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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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最後の仕事

「我が神よ。如何いかがです?力の方は」


 ソウゲンは、カグツチに向かって問いかけた。当のカグツチはというと、まるで温泉のように腰のあたりまでマグマに浸かりながら静かに目を閉じている。


『4割といったところだ。少しばかり力が戻ったのでいくつか出来るようになった事があるが、当面は使う必要は無さそうだ』

「ほう、例えばどのような事を?」

 

 興味深そうな様子で、ソウゲンは再び尋ねた。しかしカグツチ自身にとってはどうでもいいことであるのか、つまらなそうな様子で答える。


『我が力を注ぎ込んで、眷属けんぞくを作る、などだな』

「神の眷属…ですか」


 眷属という言葉を聞いて、ソウゲンは頭に疑問符を浮かべた。まだ実際に目の当たりにしたわけではないが、おそらくは自分の使うような他人を操る術とはレベルが違うというのは想像に難くなかった。


「差し出がましいようですが、なぜ必要が無いのですか?奴隷はいても困るようなものではないと思うのですが」


 カグツチの発言の意図が気になったのか、ソウゲンは改めた尋ねた。その質問に対し、ソウゲンは当然といった様子で答える。


『眷属などに頼らずとも、我には十分な力があるからだ』

「左様でございますか」


 カグツチの返答に納得がいったのか、ソウゲンはそれ以上は何も追求しなかった。

 そんな両者のやり取りがひと段落したのを見計らって、唐突にカゲロウがソウゲンの元へとやって来る。


「ソウゲン様。お取り込みのところ申し訳ありませんが、1つよろしいでしょうか?」

「何だ」


 全てがうまく行っているこの状況下で何事かと思い、ソウゲンはやや怪訝な様子でカゲロウに聞き返した。


「この教団に入る際に交わした“約束”のことについてです」

「約束?」

 

 カゲロウの言っていることがすぐに思い出せなかったのか、ソウゲンはあごに手を当てて少し考える。だが、ソウゲンが約束を忘れていたことに腹を立てたのか、カゲロウは先程よりもやや大きな声で言葉を続けた。

 

「私の息子の事です!神が復活した暁には、その御力で亡き息子を蘇らせてくれるという約束だったではありませんか!?」

「あぁ、そうだったな」


 憤るカゲロウとは対照的に、ソウゲンは薄ら笑いを浮かべながら頭をかいた。まるで、カゲロウの願いなど初めから“どうでもよかった”とでも言いそうな雰囲気である。


「神よ。貴方の御力でこの者の願いを叶えてやることは可能でしょうか?」


 ソウゲンは確認するようにカグツチに問う。だが、カグツチからの返答は残酷なものであった。


『我に死者を蘇らせる力など無い』

「な、何ですと!?神という存在でありながら!?」


 予想外のカグツチの返答を聞いて、取り乱したようにカゲロウの声が上ずった。


『そのような力、何になるというのだ。それに、たった数十年しか生きることができぬ人間を1人蘇らせることに何の価値がある?』

「何だと…!?」


 カグツチにとって“死者を蘇らせる”という行為はしたくても出来ない、というわけではなく、そもそもの必要性を感じない行為であった。しかし当のカゲロウ本人はそれで納得する筈もなく、今度はソウゲンに対して詰め寄る。


「それでは、私は今まで何の為に教団に身を捧げてきたと言うのです!?貴方が息子を蘇らせてくれると言うから!私はこれまで尽力してきたというのに!」


 実際のところカゲロウにとっては教団の理念などは二の次で、亡き息子を蘇らせるというのが根本的な理由であった。ところがその願いが叶わぬというのだから、取り乱すのも無理はない。


「うるさい奴だ」


 だが、ソウゲンの目は冷たかった。カゲロウのことを、まるで用済みの奴隷のようにしか見ていない。

 呆れた様子のソウゲンは、マグマの海の中にたたずむカグツチの方に目を向けた。


「神よ。貴方の御力で、この者に最後の仕事を与えては如何いかがでしょうか?」

『お前も物好きな奴だな。用が済んだのなら、捨て置けばよいだろう』


 ソウゲンの提案に対し、カグツチはつまらなそうに返事をした。だがそう言いつつもカグツチは閉じていた目を見開き、右の手のひらをカゲロウに向ける。


『まあ、よかろう。肩慣らし程度に我の力を見せてやる』


 カグツチの右手からは青白い炎が放たれ、一瞬にしてカゲロウの全身を包み込んだ。


「ぎっ、ぎゃあああぁぁぁ!!」


 全身をかれる感覚に、カゲロウは壮絶な叫び声を上げる。だが全身を炎で包まれているので、炎の中でカゲロウ自身がどうなっているのかは外から確認することはできない。


「さて、シラヌイよ。貴様はどうする?」


 カゲロウを包む炎を眺めながら、ソウゲンは後方にある大岩に背を預けていたシラヌイに向かって尋ねた。当のシラヌイ自身は、カゲロウが炎に灼かれる様子を目の当たりにしてもさして驚いた様子は見せていない。


「拙者の目的は死人の復活などではない。復讐だ」

「ふん、そうだったな」


 シラヌイの返答を聞いて、ソウゲンは鼻を鳴らした。


「案ずるなシラヌイ。お前の復讐については明日、必ず果たされることになるからな」

「そう願いたいな」


 ソウゲンの強気な発言を聞いたシラヌイは、一言だけ言い残すと一瞬にしてその場から消えた。

 やがて炎の中からはカゲロウの叫び声も聞こえなくなり、火口にはソウゲンの高笑いだけが響きわたっていた。

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