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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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Let's!家庭訪問!〜エレナ編〜

 家庭訪問もこれで4件目。ようやく折り返し地点といったところだ。次の目的地であるエレナの家を探して、レクトは城下町の中心部から少し外れた住宅街を歩いていた。


「図書館の近くにある真っ白な壁の家…あれか。父親が司祭だって聞いてたけど、自宅は割と普通なんだな」


 お目当ての建物を発見し、早速レクトはそこへ向かう。以前、エレナから父親は司祭をしていると聞いたことがあったので、レクトとしてはてっきり自宅も教会のような建物であると思っていたようだ。

 家の前まで来ると、早速レクトは扉のすぐ横にあった呼び出し用の鐘を鳴らす。すると、10秒もしないうちに扉の奥から男性の声が聞こえてきた。


「はい、少々お待ちください」


 声がして間も無く、目の前の扉が開かれる。レクトを出迎えたのは眼鏡をかけた長身の男性であり、おそらくこの男性がエレナの父親なのだろう。


「あぁ、レクト先生ですね。いつも娘がお世話になっています」


 父親は軽く頭を下げる。エレナの話通りであれば教会の司祭なのだろうが、流石に家の中では司祭の格好はしていなかった。まあ騎士だって自宅で甲冑姿で過ごす事などあるわけがないので、別段不思議なことではない。


「妻は今ちょうど出かけておりましてね。エレナは自分の部屋にいますが、今回のお話自体は私1人で問題ないのですよね?」

「ええ、大丈夫です」


 廊下を歩きながら、レクトは父親の質問に答える。リビングに到着すると、レクトは父親と向かい合うようにテーブルに座った。


「さて、まず先生は何か私に聞いておきたい事はありますか?」


 早速、父親の方から話を切り出してきた。ベロニカやニナの時と違ってエレナがサンクトゥス女学園に来た理由はレクトも知っていたが、もしかしたらアイリスのように別の理由があるのかもしれない。そういった事も含め、レクトは話を始める。


「以前エレナから、自分は祓魔師エクソシストになる為にサンクトゥス女学園に入学したのだと聞いたことがあります」

「ええ、その通りです」


 確認するようなレクトの言葉に、父親は頷く。当然と言えば当然なのだろうが、やはりエレナが祓魔師を目指している事は父親も知っているようだ。


「けど、いくら聖職者であるといっても祓魔師エクソシストは前線で戦う職業であることには変わりない筈です。親御さんとしては、普通に修道女を目指して欲しいとは思わなかったんですか?」


 かなり踏み込んだ質問ではあったが、レクトとしてはどうしても聞いておきたかった。ある種、戦場で何度も死線をくぐり抜けてきたレクトならではの質問だとも言える。

 しかし、父親から返ってきた答えはレクトの予想からは随分と外れたものであった。


「そもそも私と妻は、娘たちには別に修道女を目指して欲しいとも思っていませんでしたからね」

「えっ?」


 その答えがあまりにも意外だったのか、レクトは少し驚いたような声を上げた。しかもそれを言ったのが、他ならぬ教会の司祭であった事が信じられなかったのだ。


「お父さんは、教会の司祭なんですよね?」

「そうですよ。ですが、聖職者の娘は必ず聖職者を目指さなければならないという決まりは特にありませんから」


 確かに言われてみればそうだ。聖職者の娘だからといって聖職者を目指さなければいけないという理由はどこにもない。レクトの頭の中では自然と修道院で修行した後は修道女もしくは他の聖職者になるという構図が出来上がっていたのだが、父親の方はそれを真っ向から否定する。


「修道院での修行も、単に社会勉強としてやらせただけです。元々、その後の進路に関しては本人たちの意思を汲むつもりでしたから」


 レクトの考えとは裏腹に、父親はさも当然といった様子で淡々と語っている。別におかしな事は何一つ言ってはいないのだが、やはりレクトにしてみれば修道院での修行が単なる社会勉強というのがあまりにも予想外過ぎたのだ。

 そんなレクトの心情を知ってか知らずか、父親は話を続ける。


「だからエレナが祓魔師(エクソシスト)になる為にサンクトゥス女学園に入学したいと言い出した時も、私と妻は特に反対はしませんでした」

「そうだったんですか」


 レクトは納得したような返事をした。しかし、ここから父親は更に意外な話を始める。


「そこまでは良かったのですが、それまで修道院で一緒に修行をさせていた妹がエレナの考えに猛反発しましてね。壮絶な姉妹喧嘩の末にエレナが妹の反対を無視して入学を決めたものですから、ある意味では大きな家庭の問題になったと言えなくもないですかね」


(エレナが妹の話をしたがらなかったのは、そういう理由があったのか)


 今日の目的はエレナの家庭訪問なので、言ってしまえば妹の話は蛇足であるとも言える。しかし、レクトにしてみればその話も聞いておきたいという気持ちがあった。


「エレナも前に妹がいるって言ってましたけど、あまりそこには触れて欲しくないような様子でした。やはり何か確執があるんですか?」

「確執…そうですね」


 父親は少し考え込むと、おもむろに立ち上がってリビングの入口近くにある棚の方へと向かう。そして棚の上に置かれていたいくつかの写真立ての中から1つを手に取ると、テーブルに戻ってレクトに手渡した。


「もう1人の娘…妹の方の名前はディアナといいます」


 レクトは写真立てを受け取り、そこに写っている少女の姿をまじまじと見る。

 写真に写っていたのはおそらく今から数年ほど前のエレナと、彼女にそっくりな少女であった。髪を両サイドで結っているエレナと違い、もう1人の少女はポニーテールにしているので彼女が妹のディアナであることはレクトにもわかったが、逆に言えばそれが無ければとてもレクトには見分けがつかないだろう。


「月並みでしょうけど、本当によく似てますね」

「一卵性双生児ですからね。髪型を変えているのも、他の人に間違えられないようにする為でもあるんですよ」


 姉妹2人が似ていると言われるのも慣れているのか、父親は決まり文句のように返した。ところが、ここで父親の方は少し困ったような、浮かない表情になる。


「ただ、外見はともかく性格はあまり似ていないんですよ。意思表示がハッキリしていて強気なエレナと違って、ディアナはどうも気弱で優柔不断なところがありましてね。昔からいつもエレナの背中に隠れているような子だったんです。」

「姉にベッタリって事ですか」

「まあ、そういう事ですね」


 レクトの言い方はややストレートな表現ではあったものの決して間違いではなかったようで、父親も肯定する。とはいえ、実際のところ兄弟で性格があまり似ていないというのもそこまで珍しい話ではないだろう。


「妹さんの方はサンクトゥス女学園を受験しなかったんですか?」


 エレナの家庭訪問の内容とは直接関係ないが、少し気になったのでレクトは質問してみた。その質問に、父親は軽く首を横に振りながら答える。


「いや、姉の後を追ったのか受験自体はしました。結果は不合格でしたがね」


 娘の不合格の事など本来ならば喜ばしい事ではないが、その結果についてはむしろ父親の方はさも当然といった様子である。その理由に関しては、父親自身の口から語られることとなった。


「勉強はともかく性格面ですよね。はっきり言ってしまえば、何事にも真っ直ぐで意思の強いエレナに比べて気弱なディアナはとても戦いに向いた性格ではないんですよ。エレナが入学した後で当時の試験官であった先生とお話をする機会があったんですが、ディアナの方はやはり実技試験の結果に難があったそうです」

「確かに、誰しもが戦いに向いているわけじゃありませんからね」


 幾度となく戦場を渡り歩いてきたレクトも、本来であればとても戦いに向いていないような人物が無理矢理戦いに引っ張り出されているのは何度も目にしてきた。しかし今は戦争中という訳ではないし、戦う事以外の仕事なんてそれこそ山程ある。

 そんなエレナの妹の事が気になったのか、レクト自身も家庭訪問とはあまり関係ないとわかりつつも尋ねてみることにした。


「それで、妹さんは今はどうしてるんですか?」

「以前と同じく修道院で修行を続けています。将来どうするかは全く決めていないようですが」


 姉のエレナは将来の目標がハッキリしているにも関わらず、妹の方は全く決まっていないというのも親としては少々複雑であろう。とはいえ自身の生徒であるエレナならともかく、こればかりは家庭内の問題である。レクトとしても深く介入するわけにはいかないので、本来の内容へと話を戻すことにした。


「さて、少々話が脱線してしまって申し訳なかったですね。エレナの話に戻りましょうか」


 そう言ってレクトは鞄の中からこれまでのエレナの授業の事をまとめたレポートを取り出すと、それを父親に見せながら説明を始めた。






 それからおよそ15分ほど。一通りの話が終わったところで、突然玄関の扉が開いた音がした。とはいえ普通に考えれば今家にいない奥さんか下の娘…ディアナであることは間違いないだろう。

 だがそれに関して父親が答える前に、リビングの扉が開かれてエレナと同じ銀髪の少女が姿を現した。


「ただいま、お父さん」

「おかえり、ディアナ」


 娘と父のやり取りを見ながら、レクトはある点について改めて驚いていた。というのも、写真で見せてもらった時と同じくディアナの容姿は髪型以外がエレナと瓜二つであったからだ。

 一方ディアナの方は普段通りといった様子で父親に帰宅を報告したが、すぐにその父親の向かいに見知らぬ男性が座っているのを見つけるとやや強張った様子で再度父親に話しかける。


「えっと、お客さん…?」


 父親とテーブルで話している以上、状況的に見れば客であるのはまず間違いないが、それでもディアナはやや警戒したような目でレクトのことを見ていた。そんな彼女をなだめるように、父親は穏やかな口調でレクトの事を紹介する。


「エレナの担任の先生だよ。名前は知っているだろう?四英雄レクト・マギステネルだ」


 ベロニカのように全く興味がなければ話は別なのだろうが、少なくとも魔王を倒した四英雄の事を知らないということはないだろう。無論、彼女自身もレクトの名前は知っていたらしく、緊張はしたままだが警戒は解いたような様子だ。


「あ、その…初めまして」


 ディアナはレクトに向かって頭を下げると、彼が返事をする暇も与えずにそそくさと廊下の方へと消えてしまった。それを見た父親は、申し訳なさそうな表情になりながら目頭を押さえている。


「すみませんね先生。先程もお話し致しましたが、どうにも人見知りする子でして」

「お構いなく」


 レクトは全く気にしていないといった様子で返事をする。実際、ディアナの応対自体はレクトの予想の範囲内であったし、レクト自身もそんな事でグチグチ言うタイプではない。

 兎にも角にもこれで一通りの話は済んだので、レクトは話を切り上げると荷物をまとめ始めた。そのまま鞄を背負うと、父親に先導されながらレクトは玄関へと向かう。


「それでは先生、今後ともよろしくお願い致しますね」

「ええ、こちらこそ」


 レクトは父親と軽く挨拶を交わすと、玄関の扉を開けて外に出た。そのまま家の門を出たところで、レクトは不意に呟く。


「妹との確執で、今後エレナが思い詰めたりしなきゃいいけどな」


 余計な心配だとはわかっていながらも、やはりレクトとしては少々気になるようだ。しかし今は他にやるべき事がある。レクトは気持ちを切り替えると、次の訪問先を目指して街のはずれへと向かった。

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