四英雄 魔術師カリダ ④
「これがこのアルカナム神殿に伝わる石碑です」
S組メンバーはカリダの説明を聞きながら、アルカナム神殿を見て回っていた。無論、街の彼方へと吹き飛ばされたレクトは不在である。
「この石碑には、かつて古代文明で使用されていた呪術や禁術など様々な魔法に関する碑文が記されています」
「へえ…すごい」
「古代語かしら?見たことない文字ね」
フィーネやルーチェは興味深そうにカリダの話を聞いている。中にはニナのようにチンプンカンプンといったような表情を浮かべている者もいるが。
そうやって神殿の中を見て回っていると、とある大広間に飾られた大きな絵画がS組メンバーの視界に飛び込んできた。
「この絵は…?」
絵画を見て、エレナが呟いた。絵画には3人の人間が描かれており、中央には年老いた男性、右側には中年の女性、そして左側には若い男性が描かれている。3人はいずれも同じローブを着て、杖を中央に向けて掲げているという内容の絵であった。
皆がその絵画を不思議そうに見つめる中、カリダから絵画に関する説明が入る。
「こちらは、この世界における魔法の始祖と言われている賢者を描いたものです」
「『始まりの三賢者』ですね」
描かれている賢者の事を知っていたのか、フィーネがすぐさま答える。もっとも、始まりの三賢者というのはおとぎ話にも出てくるような有名な存在である。他のメンバーもそれを聞いて「あぁ。」と納得したような声を上げた。
「はい、その通りです。中央に描かれている老人が火や水といった自然の魔法の始祖とされる命の賢者、右側の女性が時間を操る魔法の始祖とされる時の賢者、そして左側の男性が癒しの魔法の始祖とされる光の賢者です」
カリダは微笑みながら説明をする。するとここで、彼女に随伴していた老神官が口を開いた。
「そしてこのお方、大神官カリダ殿の遠い先祖が他ならぬこの命の賢者なのでございます」
四英雄である魔術師カリダが賢者の血を引いているというのは有名な話だ。だがこうして改めて本人と対面すると何か感慨深いものがあるのだろう、皆しみじみとしたような表情を浮かべている。
そうやって絵画を眺めていると、唐突に神殿の入口の方から若い神官が小走りでこちらへとやってきた。
「大神官殿、少しお話が…」
「話?何でしょうか?」
穏やかな表情で答えるカリダに対し、若い神官はどこか不安げな様子である。そしてその理由に関しては、神官本人の口から告げられることとなった。
「実はつい先程、隣国の法皇様がこちらへいらっしゃいました」
神官の報告を聞き、カリダは難しそうな、というよりもどこか面倒くさそうな表情を浮かべる。
「どういう事?今日はそんな予定は無かったはずよ。まさかアポ無しの訪問ということかしら?」
「はい、そのようです」
神官の返事に、カリダはいかにも嫌そうな顔つきになった。しかし相手が法皇ということは、言うなれば宗教上の最高指導者だ。流石に無下にするわけにもいかず、渋々ながらも頷く。
「まったく、こっちの都合も考えて欲しいものだわ。これだから自分勝手なスケベジジイは嫌いなのよ」
「大神官殿、口調。口調」
うっかりカリダの口が悪くなった事に対し、老神官が冷静に指摘した。カリダはハッとして恥ずかしそうに口元を押さえると、咳払いを1つして若い神官に指示をする。
「わかりました。すぐに向かうので、法皇殿にはしばしの間お待ちしていただくように伝えなさい」
「承知致しました」
カリダは神官を一旦下がらせると、S組メンバーの方を向き、申し訳なさそうな表情になった。
「ごめんなさいね皆さん。少しだけ席を外すので、その間大人しく待っていて頂けないかしら」
「はい、わかりました」
代表してフィーネが答える。その言葉を聞いてカリダはニッコリ笑うと、足早に神殿の入口の方へと向かっていった。
S組メンバーはそれから少しの間、神殿の大広間に飾られた絵画やステンドグラスを眺めて時間を過ごしていたが、ほどなくして足音と共に聞き慣れた声が大広間に響いた。
「よしよし、真面目に見学してるみたいだな」
声の主は、ほんの数十分前にカリダに吹き飛ばされた筈のレクトであった。
見た目はややボロボロになっていはいるものの、あれだけ強大な魔法が直撃したにもかかわらず特別目立った外傷は無さそうである。この辺りの生命力は流石四英雄とでも言うべきか。
「先生!無事だったんですね!」
レクトの事を一番心配していたフィーネは思わず喜びの声を上げた。口には出さなかったが同じぐらい心配だったのであろうか、その後ろではアイリスがほっと胸を撫で下ろしている。
「あぁ、久々に命の危険を感じたぜ。やっぱりカリダは強いな」
「格好いい事言ってますけど、完全に自業自得ですよね」
腕を組んでしみじみと語るレクトに、ルーチェからは的を射た容赦の無いツッコミが入る。しかしレクトは悪びれる様子も見せず、カリダが席を外しているのをいいことに平然と毒づく。
「まったく、神殿の中であんな高等魔法ぶっ放す奴がいるかよ。相手が俺じゃなかったら間違いなくあの世行きだぜ」
先程レクトが喰らった光の魔法は、巨大なドラゴンでも吹き飛ばせる程の超高等魔法であった。それを瞬時に作り出せるカリダの魔法の腕前は流石と言うべきなのだが、ほぼ直撃に近い形で喰らった上に高所から落下しても尚生きているレクトの生命力も凄まじいと言う他ない。
「間違いなく、あの世に送るつもりだったのだと思いますけど」
珍しくエレナから辛辣な指摘が入るが、全く気にした様子のないレクトは更に言いたい放題であった。
「しかしあの下痢貧乳魔術師め、もう1年以上も昔の事なのに相当根に持ってやがるな」
「先生、本当にお願いですからしばらく黙っててください」
あれだけの目に遭って尚その減らず口を一向に閉じないレクトを見て、アイリスは泣きそうな顔で懇願する。とは言ってもあんな光景、見ている方だってハラハラするのはまず間違いないのだが。
やれやれといった様子でレクトが黙ったと同時に、来客の相手が終わったのかカリダが戻ってきた。
「お待たせしました、皆さん。あら?レクト、やっぱり生きてたのね」
無事なレクトの姿を見た瞬間、急にカリダが不機嫌そうな顔になった。一方レクトはあっけらかんとした様子で答える。
「ま、お前に高等魔法をぶつけられたのは初めてじゃないしな」
「あらそう、それは残念だわ。火炎で焼き払うべきだったかしら?」
2人の間の空気はとてつもなくピリピリしている。このままカリダに2度目の魔法を放たれてはたまったものではないので、話を遮るようにフィーネが質問した。
「あの!カリダ様!この後は何を見せてくださるのでしょうか!?」
余程慌てていたのか、フィーネの声は若干裏返っているようだった。だが幸いにもカリダはその質問に対し、思い出したようにポンと手を叩く。
「そうだわ!ごめんなさい、実はこの後どうしても外せない用事ができてしまったの」
おそらく用事とは少し前に来たという法皇絡みのものであろう。カリダは先程以上に申し訳なさそうな表情になり、S組メンバーに謝罪する。
「なので今日は最後にこの神殿に置かれている秘宝を皆さんにお見せして、それで終わりにしましょう」
「「秘宝?」」
秘宝と聞き、何人かがポツリと呟く。先導するカリダは大広間の奥にある地下へ続く階段の方へと歩み寄ると、そのまま階段の先を指差した。
「さ、こちらです。どうぞ」
そう言いつつ、カリダは地下へと降りていく。レクトとS組メンバーも、彼女の後に続いて階段を降り始めた。




