ?そうだっけ?」


 それを聞いて、レクトは初日の事を思い返す。彼の性格上あやふやな記憶ではあったが、言われてみると確かにそのような予定表を渡されていた気がしないでもない。というより、クラウディアに対しても前々から決まっていたのなら最初に言ってくれればいいのにという気持ちもあった。

 とはいえ、ジーナの方もやや嫌味がかった言い方ではあったものの、この場合は誰がどう見ても普段からいい加減なレクトの方に非があるのは明白だ。


「悪い悪い。それと、修学旅行中はジーナには別に頼みたいことがあるから、引率は俺1人なんだってさ」


 軽く謝罪しながらも、レクトはもう1つの重要な事項をジーナに伝える。副担任がついていかないなど普通に考えればおかしいことではあるのだが、ジーナはさも当然といった様子で返事をした。


「はい、わかってます」

「…どうして?」


 留守番のことも知っているときっぱり言われてしまったので、レクトは再びジーナに尋ねる。だが流石にこの答えに関してはレクト自身も何となくは察しており、実際にジーナから返ってきた答えも彼の予想通りではあった。


「…さっきお話しした行事予定表に、修学旅行についてはジーナは別用で不参加って書いてありますよ」

「えーと、なんかごめん」


 レクトはジーナに軽く謝罪すると、つい先程クラウディアに渡されたプリントを持ってS組の教室へ向かった。


 


 


 S組の教室では、既にメンバー全員が着席した状態で担任であるレクトの到着を待っていた。そしてホームルーム開始を告げる鐘が鳴る丁度1分前に教室の扉が開かれ、担任であるレクトが姿を現す。


「あー、めんどくせー」

「開口一番に何言ってんのよ、この教師は」


 問題だらけのレクトの発言に対し、リリアが真っ先に指摘した。そうは言ってもレクトが本能の赴くままに生きているのは既にS組メンバーにとっては周知の事実であり、多少の指摘はしてもいちいち追求したりはしない。無論、それが無駄な事であると全員がわかっているからである。

 そんな冷ややかな生徒たちの視線を浴びながら、レクトは教卓の前に立つ。


「授業の前に、お前らに言っておく事がある」


 レクトの一言に、それまで呆れ顔であった生徒たちが改めて彼の方を見る。今までの経験上、こういう時にレクトが言う事は割と重要な内容であることが多かったからだ。そして、今回に関してもそれは例外ではなかった。


「1ヶ月後に修学旅行があるのは知ってるか?」

「はい、知っています」


 当たり前のようにアイリスが返事をした。それは他のメンバーも同じようで、皆驚いた様子もなく頷いたり、黙って聞いている。ただ、ニナだけは頭に疑問符を浮かべていたが。


「あれ?そうだったっけ?」

「あんたは黙って聞いてなさい」


 とぼけた発言をするニナを、ルーチェが静かにさせる。ところが、このすぐ後のレクトの一言によって教室の空気が一変することとなった。


「その修学旅行の予定が早まって、5日後に決まった」

「「「えぇーっ!?」」」


 やはりと言うべきか、生徒たちから返ってきたのは驚きの声であった。とはいえ最初に聞いた時はレクトですら驚いたのだ。彼女たちが驚愕するのも無理もないが。


「っていうかセンセイ、いくらなんでも急すぎるぞ!」


 大きな声でベロニカが文句を垂れる。彼女の言い分もわかるのだが、レクトだって好きでこういうスケジュールにしている訳ではないのだ。


「俺に言うなっての。決めたのは校長なんだからよ」


 レクトは肩をすくめながら言った。実際、日程の繰り上げを決めたのは他でもない校長であるクラウディアなのだし、レクトに言われても困るのは事実だ。しかしあまりにも突然の決定に、当然のように教室がザワザワと騒がしくなった。


「どうしよう、帰ったらすぐ準備始めないと…」

「とりあえずは着替え?あぁでも買わなきゃいけない物の方が先か!」

「写真機は?誰か持っていく?」


 やはり全員、準備の期間が短いことに不安を抱いているようだ。しかし彼女たちにとっては重要であっても、普段から生活面に関しては適当かついい加減なレクトにしてみれば実にくだらない、というよりどうでもいい問題であった。


「準備って言ってもよ、たかだか2泊3日だぜ?そんな大それたもんじゃないだろ。それぐらい1日でできるだろうが」


 とりあえずは皆を落ち着かせようと、レクトはやや適当な発言をする。しかし当然、そんな台詞で生徒たちが納得する筈もなかった。


「先生は男だからわかんないでしょうけど、女の子は色々と準備が大変なの!」


 リリアがビシッと指差して言った。数名のS組メンバーも同意するようにウンウンと頷いているが、肝心のレクトはいまいちピンときていない。投げやりな態度で目を細めながら、こめかみに指を当てている。


「何だよ?アレか?生理用品?ナプキン的なヤツ?」

「そういうのは声に出して言わないでください!」


 相変わらずデリカシーの欠如したレクトの発言に、エレナが顔を真っ赤にして怒鳴った。というよりドSなレクトの性格上、こういう時の皆の反応を見て楽しんでいるのは明白だ。1ヶ月以上も付き合えば流石にそんな事は全員がわかりきっている。

 ところがそれまで萎えたような態度であったレクトが、急に何かを思い出したように真面目な顔つきになった。


「あ、そうだ。全員、武器も忘れずに持っていけよ」


 言っている事自体はまともなのだが、言われた生徒たちはぽかんとしている。というのも、彼女たちにしてみれば観光がメインになるであろう修学旅行に何故武器が必要なのかがわからなかったからだ。


「武器?現地で実戦訓練でも行うんですか?」


 フィーネが手をあげて質問した。武器を持って行くとなると、それぐらいしか理由は思いつかないからだ。だがそんなフィーネの予想は外れていたのか、レクトは手を軽く振って否定する。


「いや。特にそんな予定は無いが、現地で何があるかわからないからな。勿論、何もないに越した事はないが、もしかしたら何か事件に巻き込まれる可能性もゼロじゃないだろ」

「不吉な事言わないでくださいよ」


 縁起でもないことを平然と言うレクトに、すかさずルーチェが言及した。レクトの言う事もわからないでもないのだが、何しろ行き先であるヤマトは観光地として有名な場所なのだ。

 多くの観光客が訪れる以上は現地の警備だってしっかりしているだろうし、万一の事に対する備えだって万全の筈である。無論、レクトだってそんな事は当たり前のように理解していた。


「あと、お前ら分類としては間違いなく美少女の方に入るだろうからさ、悪い虫が寄ってきたら武器で撃退できるだろ?」

「なっ!?」

「えっ!」


 レクトは冗談めかして言ったが、さりげなく美少女と言われた事に対して大半のメンバーが顔を赤くする。唯一、冷静なルーチェだけはドライな反応を見せているが。

 兎にも角にも一通りの説明が終わったので、レクトはこれで一旦話を切り上げる。


「まあ、決定になっちまったものは仕方ねえ。全員、5日後までには準備しておくように」

「「「はい。」」」


 相変わらずレクトはどこかいい加減な口調ではあるが、もうすっかり慣れてしまったのか生徒たちは当たり前のように返事をした。

 だがレクトの発言が後に現実のものとなってしまうなど、この時は言った本人であるレクトを始め誰一人として予想してはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ