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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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四英雄 魔術師カリダ ②

 魔法の都マギアレートは、フォルティス王国の西部に位置する中規模の都市である。だが魔法の都という別名の通り魔法に関する技術においては他国の追随を許さないほどに発展しており、多くの若い魔術師たちが留学の為に訪れることで有名な土地でもあった。


「長かったなぁー。もう何回も乗ってるが、相変わらず飛行船は好きになれねぇわ」


 レクトは固くなった体をポキポキと鳴らし、愚痴りながらも飛行船から降りる。既にS組の生徒たちは全員降りた後なので、結果的にレクトが最後の1人となっていた。


「長かったって、センセイはただひたすら爆睡してただけじゃんか」


 不満をこぼすレクトに、ベロニカが指摘する。

 この前のA組と同じように、S組も学園の校庭から飛行船でこのマギアレートまでやって来ていた。飛行時間は約3時間程であったが、滅多に乗る機会のない飛行船にはしゃぐ生徒たちを横目にレクトは離陸した直後にさっさと寝入ってしまっていたのだった。


「お前らみたいに、飛行船からの景色見てはしゃぐほどガキじゃないんでな」


 寝違えでもしたのか、レクトは首をコキコキと鳴らしながら答える。だがそれがベロニカにとっては不服だったようだ。


「なっ!?はしゃいでねえよ!大体アタシたちもう子供じゃねえし!」


 ベロニカは顔を赤くしながら反論する。しかしそんなベロニカの言葉を否定するかのように、遠くから無邪気な声がレクトのことを呼ぶ。


「見て見てせんせー!お城が浮いてる!」


 ニナは遠くに浮かぶ巨大な建造物を指差しながら、目を輝かせている。そんなニナの姿を見てベロニカはげんなりした表情をし、レクトは目を閉じている。


「ニナ、お前は素直で大変よろしい」

「えっ?何が?」


 レクトの一言に、1人わけのわからない様子でニナはキョトンとしている。

 皆マギアレートに来たのは初めてなのであろう、他のメンバーも辺りを見回したり、看板や立て札に書かれている内容に目を通している。そんな中、1人アイリスが何かに気付いたように声を上げた。


「先生、あの高台の上にあるのがアルカナム神殿ですよね?」


 アイリスの指差した先には古い建物に囲まれた大きな高台があり、更にその上に大きな建築物がそびえ立っている。


「本当ね。よく写真とかで見るのと一緒だわ」


 その外観に見覚えがあったのか、ルーチェが呟く。他のメンバーも同様のようで、建物の方を見ながら納得したような表情を浮かべている。


「そうだ。あれが古代文明の遺産とも言われている、アルカナム神殿だ。俺も中に入った事は今まで一度もないがな」


 解説をしながらも、レクトはキョロキョロと辺りを見回す。迷っていると言うよりは、何かを探しているような印象だ。


「先生、どうかしたんですか?何を探してるんですか?」


 レクトが何を探しているのか気になったようで、エレナが尋ねる。だがそんな彼女の質問に答える前に、レクトはお目当てのものを見つけたようであった。


「お、あったあった」


 S組メンバーがレクトの視線の先にあるものを見ると、そこには何かのマークが書かれた縦長の看板が置かれていた。ここからでは遠くて何が書いてあるのかは見えないが、どうやらレクトはそれが何なのかを知っているようだ。


「よし、それじゃあさっさとアルカナム神殿に向かうとするか」


 レクトが何の説明もなしにいきなり神殿に向かうと言い出したので、生徒たちは少し困惑したような表情を浮かべている。というのも、その理由は明白だ。


「向かうって…あの高台の上までですか?結構な距離がありますけど…」


 フィーネは心配そうな顔をしながらレクトに尋ねた。なぜなら、見た限り神殿のある高台の上まではどう考えても歩いて5分や10分どころではない距離があったからだ。

 しかしレクトだってそんな事は百も承知だ。レクトは余裕そうな顔で、なぜか神殿のある高台の方を見ながら答える。


「そんなのわかってるって。だからアレを使うんだよ」

「アレって?」


 そんなフィーネの質問にレクトが答える前に、何かに気付いた様子のニナが声を上げる。


「あっ!何か飛んできたよ!」


 ニナの声を聞き、他のメンバーもニナが見ている方向へ顔を向ける。するとそこには、大きな四角い箱が空を飛んでこちらへと向かって来ているのが見えた。


「見て!さっきの看板のところ!」


 リリアが声を上げると同時に箱は徐々にスピードを落とし、つい先程レクトが見つけた縦長の看板の近くで停止する。すると停止するや否や、突然箱の側面に取り付けられた扉が開き、中から数人の人が出てくるではないか。

 その光景をS組メンバーは不思議そうに見ていたが、ふとルーチェが何かを思い出したようにレクトに尋ねる。


「先生、もしかしてあれが『魔導バス』ですか?」


 ルーチェが発した聞き慣れない単語にS組メンバーは頭上に疑問符を浮かべているが、ルーチェがそれを知っていたことに対してレクトは少し感心したような顔になる。


「おっ。なんだルーチェ、知ってたのか」

「本で読んだことがあるというだけですが」


 読書好きのルーチェなら、本で読んだことがあっても別段不思議ではない。しかし未だに他のメンバーはわからないといった表情をしており、その中でも好奇心旺盛なニナが迷わずレクトに質問する。


「魔導バス?せんせー、何それ?」


 尋ねてきたのはニナだが、それが何なのかを知りたいのは他のメンバーも同じだろう。


「簡単に言えば魔法の力で動く乗り物だ。飛行船ほど高くは飛べないが、それでも数十メートルは浮くことができるから馬車で移動するよりも遥かに速い」


 手短ではあるが、わかりやすいようにレクトは説明する。それを聞いた生徒たちはなるほどといったような表情を浮かべているが、その話に割り込むようにルーチェがある事について指摘する。


「先生、解説するのもいいですが早く乗った方がいいんじゃないですか?バス、行っちゃいますよ」

「お、そういやそうだな。お前ら、急げ!」


 レクトに急かされ、S組メンバーは停まっている魔導バスに急いで乗り込む。そうやってレクトとS組メンバーを乗せた直後、扉が閉まるや否や車体がゆっくりと浮上し始めた。


「わー!すごーい!浮いてるよー!」

「ニナ、他のお客さんの迷惑になるから静かにしてなさい」


 はしゃぐニナを見て、まるで保護者であるかのようにフィーネが注意する。本来ならばこういった注意は間違いなくレクトの役目なのだが、当のレクト本人は車内の席にどっしりと座ったままダレていた。

 普段のレクトが何かとだらしないのは既に全員がわかっているので、その事については最早誰も何も言わない。だがそれとは別に気になることがあったのか、エレナがふと思い出したようにレクトに話しかける。


「そういえば先生、前から聞こうと思っていたんですが」

「ん?なんだ?」


 唐突なエレナの発言に、レクトはゆっくりと顔を上げる。


「確か四英雄カリダは、その功績を称えられてアルカナム神殿の大神官に就任したんですよね?」

「そうらしい。俺は継承式には出席してないから、就任するのを直接見たわけじゃないがな」


 レクトの言うように、1ヶ月程前にカリダが前の大神官から新たにその地位を継承する為の式典があったのだが、レクト自身はフォルティス王国へと戻っていたので式典自体には参加してはいなかった。レクトからしてみれば、単に出席するのが面倒くさいというのもあったのだが。

 もっとも、エレナが聞きたかったのは英雄カリダの大神官就任の事ではなく、他ならぬレクト自身についてであった。


「レクト先生はフォルティス王国で何かしらの功績を称えられたりはしなかったんでしょうか?」

「あ、そういえばそういう話、聞いたことないですね」


 エレナの質問に賛同するように、フィーネが横から話に加わる。実際のところ、一国の王となった勇者ルークス、自身の道場を開いた武闘家テラ、そして大神官に就任した魔術師カリダの話は大きな話題となったが、肝心のレクトについては自分たちの担任になった事も含め全く世間で話題になっていなかったのだ。

 その話に他のメンバーも興味津々といったような視線をレクトに向けているが、当のレクトからは予想だにしない言葉が返ってきた。


「国王から色々提案されたけど、全部断った」

「「「ええぇっ!!?」」」


 余りにも衝撃的な事実に気が動転したのか、S組メンバーは周りの迷惑も考えずに声を揃えて驚いてしまった。当然周りの乗客は何事かと思ったり、睨むような目つきでレクトたちの方を見ている。


「すみません、お騒がせしました」


 フィーネやエレナが頭を下げて他の乗客に謝る。ようやく騒ぎが収まったところで、エレナは改めてレクトに先程の話について詳しく尋ねた。


「断ったって、どういう事ですか?もしかしたら凄く高い地位とか、名誉みたいなものが貰えたんじゃないですか?」

「興味ねえな」


 心配そうな顔をしているエレナの質問を、レクトは興味ないの一言でバッサリと切り捨てる。だが、それを横で聞いていたフィーネはあらぬ事まで心配になってしまったようだった。


「もしかして折角の申し出を断ったりしたから、国王様が怒ってレクト先生をサンクトゥス女学園に左遷した、とかじゃないですよね?」


 フィーネの話を聞いて、他のメンバーも急に心配そうな表情になる。だが当のレクト本人はむしろ呆れたような顔になりながらも話を続けた。


「おいおい、変な勘繰りはよせよ。俺はあくまでも自分の意思でここにいるんだぜ?」


 国王にハメられた事には間違いないが、それでも今もこうしてサンクトゥス女学園の教師として席を置いているのは紛れもなくレクト本人の意思だ。その点に関してはレクトも隠すことなく口にする。


「そもそも国王は俺に命令なんてできねえよ。俺を良いようにこき使おうとでも思えば、その時点で即座に首を斬り落とされるのは国王もよく知ってるからな」


 その話を聞いて、生徒たちは背筋が寒くなるのを覚えた。そんな中、アイリスは苦笑いを浮かべながらレクトの顔を見てやんわりと尋ねる。


「レクト先生が言うと、冗談に聞こえないんですけど…」

「さて、どーだろうねぇ」


 レクトは少しだけニヤけると、それ以上は何も言わなかった。

 そんなこんなでレクトとS組メンバーを乗せた魔導バスは、いつの間にか目的地であるアルカナム神殿へとたどり着いていた。

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