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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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D組との合同授業 ⑤

 リリアとベロニカがD組の陣地へと突き進む中、フィーネ、エレナ、アイリスは戦況を伺いながら慎重に歩を進めていた。


「既に戦闘が始まっているわね。加勢する、フィーネ?」


 周りを見渡しながら、エレナが尋ねる。それを聞いたフィーネは遥か前方にいるベロニカの状況を見て頷くと、自身のすぐ後ろにいたアイリスの方を見た。


「ベロニカももう少しでD組の陣地に着きそうね。アイリス、援護に回って」

「はい、わかりました」


 アイリスは返事をすると、ベロニカの方へと向かって走り出した。それを見送ったエレナは、自分たちの行動について改めてフィーネに尋ねる。


「それで?私たちはどうする?」


 そもそもレクトが彼女たちに指示したことは、“状況に応じて先発メンバーの援護に向かえ”というものであった。

 フィーネは戦況を見ながら少し考え、自分なりの最善の判断を下す。


「ニナの方は相手もあと1人だし、このままで大丈夫そうね。私たちは先行しているリリアの援護に向かいましょう」

「了解よ」


 フィーネの指示にエレナも頷くと、2人は先行くリリアの方へと向かっていった。




 そんなフィーネに1人でも問題ないと判断されたニナは、アレックスに続いて挑みかかってきた槍使いのジェニファーと激闘を繰り広げている最中であった。


「えいっ!やぁっ!はぁっ!!」

「流石はS組ナンバー1の身体能力ね、ニナ!」


 ニナの猛攻を凌ぎながらも、ジェニファーは彼女に賞賛の言葉を送る。先程のアレックスの時とは違い彼女が使っている武器は槍であるため、ニナのハルバードとのリーチの長さはほぼ互角といえよう。


「悪いけど、ジェニファーちゃんもニナが倒しちゃうもんね!」


 ニナは自信満々に発言する。だがその言葉とは裏腹に、ニナの息は徐々に切れ始めてきていた。もっとも、つい先程までアレックスと激闘を繰り広げていた上にそのまま連戦という形なので無理もないが。


「残念だけど、あなたにはここで退場願うわね」


 ニナの攻撃を捌きながら、ジェニファーは不敵に笑う。だが彼女が勝利を確信していたのは、ニナが疲れを見せ始めていたのとは別の理由があったからであった。


 ニナとジェニファーが戦いを繰り広げている場所から数十メートル離れた位置では、1人の少女が遮蔽物に隠れながらその様子を伺っていた。


「ニナのやつも疲れてきたみたいだし、そろそろ頃合いかしら?」


 D組に所属する小柄な少女アイシャはそう呟くと、すぐに準備に取り掛かる。


「自分で言うのもなんだけど、相変わらず防衛のD組らしくない戦術だよね、コレ」


 やや自嘲気味な独り言を口にしながらも、アイシャは自らに魔法をかける。すると、瞬く間に彼女の姿が消えていった。どうやら体を透明にする魔法のようだ。


「あとは気付かれないように素早く近付いて、仕留めるだけね」


 その言葉を合図に、アイシャは尚もジェニファーと交戦しているニナの元へ音も無く忍び寄る。


 そんな事を知る由もないニナは、最早これ以上体力を温存するのも無理だと判断したのか、一気に畳みかけるような戦い方に変更していた。


「ちっ…!まだこんな力が残ってたのね…!」

「はぁっ、はぁっ…!まだまだ!」


 ニナにまだこれほどの余力が残されていたことに驚きつつも、ジェニファーはその攻撃をいなし続いている。

 だがここで、ジェニファーは誰もいないはずのニナの背後の地面が僅かに砂埃を舞い上げている事に気付いた。


「よし、間に合った!」

「!!」


 味方であるアイシャの到着にジェニファーは思わず声を上げ、その反応を見てニナは何かに気付いた様子を見せる。だが彼女が振り返った時には既に遅く、背後ではアイシャが木製の短剣を振り下ろしている最中であった。


「終わりよ、ニナ!!」


 アイシャが叫ぶと同時に、短剣がニナの首筋に命中する。ところがそれまで勝利を確信していたアイシャの笑顔は、腹部に感じた衝撃と共に一気に驚愕の表情へと変貌した。


「う、嘘でしょ…!?」


 アイシャは驚愕の声を上げながら、改めて自分の腹部を見る。腹部の中心には、ニナのハルバードの槍部分がこれでもかというぐらいに当たっていたのだ。


「あちゃー、間に合わなかったか」


 驚くアイシャをよそに、ニナは残念そうに呟いている。どうやらニナとしては刺し違えるどころか、背後から忍び寄るアイシャを先に仕留めるつもりだったようだ。

 ジェニファーを含めた3人にはどちらの攻撃が先だったのかがわからなかったが、その判定は審判であるクラウディアから下された。


「アイシャ、ニナ、同時に戦闘不能」


 クラウディアが2人の脱落を宣言する。それを聞いたニナは少し不満そうになりながらも小さく「はーい。」と返事をし、アイシャの腹部からハルバードを引くとそれを背中に挿す。

 一方で、不意打ちをかけるつもりだったのに完全にしてやられた感のあるアイシャは、ぷりぷり怒りながらジェニファーに愚痴をこぼした。


「ちょっとぉ。出てきてすぐ脱落って、あたしものすごいカッコ悪くない?」

「そうね。綺麗に仕留められたらカッコ良かったんだけど、相討ちだものねぇ」


 不満をぶちまけるアイシャに、ジェニファーはなだめるような口調で答えた。しかしアイシャは不機嫌そうなまま、今度はニナに対して食ってかかる。


「っていうかニナはさぁ、なんで姿を消して背後から近づいてたあたしに気付いたワケ?」


 確かにあの時はちゃんと姿も消していたし、足音も聞こえないように近付いた。アイシャに気付いたニナが振り返ってからハルバードを構えたとしても、間に合わないのは確実だ。

 つまりニナは、“アイシャの方を振り返りながらハルバードを突き刺した”、ということになる。事前にわかっていたならまだしも、咄嗟にニナがあのように行動できたことがアイシャには納得いかなかったのだ。

 だが、それに対するニナの回答は彼女の予想の斜め上をいっていた。


「うーん、カン!」

「動物かあんたは」


 全く参考にならないニナの答えに、アイシャはがっくりと肩を落とす。そんな彼女に、いつの間にか槍を背負ったジェニファーが声をかけた。


「とにかくアイシャ、あなたは脱落したんだからさっさとギルバート先生のところへ行ってらっしゃい。作戦を破ったアレックスほど酷くはないと思うけど、きっとお説教が待ってるわ」

「ちぇっ、わかってるわよ」


 アイシャは不機嫌そうな顔のまま、場外へと歩いていく。そんな2人の会話を聞いていたニナの頭には、ある1つのことがよぎっていた。


「うー、もしかしてニナもせんせーに怒られるのかなぁ」


 一応ニナ自身もD組メンバーを2人撃破するという功績を上げてはいるのだが、それでもやはりレクトに怒られるかもしれないと思っているのかニナは浮かない顔をしている。しかしこのままここで突っ立っているわけにもいかないので、渋々ながらレクトの待っている場外へと向かうことにした。




 その一方で場外にいるレクトは、遠くからニナがトボトボと歩いてくるのを見ながら静かに口を開く。


「これでウチの小娘どもはあと5人、対するD組は6人か」


 決して手放しで喜んでいるわけではないが、それでも元々は4人の人数差があったにもかかわらずS組メンバーたちの奮闘で僅か1人の差にまで縮んだのだ。ここまでは順調であると言えよう。

 しかも、皆レクトの指示通りにキチンと動けている。その事実に普段から真面目なエレナやフィーネはともかく、ベロニカ、ルーチェ、リリアといったじゃじゃ馬までもが勝手な行動を一切せず作戦通りに動いていることに、隣にいたジーナは驚きを隠せなかった。


「それもこれも、みんなレクトさんの指導のおかげですね」

「当たり前だろうが」

「そ、そうですね…」


 ジーナとしては素直に褒めたつもりだったのだが、謙遜など全くせずに堂々と答えるレクトを見て彼女は少しだけ肩を落とす。別にそれ自体が悪いわけではないのだが、余りにも自身に満ち溢れ過ぎているレクトに偶についていけなくなることがあるから少し怖いのだ。

 だがレクトを見て、既に脱落して観戦する立場に回っていたルーチェは少しだけ毒を吐く…もとい釘を刺す。


「先生、あんまり自分のおかげだとばかり思ってると、いつか反乱が起きるかもしれませんよ?」

「お前らに、俺に反抗するだけの度胸があればの話だがな」


 ルーチェの毒など意にも介さず、レクトはきっぱりと答える。それを聞いたルーチェは少しムッとするが、現実は非情であった。


「言われっぱなしなのは少し腹立たしいですが、そんな度胸はありません」


 ルーチェは嫌々ながらも本音を言う。そんな話をしていると、レクトたちの待機していた場所へ脱落したニナが到着した。


「ごめーん、せんせー。やられちゃったぁ」


 ニナは頭をかきながら苦笑いを浮かべている。しかしレクトはニナの予想に反して怒るどころか、腕を組んだまま冷静な表情をしている。


「あぁ、そうだな。ま、とりあえずお疲れさん」

「えっ?せんせー、怒らないの?」


 厳しいレクトのことだ、てっきり叱られるかと思っていたニナは拍子抜けしたような声を出した。それを聞いたレクトは少し呆れたような顔になってニナを見る。


「何だよ、叱られたいのか?」

「ぜったいイヤ」


 レクトの質問に、ニナは即答した。というより、レクトに叱られたいなどよっぽど特殊な性癖の持ち主でもない限りはまずありえないだろう。

 実際、レクトから見ても今日のニナの健闘は叱るよりも褒めるべき部分の方が遥かに大きかった。


「まぁでも、お前は2人仕留めてるしな。むしろ上出来だろ。良くやった」

「えへへ、やったぁ!」


 素直に褒められたことに、ニナは喜びの声を上げる。だが、それを横で聞いていたルーチェはどことなく嫌味っぽい口調でレクトに尋ねた。


「その言葉からすると、D組メンバーを1人も撃破していない私は論外だったということでしょうか?」


 事実、ルーチェの言う通り結果的には彼女自身はD組メンバーを誰一人として脱落させる事ができていなかった。しかし彼女が単なる役立たずで終わったかと言うと決してそうではなく、勿論レクト自身もそのことはわかっていた。


「拗ねるなよ。お前のことだって、ちゃんとアシストできてたな、って最初に言っただろうが」

「拗ねてません」


 レクトの言い方が気に入らなかったのか、ルーチェはそっぽを向く。しかしそれが逆に彼に火をつけたのか、レクトはからかうような口調になりながらルーチェの顔を覗き込んだ。


「意外だな、まさかルーチェも俺に褒めてほしかったとはな。それなら先に言ってくれりゃあよかったのによ」

「そんなこと、これっぽっちも思ってません。もうこの話はいいです」


 怒ったのか、ルーチェはレクトの方を見ようともしない。そんな2人のやり取りを見て、ジーナは驚きと関心が半々といった表情を浮かべていた。


(毒舌家のルーチェちゃんを一方的に弄るなんて、やっぱりレクトさんはすごいなぁ)


 レクトもルーチェを弄るのは大概にしておいた方がいいと思ったのか、喋るのをやめて前を見る。するとタイミングよく、戦況が大きく変化しようとしている真っ最中であった。


「おっと、そろそろ終盤戦みたいだぜ」


 レクトのその言葉に3人が反応する。D組の陣地の方を見ると、ようやくS組メンバーの1人が陣地に到達したようであった。




「あった、あの旗ね!」


 S組メンバーの中で、一番最初にD組の陣地に到着したのはリリアであった。視線の先にある大きな旗を握ればその瞬間にS組の勝利となるのだが、当然のようにそう上手く行く筈はない。


「残念だけど旗のところへは行かせないわ、リリア!」

「リリア…通さない…!」

「パトリシア!シャーリィも一緒ね!」


 リリアの前に剣と盾を持った少女のパトリシアと、杖を携えた少女のシャーリィが立ちはだかった。しかもよく見ると、奥にある旗の前にも1人の少女が立っている。どうやらD組は二重の守りを敷いているようだ。


「さぁ行くわよ!シャーリィ、準備はいい!?」

「いつでも…」


 パトリシアはリリアに向かって真っ直ぐに剣を向けており、すぐ後ろにいるシャーリィもいつでも魔法を放つ準備が整っているといった様子だ。

 状況的に見て、リリアの方が不利なのは明らかである。勿論、リリア自身もそんな状況で真っ向から突っ込むほど浅はかな少女ではない。


「悪いけど、あたしは2対1の勝負を真っ向から受けるほど素直な性格じゃないのよ!」

「ふん!騎士の娘がよく言うわね!それとも1対1こそが真の騎士道精神だとでも!?」


 リリアの言葉にパトリシアは皮肉を返しながら、先制攻撃と言わんばかりにリリアに向かって剣を振る。リリアは横にステップしてその攻撃を回避するが、今度は後方から更に攻撃が加わった。


「逃がさない…!」


 シャーリィは杖を構え、魔法を詠唱する。杖の先端からは青白い鎖が飛び出し、リリアの方へ向かって勢いよく伸びていった。


「捕まるもんですか!」


 リリアも負けじと剣を振り、自らを拘束する為に飛んできた鎖を断ち切る。だが今の魔法はあくまでも足止めに過ぎなかったらしく、横から再びパトリシアが剣を構えて襲いかかった。


「さぁ、おとなしくリタイアしなさい!」

「誰が!!」


 振り下ろされたパトリシアの剣を、リリアは自身の剣で受け止める。2人の腕力にはそれほど差はないのか一進一退のつばぜり合いになるが、今はD組側は2人なのだ。シャーリィはリリアの真横に回ると、杖を構える。


「くっ…、しまった!」


 リリアは悔しそうな声を上げるが、今の状態ではなす術もない。

 だが、そんな状況を打破するかのように突然、パァン!という快音とともにシャーリィの手から杖がはたき落とされた。


「痛っ…、何…?」


 シャーリィは落とした杖を急いで拾い上げながら、旗とは反対方向を見る。そこには鞭を引き戻しているエレナと、彼女のすぐ後ろに立っているフィーネの2人の姿があった。


「待たせたわね、リリア!」


 エレナの発したその一言に奮起したのか、リリアは2人の登場によって一瞬だけ油断した様子のパトリシアを蹴飛ばす。転倒したパトリシアと一旦距離をとると、リリアは改めて2人の方を見た。


「遅いじゃないの!」


 そうやって文句を言いながらも、リリアは嬉しそうな表情を浮かべている。

 S組とD組の合同授業は、今まさに最終局面を迎えようとしていた。

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