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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
31/152

休日の英雄 前編

 S組メンバーがダークトロールの討伐から帰還してから一夜が明けた。今日は、世間的に言う休日である。当然ながらサンクトゥス女学園も今日は休校日となっており、生徒はおろか教職員でさえ全くと言っていいほど校内にいない状態だ。


 そんな休日の午後のこと。城下町の大通りにある劇場の出入り口から、大勢の客と共に2人の少女が姿を現した。


「今日のオペラ、流石に見応えがあったわね」

「去年、隣国で大ヒットしたらしいですし、観客の数も凄かったですね」


 この日、エレナとアイリスの2人は話題になっているオペラを観に劇場へとやって来ていた。オペラ自体も評判通りの内容だったようで、2人はとても満足げな表情を浮かべている。


「さて、この後はどうしようか。もう1時半だし、ちょっと遅いけど昼食でも食べに行く?」

「そうですね、どこか学生でも入れそうなお店を探してみましょうか」


 エレナの提案に、アイリスも賛成する。2人は適当な店を探すため、大通りを歩き始めた。


 ところが10分程歩いたところで、ふとエレナがある事に気付く。エレナは向かい側の通りを指差しながら、アイリスに話しかけた。


「ねぇ、アイリス。あそこにいるの、レクト先生じゃない?」


 エレナが指差した方をアイリスが見ると、向かい側には見覚えのある大剣を背負った、銀髪で黒コートを着た男が立っていた。後ろを向いているので顔は見えないが、その出で立ちからして自分たちの担任でもあるレクト本人なのはまず間違いなさそうだ。


「あ、本当ですね。一体、何をしているんでしょうか?」

「ちょっと行ってみましょうか」


 2人は、向かい側にいるレクトの元へと小走りで駆け寄っていった。


「レクト先生、こんにちは」

「こんにちは」


 エレナとアイリスが声をかけると、銀髪の男が振り返る。やはりと言うべきか、男は彼女たちの担任であるレクト・マギステネルその人であった。


「ん?エレナにアイリスじゃねえか。こんな所で何してんだ?」


 休日にバッタリ出会った教え子2人に、ベタな質問を投げかけるレクト。そんなレクトの質問に、エレナが答えた。


「今日は2人で、大通りにある劇場にオペラを観に行ってたんです」

「あぁ、オペラか。なるほどね。だからそんな洒落た格好してるのか」


 納得したような様子で、レクトは2人の格好をまじまじと見た。

 今日の2人はオペラを観に行くということもあり、見方によってはドレスとも呼べそうなお洒落なワンピースを着ていた。エレナは黒を基調としたゴシックタイプ、アイリスは水色がメインでフリルの付いた可愛らしいものである。


「えっと、変、ですかね…?」


 アイリスは少し不安そうに尋ねた。それに対しレクトは、特に考えることもなく即答する。


「いや、2人とも似合ってるんじゃないか?普段はブレザーの制服しか見てねえから、こういうのもなんか新鮮だな」

「あ、ありがとうございます…」


 レクトに似合っていると言われ、アイリスは少し困惑しながらもはにかんでいる。横にいたエレナも、心なしか照れたような顔をしていた。


「先生は何をされてるんですか?見た感じ、どこかに行った帰りみたいですけど」


 今度は逆にエレナが質問する。レクトがどこかに行っていたのだとエレナが思った理由は、レクト自身の今の格好にあった。

 服装自体は普段と同じ黒いコートなのだが、いつもとは違って肩と腰に皮のベルトが巻かれており、様々なポーチやサイドバッグが取り付けられている。何より腰のあたりに大きなナイフが携えられていたので、どこか野外に行っていたというのはまず間違いなかった。


「あぁ、モンスターの討伐に行ってたんだよ。さっき街に戻ってきて、今から報酬を受け取りに行くところだ」


 レクトは普通に答えたが、それを聞いたエレナはかなり驚いた様子を見せている。勿論、理由は簡単だ。


「モンスターの討伐?どうしてですか?」

「なに、単なる小遣い稼ぎだよ。あと、戦いのカンを忘れないようにするためかな」


 小遣い稼ぎはともかくとして、戦いのカンを忘れないようにというのはいかにもレクトらしいと2人は思った。

 とにかくこれでレクトが何をしていたのかがわかったが、ここでエレナは先程のレクトの言葉を思い出す。


「そういえば先生、この後は報酬を受け取りに行くって仰ってましたよね?」

「あぁ、そのつもりだが」


 それをレクトに確認したところで、興味が湧いたのかエレナはある事を頼んでみることにした。


「それ、私たちもついて行っていいですか?」

「あ、それ、わたしも興味あります」


 エレナに続いて、アイリスまでもが懇願する。だがそれを聞いたレクトは、少し怪訝そうな顔になった。


「別に構わないが、面白くもなんともねえと思うぞ。」

「それでもいいんです。単純にそういう場所を見ておきたいんですよ」

「わ、わたしも!」


 2人があまりにも強く頼んでくるので、特に断る理由もないレクトも了承することにしたのだった。




 大通りを5分程歩くと、レクトにとってお目当ての酒場の前に到着した。店の前の札は“CLOSE(閉店中)”となっていたが、レクトは構わず扉を開ける。


「邪魔するぜ、マスター」


 挨拶と共に、レクトは店内へと足を踏み入れる。レクトの後ろにいたエレナとアイリスも、少し緊張しながらも彼に続いて店内へと入っていった。


「おうレクト。その様子だと、無事に仕事は終わったみてえだな」


 店内にいたマスターがレクトに気付き、声をかける。手には雑巾を持っており、ちょうど店内を掃除している途中のようである。

 マスターは雑巾を近くの木桶の中に放り込むと、エプロンで手を拭きながらレクトの方へとやって来る。だがその途中で、レクトの後ろに隠れていた2人の少女の存在に気付いたようだった。


「ん?なんだよ、今日は女連れか?悪いがまだ飲み食いできる時間じゃねえぞ」

「違えよ、こいつらは教え子だ。前に話したろ、今は学校で色々教えてるってよ」


 レクトに説明され、マスターは改めてエレナとアイリスを見る。2人の顔を見て何かを思ったのか、笑いながらレクトに向かって言った。


「へえ、そのお嬢ちゃんたちがかい。まだ若えが随分とベッピンじゃねえかよ。それともアレか?サンクトゥス女学園は美人じゃねえと入学できねえってか?」

「マスター、そりゃ軽くセクハラだぜ」


 レクトは呆れた様子でマスターの発言を注意するが、それを聞いたマスターは逆に目を細めながらぼやく。


「レクト、それお前さんにだけは言われたくねえな」


((でしょうね))


 マスターの発言を聞き、エレナとアイリスは心の中で同意する。一方でレクトはマスターの小言を完全に無視し、店内をキョロキョロと見回していた。


「そういやデカ尻看板娘がいねえな、外出中か?」


(先生、早速セクハラ発言じゃないですか)


 マスターに言われた直後にもかかわらず、さらっとセクハラ発言をかますレクトを見てエレナはがっくりと肩を落とす。しかしそんなレクトの言動にもマスターは慣れているのか、娘に対するセクハラ発言も全く反応せず、普通に受け答えをする。


「エリーなら買い出し中だ。多分あと1時間は戻らねえと思うぜ」

「ふーん、まぁいいや。別に用があるわけでもねえし」


 実際、報酬の受け渡しは毎回マスターが行なっているので、レクトとしては特に困る事はない。仮にエリーがいたとしても、彼女のコンプレックスである大きな尻について弄る発言をしてからかうだけなのだが。


「そうだな、それじゃあ仕事の話でもすっか。例の物は持ってきたか?」

「おう、持ってきたぜ」


 マスターの質問に答えながらレクトは腰に付けたサイドバッグから何かを取り出し、テーブルの上に置く。それを見てマスターは満足そうな顔をするが、レクトの横にいたエレナとアイリスは一瞬言葉を失った。


「せ、先生、何ですかこれ!?」


 エレナは思わずレクトに尋ねた。よほど驚いたのか、言葉がしどろもどろになっている。一方で、その様子を見たレクトは怪訝そうな顔になった。


「何って、牙だよ。見りゃわかんだろ?」

「それはわかりますけど、大きさが!」


 エレナが驚いた理由は、レクトがテーブルの上に置いた牙の大きさにあった。牙自体の長さは20センチ近くあり、それに比例するかのように太さも尋常ではない。誰がどう見ても、そこらにいるモンスターが持っているような牙の大きさではなかった。

 レクトが相変わらず怪訝そうな顔をしているので、見かねたマスターが口を挟む。


「レクト、お嬢ちゃんのその反応は普通だぜ?『ギガトンザウルス』なんて一般人はおろか、手練れの騎士ですら滅多に近付かないような化け物だからな」

「ま、確かにな」


 マスターに言及され、レクトもそれに納得したような様子だ。どうやらこの牙は今回の討伐対象であるギガトンザウルスを倒したという証として、レクトが取ってきたものらしい。

 マスターはテーブルに置かれた牙を受け取ると、代わりに大きな麻袋をドン、と置いた。


「ホラよ、報酬だ。一応中身を確認してくれ」


 レクトは無言で麻袋を閉じている紐を外し、袋を開ける。気になったエレナとアイリスもレクトの横から袋の中を覗くが、2人はそこで本日2度目の絶句をした。


「な、な、何ですかこの大金!?」

「す、凄い…!」


 エレナとアイリスが思わず声を上げた理由は、麻袋の中に金貨や銀貨がぎっしりと詰まっていたからであった。普段から自分たちの財布に入っているような金額とは文字通り桁違いであり、目にしたことのないような大金に2人の頭の中は軽いパニックを起こしていた。

 しかしレクトは至って普通の反応であり、袋の中を軽くジャラジャラと確認するとすぐに紐で閉じてしまった。


「マスター、仲介料はちゃんと引いてあるか?」

「勿論だ、ガッポリ頂いたぜ!いつもいつもすまんな!」


 レクトの問いに、マスターは嬉しそうに答えた。何しろこれほどの大金なのだ、仲介料がたとえ1、2割だったとしても莫大な額になるだろう。そう考えるとマスターが笑顔になるのも無理はない。

 しかし、未だに驚きっぱなしのエレナの疑問は尽きない。


「先生、モンスターの討伐ってこんなにお金が貰えるんですか!?」


 生まれて初めて見る大金を目の前にして、エレナは未だに気が動転しているようだ。そしてそれは、すぐ横にいるアイリスも同じのようである。

 そんなエレナの質問に、レクトの代わりにマスターが答えた。


「そりゃあ嬢ちゃん、ギガトンザウルスっていえば普通は2、30人がかりで討伐するような超大型モンスターだぜ。当然だが報酬も全員で山分けしなきゃならねえ」


 確かにマスターの言うように30人で討伐を行えば、たとえ報酬が莫大な額であっても結局はそれを全員で山分けしなければならない。しかしレクトの場合は事情が違っていた。


「けど俺の場合は1人で充分だから、数十人分の報酬を1人で丸儲けってわけだ」

「レクト。お前さん当たり前のように言ってるが、そもそもギガトンザウルスを1人で倒すお前の強さが異常なんだからな?」


 笑いながら話すレクトに、マスターが冷静な突っ込みを入れる。もっとも、レクトのとてつもない強さに関してはエレナとアイリスの2人もつい先日目の当たりにしたばかりであるので、マスターがそう言いたくなるのもよくわかった。


 兎にも角にも報酬は無事受け取ることができたので、レクトはエレナとアイリスの2人を引き連れて酒場を後にした。

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