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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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Let's!家庭訪問!

 早朝のサンクトゥス女学園の職員室。この日、S組の担任であるレクトは副担任のジーナからある提案を持ちかけられていたのだった。


「家庭訪問?」


 レクトは気怠そうな顔をしながら言う。レクトの机の上にはつい先程ジーナから受け取ったばかりの書類が置かれており、見出しの部分にでかでかと『家庭訪問のお知らせ』と書かれていた。


「ええ。時期的にもちょうどいいですし、これぐらいの段階で行っておいた方がよいかと思いまして」


 ジーナは笑顔で説明している。レクトがS組の担任になってから既に1ヶ月あまりが経過しており、確かに彼女の言う通り時期的には丁度いいのかもしれない。しかし、相変わらず唯我独尊を地で行くこの男は一味違った。


「必要ねえだろ」

「ええっ!?」


 折角の提案を、レクトはバッサリと切り捨てる。あまりに驚いたジーナは思わず大声を上げてしまうが、それによって周りの教師たちが皆怪訝そうな顔で2人を見ていた。


「あ、すいません!すいません!」


 ジーナは周りの教師に謝りつつ、なんとかレクトを説得しようと試みる。


「いや、ちょっと待ってくださいよレクトさん!これは絶対にやっておいた方がいいですって!」

「なんで?」


 最早話を聞くのも面倒くさいのか、レクトは死んだ魚のような目をしながらジーナの方を見ている。そんなレクトを何とかその気にさせようと、ジーナは必死になって頭を巡らせた。


「レクトさんはご存知ないかもしれませんけど、親御さんたちはみんなレクトさんに会って話をするのを楽しみにしてるんですよ!?」


 ジーナ自身もいきなり保護者の話を出すのもどうかと思ったが、実際に親御さんたちの間でも四英雄レクトが担任になったという話はいい意味でも悪い意味でも大きな話題となっていたのは事実だ。しかし、当のレクト本人は相変わらずと言った様子のままである。


「なんで俺と話すのが楽しみなんだよ。別に親御さんが俺の授業を受けるわけじゃねえだろうが」


 普通に考えればレクトの言う事も一理あるにはあるのだが、S組に関してはそもそもの事情が異なる。ジーナは少し呆れながらも、まっすぐレクトの方を見た。


「レクトさん、とりあえずレクトさんはまず自分が有名人だっていう事を自覚して下さい。レクトさんはそう呼ばれるのが嫌でも、世間的にはレクトさんは“英雄”なんですよ?」

「あー、あー」


 レクトが英雄と呼ばれるのを好んでいないことを承知の上で、ジーナはあえて事実を突きつける。当然のようにレクトは嫌そうな返事をするが、そこへ思わぬ助け舟が出された。


「あら、家庭訪問やるの?いいじゃない」


 いつの間にかレクトの机を覗き込むようにして立っていたのは、校長であるクラウディアであった。そんな突然の校長の来訪に、レクトは怪訝そうな顔をしながら彼女に質問する。


「校長じゃねえか。何か用か?」


 レクトは何の気なしに質問したが、当のクラウディアは何かを思い出したように急に不機嫌そうな顔になってレクトの顔を見た。


「何か用か、じゃないわよ。いつも言ってるでしょう。交通費は経費で落ちるから、校外に出かけたらきちんと報告しなさいって。あなたまた自腹で払ったわね?」


 クラウディアの質問を聞き、レクトは最近の出来事を思い返す。生徒たちを校外に連れて行ったこととなると、いくつか思い当たる節があった。


「あー、わかったわかった。どの件だ?ダークトロールか?ジャイアントモスか?それともカリダのヤツの所に連れて行った事か?」

「全部よ」


 さも当然といった様子で、クラウディアははっきり告げる。レクトは変わらず気怠そうな顔をしているが、クラウディアは気にせず話を続けた。


「というより、そういう経費の管理が大変ならそれこそジーナに協力してもらえばいいじゃない。何の為に彼女をあなたのサポートに付けたと思ってるの?」

「あー、それもそうか。じゃあ今度からはそうするわ」


 レクトは手をひらひらと振ると、早々に話を切り上げる。クラウディアは相変わらずどこかいい加減なレクトの態度に目を細めながらも、最初の話題に話を戻す。


「で、家庭訪問の件だけど、私も賛成よ」

「ですよね!」


 クラウディアの意見に、すかさずジーナが反応する。しかし面倒くさがりなレクトはそう簡単に首を縦に振ることはなかった。


「必要ねえよ。俺があの小娘どもを預かってんだ、どう教育するかは俺の勝手だろうが。口出しされる筋合いは無え」


 最早教師どころか人として多大な問題のある発言ではあるが、レクトの性格からすれば今更もいいところではあるのも事実だ。だがクラウディアの方もはいそうですかと納得するはずもなく、ある質問をレクトにぶつける。


「ねえレクト。S組の子たちはあなたのことを信用しているみたいだけど、あなた自身はあの子たちのことをどれくらいわかっているのかしら?」

「あん?」


 唐突な質問に、レクトは不意を突かれたような表情になった。クラウディアの言っている意味がいまいちよくわからなかったのか、改めて彼女にその質問の意味を問い質す。


「どれくらいって何だよ。あいつらの好物でも知ってるのかって話か?」


 レクトは皮肉交じりに尋ねるが、クラウディアはいたって真面目な表情のままだ。皮肉など意にも介さず、諭すような口調で話を続ける。


「レクト、よく聞いて。そういう話じゃないの。あの子たちがこの学校にきた理由とか、何を目指しているのかとか、全員の事を把握しているわけじゃないでしょう?」


 その話を聞いてレクトは「あぁ。」と少しだけ納得したような声を出した。そういった事情に関してはエレナやアイリスなど何人かからは聞いたことはあったが、言われてみれば確かに全員から話を聞いたわけではない。


「そういう事情がわかっているのとわかっていないのでは、あなたの指導の内容も多少なり変わってくるんじゃない?」

「まあ…それはそうだろうが」


 クラウディアの意見に、レクトも少なからず理解を示しているようだ。その横では、さすがは校長とでも言わんばかりの眼差しでジーナがクラウディアのことを見つめている。


「いくら信用されているとはいっても、何でもかんでもあなたに話してくれるわけじゃないでしょ。そう考えると、親御さんからしか聞けない情報なんかももしかしたらあるんじゃない?」


 クラウディアからもっともな意見を言われ、レクトは腕を組んで考え込む。そのまま10秒ほど黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。

 

「ちっ、仕方ねえな。やるか」

「やった!」


 レクトが丸めこまれた、もとい承諾したのを見てジーナが歓喜の声を上げる。クラウディアも満足気な表情だ。


「そうと決まれば、早速準備に取りかかりましょう!私、帰りのホームルームまでに当日のスケジュール組んでおきますね!」


 レクトがあれこれ質問する前に、ジーナはレクトの机上に置かれたプリントを回収しながら嬉しそうに話している。そうかと思えばすぐに自分の机に向かうと、周りの事など目に入っていないかのように集中した様子で紙に色々とメモし始めた。


「行動早いよなぁ。そもそもやるって話、たった今決めたばっかだぜ?」


 感心半分、呆れ半分といった様子でレクトが言うが、既にジーナの耳には入っていないようだ。しかし、彼の横に立っているクラウディアは相変わらず嬉しそうな様子だ。


「常に全力なのが、ジーナのいいところなのよ」


 黙々と作業を進めるジーナを見てクラウディアが言う。だがそんなクラウディアの称賛も、最早ジーナの耳には入っていないようだった。そんな彼女を見て、レクトは肩をすくめながらやや自嘲気味に答えた。


「なるほどね。担任の俺が大してやる気無いから、バランス取れてて丁度いいのかもな」

「それ、自分で言うの?」


 レクトの返答に、クラウディアはすっかり呆れ顔だ。彼女としては本当はもっと色々と言ってやりたいところではあったが、生憎時間的な余裕が無かった。


「レクト、とりあえず家庭訪問のことはジーナに任せて貴方はそろそろ教室に行きなさい。みんなからまた遅刻か、とか言われるわよ?」

「へいへい」


 ぶっきらぼうに返事をすると、そのままレクトは数冊の本を抱えて立ち上がる。彼がいそいそと職員室を出ていくのを見届けると、用事の済んだクラウディアも校長室へと戻っていった。

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