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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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クラウディアからの頼み

 早朝のサンクトゥス女学園。例によって眠そうなレクトは、欠伸をしながら職員室の扉を開ける。すれ違う教師たちと軽く挨拶を交わしながら、自身の席へと荷物を下ろした。


「あ。おはようございます、レクトさん」

「おう、おはようさん」


 隣のジーナに声をかけられ、レクトも挨拶を返す。とりあえず眠気覚ましにコーヒーでも飲もうかとレクトは考えるが、その前にジーナからある事を知らされた。


「そうそう、レクトさん。校長が呼んでましたよ。できるだけ早く校長室に来て欲しいそうです」


 ジーナは特に気にした様子もなく言ったが、一方でそれを聞いたレクトは首をかしげている。


「校長室に?俺、なんかしたっけなあ?」


 最近は問題を起こしたような心当たりが特になかったので、レクトは何とか該当する出来事を思い出そうと試みる。彼の中では呼び出し=何か問題を起こした、ということにでもなっているのだろうが、ジーナは苦笑いをしながら話を続けた。


「あの、多分お説教とかの類じゃなくて、何か重要な話があるんだと思いますけど」

「あぁ、なるほどね。まぁいいや。ちょっくら行ってくる」


 そう言ってレクトは椅子から立ち上がると、足早に校長室へと向かっていった。




 校長室へとたどり着いたレクトは、早速室内にいるであろうクラウディアに声をかける。


「よう校長、入るぜ」

「どうぞ」


 室内から返事が聞こえてきたので、レクトはさっさと扉を開ける。クラウディアはいつもと変わらぬ様子で黒いドレスを身に纏い、奥に座っていた。


「あらレクト、おはよう。早速だけど、実は貴方に頼みがあるのよ」

「頼みだと?」


 クラウディアの元へ歩み寄りながら、レクトは怪訝そうな顔で尋ねる。とはいえクラウディアからの頼みといえば、S組関連の事にはまず間違いないのは確かだが。


「頼みっていうのはね、S組の生徒たちを泊まりがけで遠くの国へ連れて行ってあげて欲しいのよ。要するに、修学旅行ってことね」

「修学旅行、ねえ」


 クラウディアの話を聞いて、レクトは腕を組む。サンクトゥス女学園だって立派な学校なのだ。別に修学旅行に行く事自体は不思議ではない。

 だが、レクトには1つ腑に落ちない点があった。


「でもよ、修学旅行だったら普通は他のクラスの連中と一緒に行くもんじゃないのか?」


 レクトの言う事ももっともだ。修学旅行ならばクラス毎ではなく、学校単位で行くのが普通だ。実際、レクトが学生の時もそうであったので、彼からしてみればかなりイレギュラーな話なのである。

 しかしこれも、クラウディアの方にもちゃんとした考えがあってのことであった。


「普通の学校はそうかもしれないけれど、うちの学園はクラスによって育成方針が全く違うもの。それならクラス毎にふさわしい場所に行った方が賢明だと思わない?」


 確かに言われてみればそうだ。例えば治療専門のクラスが野戦病院に研修に行くのは意味があるのだろうが、それを魔法専門のクラスに行わせたとしても大した収穫は望めないだろう。

 そんなクラウディアの説明を聞き、レクトはあっさり納得した様子で次の質問をぶつける。


「納得したよ。んで?場所はどこだ?」

「炎の都『ヤマト』よ」


 クラウディアの返答を聞き、レクトは少し意外そうな表情を浮かべた。もっとも別に否定的な様子ではなく、単に予想外だったという感じではあるが。


「ヤマト…東にある島国か」

「えぇ、行ったことはあるかしら?」


 ヤマトは観光地としてとても有名なので、やはりと言うべきか当然のようにレクトも知っていた。行ったことがあるかというクラウディアの質問に、レクトはやや低めのテンションで答える。


「1度だけな。観光じゃなく、バケモノ退治をしに行ったんだが」

「あら、そう」


 レクトの態度から察したのか、クラウディアは深く追求せずに軽く流した。どうやらレクトにとって、ヤマトはあまりいい思い出のある土地ではないらしい。

 しかしこれはれっきとした教師としての仕事だ。拒否するわけにもいかないので、レクトはさっさと話を進める。


「で?出発はいつだ?」


 レクトは当然の質問をする。いい加減な彼の性格上特に念入りに準備をするという事はないのだが、それでも聞いておかなければならないのは当たり前と言えよう。

 だが、クラウディアから返ってきた答えは彼の想像の遥か斜め上を行っていた。


「5日後よ」


 クラウディアは当たり前といった様子で即答するが、一方でそれを聞いたレクトは驚きを隠せなかった。勿論、理由など決まっている。


「5日だぁ!?いくらなんでも急すぎねえか?」


 何しろそれまで何も知らされていなかったのに、急に5日後に修学旅行に行く事が決まったというのだ。そりゃあ誰だって驚くのも無理はない。しかし、クラウディアの方も好き好んで無茶振りをしているわけではないようだった。


「本当はあと1ヶ月先の予定だったんだけど、駄目だと思ってた高速船こうそくせんの使用許可が急遽降りたのよ。それがちょうど5日後なの」


 驚くレクトに対し、クラウディアは一応の事情を説明する。その話の中には、レクトにとっても気になる単語が含まれていた。


「高速船…王族とか政府関係者が使う高性能な飛行船だよな」


 高速船とは、通常の飛行船よりもはるかに速いスピードで移動する事が可能な船だ。レクトの言うように本来は王族や政府関係者が他国へ移動する際に使われるもので一般人には貸し出す筈などないのだが、色々な意味で国王とのコネがあるクラウディアであれば使用許可が降りるというのも何となく察しがつく。


「ええ、そうよ。流石の貴方も乗ったことはないかしら?」

「いや、一度だけある」

「あら、そうなの」


 レクトの意外な返答に、今度はクラウディアが少しだけ驚いたような返事をする。しかし今はそんな話はどうでもよいので、クラウディアはさっさと話を進めることにした。

 次に彼女が話し出したのは、修学旅行の時期を早めたもう1つの理由についてであった。


「しかもねレクト、今のヤマトは修学旅行にはおあつらえ向きの時期なのよ」

「そりゃあどういう事だ?」


 特に心当たりが無いのか、レクトは真顔で尋ねる。


「来週、ヤマトでは年に一度の『不死鳥ふしちょうまつり』があるのよ。どうせならあの子たちも祭りに参加させて、楽しませてあげたいじゃない?」


 クラウディアは笑顔で答えた。やはり校長という立場上、生徒たちに楽しい思いをさせてやりたいという感情が彼女にはあるのだろう。しかし、そんな彼女に対してレクトはやや呆れ顔で言及する。


「校長。一応聞くけどさ、あんた修学旅行の意味わかってるよな?遊びじゃねえんだぞ」

「まあ。まさか貴方からそんな台詞が聞けるなんてね」


 皮肉じみたレクトの発言に、クラウディアは皮肉を込めて返す。これ以上の問答は無意味だと判断したのかレクトは目を細めながら口を閉ざしてしまい、これ見よがしにクラウディアは更に話を進める。


「あ、ちなみにジーナはお留守番だからね」

「あん?なんでだよ?」


 副担任であるジーナが留守番という事実に対し、レクトは怪訝そうな顔をしながら尋ねる。レクトとしては別に彼女がいなくても心配事などはないが、副担任が一緒に来ないという事自体がまずおかしいと思ったのだ。

 しかし、クラウディアは特に隠す様子もなくあっさりと答える。


「貴方がいない間、彼女には別にやってほしい事があるのよ」

「あぁ、そう」


 レクトはぶっきらぼうに返事をした。そこまでしてジーナにやってほしい事は一体何なのかというのも若干気にはなったが、今はそれよりも自分の修学旅行の引率のことが先決だ。何より聞いたところでクラウディアが素直に答えてくれるとも思っていなかったので、帰ってきてから直接ジーナ本人に聞けばいいと思ったというのもあるが。


「それと、親御さんたちへの連絡用の資料はもう作ってあるわ。朝のホームルームの時にあの子たちに配っておいてちょうだい」

「了解」


 レクトは軽く返事をすると、クラウディアが差し出した書類の束を受け取る。そのまま踵を返すと、足早に校長室を出て行った。

 そうやってレクトを見送ったクラウディアは、他に誰もいなくなった校長室で1人呟く。


「よろしく頼んだわよ、レクト」

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