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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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四英雄 魔術師カリダ ①

 ある日の早朝、レクトがいつものようにサンクトゥス女学園の校門をくぐると、普段は見慣れないものが校庭のど真ん中に鎮座しているのが目に入った。


「何だ?飛行船?」


 レクトが近付いて見てみると、それは間違いなく飛行船であった。政府関係者や騎士団、軍が利用するような飛行船に比べれば明らかに小型ではあるが、それでも30人程は優に乗ることができるだろう。

 飛行船の前だは、ブレザーの制服を着た女子生徒の集団が待機していた。生徒たちはレクトの存在に気付くと、声を揃えて挨拶をする。


「「「レクト先生、おはようございます!」」」

「おう、おはようさん」


 レクトに挨拶をしてきたのは、どうやら救護専門のクラスであるA組の生徒たちのようである。そして更に、その奥に立っていた1人の中年女性がレクトに声をかけてきた。


「あらレクト君、おはよう」

「メリアージュさん。A組はこれからどっかに行くのか?」


 レクトに声をかけてきた女性は、A組の担任であるメリアージュだった。彼女は元々、他国の軍で衛生兵の部隊の隊長を務めていた経験があり、その腕前を見込まれてA組の担任として校長のクラウディアに雇われたという経緯がある。


「ええ、そうよ。これから国境付近にある野戦病院へ、実地研修に行くのよ」


 メリアージュは笑顔で答えたが、それを聞いたレクトは疑問に思ったのか首をかしげた。


「実地研修?今って何か紛争とか起こってたっけ?」


 野戦病院に研修に行くとなれば、見方を変えれば実際に怪我の治療や下手すれば手術の手伝いを行うといったことも考えられる。しかし、不思議そうにしているレクトに対してメリアージュは口に手を当てて微笑みながら答えた。


「研修なんておお袈裟げさな言い方だけど、平たく言えば社会科見学みたいなものね」

「あぁ、社会科見学。なるほど」


 メリアージュの説明を聞き、レクトもようやく合点がいったようだ。学生なのだから、病院へ社会科見学に行ったとしても何ら不思議ではない。納得した様子のレクトに背を向けると、メリアージュは大きな声でA組の生徒たちに指示をした。


「はい、みんな!今から飛行船で移動するわよ!昨日も言ったように飛行中は寒くなるから、暖かい格好をして体を冷やさないように!」

「「「はい!」」」


 A組の生徒たちは返事をすると、続々と飛行船に乗り込んでいく。最後の1人が飛行船に乗り込んだのを確認すると、メリアージュは改めてレクトの方を向いた。


「それじゃあレクト君、私たちはこれで」

「おー、いってらっしゃい」


 飛行船に乗り込むメリアージュに向かって、レクトは軽く手を振る。メリアージュが乗り込んでからおよそ1分ほどで、飛行船は大きな音を立てながらゆっくりと上昇を始めた。飛行船はある程度の高さまで上昇すると、そのまま北へ向かって進み始める。


「俺もたまには、あいつらをどっかに連れて行ってやった方がいいのかなぁ」


 段々と遠のいていく飛行船を見送りながら、レクトは1人ぼやく。飛行船が完全に見えなくなったところで、レクトは校舎へと向かって歩き始めた。


 


 職員室へとやってきたレクトは、いつものようにすれ違う教師たちと軽く挨拶を交わす。自身の机にたどり着き、鞄を下ろすと同時に隣に座っていた副担任のジーナが声をかけてきた。


「あ、レクトさん。おはようございます」

「んー、おはよ」


 レクトはジーナに挨拶を返すと、特に本や資料を見るわけでもなく腕を組んで何かを考え始めた。そんなレクトの様子が珍しかったのか、ジーナが少し心配そうに尋ねる。


「あれ、どうかしたんですか?もしかして何か考えこんでます?」


 これまでレクトが悩んでいる光景など一度たりとも見たことがなかったので、ジーナとしては何かあったのかと少々不安になっていた。もっとも、レクト自身は別に悩んでいるというわけではなく、先程のA組の社会科見学について少し疑問に思っていることがあるだけなのだが。


「いや、さっき校門のところでメリアージュさんに会ってさ。A組はこれから社会科見学だってよ」

「あぁ、確か国境付近の野戦病院に行くんですよね」


 どうやらジーナも、A組の社会科見学について知っていたようだ。ただ、レクトとしてはA組の事というよりも、学園で行われる社会科見学そのものに疑問を抱いているようだった。


「他のクラスでも、そういう社会科見学とかってやったりしてるのか?」

「やってるみたいですよ。例えば防衛専門のD組は防衛拠点となる砦とか、魔法専門のM組は城下にある魔法局なんかに行くみたいです」


 ジーナの話を聞き、レクトは納得したような表情になる。確かにこの学校はクラスによって育成目的が異なっているのだから、その育成目的に合った場所へ社会見学に連れて行くのも当然と言えよう。


「そういうのってさ、学園側が申し込むのか?それとも担任が個人的に取り付けるもんなのか?」


 レクトは質問を続けた。とにかく社会科見学に関してはわからないことだらけなので、情報は集められるだけ集めておきたいのだ。そうやって珍しくレクトが熱心に聞いてくるので、ジーナも少し嬉しくなった。


「どっちのパターンもありますね。場合によっては学園単位では取り合ってくれないような場所でも、担任に個人的なコネがあれば見学OKっていうこともありますからねぇ」

「なるほど、コネか」


 レクトは腕を組んだまま、椅子にもたれかかる。しばしの間その状態で考え込んでいたが、1分もしないうちに何かを閃いたような顔になった。


「いや、あるな。コネ」

「えっ?」


 唐突にレクトが発した一言に、ジーナは不意を突かれたような声を上げた。レクトは懐から手帳を取り出すと、あるページに書かれていた内容を空いている紙にメモし始めた。


「こういう時こそ、俺の立場をフルに活用すべきだよな」

「立場…ですか?」


 1人ニヤつきながら納得している様子のレクトを見て、ジーナが疑問に満ちた声を上げる。未だに何の事かさっぱりわからない様子の彼女に、レクトは今しがたメモした内容を見せた。


 




 それから2日後。S組の教室ではいつものように朝のホームルームが始まろうとしていたのだが、ここでレクトが嬉しそうな顔で生徒たちを見渡しながら口を開いた。


「今日はホームルームを始める前に、お前らに朗報を持ってきたぞ」


 朗報と聞き、教室内がザワザワと騒がしくなった。ただ、何分なにぶんレクトの言う事であるからか、完全には信用していないような声もチラホラ挙がる。


「先生の言う朗報って、私たちにとっては嫌な情報の可能性もありますよね」

「そーだそーだ!センセイの言う事は信用できねえ!」


 ルーチェはやや怪訝そうな目をしながらレクトのことを見ており、そんな彼女に賛同するかのようにベロニカが文句を言う。勿論、2人とも心の底からレクトを信用していないわけではないが、この男には何度も恥ずかしい目に遭わされているのもまた事実である。仕方ないと言えば仕方ないだろう。


「いやいや、今回はマジで良い事だぜ?」

「なら、もったいぶらないで早く言いなさいよ!」


 中々内容を言わないレクトに痺れを切らしたのか、リリアがイライラしたように口を開く。レクトは一呼吸おくと、改めてその朗報について話し出した。


「明後日、魔法の都『マギアレート』にある『アルカナム神殿』に社会科見学に行く事になりましたー」

「「「えっ!?」」」


 レクトのその発表に、教室中が一気にザワつき始めた。ただ、アルカナム神殿という場所自体を全く知らないのか、ベロニカとニナだけは何それ?といったような表情をしているが。


「先生、本当ですか!?アルカナム神殿といえば、その歴史的価値から一般人の来賓を固く禁じている場所じゃないですか!」


 頭に疑問符を浮かべる2人を放っておいて、フィーネが真っ先に驚きの声を上げた。アルカナム神殿が一般人立ち入り禁止の聖地である事は世間的にも有名であり、その事に関してはフィーネだけでなく他のメンバーも気になっているようだ。


「あー、そうだな。でも実際に許可取れたし」

「いや、だからその理由は!?」


 あっけらかんとした顔で答えるレクトに、未だに納得できない様子のフィーネの声が若干大きくなる。しかしここで、アイリスがそれに関してある重要な事を思い出した。


「あ!そういえばアルカナム神殿っていえば、確か大神官が!」


 アイリスの言葉に、他のメンバーもその事に気付く。ただニナは相変わらず頭上に疑問符を浮かべており、世間的な情勢には疎いベロニカもわからないといった様子を見せている。


「「「四英雄カリダ!!」」」


 ニナとベロニカを除いた5人が、声を揃えて名前を挙げた。話題を持ち出したレクトも「やっと気付いたか」とでも言いたげな顔をしている。


「そうよ!確か先月、四英雄カリダが史上最年少でアルカナム神殿の大神官に就任したって新聞に載ってたわ!」


 世間を賑わせたニュースを思い出し、リリアの声が一段と大きくなる。全く知らない2人はともかく、ようやく生徒たちが事情を察したようなのでレクトは改めて話を始めた。


「そうだ。本当のところは一般人立ち入り禁止のところ、相手がかつての仲間の俺だって話したらあっさり承諾してくれたぞ。まったく、コネ万々歳だな」

「先生。言っていることはわかりますけど、せめてもう少しソフトな言い方をしてもらえないでしょうか」


 レクトの下卑た表現に対し、ルーチェが呆れ顔で指摘する。しかし一般人立ち入り禁止の聖地であるアルカナム神殿に行くことができるなど、またとない機会であることは間違いない。


「つーワケで、明後日はアルカナム神殿へ社会科見学だ。集合時間とか必要な持ち物は午後にまた連絡するから、話は一旦これで終わりだ。全員、科学史の教科書出せー」


 驚きと興奮に満ちた表情を浮かべる生徒たちを見渡しながらレクトは話をまとめ、さっさと授業の準備に移り始めた。

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