D組との合同授業 ⑧
校庭の中心でS組とD組、それぞれのメンバーが互いに向き合って整列している。列の一番端にはクラス代表であるフィーネとセシリアが立っており、すぐ近くには校長であるクラウディアが2人の顔を見渡しながら微笑みを浮かべていた。
「「ありがとうございました!」」
「「「ありがとうございました!!」」」
フィーネとセシリアに続き、S組とD組メンバーが礼をする。一部不服そうな顔をしている生徒もいるが、一応の形式として仕方なく礼はしているようだ。
そんな中、それまで静かに見守っていたクラウディアが一歩前に出る。
「みんな、よく頑張ったわね。校長である私としても、とても良い戦いを見せてもらったわ」
クラウディアの話を、生徒たちは姿勢を正したまま黙って聞いている。
一方で教師陣の態度はバラバラであり、真剣に話を聞いているジーナ、腕を組んで顎をさすっているギルバート、退屈そうに欠伸をするレクトと三者三様だ。
「結果はどうあれ、両クラスとも全力を尽くしたのは間違いないわ。これからも互いに切磋琢磨し合って、更に精進してちょうだい」
それだけ言うと、クラウディアは軽く頭を下げて話を終えた。校長の話が終わったのを確認すると、今度はそれぞれのクラスの担任が動き出す。
「よし、それではD組の生徒たちはこちらへ集まれ」
「S組のガキどもはこっちだ。早くしろ」
D組メンバーはギルバートの言う事に対して素直に、S組メンバーは本当に同じ教師なのかと疑いたくなるようなレクトの言動に従って所定の位置に移動し始めた。
対抗試合は終わったものの、合同授業自体はまだ終わりではない。実はサンクトゥス女学園では、合同授業の最後に各クラスの担任がそれぞれお互いのクラスの生徒たちに対して批評やアドバイスを行う時間が設けられているのだ。
そういった理由で今はS組メンバーの元にD組の担任であるギルバートがやって来ており、同じようにレクトはD組の生徒たちの所へ行っている。
「さて、一応形式上は批評を行う時間なのだが、私から君たちに対してとやかく言う部分は特にない」
ギルバートはS組メンバーの顔を見渡しながら、穏やかな口調で話を始めた。しかし彼の言葉に疑問を持ったのか、エレナが質問する。
「特にない?私たちには直すべき部分が無いということですか?」
「いや、そういうわけではない。ただ、それに関してはこの後担任であるレクト君から色々と話があるだろうから、わざわざ私の口から言う必要はない、ということだ」
エレナの質問に、ギルバートはきっぱりと言い切る。普段であれば間違いなく授業中の行動や状況判断、戦術について何かしらの指摘や批評がある筈なので、今回のギルバートの対応は正に異例と呼べるものであった。
「今の段階で私から君たちに言えることは、1つだけだ」
ギルバートのその言葉に、S組メンバーはごくりと唾を飲み込む。だがギルバートから発せられた言葉は、彼女たちの予想だにしないものであった。
「君たち、いい人物に出会ったな」
ギルバートのその一言に、S組メンバーはキョトンとしながら顔を見合わせる。そんな中で彼の言っている事がイマイチ理解できなかったのか、ニナが質問した。
「いい人物って、レクトせんせーのこと?」
「他に誰がいる?」
ギルバートはさも当然といった顔をしている。やはりと言うべきか、ギルバートの言う“いい人物”というのはレクトのことであった。
「あんな人物はおそらくもう二度とこの学園には現れないだろう。大切にしたまえよ」
ギルバートは笑いながら言うが、S組メンバーにはその言葉の意味がよく理解できなかった。皆の疑問を率先するように、フィーネがギルバートに尋ねる。
「大切にする?レクト先生が私たちを大切にするのならわかりますが、私たちが先生を大切にするとはどういう事ですか?」
「それは君たち自身で考えることだ。私がここで答えを言ってしまっては意味がない」
フィーネの質問にもギルバートは明確な答えを示さず、ただ笑っているだけだ。皆は相変わらず頭に疑問符を浮かべているが、それに構わずギルバートは話を切り上げる。
「さて、私からの話はこれで終わりだ。今後とも精進するように」
「「「ありがとうございました!」」」
S組メンバー全員から一礼されると、ギルバートは軽く手を振ってその場を後にした。
それから更に数分後。こちらもD組メンバーへの批評と指導が終わったのか、S組メンバーの元へ担任であるレクトと、彼の付き添いをしていたジーナがようやく戻ってきた。
「せんせー、おそいー!」
ほんの数分であったが、待ちくたびれた様子でニナが不満を漏らす。しかしレクトとしてもD組への指導を行っていただけなので、決してどこかでサボっていたというわけではない。
「これぐらい普通だろ。むしろこっちが早すぎんだよ」
少し呆れたような目をしながらレクトは答えた。実際、レクトの言う通りギルバートからの話はあっさり終わってしまったのも事実ではあるので、彼の言う早すぎるというのもあながち間違ってはいないのだが。
「で?向こうの担任からは何を言われたんだ?」
レクトはごく当たり前の事を尋ねたが、それを聞いた生徒たちは互いに顔を見合わせると、声を揃えて言った。
「「「内緒!!」」」
「なんだそりゃ」
生徒たちのわけのわからない回答にレクトは目を細めたが、特別気になったわけではないのかすぐに次の話へと移る。
「まぁいいや、それじゃあ全員とっとと制服に着替えてこい。教室に戻ったら今日の戦いぶりについて色々言うことがあるからな」
「「「はい」」」
生徒たちは返事をすると、一斉に更衣室の方へと向かっていった。
S組メンバーと一旦別れた後、先程の件が引っかかっていたのかジーナがレクトに質問する。
「レクトさん、ギルバートさんがあの子たちに何を言ったのか気にならないんですか?」
「全く興味ないな」
包み隠さず即答するレクトを見て、ジーナは少し肩を落とす。しかしレクトも適当に言っているわけではなく、彼なりに考えていることがあった。
「他人の批評なんざ俺にとってはどうでもいいんだよ。俺は自分が必要だと思ったことしかやらないし、他人が必要だって言っても俺が必要と思わなければ、俺は絶対にやらない」
格好つけてはいるが、言っていること自体は割と無茶苦茶でもある。その事についてジーナは少々恐れを抱きつつも、思い切って聞いてみた。
「それって…自分勝手って言うのでは?」
「そうだよ。もっとはっきり言っちまえば俺のエゴだ」
意外にもレクトがあっさり肯定したので、ジーナは呆気にとられたような顔になった。しかし、続けざまにレクトからはとんでもない発言が飛び出す。
「そもそも俺はよ、自分が傲慢な外道だって自覚してるからな?」
「えぇっ!?」
レクトは何の気もなくカミングアウトするが、おそらく薄々勘付いていたであろうクラウディアの時とは違ってジーナはひどく驚いたような顔をしている。
「それを知った上であの校長は俺をこの学園に置いてるんだ。あのオバさんが何を考えてるのかは知らねえが、俺は俺の好きにやらせてもらうって言い切ったからな」
おおよそ教師とは思えないレクトの話を、ジーナは驚きつつもただ黙って聞いていた。
「ジーナ、お前は俺が間違ってると思うか?」
突然、レクトは悪戯っぽく笑いながらジーナに質問を投げかけた。思いがけないレクトからの質問にジーナはドキッとするが、それでも迷わずに答える。
「わ、わからないです…。けど、それはレクトさんが結果で示してくれると思ってます!」
「面白い答えだな、それ」
ジーナの回答を聞き、レクトは何故か頷く。それに関してレクトは何も言わなかったが、ふと思い出したように口を開く。
「そろそろ教室に戻ろうぜ。あいつらももうじき着替え終わるだろ」
「あ、はい!」
校舎に向かって歩き出したレクトに、ジーナは小走りでついて行った。




