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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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四英雄 魔術師カリダ ⑥

 真実のオーブを見終えた一行は、再び先程の大広間へと戻ってきていた。カリダは改めてS組の面々を見渡すと、笑顔で口を開く。


「さて、今日はこれで本当に最後になりますね。質疑応答の時間と致しましょうか」

「質疑応答?」


 急に質疑応答と言われ、エレナが首を傾げる。他のメンバーも何のことかわからないといった様子であったが、逆にカリダの方も少々驚いているようだ。


「あら?事前にレクトからは社会科見学の終わりにあなたたちの質問に答えてやって欲しい、と言われていたのですけど?」


 カリダの方も不思議そうに答えたが、それを聞いたフィーネは首を横に振る。


「いえ、そんな話は聞いてませんけど」

「けど確かに…まさか」


 カリダは難儀したような顔になっていたが、やがて状況を理解したのかレクトの方を睨むような目で見る。S組メンバーも大体把握できたのか、カリダに続いてレクトの方を見た。そんなレクト本人は、やれやれといった様子で頭をかいている。


「悪い、今の今まで忘れてたわ」

「「「先生!!」」」


 あまり反省の見えないレクトの返答に、生徒全員から怒鳴るようなツッコミが入った。


「まったくもう、相変わらずいい加減な男ね」


 予想通りの展開であったからか、カリダはため息混じりにレクトを軽く非難する。しかしレクトの方は悪びれもせずに生徒たちに向かって話を続けた。


「まぁ質疑応答なんて大袈裟な言い方だが、要するにカリダに聞いてみたいことがあれば何でも質問していいってことだ」


 四英雄カリダに質問など、またとない機会である事は間違いない。皆どういう質問をしようか早速考え始めるが、その前にドSから余計な一言が入った。


「あ、何でもって言ったけどスリーサイズとかは聞くなよ。どの部分がとは言わないが、どうせお前ら全員カリダには勝ってるから心配すんな」


 悪ふざけに近いレクトの冗談を聞いた瞬間、カリダは物凄い形相でレクトのことをギロッと睨む。このままではまた大惨事になりかねないと危惧したのか、その空気を是が非でも変えたいアイリスが手を挙げた。


「あの!わたし!お聞きしたいことが!」

「はい、アイリス」


 授業の時と同じノリで、レクトはアイリスを指名する。指されたアイリスはあたふたしながらも、自身の気になっていた事をカリダに尋ねた。


「カリダ様はどうして魔王メトゥスと戦おうと決意なさったのですか?」


 その質問に、他のメンバーも「あぁ。」と頷く。やはり四英雄カリダがどういった理由で魔王と戦う事を決意したのかというのは、知りたい人間も多いということであろう。


「そうですね、少し長くなるかもしれませんが…」


 カリダの方もその質問はある程度想定済みであったのか、目を閉じて静かに話し出した。


「賢者の血筋という影響もあるかもしれませんが、私は幼少期より人並み外れた魔力を有していました。けれどもあの時が来るまで、私は自分が魔王を倒すなど考えもしませんでした」

「あの時?」


 ルーチェが疑問に満ちた声を上げる。その質問にカリダは頷くと、そのまま話を続けた。


「もう3年も前になりますかね。魔王の軍勢が、遂にこのマギアレートへと侵攻を開始したのです。勿論のこと神官や魔法が使える者は必死に抵抗しましたが、やはりと言うべきか苦戦を強いられました」


 魔法に精通した者が多いとはいえ、マギアレート自体は都市としてはそこまで大きくはない。戦える者もそこまで多くはなかったのだろう。

 だが、それとは裏腹にカリダの話す声はどんどんと明るくなっていった。


「そこに現れたのが、聖剣を携えたルークスだったのです。彼は我々に共に戦おうと呼びかけ、我々も彼と共闘の末に見事魔王軍を退ける事に成功しました。そして戦いの後、ルークスは正規の神官ではなく、当時まだ神官の見習いであった私に対して魔王を倒すために一緒に来て欲しいと申し出たのです」


 その話を聞き、ふと疑問に思ったエレナは話を遮るのは悪いと思いつつも手を挙げて質問した。


「勇者ルークスは、カリダ様が賢者の子孫だとわかっていたのですか?」


 賢者の子孫であれば、戦力として是が非でも欲しいのはわかる。だがカリダはそれに関しては首を横に振った。


「さぁ、どうでしょう。ですがルークスの人を見抜く目は一流と言っても過言ではありませんでしたからね。その後に仲間になったテラも、そしてそこにいるクズ野郎も、全てルークスが仲間に誘ったのですから」

「さりげなく俺の事は悪口だよな?」


 自然な流れで悪口を言われた事に対してレクトは冷ややかに指摘したが、カリダはそれを完全に無視して話を続ける。


「その時、彼は言いました。“君の力が必要だ”と。その言葉を信じて、私は彼に付いて行く事を決めたのです」


 当時の事を思い出すかのように、カリダはしみじみと語る。そんな彼女の様子を見て、ルーチェは思ったままの事を言ったのだった。


「まるでプロポーズみたいですね」

「こら!ルーチェ!」


 失礼な事を言うルーチェに対し、すぐさまフィーネから注意が入る。しかしカリダは怒るどころか、クスクスと笑いながら答えた。


「残念ながら、彼は私にとっては恋愛の対象ではありませんでしたね。私、ルークスのような真面目一辺倒な人間よりも多少はユーモアのある人物の方が好みなので。勿論、テラは既婚者でしたし、人を弄んで快楽を得るような外道などもっての外ですが」


 再びレクトの事を貶しながら、カリダは笑顔で話している。兎にも角にもこれでカリダが魔王を倒す旅に加わったのかがS組メンバーにも理解できた。


「さて、他に質問のある生徒さんはいらっしゃるかしら?」


 カリダが改めて尋ねると、意外なことに今度はニナが手を挙げた。


「どうやったら英雄になれますかー?」


 実にニナらしい安直な、もとい実直な質問に周りの生徒たちは皆ガッカリしたような表情を浮かべている。しかしカリダはえらく真面目な顔つきになりながら、反対にニナに尋ねた。


「では、あなたは英雄とはどういった人物の事だと思いますか?」


 とても難しい質問に他のメンバーは一転して悩んだような表情になるが、ニナ自身は迷うことなく即答する。


「えっと、魔王を倒した人!」


 相変わらずのポンコツな回答に、カリダを覗いた全員がげんなりしている。しかしカリダは尚も真面目な表情のまま再びニナに尋ねた。


「今はもう魔王は滅んでしまって存在していませんよ?それだとこの先、英雄と呼ばれる人物は現れないという事になってしまいますが」


 当たり前のことをカリダに指摘され、ニナは少し困ったような顔になる。しかしすぐに何か閃いたのか、間髪入れずに答えた。


「んーと、それじゃ、凄く強い人!」


 再び発せられた間抜けな回答に、他のメンバーは更に残念そうな表情を浮かべている。だがカリダだけは表情を崩さずにニナに答えた。


「凄く強くても悪い人はいますよ?盗賊団の首領や海賊の長など、数えればキリがありませんからね」

「むぅ…むむむ…!」


 自身の意見を再び論破され、ニナは頭がパンクしそうな様子になる。これ以上は無理だと判断したのか、見かねたエレナが助け舟を出した。


「カリダ様。申し訳ありませんが多分、この子の頭ではこれが限界です」


 それを聞いたカリダは苦笑し、改めて先程のニナの質問に答えた。


「そうですね…とても難しい質問ですが、聞かれた以上は答えなければなりませんね。私なりの考えをお伝えしましょう」


 カリダは一呼吸おくと、再び真面目な顔つきになりながら口を開いた。


「英雄とは、誰かの為に全力を尽くせる人間の事なのだと私は思います」


 カリダから発せられた意外な答えに、S組メンバーは呆気にとられたような表情を浮かべていた。


「えっ?でもそんな事なら誰にでもできるような…」


 思わずベロニカから本音が漏れる。慌てたフィーネがベロニカを注意しようとするが、それよりも早くカリダがベロニカの疑問に答えた。


「ええ、そうですよ。だから私は誰だって英雄になれるのだと思っています」


 カリダは終始真面目に話しているつもりであったが、ここで例のごとくポンコツ少女ニナが余計な口を挟む。


「でも、弱っちい人間は英雄にはなれないと思うけどなぁ」

「ちょっと、ニナ!」


 空気を読まないニナの発言に、すかさずフィーネが注意をする。しかし、カリダはそれを否定することなく話を続けた。


「確かにその通りです。力の無い者では誰かの為に戦う事などできないでしょう」


 真剣な眼差しで、カリダはS組メンバーを見渡す。


「だから人は努力したり、学ぶ必要があるのです。何もしないで力を手に入れることができるなんて、おとぎ話の世界だけですよ?」


 カリダは最後に笑いながら話をまとめたが、ここでアイリスから質問が入った。


「努力…カリダ様もですか?」


 自分で努力を推奨するということは、おそらくカリダ自身も今までそういった努力をしてきたということなのであろう。その質問に対し、カリダは笑顔で答えた。


「勿論です。私の場合は少なくとも物心のつく前から毎日ファイヤーボール100発ずつの練習を欠かさず行っていました」

「えっ!?ファイヤーボール100発!?」


 驚いたフィーネが思わず大きな声を上げる。いくらファイヤーボールが低級魔法であるといえどもそれを100発、ましてや物心のつく前から行うなど努力というレベルを軽く超えていたからだ。

 カリダは微笑みながら尚も話を続けた。


「当たり前のことですが、強くなるには相応の努力が必要ですよ?そこにいるドSの剣士だって、旅の途中でも毎晩のように大剣を振ってトレーニングに励んでいましたからね」

「へー、センセイが」


 レクトに関する意外な事実を知り、ベロニカが感心したように言う。しかしレクト自身は肩をすくめて否定した。


「あれは単なる日課だ。別にトレーニングをしてたってわけじゃない」

「でも、それって似たようなもののような…?」


 そんなレクトにリリアが軽く指摘を入れるが、レクトの答えなど興味がないのかカリダは構わず話を進める。


「そういえば、先程のどうやったら英雄になれるのかという質問、レクトにはしていないのですか?」


 ふと思い出したように、カリダはニナに尋ねた。確かにレクトもカリダと同じく四英雄と呼ばれる立場の人間であるので、彼に聞くこと自体も何らおかしな事ではない。そんなカリダの質問に、ニナはやや難しそうな顔をしながらもハッキリと言った。


「うーん、せんせーに聞いても役に立ちそうなこと教えてもらえなさそうだから、聞いてない!」


 何の屈託もない笑顔でニナは答えたが、それを聞いたレクトは不満そうな表情を浮かべている。


「ニナ、お前に言われると流石に少しショックだわ」


 その答えに思わずフィーネとエレナは吹き出してしまい、ベロニカとリリアに至っては大笑いしていた。

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