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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
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実戦経験を積もう! ②

 その日の夜。レクトはある目的で城下町にある馴染みの酒場へとやって来ていた。馴染みとはいっても魔王討伐の為にルークス達と旅立ってからは1度も訪れていなかったので、実際にここへ来るのはかれこれ2年振りである。


「いらっしゃいませー!」


 レクトが酒場の扉を開けると、カウンター付近に立っていた金髪の看板娘が笑顔で出迎えた。だが店に入ってきたのがレクトだとわかった瞬間、看板娘が一転して驚きの表情になる。


「って、あれ?レクト!レクトじゃないの!」


 かつての馴染み客の久々の来店に、看板娘は一際大きな声を出した。レクトの方も見知った顔が出迎えてくれた事に、懐かしさを覚える。


「ようエリー。相変わらずデカい尻で狭い客席の間を通るのが大変そうだな」


 久しぶりに会ったというのにいきなりデリカシーに欠ける発言が飛び出すが、これも外道なレクトらしいと言えばレクトらしい。看板娘エリーも怒るどころか、慣れた様子で半ば呆れたように返す。


「世界を救って英雄になっても、あんたのいい性格はこれっぽっちも変わらないのね」


 レクトの事を軽く皮肉りながら、エリーはカウンターの奥にある厨房に顔を向ける。彼女の視線の先にある厨房では、ガタイの良い髭面の中年男が大きな寸胴鍋で何かを煮込んでいた。


「お父さん、珍しいお客様よ!」

「珍しい客だぁ?」


 エリーに“お父さん”と呼ばれた男はぶっきらぼうに答えると、一旦鍋の火を消す。男はそばにあった布巾でゴツゴツした手を拭き、そのままレクトたちの方へとやって来た。


「ええ。世界を救った外道な英雄さんよ」


 エリーの言葉に、男は彼女の横にいた人物に目を向ける。そこに立っていたのはかつての店の常連、レクト・マギステネルその人であった。


「久しぶりだな、マスター。いつも通り繁盛してんのかしてねえのかよくわかんねえ店だな」


 久々に会って早々、レクトはいきなり毒を吐く。しかしレクトの言う事も無きにしもあらず、店内は決してガラガラではないが、かといって満席という訳でもなく客が数人点々と座っているだけだ。

 もっともこの酒場自体それほど大きな店でもなく、座席も10席ちょっとしかない。見方を変えれば数人客がいるだけでも繁盛していると言えなくはないだろう。レクトにそんな毒を吐かれる事にもにも慣れているのか、マスターは嫌な顔1つせずに軽く受け流した。


「おうレクト、2年振りだな。世界を救った英雄サマがこんなちっぽけな店に何の用だ?さては俺様の料理が恋しくなったか?」


 マスターがニヤニヤしながら話しかけてきた。レクトがここの料理を好んで食べていたのは事実だが、あいにく今日はそうではない。マスターの言葉を軽く流し、レクトは真面目な顔になると用件を切り出す。


「いや、久しぶりに来て何だが、今日は別の用事で来た。モンスターの討伐依頼を見せてくれ」


 レクトがそう頼むと、マスターは呆気にとられたような顔になった。この酒場はただ飲み食いするだけの場ではなく、傭兵や賞金稼ぎ達の情報交換の場にもなっている。マスターは料理と一緒に、その情報も商品の1つとして売っているのだ。


「討伐依頼だぁ?何だ、もしかして金に困ったりでもてんのか?」


 マスターが怪訝そうな口調で言った。この店に集まる情報の中には様々な種類の依頼があり、中には今レクトが求めているような賞金の出るモンスターの討伐依頼もある。事実、レクトも傭兵時代には何度も世話になっていた。


「俺がやるんじゃねえよ。授業の一環として生徒にやらせてみようと思ってな」


 レクトは昼間にS組メンバーに話した実戦訓練を、討伐依頼にあるモンスターで行おうと考えていたのだ。だがそんな事情など知る由もないマスターは、レクトの発言を聞いてさも意外といったような表情になる。


「生徒?お前さんもしかして今、教師でもやってんのか?」


 マスターは茶化すような口調で言った。横で聞いていたエリーも物珍しそうな表情になり、カウンターに頬杖をつきながら話に割り込む。


「え?レクトが教師?ホントに?学校の?」


 エリーは面白おかしそうな口調で言う。そりゃそうだろう。魔王を倒して世界を救った英雄が、ほんの1ヶ月ほど経った今は学校の教師をしているのだというのだから。


「あぁ。サンクトゥス女学園ってところでな」


 だが、レクトの一言で空気が一変した。あまりに驚いたのかエリーは思わずガタッと音を立てながら頬杖をついていた右腕のバランスを崩し、腕を組んで話を聞いていたマスターは唖然とした表情になっている。


「さ、サンクトゥス女学園ですって!?名門中の名門じゃない!!」

「あぁ、やっぱ有名なのか」


 エリーは素っ頓狂な声を上げ、横にいるマスターも信じられないといった様子である。2人の反応を見て、レクトは改めてサンクトゥス女学園が名門の学校であるという事実を実感した。そんなレクトの話に驚きつつも、それまで黙って話を聞いていたマスターは顎に手を当てる。


「レクト、おそらくお前さんの実力が買われたんだろうが、何でまた教師なんて話が急に来たんだ?」


 マスターが疑問に思うのも無理はない。何しろレクトの人となりをよく知るマスターからしてみれば、レクトが教師をやっている姿など想像もつかなかった。ましてや、それが名門の女子校となると尚更だ。


「国王に指名された。っていうか、ハメられたな、アレは」


 レクトはやや不服そうに答えた。その件に関しては今更どうこう言うつもりはないが、それでも国王が自分を騙したという事実には変わりない。国王からの指名と聞き、マスターは納得したように頷く。


「国王直々か…流石は四英雄ってところかね」

「どうでもいいっての、そんな事。それよりさ、さっさと討伐依頼見せてくれよ」


 レクトが急かすように言うと、マスターは悪い悪いと呟きながらカウンターの奥にあるコルクボードに留めてあった紙を何枚か剥がす。


「えーっと…ホラよ。色々あるぜ」


 そう言って、マスターはテーブルの上に10枚程の紙切れを広げた。レクトはその中の数枚を手に取ると、しげしげと内容に目を通す。


「どれどれ…これは『マンドラゴラ』か。あいつらにはちょっと簡単すぎるな。こっちは『アイスグリズリー』ね、強さ的には丁度いいけど場所が遠いな…」


 討伐依頼とにらめっこしながら、レクトはブツブツと呟いている。自分が倒すのであれば単純に賞金の額だけで決めてしまうのだが、今回はあくまでも授業の一環だ。モンスターの強さや場所の困難さなど、今のS組メンバーに合ったものを選ばなくてはならない。

 これまでに一度たりとも見せたことがないような真剣な表情で討伐対象を選ぶレクトの姿を目の当たりにして、マスターとエリーの父娘は驚いた様子で顔を見合わせている。


「『ギガトンザウルス』だと?アホかこんなもん。普通は傭兵じゃなくて軍隊に頼むもんだろ」


 依頼書の中には普通の冒険者には手に負えないような大型モンスターの討伐依頼も紛れており、レクトは思わず苦言を漏らす。ちょうどいい難易度の討伐依頼が中々見つからずに難儀していたところ、ふとある1枚の依頼書が目に留まった。


「ん…?これは…」


 レクトは依頼書の内容をじっくり読むと、何かを思いついたようにうん、と頷く。そして懐から手帳を取り出して何かをメモすると、先程まで眺めていた依頼書をマスターに手渡した。


「これにするわ。マスター、依頼人に話つけといて」

「あいよ。そんじゃ仲介料はどうする?いつも通り後払いか?」


 こういった討伐依頼は普通、依頼を受ける人間が紹介してくれた側に仲介料を支払うのが普通となっている。依頼が失敗する可能性も考慮すると本来なら仲介料を後払いにするなどまずあり得ないのだが、マスターは請け負う相手がレクトの場合にのみ後払いを了承していた。


「あぁ。いつも通り、後で報酬から引いといてくれ」


 レクトは当たり前といった様子で答えた。この後払いに関しては馴染みの客だからというだけではなく、これまで幾多もの討伐依頼をこなしてきたレクトの実績と信用からくるものが大きかった。


「オーケーだ。依頼主には近日中って伝えといていいんだな?」

「あぁ、それでいいよ。明後日あたりには行くつもりだから」


 マスターの質問に答えながら、レクトは再び手帳に何かメモし始めた。何をメモしたのか気になったエリーが横から覗くと、どうやら日時や交通手段を書いていたようだった。


「それじゃ明日は朝が早いんで、今日はもう帰るぜ」


 レクトは手帳を閉じると、それを手早く懐へとしまう。本当は2人に色々と話したい事もあるのだが、あいにく今は忙しく悠長な事は言っていられない。用事も済んだので、今日はもう帰ることにした。


「レクト!また来てよね!」

「次は魔王討伐の思い出話でもじっくり聞かせてくれや。一杯奢るからよ」


 酒場の出口へと向かうレクトに、エリーとマスターが声をかける。レクトは2人に向かって軽く手を振ると、意気揚々と酒場を出て行った。

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