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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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D組との合同授業 ①

 本日の授業は校庭で行われるのだが、いつもとは少し雰囲気や様子が異なっていた。校庭のあちこちに簡易的な塀や大砲が設置され、大きな旗が立っている。

 そして校庭の両側に二分されたかのように生徒たちの集団が2つ、離れた状態で待機していた。


「よーし、お前ら。今日はD組との合同授業だ」

「「「はい!」」」


 集団のうちの一方は、レクト率いるS組である。担任のレクトの言葉に、S組全員が威勢良く返事をした。更にこの日はレクトだけではなく、副担任のジーナも一緒だった。


「D組との合同授業は久しぶりだけど、向こうもきっと実力を上げてきてるに違いないわ。みんな、頑張ってね!」


 今日の授業は定期的に行われている、他のクラスとの合同授業であった。今回一緒に合同授業を行うのは、拠点防衛を行う兵士などの育成目的を掲げるクラス、D組である。


「わかってると思うが、D組は防衛を専門としたクラスだ。今日の授業では拠点防衛を模した演出形式になる。勿論、お前らは拠点を攻める側だからな?」


 レクトから授業内容に関する説明が入り、生徒たちは真面目な顔で話を聞いている。合同授業と銘打ってはいるが、内容的にはどちらかというとクラス対抗戦といった方が正しいだろう。

 S組メンバーも大まかな内容が理解できたようで、確認の為にフィーネが手を挙げた。


「先生。要するに、D組が防衛している地点まで私たちが到達すればいいんですよね?」

「ま、そういうことだ」


 レクトの言葉を聞き、S組メンバーは様々な反応を見せる。鼻息を荒くする者、不安そうな者、いつもと変わらぬ様子の者とその反応は十人十色といったところだろうか。


 そんなレクトとS組メンバーの元へ、1人の少女がやって来た。かなりの長身で、背中には大きな盾と練習用の片手剣を背負っている。少女はレクトの前に立つと、深々と頭を下げた。


「初めまして、レクト先生。D組の代表を務めています、セシリア・クレインといいます。今日はよろしくお願いします」

「おう、わざわざ挨拶に来たのか。ご苦労さん」


 セシリアの挨拶に、レクトは軽く返事をする。本当にただの挨拶だと思っていたのだが、セシリアは更に凛とした態度で言葉を続けた。


「授業といえども、四英雄直々に教鞭をとるクラスと勝負ができるのは誠に光栄です。こちらも全力を持って迎え撃ちたいと思います」

「んー。まぁ、頑張れよ」


 セシリアからとても丁寧な対応をされるが、レクトとしては逆にやりにくかった。英雄と呼ばれるのが好きではないのは置いておいて、向こうのクラスが合同授業に対してこれほどまでに意気込んでいるとは思っていなかったのである。

 一方でレクトへの挨拶を終えたセシリアは、他のD組メンバーの待つ拠点側へと戻る前にレクトの後方にいたS組の生徒、その中にいる1人を見た。


「ベロニカ、今日は負けないわ」


 セシリアはベロニカに対し、戦線布告ともとれる発言を行う。だが言われた側のベロニカはそれに応じるどころか、ニヤつきながら大口を叩いた。


「前にも言っただろ。アタシは弱い奴に興味はない」

「その言葉、後悔する事になるわよ」


 セシリアは少し不機嫌そうになりながらも踵を返すと、D組の陣地へと戻っていった。戦線布告されたベロニカは正に「言ってやったぜ」といったようなドヤ顔を浮かべていたが、そこへドSな担任が余計な事を口走る。


「格好いいじゃねえか。俺に惨敗してわんわん泣いてたような小娘のセリフとは思えねえな」

「うっさい!今その話すんな!」


 折角の余韻に浸っていたところをレクトに水を差され、気分を害されたベロニカは思わず声を荒げた。そんなベロニカのことはさておいて、レクトはフィーネにある事を指示する。


「フィーネ、お前もクラス代表なんだ。向こうまで挨拶しに行ってこい」

「はい、わかりました」


 フィーネは返事をすると、校庭の向こう側にいるD組メンバーの元へと走っていった。それを見届けたあと、レクトはジーナに率直な感想を漏らす。


「なんか向こう、対抗心むき出しだな」


 先程のセシリアの件もそうだが、遠目に見てもどうもD組の生徒たちはどこかピリピリしているように見える。しかしジーナにはその理由がハッキリとわかっていた。


「レクトさん。S組の子たちをライバル視してるのは、なにもD組に限ったことじゃないんですよ」

「そうなのか?」


 自分の受け持つクラスであるS組が校内のあちこちからライバル視されているという事実に、レクトは少なからず驚いているようだった。


「この学園では定期的に行われる試験が何種類かあるんですが、実はどの試験もS組の子たちがトップを総なめしてるんですよ」

「へぇ、そうだったのか?」


 ジーナの話す意外な事実に、レクトは感心したような表情を浮かべている。


「えぇ。例えば筆記試験なら毎回フィーネちゃんがトップ、実技試験はニナちゃんがダントツ、魔法試験はルーチェちゃんの右に出るものなし、ってカンジです」


 ジーナは各試験のトップの生徒の名前を次々に挙げていく。レクトにしてみても納得の顔触れであり、言われてみれば確かにS組メンバーのプロフィール表にもそのような事が書いてあったかもしれない。


「なるほど、確かにウチのクラスのガキどもは見事に得意分野がバラけてるからな」


 S組の生徒たちは優秀だと最初にクラウディアから聞かされていたが、まさかの各分野のトップの生徒たちの集まりだったという事をたった今知ったことで、レクトは改めてサンクトゥス女学園におけるS組の重要性を実感した。

 もっともそんな優秀な生徒たちの手綱を引くには、やはり一度に7人全員を相手しても軽く蹴散らすことができるレクトのような人物でなければ駄目なのかもしれないが。


「あっ、レクトさん。フィーネちゃんが戻ってきましたよ」


 ジーナの言葉の通り、向こう側からD組への挨拶を終えたフィーネが小走りで戻ってきた。当たり前ではあるが、パッと見た限りでは特に問題はなさそうだ。


「先生、ただいま戻りました」

「おう、ご苦労さん」


 レクトへの報告を終え、フィーネは整列している皆の元へと戻る。

 そんなレクトやS組メンバーたちの元へ、正面から初老の男性がゆっくりと歩いて来た。男性は軽く手を振ると、レクトとジーナの2人に挨拶をする。


「やぁ、レクト君。ジーナ君も。今日はよろしく頼むよ」

「あぁ、よろしく頼むわ」

「よろしくお願いします、ギルバートさん!」


 レクトとジーナに声をかけてきたのは、D組の担任であるギルバートだった。S組メンバーもギルバートの存在に気付くと、声を揃えて挨拶をする。


「「「おはようございます」」」

「うん、おはよう」


 S組メンバーからの挨拶に、ギルバートも笑顔で答える。ただ、よそのクラスの担任をあまり信用していないのか、ベロニカとルーチェだけはギルバートのことを怪訝そうな目で見ていた。


 ギルバートはフォルティス王国における国境警備隊の元隊長であり、敵対する国家の軍やモンスター、果てには夜盗や不法入国者などから長年国境を守ってきた拠点防衛のスペシャリストだ。50歳になり体力の衰えを感じて警備隊からの引退を決意したのだが、その経歴と手腕を校長であるクラウディアに買われて数年前にサンクトゥス女学園の教師になったのだった。


「すまないね、急にこんな提案をして。ウチのD組の生徒たちがどうしてもS組と合同授業が行いたいと聞かないものでね」


 口ではすまないと言いつつも、ギルバートはどことなく嬉しそうな顔をしている。レクトもそれを察したのか、ニヤつきながらも少し嫌味っぽい口調で言った。


「合同授業が行いたい、じゃなくて勝負したい、の間違いじゃないのか?」

「はっはっ、全くその通りだ」


 レクトの鋭い指摘に、ギルバートは隠す事もなく笑いながら答えた。その様子はまるで娘たちのワガママを聞いている父親のようであった。


「それで?結局はクラス対抗戦って事になるんだ、審判や審査員が必要だろ?その点はどうなってる?」


 ある意味で一番大事な点について、レクトが問う。もっともそれに関しては既に手筈が整っているのか、ギルバートは自信満々に答えた。


「その点は心配ない。審判は()()に頼んである」

「彼女?」


 ギルバートの言葉にレクトは首をかしげるが、やがてその疑問もすぐに解決することとなった。というのも、その“彼女”が背後からレクトに声をかけてきたからだ。


「ごきげんよう、みんな揃ってるわね」


 現れたのはこのサンクトゥス女学園の校長、クラウディアであった。いつものように漆黒のドレスに身を包み、微笑みながらレクトたちの方へと近寄ってくる。


「「「おはようございます、校長先生」」」

「あら、みんな。おはよう」


 S組メンバーたちから挨拶され、クラウディアはにこやかに挨拶を返す。クラウディアのことが苦手なのかベロニカだけはやや不機嫌そうな顔をしていたが、そんなベロニカに対してクラウディアの方から声をかけた。


「おはよう、ベロニカ。レクトが担任になってから随分と真面目になったみたいじゃない?」

「ふん」


 クラウディアに指摘され、返事をする代わりにベロニカは鼻を鳴らす。クラウディアの言うことがあながち間違っているわけでもなかったので、それが余計に面白くなかったのだろう。


「おいおい、校長が審判をやるのか?」


 そんな中、突然のクラウディアの登場にやや驚いた様子のレクトが彼女に質問を投げかける。だがクラウディアは髪をかきあげながら、さも当然といったように答えた。


「あら、私は校長よ?たとえクラス同士の対抗戦であっても、私はあくまで中立の立場だもの。私以上の適任者なんていないんじゃない?」

「ま、言われてみりゃ確かにな」


 クラウディアの話を聞き、レクトもあっさり納得したようだった。クラウディアはそのまま校庭を見渡すと、軽く頷いたと同時にパンパンと手を叩く。


「さて、それじゃあ両クラスとも準備ができたみたいだし、ちゃっちゃと始めちゃいましょうか?レクト、ギルバート、2人とも自分のクラスの生徒たちを校庭の真ん中に整列させてちょうだい」

「わかった」

「了解した」


 クラウディアの指示に対してレクトとギルバートの2人が返事をすると、ギルバートは自分のクラスであるD組メンバーの元へと戻っていった。

 それから5分もしないうちに、それぞれのクラスの担任の指示によって生徒たちの整列が終わったのだった。

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