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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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D組との合同授業 ④

 アレックスとジェニファーの2人をニナに任せて先に進んだリリア。だが遠方からは彼女の睨んだ通り、弓矢による狙撃が降り注いできていた。


「全く!弓矢なんて!面倒ね!」


 次々に飛んでくる練習用の矢をかわしながら、リリアは弓の持ち主へと徐々に距離を詰めていく。5回ほど矢をかわしたところで、ようやくその持ち主を視界に捉えた。


「見つけた。やっぱりクレアだったのね」

「リリア!これ以上先には進ませないわ!」


 弓を射っていた少女、クレアはリリアに見つかっても尚、矢を放ち続ける。リリアはその矢を避けながらもクレアとの距離を徐々に詰めるが、ここで新手の登場に行く手を阻まれた。


「クレアさんだけじゃありません!」

「くっ…!マリアンね!?」


 クレアの矢に気を取られていたリリアに向かって、突如大きなハンマーが振り下ろされた。ギリギリのところで回避したリリアは、ハンマーを持った少女…マリアンと対峙する。


「クレアさん、このまま狙撃を続けてください!私がなんとかリリアさんを追い込んでみせます!」

「了解よ、マリアン!」


 返事をするとともに、クレアは再びリリアに向かって矢を放つ。しかも今度は同時に正面からマリアンがハンマーで攻撃するという二重の態勢だ。


「ちょっと、圧倒的に不利じゃない…!」


 飛んでくる矢とハンマーの攻撃を辛くも避けながら、リリアは焦ったように言う。動きの鈍重なハンマーだけならば避けるのは容易であるが、そこに弓矢による狙撃が加わるとなると話は別だ。


「さぁ、いつまで持つかしら!?」


 その言葉を皮切りに、クレアの矢を射るスピードが更に激しくなった。リリアとしては反撃に出たいところではあるが、流石に2人相手では部が悪い。

 リリアは2人分の攻撃を避けるので精一杯であったが、不意に放たれたマリアンのハンマー攻撃を避けた際にバランスを崩してしまった。


「しまった!」

「やったわ!これでどう!?」


 この好機を逃すまいと、クレアは間髪入れずに矢を放つ。矢は真っ直ぐにリリアの方へ飛んでいき、当たればほぼ間違いなくクラウディアから脱落の判定が出るような絶妙な狙いであった。

 だがここで、新たな戦力が乱入する。


「なに!?突風!?」


 突然周囲に吹き荒れた突風に、クレアは思わず顔を覆う。それはリリアとマリアンも同じであり、まともに立っていられないほど強い風であった。

 当然ながら、リリアに向かってきていた矢は強風に煽られて明後日の方向へと飛んでいく。それから数秒して風が弱まったと同時に、リリアの背後から声がした。


「手こずっているようね、リリア」

「ルーチェ!やっぱりこの風はあんたの魔法だったのね!」


 援軍の到着に、リリアの顔がほころぶ。しかし対峙するクレアは当然それをよしとせず、すぐさま現れたルーチェを排除しにかかる。


「新手の登場ね?だけど早々に退場願おうかしら!」

「できるかしら?」


 クレアが矢をつがえたと同時に、ルーチェは魔法を詠唱する。すると先程と同様に辺り一帯に強風が吹き荒れ、クレアの放った矢は再びあらぬ方向へと吹き飛ばされた。


「こんな強風の中じゃ、まともに矢を射ることなんてできないわよね?」

「くっ…!」


 これ以上矢を射っても無駄だと判断したのか、クレアは弓と矢を背中にしまった。だが戦うのを諦めたわけではなく、今度は腰に携えた木製のナイフを手に取る。


「けど、私が弓矢での戦闘しかできないと思ったら大間違いよ!」


 クレアは強気な発言とともに、ルーチェに向かって真っ直ぐに駆け出した。強風に煽られて膝をついていたマリアンも、クレアの行動を見てすぐに体勢を立て直す。


「クレアさん、加勢します!」

「無駄よ」


 マリアンが立ち上がったと同時に、ルーチェはすぐに魔法を詠唱する。見た限りでは何ともないが、その効果はすぐに表れた。


「あ、あれ?体が…!」


 クレアに加勢しようとマリアンが一歩踏み出した瞬間、急激に体の動きが重くなった。その拍子に足がもつれ、マリアンは思わず転倒してしまう。普段からマリアンはこういった重要な場面でドジを踏むような人物ではないと知っていたクレアには、その原因をすぐに理解することができた。


「間違いないわ…ルーチェの時間操作!」


 サンクトゥス女学園随一の魔法の才能を持つルーチェが時間操作の魔法を使える希少な人物であるということは、学園内でも割と有名な話であった。

 転倒しうつ伏せに倒れてしまったマリアンは、最早隙だらけどころではない状態を晒している。


「今よ、リリア!」

「上出来よルーチェ!」


 ルーチェの掛け声とともに、リリアは迷う事なく剣をマリアンの背中に突き立てる。これは誰がどう見ても、実際の戦闘においては戦闘不能に陥ったという他なかった。


「マリアン、戦闘不能。場外へ移動しなさい」

「…はい」


 クラウディアに宣告され、マリアンは力なく答える。それを見たクレアはせめて一矢報いようと、再びルーチェの方を向いた。


「くっ!ならばルーチェ、あなただけでも!」


 クレアは脱落したマリアンに背を向け、ルーチェに向かってナイフを突き出す。ルーチェ自身は直前までマリアンに時間操作の魔法をかけていたので、完全に無防備な状態だ。

 だがクレアがマリアンに背を向けるということは、同時にマリアンのすぐ近くにいるリリアにも背を向けるということでもある。リリアはすぐさまクレアの位置まで走ると、彼女の背後から剣を振り下ろした。


「これで!」

「とどめよ!」


 クレアがルーチェの胸元にナイフの先端を当てると共に、リリアの剣がクレアの背中にヒットした。見た限りでは全くの同時であり、審判であるクラウディアも公平な判定を下す。


「ルーチェ、クレア、共に戦闘不能よ」


 クラウディアに2人揃って脱落を宣言され、ルーチェに関しては今回の授業におけるS組初の脱落者となった。


「悪いわねリリア、先に脱落しちゃって」


 ルーチェは体に付いた砂埃をはたきながら、リリアに謝罪の言葉を述べる。とはいえ、リリアにしてみればむしろルーチェがいなければ自分が脱落していた可能性が高いので、謝られる理由などどこにもないのだが。


「けど、おかげでこっちは2人脱落させることができたわ。結果的にはプラスでしょ」


 リリアはルーチェの健闘を労うように言う。それを聞いたルーチェは気が楽になったのか、レクトたちの待つ場外へと歩いていった。


「さて、それじゃあもう一仕事ね」


 退場したルーチェを尻目に、リリアは再びD組の陣地を目指して駆け出した。




 一方、ベロニカはレクトの指示でニナたちとは反対側からD組の陣地を目指していた。ただ、こちらはレクトの判断によりサポート役は付けられておらず、ベロニカ1人だけである。


「さーて、誰が出てくるかね?」


 不安どころかむしろ楽しげな様子で呟くベロニカであったが、そんな彼女の相手は間もなく姿を現した。


「あなたの相手は私よ、ベロニカ!!」


 ベロニカが声のした方を向くと、そこにはD組代表であるセシリアが仁王立ちしていた。だがそれを見たベロニカは、ややげんなりした顔をする。

 しかしこれは、決してセシリアと戦うのが嫌だという事ではなかった。


「なんだよ、アタシは1対1じゃんか。センセイの予想ハズレじゃん」


 ニナとベロニカには2人がかりで挑んでくるだろうというレクトの予想は、結果的にはニナの方だけ当たり、ベロニカについてはハズレという形になった。しかしベロニカ自身も特に怒ったり悲観しているというわけではなく、単に予想を外したレクトに対してやや呆れているというだけだ。


「ま、それでもアタシが勝つのには変わりないけどな!」

「今回はそうはいかないわ!」


 ベロニカが太刀を抜くと同時に、セシリアも剣と盾を構える。両者が睨み合う中、好戦的な性格故か先に動いたのはベロニカであった。


「喰らいな!」


 強く踏み込むと同時に、ベロニカは思い切り太刀を振り抜く。しかし正面からの攻撃でわかりやすかったからか、その一撃はセシリアの持つ盾によって防がれてしまった。


「そんな単調な攻撃、当たるもんですか!」


 セシリアはそのまま盾でベロニカの太刀を押し込むと、右手の剣を振ると思いきやそのまま盾を構えてベロニカに突進する。


「はん!そっちもわかりやすい動きだな!」


 ベロニカは突進を避けながら挑発的な言葉を口にするが、セシリアはそれに乗せられることなく今度は盾で殴りつけるように攻撃する。


「くそっ、盾で攻撃だと…?」


 ベロニカは思わず怯んだような声を上げる。太刀で切り結ぶことができる片手剣の攻撃ともかく、盾で殴りつける攻撃などとても防ぎようがない。


「そう。私はギルバート先生から新たに学んだの。盾は攻撃を防ぐためだけのものじゃない、攻防一体の武器にもなるのよ!」


 セシリアは得意げに言うと、今度は右手の片手剣で攻撃を加える。こちらは太刀で受け止めることができたが、セシリアはすぐさま盾で追い討ちをかけてきた。


「ちっ、やりにくいな…!」


 思わぬ戦術に、ベロニカは少し苦しそうな表情を浮かべている。何しろセシリアが攻撃を繰り出す直前までは剣と盾、どちらの攻撃が来るかがわからないのだ。一方でベロニカが太刀による攻撃を加えても、セシリアは動じることなく即座に盾を構えて防いでいる。


「ベロニカ、確かに単純な攻撃力じゃあなたの方が上かもしれないけど、対応能力なら私の方が上よ!」


 その言葉とともに、セシリアの攻撃は更に激しさを増す。ベロニカも負けじと刀を振るが、やはりことごとくセシリアの盾に阻まれてしまっていた。


「“相手をよく見て、それに応じた行動をしろ”。ギルバート先生に教わった、戦いの極意よ!」


 セシリアは剣をベロニカにむけながら、高らかに宣言する。だがその言葉を聞いて、ベロニカの頭にある事がよぎった。


「相手を、よく見る…?」


 先程のセシリアの言葉は、ベロニカにある1つの出来事を思い起こさせていた。ハッと何かを思いついた様子のベロニカは、セシリアが横に振った剣を姿勢を低くすることで回避する。そして、渾身の一撃を放った。


 スパァンッ!


 唐突に、木製の剣や盾がぶつかり合う音とは違う乾いた音が響いた。


「なっ!足払いですって!?」

「足元がお留守なんだよ!」


 ベロニカは剣の攻撃を避けると同時に、セシリアに思い切り足払いをかけたのだ。正面からの攻撃にばかり意識が向いていたセシリアは、完全な不意打ちに全く対応することができずバランスを崩してしまった。


「そんな技、どうしてあなたが!?」

「ふん!世界最強の剣士の真似だよ!」


 力強く言うベロニカに対し、不意を突かれたセシリアはその場に倒れ込んでしまう。すぐさま体勢を立て直そうと起き上がるが、そんな彼女の喉元にはベロニカの太刀の切っ先が突きつけられていた。


「セシリア、戦闘不能」


 その光景を見たクラウディアが、間髪入れずにセシリアの脱落を宣言した。しかし転ばされただけで身体的に全くダメージを受けていなかったセシリアは、やや興奮気味になりながらもクラウディアに反論した。


「そんな!?転んだだけです!私はまだ…!」

「喉元に剣を突きつけられて、まだ戦える戦士がどこの世界にいるっていうの?おとなしく場外へ移動しなさい」


 クラウディアに痛いところを突かれ、ぐうの音も出ないセシリアは悔しそうに歯ぎしりをする。そんな彼女を見下ろしながら、ベロニカはニヤけ顔で語りかけた。


「悔しいだろ?負けるとすっげー悔しいよな。けどよ、もし自分が負かされたその相手が手も足も出ないほど強い奴だったら、お前はどうする?」

「…もしかして、レクト先生の事を言っているの?」


 ベロニカが手も足も出ない相手など、レクト以外に考えられない。レクトとは直接手合わせした経験がないとはいえ、それくらいのことはセシリアにもわかった。


「ま、諦める奴もいるかもしれないけどさ、アタシは違うね。いつかその男みたいに強くなって、そいつを倒す!って思うな。そう思ったら、自然とその男の動きを真似してた」


 意識しているのかはわからないが、いつの間にかベロニカは場外にいるレクトの方を見ていた。そんな彼女のことを見上げながら、セシリアは黙って話を聞いている。


「アタシから言わせりゃさ、“アタシに勝つ”なんてことはハッキリ言って低いにも程がある目標だぜ?少なくとも“四英雄に勝つ”ぐらいの目標を掲げないと、まずアタシには勝てないだろうな」


 勝利者故の余裕か、ベロニカは得意げに語っている。しかしその内容に少し不満があったのか、セシリアはそっぽを向きながら小さな声で反論した。


「少なくともって、四英雄より上に何があるって言うのよ?」

「えっ!?えーと…うーん、何だろ?」


 セシリアからの予想だにしない質問に、ベロニカは戸惑ったような表情を見せる。それを見て悔しがっている自分がバカバカしくなったのか、セシリアは呆れた様子で立ち上がった。


「ハァ…まぁいいわ。今回も私の負けよ。ここは潔く退場するわ」


 そう言ってセシリアは踵を返すと、場外へと向かって歩き出す。ベロニカはそれを見送ると、まだ距離のあるD組の陣地に目を向けた。

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