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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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英雄は外道です ②

 ひとまず一連の騒動も収まり、英雄の外道っぷりが明らかになったところで国王は改めてレクトに労いの言葉をかける。


「それでは改めて魔王メトゥスの討伐の件、本当に大義であったぞレクトよ」

「いや、そういうお世辞はいいから」


 常識的に考えれば国王直々のありがたい言葉ではあるが、レクトは全く嬉しそうな顔をしていない。特に不満があるというわけではないのだが、彼にとっては国王の言葉などどうでもよく、早く帰って寝たいという気持ちの方が圧倒的に強かったからだ。

 国王の方もそんな喜びの感じられないレクトの顔を見て、すぐさまある提案を行う。


「レクトよ。お前さんの偉業を祝して近日中に盛大な宴を開こうかと思っているのだが、どうかね?」

「いらねえ」


 折角の提案に対しても、取りつく島がない。レクトが即答したので、国王は思わずがっくりとうなだれてしまった。


「凱旋の宴だの祝賀パーティーだの、もう散々参加させられたんでな。酒も女もしばらくは必要なくなるぐらい堪能したよ」


 世界を救った英雄を讃える為の祝宴を開こうという国王の計らいも、レクトによってバッサリ切り捨てられる。既に散々祝杯をあげた後であったので、彼としては今更そんなもの開いて欲しいなどとはこれっぽっちも思っていなかったのだ。


「そ、そうか。では何か褒賞をやろう。レクトよ、何か欲しいものはあるか?宝石とか…」

「特にないな」


 この提案も、レクトはバッサリ切り捨てる。褒賞といってもほとんど予想できるのは金銀財宝や地位といったものであろうが、いずれもレクトにとっては興味のあるものではないのだ。

 しかし、その答えはとある理由で今の国王にとっては都合が悪かった。何とか話を繋ごうと、今度は別の質問をする。


「うむ…では何かして欲しいことはあるか?」

「無えよ。つーかさ、さっきから何なんだ?人の機嫌とるようなマネばっかしやがって」


 何度も提案を受け、レクトはやや不機嫌そうになった。どういう意図があるのかは知らないが、国王が何とかレクトの機嫌を取りたいような様子が丸わかりであった。


「そ、それはだな…!」


 国王は言葉に詰まってしまう。だがそれもそのはず、実は国王がレクトをこの場に呼んだのは単に彼の功績をねぎらうためだけではなく、また別の目的があったからなのだ。

 とはいえ、不満そうな今のレクトではまともに取り合ってもらえないかもしれない。そう思った国王は、レクトがあまりにも退屈そうな顔をしていたので一旦話題を変えることにした。


「そういえばレクトよ、一緒に戦った勇者ルークスはあの後どうなったのだ?」

「あ?ルークスだぁ?」


 勇者ルークス。真の勇者にしか抜くことができないと語り継がれる聖剣グラムを手にして、魔王メトゥスを倒すために立ち上がった青年だ。彼は旅の途中でカリダ、テラ、そしてレクトの3人を仲間にし、見事に魔王を打ち倒した。


「ルークスは旅の途中で助けた王女と結婚して、次期国王だとさ。まぁ世間的に見ても聖剣に選ばれて世界を救った勇者様だし、誰も反発するヤツなんていやしねえだろ」


 ちなみに結婚式が挙げられたのはちょうど1週間前のことで、もちろんレクトも招かれた。その結婚式のおかげでフォルティスに帰ってくるのが大幅に遅れてしまった、というのもあるのだが。


「ふむ、では魔術師カリダは?」


 国王は質問を続けた。カリダは伝説の賢者の血を引く女魔術師だ。彼女はあらゆる魔法のエキスパートであり、実際旅の途中や魔王との決戦においてもその優れた攻撃魔法や回復魔法には皆、何度も世話になった。


「カリダは祖国に帰ったよ。何でも世界を救った功績を認められて、史上最年少で神殿の大神官に就任するんだと」

「それなら、武闘家テラはどうしておるのだ?」


 武闘家テラは、様々な武術に精通した格闘家だ。古今東西あらゆる武術を制覇するために武者修行の旅をしていたところでルークス達と出会い、共に世界を救うために旅に加わった。

 余談だが武者修行の旅に出る際に故郷に奥さんを1人残して行ってしまったので、魔王を倒して故郷に帰ったあとはその奥さんからこっぴどく叱られたらしい。


「テラは自分の故郷の町に戻って道場を開いたってさ。国を救った英雄の道場ともあって、さっそく入門希望者で溢れ返ってるらしいな」

「なるほど、皆自身の道を歩んでいるという事だな」


 レクトの話を聞き、国王は納得したように頷く。取り止めのない話ではあったが、国王としては良い方向に転がった。先程まで不機嫌そうだったレクトの表情も穏やかになっていたので、今が正に話を切り出す絶妙のタイミングだと確信し今日ここにレクトを呼んだ本当の目的を話し出す。


「ところでレクトよ。お前さん、これからどうするつもりなのだ?」

「これから?」


 国王からの急な質問に、レクトは一瞬言葉に詰まってしまった。どうする、というのはおそらくこれからどうやって生活していくのか、ということだろう。

 レクト自身も特に考えてはいなかったが、かといって先程話に挙がった他の3人のように何かやらなければならない使命があるわけでもないし、特別やりたいことがあるわけでもない。


「んー、そうだな…とりあえずアテもないし、しばらくは大型モンスターにでもかけられた懸賞金かなんかで生活するかな」


 明確なビジョンがあるわけではないが、レクトはとりあえず思いついた事をそのまま口にした。実際、ルークス達の仲間になる前も傭兵稼業で生活していたわけだし、仮にも魔王を倒したパーティのメンバーであったのだ、腕前にはそれなりに自信がある。少なくとも、衣食住には困らないだろう。

 などとそんな事を考えていると、国王から思いがけない言葉が飛んできた。


「時にレクトよ、実はお前さんに1つ大事な話があるのだが」

「話?」


 国王の話を聞いたレクトは急に怪訝そうな顔になった。おそらく、祝宴だの褒賞だのは単なる建前で、本当はこれから話す内容こそが本題だったのだろうと即座に見抜いたからだ。


「実は城下町の一等地に私の古い知り合いが校長を務めている名門の戦士養成学校があってだな、今まさに武術に精通している人間を教師として探しているそうなのだ」

「ふーん」


 国王の説明を聞き、レクトはこの後自分が何を言われるのか大体察しがついていた。というより、この流れで言われることといったら最早1つしか考えられないだろう。


「レクトよ。もしよければお前さん、その学校で教師をやってはもらえないだろうか?」


 国王からは、いかにも予想通りの言葉が発せられた。そして、それに対するレクトの返答はというと。


「断る」

「えぇっ!?」


 レクトが即答したのを見て、国王は思わず声が裏返った。驚く国王を余所に、レクトは少し呆れた様子で目を細めている。

 これまた常識的には国王からの指名など大変名誉なことではあるのだが、やはりこの男にとっては至極どうでもいいらしい。


「いや、そこ驚くところか?割と当たり前の答えを返したつもりだったんだが」

「そ、それはそうかもしれんが…!」


 当然のように答えるレクトに、国王はひどく慌てふためいている。

 とはいえ、そもそもレクトとしてはそんな急な話、はいわかりましたと素直に返事をする筈もなかった。


「そもそも教師っていったら戦闘の技術だけじゃなく、学問も教えなきゃならないんじゃないのか?戦闘だけならまだしも、俺にはそんな経験ねえぞ」


 腕組みをしながら、レクトは面倒くさそうに言った。レクトの言う事にも一理あるのだが、国王は国王で中々引き下がろうとはしない。


「いや、お前さんは学問にもかなり精通しているだろう。聞くところによれば、王都から少し遠くにある名門の学校を出ているのだろう?」

「どこで調べた、その情報」


 自身の事を調べられたのが面白くないのか、レクトは少し呆れ気味に言った。とはいえ国王の言う通り、レクトが名門校出身というのは事実であった。


「当時、教師をしていたという男に聞いたぞ。なんでも成績だけは全て良好であったとか」

「だけ、って何だよ」


 国王の言葉の一部分が引っかかったのか、レクトは冷静にツッコミを入れる。だが指摘はしても反論はしないあたり、レクト自身もその内容には少なからず自覚があるのだろう。


「大体、なんで俺なんだよ。勉強ができて戦闘の経験もある奴なんて他に腐るほどいるだろうが」


 そもそもの話、戦士としての実力はともかくとしてレクトの人間的な面をよく知る国王が、自分を教師として推薦してきたこと自体がまず疑わしかった。その質問に対して、国王は少し目をそらしながらしぶしぶ答える。


「いや、それがな…お前さんの事をその校長に話したら、是が非でも勧誘してこいと命令されてしまったものでな…」

「なんで国王のあんたが国民に命令されてんだよ。弱みでも握られてんのか?」


 レクトの言う通り、国王が国民に命令されるなど普通ならあり得ない、というかあってはならない筈だ。だとすると国王自身が何かしらの弱みを握られているとしか思えなかった。

 そんなレクトの予想が当たっていたのか、国王の口調は急にしどろもどろになる。


「そ、そんなことはないぞ!断じて無い!!」

「完全に動揺してんじゃねえか。図星だろ」


 レクトは真顔で言った。国王は慌てて咳払いを1つすると、落ち着き払った様子で改めてレクトに問う。


「で、どうだレクトよ。引き受けてはくれないだろうか?」


 国王としては精一杯伝えたつもりではあった。そもそも国王自身、本来ならばレクトと長話をするのもあまり気が進まないのである。

 そして、その頼みに対するレクトの返答はというと。


「何度も同じ事を言わせんなよ。断る」


 レクトの否定の言葉が、玉座の間に虚しく響いた。

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