D組との合同授業 後日談
S組とD組の合同授業があったその日の夕方。フォルティス王国の中央にそびえる王城に、1人の男が訪れていた。
男は門を警護している兵士を見つけると、慣れた様子で軽く手を振りながら挨拶をする。
「陛下への謁見の申し入れはしていないが、顔パスという事で通してはもらえないだろうか?」
「あ、あなたは!」
門番である兵士は男の顔を見ると、すぐさま手に持った槍を引き一礼した。
それから数分後。玉座の間では、忙しいのかそうでもないのかイマイチよくわからないような本日の業務を終えた国王と大臣の元へ、1人の兵士がある事を報告にやってきていた。
「陛下、陛下と大臣殿に来客がございます」
兵士の報告を聞いた国王は驚いたような顔をするが、一方で大臣の方は呆れ半分、怒り半分といったような表情を浮かべている。
「来客だと?陛下への今日の謁見の時間はとうに過ぎておる。明朝、出直すように伝えて参れ」
大臣は突っぱねるように兵士に命令するが、何故か兵士は素直に返事をしない。一体どうしたのかと大臣が聞く前に、兵士の方が先に口を開いた。
「で、ですが、その方というのが…」
だが、兵士が言い切る前に彼の背後から足音が響いてきた。その足音の主は兵士のすぐ後ろにまでたどり着くと、屈託のない笑顔で大臣に向かって話しかける。
「会うのは半年振りかな?大臣よ」
現れた男は、サンクトゥス女学園D組の担任であるギルバートであった。今日はこの王城へと訪れる為に、少し早く学校から退勤していたのだった。
そんなギルバートの姿に気付いた大臣はそれまでの態度とは打って変わって声が明るくなり、彼を出迎える。
「おぉ、ギルバートではないか!久しぶりだな!」
「あぁ、お前も変わらないようで何よりだ」
ギルバートはそのまま玉座へと歩み寄ると、国王に向かって軽く頭を下げる。
「陛下も。ご無沙汰しております」
「うむ、久しぶりだな。お前が国境警備隊の隊長を退いて、もう半年にもなるのか」
かつて王国に仕えていた戦士と久しぶりに会ったからか、国王も嬉しそうな表情を浮かべている。そんなギルバートの突然の来訪に喜びを感じつつも、国王は彼の用件について尋ねる。
「して、今日は何用だ?確か今はクラウディアにスカウトされて、あやつの学校に席を置いていると聞いたが」
知人であるクラウディアが教師として彼を雇ったことは、当然のように国王や大臣の耳にも入っていた。だがあくまでもクラウディアから聞いた話である為、こうして本人と久しぶりに会えた以上は念の為に確認しておきたいというのもあった。
「はい、その通りです。今日は近況報告と、久しぶりに昔話でもどうかと思いましてね」
ギルバートの話を聞いて、国王と大臣は納得したような表情になる。近況報告と聞いてどんな話が聞けるのかと2人は少し興味があったのだが、ギルバートの口からはある意味2人が一番聞きたくはない人物の名前が飛び出した。
「四英雄レクト・マギステネルに会いました」
その名前が出た瞬間、国王と大臣が急にドキッとしたような表情を浮かべる。というより、2人ともどう見ても嫌そうな、その名前を聞きたくはなかった、とでも言いたそうな顔をしていた。
「そ、それはその…何というか…気の毒というか…。なぁ、大臣よ?」
「そ、そうですな陛下。ギルバートよ、その…あの男とは、い、色々あったのだろう?」
国王と大臣はしどろもどろになりながらも、何とかギルバートを気遣おうと努力している。そんな彼らを見て、ギルバートは冷静に一言発した。
「彼はとんでもない男ですね」
ギルバートは微かに笑みを浮かべているが、国王と大臣にはそれが作り笑いか、苦笑いにしか思えなかった。
「そ、そうなのだ。奴はとんでもない男でな、私も国王もずっと前から…」
ギルバートの言う“とんでもない”というのもレクトの外道な性格なことに違いないと踏んだ大臣は、彼の苦労をねぎらうように穏やかな口調で接する。だがギルバートから返ってきた言葉は、大臣の予想だにしない内容であった。
「かつての私の部隊にも、彼のような男が欲しかったなと思いますよ」
「「は???」」
ギルバートの言っている意味がまるで理解できなかった様子の国王と大臣は、2人して顔を見合わせる。
少し考えて、おそらく彼はレクトの本性を知らないのだという結論に至った大臣は、その事について言及する。
「ギルバートよ。お主は知らないのかもしれないが、実は英雄レクトは傲慢かつ傍若無人、人が苦痛に歪むのを見るのが3度の飯よりも大好きな最低最悪のドS野郎なのだぞ?」
本人がいないのをいいことに大臣は好き放題言い、国王も横でうんうんと頷いている。だがその話を聞いたギルバートは驚くどころか、大笑いしていた。
「それは知っている。校長から聞いた。それに、彼の受け持つクラスでは既に何人もの女子生徒が彼の毒牙にかかっているという噂まであるからな」
その話を聞いた途端、国王と大臣は呆れかえったように頭を抱えたり、目頭を押さえた。
「まったく、レクトめ…。やはりこうなったか…」
自分はレクトを雇おうとするクラウディアに反対していた立場であるとはいえ、国王は呆れてものも言えないようだ。
しかしギルバートからは、意外どころか国王の想像を遥かに超えた事実が告げられた。
「ですが陛下、先程も申したように彼はとんでもない人間ですよ。どうやら彼は人を育てる才能に溢れているようです」
「そんなバカな!?」
あまりの驚きに国王は思わず大声を出してしまったが、それを聞いたギルバートは不思議そうな顔をしながら首をかしげている。
「おや?彼をサンクトゥス女学園の教師に推薦したのは確か陛下ではありませんでしたか?」
その言葉を聞いた瞬間、国王はギクッとなる。しかしすぐさま平静を装うと、ギルバートの質問に対して答えた。
「あ、あぁ…まぁ、そうなのだが…」
実際のところは国王が推薦したのではなくクラウディアが半ば無理矢理要求したような形なのだが、一応は国王の面目と世間体を守る為に形式上は国王の推薦という形になっていた。
これらの真実を知るのは当人であるクラウディアと国王、大臣、そしてクラウディアから直接話を聞いたレクトとジーナだけである。
「やはり陛下は人を見る目があるようですな。たとえ性格的には底辺でも、特別な才能に溢れた人物を見出すとは」
「そ、そうでもないぞ」
国王はアタフタしながら答えるが、幸運なことにギルバートにはそれが謙遜しているようにしか見えなかった。
その後も国王と大臣はレクトの事を半信半疑に思いながらも、旧友であるギルバートとしばらくの間昔話に花を咲かせていた。
「へックシュン!!」
「わっ、きったねーなセンセイ!口ぐらいおさえろよ!」
帰りのホームルームの最中に突然クシャミをしたレクトに、思わずベロニカが難色を示す。一方でアイリスは心配そうな様子でレクトを見ている。
「先生、大丈夫ですか!?もしかして風邪なんじゃないですか?」
「いや、どっかで誰かが噂でもしてんだろ。俺、有名人だし」
レクトはコートの袖で口元を拭いながら答えるが、それを聞いたリリアはニヤニヤしながら口を開いた。
「案外、先生に酷い目に遭わされた人が文句とか言ってたりして」
そんなリリアの言葉に、S組メンバーの何名かは「あぁ」と納得したような声を上げた。だがレクトは不満なのか、目を細めながらリリアに対して反論する。
「あのなぁ、確かに俺に酷い目に遭わされたっていう人間はそれなりの数がいるかもしれないが、それ以上に俺に救われた人間の方が遥かに多いからな?」
「そりゃあ、魔王を倒してますからね」
レクトの話を肯定するように、エレナが話をつなぐ。
「俺に酷い目に遭わされた人間が10万人いるとしたら、俺に救われたっていう人間はきっと100万人はいるだろうな」
「リアクションに困る例えはやめてください」
どう考えても素直には褒められないようなレクトの表現に、ルーチェが容赦なくツッコミを入れる。
担任であるレクトが王城で話題になっていたなど誰も知らないまま、この日もS組の1日が終わったのだった。




