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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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Let's!家庭訪問!〜リリア編〜

 レクトの家庭訪問、6人目はリリアだ。しかし今現在レクトが歩いているのはこれまでの大通りや住宅街と違い、豪華な屋敷や邸宅が立ち並んでいる。

 そう、ここはフォルティスでも有数の貴族のみが住むことのできる居住区なのだ。


「相変わらずここの雰囲気は好きになれねーな」


 レクトは手に持った地図と周りの風景を交互に見ながら、ぼやくように言った。言葉の通り、レクトがこの居住区に来るのは今日が初めてではない。傭兵時代に貴族からも仕事の依頼を受けていたレクトは、依頼人に会うために何度もこの場所に足を運んだ事があったからだ。


「あった、ここだな」


 レクトはそう呟くと、ここら一帯でも一際大きな屋敷の前で立ち止まった。地図に書かれているジーナのメモ書きによると、獅子をかたどった2体の像が並んだ門が目印とのことである。そしてその通り、目の前の屋敷の門には2体の獅子の像が並んでいたのだ。

 門番らしき男が2人立っていたので、レクトは早速話しかける。当然のように門番にも既に話は通っていたのか、自身の名前を出しただけですんなり通してもらうことができた。


「しかし広い庭だな。ドラゴンでも飼えるんじゃねえか?」


 独り言のように皮肉を言いながら、レクトは広大な庭を通って屋敷の入口へと向かう。周囲には庭園が広がっており、庭師と思われる男性が数人、バラの剪定や草花の刈り込みをしていた。

 屋敷の扉の前まで来ると、ノックもしていないのに扉が開かれる。扉の奥からはフォーマルな服装をした執事らしき男性が現れ、レクトに向かって一礼した。


「レクト・マギステネル様ですね、お話は伺っております。旦那様は奥の部屋でお待ちになられていますので、ご案内致します」

「お、おう」


 あまりにスムーズかつ迅速な流れにレクトは多少戸惑いながらも、先導する執事について行く。レクトにとっては無駄すぎるとも思える広さの廊下を歩きながら、途中何度かメイドや使用人とすれ違った。やはりこれだけの大豪邸だ、働いている人間の数も相当なものなのだろう。

 そうやって廊下を少し歩いていると、執事がある扉の前で立ち止まった。扉には金の装飾が施してあり、見るからに偉い人の部屋です、といった雰囲気だ。


「ではレクト様、少々お待ちになってください」


 そう言って執事はレクトに軽く頭を下げると、その豪華な扉をノックしながら部屋の中にいるのであろう人物に声をかけた。


「旦那様、レクト・マギステネル様がいらっしゃいました」

「入ってもらいなさい」


 部屋の中から男性の声がしたかと思うと、執事はゆっくりと扉を開く。部屋はどうやら書斎のようであり、奥の机には白髪混じりの男性がパイプを吹かしながら座っていた。

 レクトは早速部屋の中へと踏み込むと、男性の顔を見てニヤつきながら口を開く。


「よう騎士団長殿。おっと、今は“元”騎士団長か。それともエルトワーズ議員って呼んだ方がいいのか?」


 これまではジーナの言いつけ通りに敬語を使っていたにも関わらず、レクトはかなり軽い口調のまま男性の元へと近付いていった。男性の方もそんなレクトの態度に一切動じることもなく、穏やかな様子で応対する。


「会うのは3年ぶりか、レクト。娘のリリアが世話になっているようだな」


 レクトが自身の向かいに座ると、エルトワーズ議員、もといリリアの父親はパイプを側にあった灰皿の上に置いた。そして、今度は書斎の入り口に立ったままの執事の方を向く。


「ご苦労。下がっていいぞ」


 それを聞いた執事は深々と頭を下げると、静かに部屋を出て行った。書斎の中は2人だけになったところで、レクトの方から話を切り出す。


「早速だが事後報告、しかも1ヶ月以上も前の話で悪いが、あのじゃじゃ馬娘を屈服させるために少々手荒な手段を使わせてもらったぜ」


 レクトの言う手荒な手段とは、他でもないリリアを屈服させる為に行った補習のことだ。レクトの言うように、既にあの時から1ヶ月以上も経過しているので正直なところ今更ではあるのだが。


「知っている、キングキマイラの件だな。それは一向に構わん。むしろ感謝しているぐらいだ」


 リリアの父親が冷静に答えたので、流石のレクトも驚きを隠せなかった。


「意外だな。実の娘が命の危険に晒されたっていうのによ」


 普通であれば娘を危険に晒されたなど、親が黙っている筈がない。だが目の前にいる父親はそれについてはお咎めが無いどころか、感謝していると言うのだ。


「狡猾なお前のことだ。最初から結果がどうなるか全てわかった上で仕組んだのだろう?」


 レクトの考えを見透かしたかのように、父親は微笑を浮かべながら確認するように言った。実際、その解釈は遠からずも当たっていたので、レクトは何となく面白くなさそうな様子である。


「あの一件でリリアは自分の無知さと力不足を痛感したようだ。口には出さないが、以前よりも鍛錬に熱が入っているように見える」


 レクトが返事をする前に、父親の方から先に理由を述べた。しかしレクトの性格上、戦いであろうが会話であろうが相手に主導権を握られるのは気に食わない。それに旧知の中である元騎士団長には色々と話しておきたい事も色々とあったので、とりあえずは話題を変えることにした。


「娘がいるって事は前にあんたから聞いたことがあったが、まさか俺がその娘を教える立場になるとはな」


 若干皮肉めいた口調で、レクトは茶化すように言った。しかしリリアの父親はそれを軽く受け流し、少し呆れたように反論する。


「それはこちらの台詞だ、レクト。陛下がお前を推薦したと聞いて、最初は一体何の間違いかと思ったぞ」


(そうか、校長と国王の関係は知らないのか)


 レクトは心の中で呟いた。一般市民から見ればレクトは世界を救った英雄ではあるものの、目の前の元騎士団長のように彼の人となりを知る者からしてみれば、腕は立つが人の不幸を見て喜ぶような外道でしかないからだ。

 しかし校長と国王の関係は一応他言無用という形になっているので、レクトははぐらかすようにして更に話題を変えた。


「そういや、確かあんたには息子もいた筈だよな?ウチは女子校だし、息子の方は別の学校に通ってるのか?」


 レクトの質問はかなり唐突ではあったものの、幸いにもレクトが国王に推薦された理由自体には深く興味を抱いてはいなかったようで、父親もそれ以上は追及せずに答える。


「いいや、息子はリリアより5つ年上だ。騎士の養成学校に通っていたが、もう卒業して今は王国騎士団にいる」

「へえ、そうなのか」


 レクトは若干適当な相槌を打つ。ところがここで、父親の口から思いも寄らぬ話題が飛び出した。


「ちなみに陛下の御前でのお前の蛮行も、現場で見ていたそうだ」


 国王の蛮行といえば、魔王を倒した後に王城に呼び出された件に違いない。とはいえ当時のレクトはリリアの兄どころか今彼が受け持っているリリアの顔すら知らなかったので、あの場にいたとしても気付かないのも当然ではあるが。


「あぁ、あの時部屋にいたのか。それで?実際に俺を見て幻滅でもしたってか?」


 レクトは再び皮肉めいた口調で質問した。レクト自身は全く興味がないのだが、実際に本人の傍若無人ぶりを見て四英雄レクトに幻滅した人間は数知れない。しかし、父親からは意外な答えが返ってきた。


「そうでもない。何しろ、お前の人となりについては前々から子供たちに話していたからな。実際に自分の目で見て多少驚きはしたようだが」

「あぁ、そう」


 レクトは澄ました様子で返事をする。もっとも、仮に幻滅されたところでレクトにしてみれば何てことはないが。しかし、本当に重要なのはリリアの兄ではなく、やはりリリア本人に関することであった。


「ところが当時のリリアはお前についての話を聞いて大層憤慨していてな。数ヶ月前にお前が魔王メトゥスを倒したと聞いてもあり得ないと言って信じようとはしなかったよ」


 父親は肩をすくめながら言った。確かに潔癖な性格のリリアならそう思うのも頷けるし、それを聞いてレクトはある事を思い返す。


(初日にリリアがやたら俺に突っかかってきたのは、それが理由か)


 最初にリリアがレクトの事を認めようとしなかったのは、どうやら彼女が父親から聞いた話に原因があったらしい。

 とはいえリリアの父親に関しては彼が騎士団長であった頃から知っているので、話を脚色したとはレクトには思えなかった。単純に、レクト自身の性格や行動が潔癖なリリアには許せなかったというだけだろう。というより、レクトの蛮行に彼女がいちいち突っかかって来るのは今も変わりないが。

 そんな事を考えながら、レクトは父親の話の続きに耳を傾ける。


「だがそれもキングキマイラの一件で考えを改めたようだ。少なくとも今のリリアはお前の事をフォルティス最強の剣士として見ているのは間違いない」

「ほう」

「もっとも、お前の傍若無人ぶりについてはいまも時折口にする事があるがな」


 父親はやや呆れた様子で付け足すように言った。とはいえレクトにとっては心当たりがありすぎたので、どの事かは確認せずにストレートな質問を投げかける。


「それは保護者であるあんたからの、俺に対してのクレームか?」


 レクトの口調自体はかなり挑発的ではあったが、顔はニヤついていたのでどうやら冗談めかして言っただけのようだ。父親の方もそれはわかっていたようで、目には目をとでも言わんばかりに皮肉を返す。


「冗談を言うな。それでお前が行動を改善してくれるというのならば、とうの昔に言っている」


 レクトの事をよく知る人物からしてみれば、今更彼が性格を直してくれるなど期待する方が無駄なのだ。

 リリアの父親は先程灰皿に置いたパイプを再び手に取ると、それを口元へと持っていく。パイプにしろ葉巻にしろ、普通なら相手に一言断るのが筋であるが、相手が旧知の中であるレクトであるからかそういった類のものは一切なかった。レクトの方も当然それは理解しており、特に気にした様子もなく一服終えるのを黙って待っている。


「さて、余計な話はここまでにして本題に入ろうか。リリアが将来、優秀な騎士になれるかどうかはお前にかかっている部分もあるのだからな?」


 そう言いながら、父親は再びパイプを灰皿に置いた。しかし今度は同時にパイプの中身を灰皿に棄てた為、どうやらこれ以上は吸わないつもりらしい。

 使い終わった灰皿を机の脇に退けるのを見ながら、レクトはやっぱりかといった様子で口を開く。


「あ、やっぱ息子の方だけじゃなくってリリアも騎士にするつもりなんだ」

「当然だろう。元よりリリア本人もそのつもりなのだからな」


 ある程度予想はしていたが、父親の口からはっきりと騎士という言葉が聞けたのでレクトは改めて合点がいったような表情になる。そんな父親のリリアに対する希望がわかったところで、本格的な家庭訪問の内容がようやく始まった。






 レクトが話した内容はこれまでの生徒たちの時とほとんど一緒だ。リリアの普段の学校での様子、授業での出来不出来、実戦での動きなど。

 父親の方もやはり騎士としての性なのか実戦に関する話については特に熱心に聞いていたようで、時折レクトの話を遮って質問まで投げかけていた。


「レクト、何故そこで自由に戦わせたのだ?お前が弱点を事前に教えてやればもっと早くカタがついていただろう。事前に相手の事を知っておくのは兵法の基本だぞ?」

「それだと直前まで何と戦うか伏せた意味がねえだろうが。初めて見る相手をどう攻略するか戦闘中に考えるのも必要なことだろ」

「むう…一理あるな」


 意見をぶつけられながらも、レクトは持論を交えながら答える。レクトの授業は何も考えていないような思いつきでやっているように見えても、実際にはちゃんとした理由に基づいてやっているのだ。もっとも、その過程で生徒たちをおちょくったり辱めて楽しんでいるのも事実ではあるが。

 一通り話し終えて、レクトは一息つく。


「とりあえず、こんなもんだ。他に聞いておくことはあるか?」


 机の上に広げられた資料をまとめながら、レクトが尋ねた。しかし聞きたいこと自体はもう無いのか、リリアの父親は首を横に振る。


「いや、今日のところはもう十分だ。思っていたよりお前が真面目に取り組んでいたので少し安心した」

「そいつはどうも」


 茶化しているのか皮肉っているのかはわからないが、笑いながら言う父親に対してレクトは肩をすくめて返事をした。

 とにかくこれでリリアの家庭訪問は終了だ。だがレクトが使い終わった資料を鞄にしまい、立ち上がろうとしたところで唐突に父親が口を開いた。


「レクト、1つ聞いてもよいか?」

「何だ?」


 鞄を背負い、立ち上がりながらレクトは返事をする。


「国王陛下の推薦とはいえ、何故この仕事を引き受けたのだ?仮に断ったとしても、お前ならば特に何のお咎めもないだろう」


 どうやら父親の方としては、レクトがこの仕事を引き受けたのがどうにも腑に落ちないらしい。その質問に対してレクトは少し考えると、やや難しそうな顔をしながら答える。


「最初は何の気なしに受けたが、今はあんたの娘を含めたガキどもに興味が湧いたから、かな?」

「何故そこは疑問形なのだ」


 どうにも曖昧な答えを返すレクトに、父親は怪訝そうな顔で聞き返す。


「自分でもよくわかんねえんだよ。つまらなくなったらさっさと辞めてやろうとでも思ってたんだが、不思議と今でもつまらないって感じはしなくてな」


 その答えはレクト自身にもよくわかっていないのか、人差し指をこめかみに当てながら答えた。そしてこれ以上聞いても明確な答えは得られないと判断したのか、父親は少し呆れたような様子で目を伏せる。


「相変わらず、何を考えているのかよくわからん奴だ」

「褒め言葉として受け取っておこうか」


 レクトはそう答えると、手をひらひらと軽く振って扉の方へと向かう。だが彼が扉の取っ手に手をかけようとした時、ふと後ろから声が聞こえた。


「レクトよ、この仕事を引き受けてくれて感謝するぞ」


 レクトは父親に背を向けたままであったが、どうやら彼が嬉しそうなのは顔を見ずともわかった。しかしレクトは一呼吸おくと、実に彼らしい言葉を返す。


「あんたが礼を言うのは、まだ早いと思うが」

「ふっ、それもそうだな」


 その返事を聞くや否や、レクトは扉を開けて部屋を出て行った。

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