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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
35/152

D組との合同授業 ②

 校庭に設置された壇上に立ったクラウディアは、生徒たちを見渡しながら挨拶をした。


「みんな、おはよう」

「「「おはようございます」」」


 S組、D組両クラスの生徒たちが、声を揃えてクラウディアに挨拶を返す。もっとも、S組の中ではベロニカが相変わらず不機嫌そうにクラウディアのことを見ており、またD組でも一部の生徒はクラウディアのことをどことなく怪訝そうな目で見ている様子であった。


「今日はクラス同士での合同授業よ。私は審判を務めさせてもらうことになったので、みんなはしっかりベストを尽くしてちょうだい」


 校長らしく、クラウディアは両クラスを鼓舞するような言葉を送る。


「ルールに関しては既に担任の先生から聞いていると思うけど、簡単に説明しておくわね。制限時間内にD組の防衛する陣地へS組の誰かが攻め込めればS組の勝ち、到達できなければD組の勝ちよ」


 クラウディアの言うように、ルールの詳細に関しては既に両クラスとも担任から説明がなされていた。彼女が説明したのはあくまでも確認のためだ。


「私からの話は以上よ。それじゃあみんな、頑張ってちょうだい」


 話を簡単に済ませると、クラウディアはさっさと壇上から降りていった。とはいえ、話は短い方が生徒としても、ついでにレクトとしても助かる。

 兎にも角にも、あとはお互い自分たちの陣地に戻って開始の合図を待つだけだ。レクトとギルバートはそれぞれ自分のクラスの生徒たちを引き連れ、陣地へと戻っていった。




 陣地へ戻った後も、開始の時間までまだ数分の猶予がある。その間に何があるのかと言うと、担任からの指南と作戦会議だ。


「いいか。再度確認するが、お前らの目的はD組の陣地の中央にある旗を奪取することだ。制限時間内にお前らの中の誰かが旗を握れば、その時点でお前らの勝ちになる」


 今回の授業の内容に関して、改めてレクトから説明が入る。いくら授業であると言えどもやはり他のクラスに負けるのは嫌なのか、ほとんどのメンバーは真剣な表情でレクトの話を聞いているようだ。

 ここで、エレナが手を挙げてある事を確認する。


「先生、魔法の使用には制限があるんですよね?」

「そうだ。攻撃魔法に関してはあらかじめ指定されたものだけが使用可能となっている」


 レクトが答えた通り、今回の授業では攻撃魔法に大きく制限が課せられていた。理由は単純で、強力な魔法によって大きな怪我を負ってしまう生徒が出ないようにするためだ。


「それじゃあ、私はサポートに徹した方がいいということですね?」


 ルーチェが質問した。彼女の得意分野は魔法なので、攻撃魔法があまり使えないとなると必然的に補助魔法が中心になってくるのは目に見えている。


「そうだな。ルーチェは今回、サポートに回ってくれ」

「はい、わかりました」


 レクトの言葉に、ルーチェは素直に頷く。そんな中、1人余裕そうな顔をしたベロニカが腕を組みながらレクトの方を見た。


「けどセンセイ、陣地に攻め込んで旗握るだけでいいんだろ?ならラクショーじゃん!」


 口にしたのはベロニカだが、他のメンバーも多少なり余裕そうな表情を浮かべているのがわかった。だが、そんな彼女たちに対してレクトは真顔のまま釘を刺す。


「確かに勝利の条件自体はかなり緩いが、それは基本的にお前らの方が不利な要素が多いからなんだぞ?」

「えっ、そうなの?」


 思いがけないレクトの言葉に、ベロニカは呆気にとられたような声を上げた。レクトは生徒たちの顔を見渡すと、その事に関して質問…というより問題を投げかけた。


「今回の授業で、お前らよりもD組の方が有利な点が何だかわかる奴、いるか?」


 その問題に対し、真っ先に手を挙げたのは意外なことに勉強の苦手なニナであった。


「はーい!ニナたちの方が人数が少ないでーす!」

「うん、そうだな。それはまず正解」


 まず、ということは間違いなく他にもあるのだろうが、とりあえずニナの答えは正解のようだ。実際、D組の生徒数は全部で11人であり、人数的に言えばS組より4人も多いことになる。


「パッと見ると人数的に見れば確かにお前らの方が不利だ。だが、その点に関しては俺はそこまで問題だとは思ってない」

「えっ、どうしてでしょうか?」


 レクトの意外な言葉に、アイリスは驚いた様子で尋ねた。だがレクトがそう思っている理由も、実に単純ではあるがS組メンバーにとっては盲点とも言えることであった。


「その前に忘れてないか?お前らS組は元々、“少人数での遊撃や破壊工作”を目的としたクラスだぞ?」


 レクトはS組というクラスの根本的な部分を今一度確認するように言った。何気に担任であるレクト自らS組の育成目的に触れたのは、これが初めてのことである。


「えっ?そうだっけ?」


 皆が改めて思い出したようなリアクションをする中、ニナだけは頭に疑問符を浮かべている。そんなニナに向かって、リリアが呆れた様子で嫌味っぽく言った。


「あんたはただの戦闘狂だからね。むしろ、なんでR組じゃなくS組に配属されたのかが不思議なくらいよ」


 ちなみにリリアの言うR組とはRaid(急襲)に由来する、主に武力によって戦場での敵部隊やモンスターの大群の制圧・鎮圧を行う戦士を育成する事を目的としたクラスであり、言ってしまえばサンクトゥス女学園きっての武闘派集団だ。

 そんな事はさておき、レクトは改めてこのクラスに何が必要であるのかを諭すように説明を続けた。


「いいか、お前らS組の由来となっているStrategy(戦略性)の意味をよく理解しておけよ。お前らは少人数での利点を最大限に活かし、それぞれの長所を把握した上で連携をしなければならない。だが、時には個々がその場で臨機応変に判断をしなければならないこともある。一見相反するようにも見えるが、それが両立できて初めて、お前らは本当の意味でS組として活躍できるんだ」


 流石は英雄と言うべきか、レクトの言葉には確かな説得力があった。生徒たちが思わず「おぉー。」と唸る中、少し疑問に思ったのかフィーネが手を挙げた。


「先生、このクラスのStrategy(戦略性)って、そういう意味だったんですか?」

「いや?俺が勝手にそう解釈した」

「あ、そうなんですか…」


 率直すぎるレクトの答えに、フィーネは少しばかり肩を落とす。しかしレクトも適当に言っているわけではなく、むしろ自信満々といった様子で話を続けた。


「だが間違ってはいない筈だ。話を戻すが、一見すると確かに少人数の方が不利に見える。それでも少人数には、少人数ならではのメリットがあるからな」

「けどせんせー!さっきから言ってる人数が少ない方がいいことって何?」


 レクトの言っている内容がイマイチ理解できない様子のニナが、難しそうな顔をして質問した。ただ、レクトの言う少人数の利点については他のメンバーもまだよく理解できていないようだった。


「少人数の一番の利点はな、“相手が油断する事”だよ」

「えっ、そんな事なんですか!?」


 レクトの答えがあまりにも予想外のものだったからであろうか、フィーネは素っ頓狂な声を出した。もっとも、驚いたのは他のメンバーも同じようであり、レクトの答えにイマイチ納得が言っていない様子だ。


「そんなの相手によるじゃない。少なくともD組の連中は前回あたしたちに負けてるんだから、まず油断なんてしていない筈でしょ」


 リリアは腰に手を当てながらレクトの顔を見る。しかしレクトは自信があるのか、その理由を全員にわかるよう詳しく説明する。


「いや、そうでもない。これはあくまでも俺の予想だが、多分向こうはニナやベロニカは必ず2人がかりで止めに来ると思うんだよ。タイマンならまだしも、2人がかりなら油断とまではいかずとも何かしらの精神的余裕は見せる筈だ」


 レクトが語ったのはそれなりに説得力のある説明ではあったが、今度はその考えに納得がいかない様子のルーチェが口を挟んだ。


「そうでしょうか?少なくともD組代表のセシリアはベロニカのことをライバル視しているみたいですし、1対1の勝負を望んでいると思うんですが」


 ルーチェの意見に他のメンバーもなるほどといった様子であるが、それを聞いていたレクトはむしろ呆れたような目でルーチェを見ている。


「あのなぁ。個人のケンカならともかく、これはチーム戦なんだぞ?そんな個人的な事情を向こうの担任が認めるワケがないだろうが」

「それは、そうかもしれませんけど…」


 確かにレクトの言う通りではあるが、それでもルーチェは納得ができないようだ。しかしそんな彼女のことはさておいて、レクトは話を続ける。


「それと、人数以外にもお前らが不利な要素がもう一つある。何だかわかるか?」


 レクトは再び質問したが、先程とは違って皆すぐには答えが出てこなかった。だが少し考えてアイリスは何か思いついたのか、おずおずと答えた。


「もしかして、わたしたちが攻める側だから、ってことでしょうか?」

「そうだ」


 アイリスの言葉にレクトは頷き、話を続けた。


「状況にもよるが、普通は攻める側よりも守る側の方が有利だ。対策も立てやすいし、地の利もあるからな」


 それを聞いて、生徒たちは皆納得したような表情になる。無論、不利な点がわかっただけでは対処のしようが無いので、その点も踏まえてレクトはこの授業における自身の見解を話し始めた。






 それから数分の間、S組メンバーはレクトから様々な指南を受けた。だがここでようやく時間が来たのか、突如クラウディアの大きな声が校庭に響く。


「それじゃあ始めるわよ!全員、準備はいい?」


 その言葉を皮切りに、メンバー全員に緊張が走る。ただ、不思議と不安そうになっているのは誰一人としていなかった。


「時間だな。お前ら、全員構えろ」

「「「はい!!」」」


 レクトの言葉に生徒たちは返事をすると、それぞれが所定の位置に着く。あとはクラウディアからの開始の合図を待つだけだ。


「3、2、1、始め!!」


 クラウディアの合図とともに、S組メンバーは一斉に駆け出した。

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