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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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Let's!家庭訪問!〜報告編〜

 家庭訪問を全て終えたレクトは、一旦学園に戻ってきていた。とりあえずはジーナにどういう話があったかを報告して、その後は校長に声をかけに行くつもり…の筈だったのだが。


「フィーネちゃんのお母さんを怒らせて、追い返されたぁ!?」


 ジーナはあり得ないといった様子で、思わず大声で叫んだ。当然のように周りの教師たちは何事かとジーナの方を見ており、目の前で彼女の説教をくらっているレクトはうるさそうに耳を塞いでいる。


「んな大声出すなっての。周りに迷惑だろうが」


 ジーナの驚きなどお構いなしに、レクトはあっけらかんとした様子だ。これっぽっちも悪びれた素振りを見せないレクトに対して、ジーナは事の重大さを説明する。


「レクトさん、状況わかってます!?フィーネちゃんのお母さんはフォルティス王国評議会の議長なんですよ!?」

「それは前に聞いたって。だから何?母親は母親だろ」


 物凄い剣幕になって必死に説明しているジーナに対し、怖いもの知らずのレクトは何とも思っていないようだ。目の前の男がどうにも状況を理解できていないと思ったのか、ジーナは周りの目も気にせず更に大きな声になった。


「いいですか?評議会の最高権力者って事は、下手すれば王国騎士団だって動かせるんですよ!?もし学校に騎士団の矛先が向いたりしたら…!」


 確かに家庭訪問の時も母親の言葉は脅迫に近い形ではあったし、ジーナの言うように王国騎士団を敵に回せば普通はタダでは済まないだろう。

 ただしそれはあくまでも普通の場合であり、目の前の男は違っていたのだが。


「その時は騎士団全員、1人残らず俺が叩き潰す」


(あぁ駄目だ!この人には常識ってものが通用しない!!)


 レクトの堂々たる発言を聞き、ジーナは心の中でがっくりとうなだれた。この男ほどに唯我独尊という言葉が似合う人間もいないだろう。いや、この場合は傍若無人と言うべきか。

 依然としてあたふたし続ける彼女に対し、レクトは真顔で話を切り上げようとする。


「つーか俺、もう校長に報告しに行っていいか?今日はさっさと帰って酒場で一杯やりたいんだよ」

「あぁ…はい…」


 これ以上話しても無駄だと思ったのか、ジーナはもう諦めたかのように返事をする。レクトはそんな彼女を尻目に、さっさと校長室へと向かった。


 


 


 その夜、フィーネは家の自室で一人物思いにふけっていた。あの後母親からは帰宅するまで延々とあの男を信用するなだの、今すぐ辞めさせてやるだのといった事を聞かされ続けたのだった。

 普段であれば夜は自室でも勉強をしているところであるが、今日はそんな気にはなれずにただベッドに座っているだけだ。


「私…やっぱり天才なんかじゃないんだ」


 学校でレクトに言われた言葉は、フィーネの中に強烈に根付いていた。しかしその理由は決して反抗的なものではなく、むしろ彼の言葉が的を射ていたからに他ならない。


「初めてだ…私の事、天才じゃないって言った人…」


 これまで散々周りから天才と持てはやされ続けていた人間が、ある日突然それを否定されれば普通なら少なからずショックを受ける筈である。だがフィーネ自身はショックを受けるどころか、何か胸のつかえが取れたような感覚さえ覚えていた。

 あの先生、レクトはこれまで自分が出会ってきた、ただただ自分を褒めるだけの教師とは根本的に何かが違う。それは彼がかつて世界を救った英雄であるからなのかはたまた別の理由であるのかはわからないが、フィーネの中では彼が英雄となった理由が少しだけ理解できたような気がしていた。






 翌朝、サンクトゥス女学園の廊下を歩いていたレクトは、背後から唐突に声をかけられた。


「レクト先生!」


 名前を呼ばれてレクトが振り返ると、そこには真剣な表情をしたフィーネが立っていた。口では上手く言い表せないが、何かを決意したような強い目をしている。


「フィーネか、どうした?」


 呼ばれたことに変わりはないので、レクトは一応の返事をする。だがフィーネからは、思いがけない質問が飛んできた。


「先生!私、天才じゃないですよね!?」

「は?」


 なぜ彼女が急にそんな質問をしてきたのか、その理由はレクトにはよくわからなかった。だが質問された以上は答えない訳にもいかない。


「あぁ、天才じゃねえな」


 レクトは何の気なしに率直に答えた。だがその直後、レクトは思わずぎょっとしてしまう。天才ではないと自分を否定された筈のフィーネが、満面の笑顔を浮かべていたのだ。


「ありがとうございます、先生!!」


 フィーネは大きな声でレクトに礼を言うと、そのまま走り去ってしまった。1人残されたレクトは頭をかきながら、何かを察したように呟いた。


「ま、結果オーライってことか」


 兎にも角にも、こうしてレクトのS組家庭訪問はようやく終わりを迎えたのであった。

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