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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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守護神エンスウ ②

 レクトが不死鳥エンスウと戦い始めて、およそ30分が経過しようとしていた。

 普段からどんな大型モンスターでも大剣の一振りでほふるレクトであっても、やはり相手が一国の守護神となると本人の言う通り一筋縄ではいかないらしい。


『いい加減にくたばったらどうだ、このクソボウズがぁ!!』

「ふざけんな!てめえこそさっさと火口に落ちて鶏ガラにでもなっちまえ!」


 2人?は悪口の応酬を繰り広げながら、激しい攻防を続けている。

 これまでどんな強者や大型モンスターをも斬り捨ててきたレクトの一撃を、無効とまではいかないものの何度直撃してもなお動くことができるエンスウ。対して常人なら一瞬で灰にされるであろうエンスウの爆炎を、剣で斬り裂きながら応戦するレクト。

 互いに一歩も引くことなく、全力でぶつかり合っている。


「ど、どうしましょう…。このままではレクト様も危ないですし、エンスウ様にその御力を借りるという本来の目的も…!」


 自分にはどうすることもできず、サクラはあたふたしている。とはいえS組メンバーにとってもレクトがここまで苦戦する様は初めて見るので、正直どうしていいか全くわからないというのが本音だ。


「そうは言っても、あんなの人間の戦いってレベルじゃないわ…」

「そうね、手の出しようがないもの。先生あのひとのことだから、何も考えなしに突っ込んでいったとは思いたくないけれど」


 レクトとエンスウの戦いを呆然と見ているリリアの横で、ルーチェは冷静に見解を述べる。結局のところ、彼女たちにできるのはただ見守るだけしかなかった。

 ところが、永遠に続くと思われたこの戦いにも終わりが見え始めようとしていた。


「…どうした?息が上がってんぞ。数百年分の運動不足が…たたったんじゃねえのか?」

『ゼェ…ゼェ…そういう…テメェこそ…見た目ズタボロじゃねえかよ…。強がんなよ…クソガキが…』


 レクトとエンスウは互いに疲労困憊になりながらも、悪口だけは止めない。だが、誰がどう見ても互いに限界が近づいているのは明らかだ。

 と、ここでエンスウは何を思ったのか急に翼をたたみ、祭壇の前に広がるマグマの中へと降り立った。


『よし、決めた』

「決めただと?」


 それまで殺意を剥き出しにしていたエンスウの態度が急に変わったので、レクトも少し拍子抜けしたように聞き返した。どうやら、エンスウ側は戦闘を中断する気のようである。


『おいボウズ。お前、名前は?』

「…レクト・マギステネル」


 急にエンスウが名前を聞いてきたので、思わずレクトも普通に答えてしまった。とはいえエンスウからは戦う意思がまったく感じられなくなったので、レクトも剣を背中に戻す。


『そうか。いいか、よく聞けレク坊。俺様は今、久しぶりにお前みたいな骨のある野郎に会えて非常に気分が良い。お前のその度胸に免じて、俺様の言う事を素直に聞けば特別に力を貸してやらんでもないぞ?』


 エンスウは両翼を胸の前で器用に交差させ、まるで腕組みのような様子でレクトに問いかけた。曲がりなりにも神の名を冠する存在であるからか、態度そのものは尊大であるが。

 一方レクトはエンスウの態度よりも、別のところに不満を感じていた。


「あぁ?いきなり何言ってんだ?あとレク坊って呼ぶんじゃねえ」

「レクト様!」


 反論しようとするレクトを、後方からサクラが制止する。

 事実、これはチャンスだ。向こうが力を貸すと申し出ているのだから、エンスウの力を借りるという本来の目的を達成する上ではサクラたちにしてみれば願ってもない状況だ。


「ちっ、わかったよ。そんで?具体的には何をすればいいんだ?」


 レクトもそれを理解したのか、渋々ながらもエンスウに改めて尋ねる。だが、エンスウの要求というのは実に意外なものであった。


『リンゴ300個持ってこい』

「はぁ?」


 エンスウの要求が随分と想像の斜め上を行くものであったので、レクトは思わず拍子抜けしたような声を上げた。エンスウはエンスウで、レクトの反応を見て少しばかり誤解しているようだった。


『何だよ、リンゴも知らねえのか?ったく、今時の人間は…』

「いや、だから…」


 完全に話が噛み合っていないが、エンスウは構わず話を続ける。だがレクトが返事をする前に、エンスウは急に声のトーンを変えて焦り始めた。


『はっ、まさか!?もしや俺様が寝てる500年の間にリンゴは絶滅してしまったっていうのか!?それは困る!』

「おい…」


 レクトの声など耳に届いていないのか、エンスウは今度はややキレ気味になりながら少し離れた位置に立っていたサクラの方へと視線を向ける。


『おい巫女の小娘!確かこの国は山間に大きなリンゴ園があった筈だ!まさかもう残ってないってのか!?』

「えっ…!?」


 急に自分に対して質問が飛んできたので、サクラは一瞬だけだが頭がパニックになった。しかしすぐに冷静さを取り戻したのか、エンスウの質問に対してちゃんとした答えを述べる。


「申し訳ありません、エンスウ様。今はリンゴの旬ではないのです。最低でももう2ヶ月ほどお待ちいただかないと…」

『あ、リンゴはちゃんとあんのね。そりゃ良かった…』


 サクラの説明を聞いて、エンスウは安堵あんどしたような様子になった。だがそれもほんのわずかな時間だけであったが。


『って、良くねーよ!2ヶ月だと!?待てるかコラ!俺様は今すぐにリンゴ食ってエネルギー補給してえんだよ!起こすタイミング悪いぞテメーら!』

にぎやかな野郎だな」


 焦ったり怒ったりと態度をコロコロと変えるエンスウを見て、レクトがぼやく。とはいえ、このままではらちが明かないのは確かだ。旬ではないのであればリンゴを用意することも難しいのは事実であるし、目的であるエンスウの力を借りるためにもレクトは別のことを提案する。


「他の果物じゃダメなのか?」

『他の果物だぁ?例えば何がある?』


 レクトの発した他の果物という言葉を聞いて、エンスウは落ち着きを取り戻す。反応から察するに、どうも絶対にリンゴでなければいけないというわけではないようだ。

 だがレクトは地元の人間ではないので、ここはレクトに代わってヤマトの地理情報に詳しいサクラが答える。


「今の季節ですと、サクランボが旬です。エンスウ様」

「だそうだ。サクランボでどうだ?」


 サクラに続き、レクトがエンスウに尋ねた。当のエンスウはすぐに返事をするかと思いきや、急に天を仰ぎながらブツブツと呟きはじめた。


『サクランボか…そういや、かれこれ900年は食ってねえな…。いや、1200年だったか?うーん、1500年だったような気もするな…』

「いろんな意味で桁違いね」


 エンスウを見て、エレナは率直な感想を漏らした。一方で数秒間ほど考え込んだエンスウは、何かを決め込んだ様子で改めてレクトの方を見る。


『よしわかった、レク坊。ありったけのサクランボを持ってこい。そうすりゃあとりあえず話は聞いてやろう』


 どうやら、サクランボでよかったらしい。

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