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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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神の領域

「そうですか…。やはり火神カグツチが…」


 火山の中で起こった出来事をレクトから聞いて、ハクレンは複雑な表情を浮かべている。

 現在、レクトたちは中心街への道の途中にある村にやってきていた。勿論サクラを休ませることと、これからどう動くかを考えることが目的だ。村長に相談したところ“ぜひ集会場を使ってくれ”とのことだったので、村の中心にある集会場の中で作戦会議の真っ最中である。


「すみません…。私が油断して刺されてしまったばかりに…」


 サクラは傷のある脇腹に手を添えながら、申し訳なさそうに言った。尚、傷に関しては少し前に目を覚ました際に改めて治療を受けたばかりだ。


「相手はあたしたちでも気づけないレベルの速さだったし、あんたのせいじゃないでしょ」

「そうだよー。あのニンジャ、せんせーが相手でも生き延びてるんだから」


 リリアとニナがフォローするように言った。もっとも、ニナの発言に関してはいささか不用意な部分があり、その点についてレクトが反応する。


「アホなこと言うなニナ。あの程度の野郎、真正面からガチでやり合ったら瞬殺してやる」

「先生。今そこは重要じゃないです」


 ニナの発言に言及するレクトに対し、ルーチェが冷静にツッコんだ。実際にレクトがシラヌイを瞬殺できるのかどうかはさておき、今はそれよりももっと重要な問題が目の前にあるからだ。


「それより、どうするんですか先生。さっきの話だと、このままじゃ中心街が攻め込まれるのも時間の問題です」


 エレナが本題に触れる。だが、その問題は簡単に解決できるようなものではないということは皆が理解していた。


「でも、センセイで勝てない相手なら誰がやっても無理なんじゃ…」


 珍しく、ベロニカが弱気な発言をした。彼女自身はカグツチの力を直接目の当たりにしたわけではないが、“レクトでも倒せなかった”というその事実だけで十分な脅威であると認識しているようだった。


「そうは言っても、このまま傍観しているってわけにもいかないでしょ」


 椅子に座っていたフィーネが立ち上がる。


「じゃあ、どうすんの?」

「う、それは…」


 態度は凛としていたものの、ベロニカの一言でフィーネは黙り込んでしまった。

 そうして数秒の沈黙が流れたが、それを破るかのようにリリアが口を開く。


「でも、確かに危機的状況なのには間違いないけど、今すぐに攻め込まれるってわけじゃないわ」

「そういえばカグツチは確か、“力が完全に戻るまで半日かかる”って言ってましたもんね」


 現場にいたリリアとアイリスが、皆を落ち着かせるように言った。


「奴が復活した時刻から半日と考えると…タイムリミットは明日の朝7時頃ってところか」


 レクトは腕を組みながら、壁にかかっている時計を見上げる。時刻は現在、9時をまわったところである。タイムリミットまでは長いような短いような、微妙な長さだと言えるだろう。

 だが、このままではどうにもならないほどに大きな問題を抱えているのが現状だ。


「そうは言っても先生。さっきの話の中でも言ってましたけど、今のままじゃカグツチに干渉できないんですよね?どうやって対抗するんですか?」


 先程と同じように、エレナがレクトに質問する。ただ、皆が後ろ向きな気持ちであるのに対してレクト自身は明確に先を見据えているようだった。


「対抗するには、神の領域に踏み込むしかないな」

「だから、どうやって?」


 レクトの答えがわかりにくかったのか、ベロニカが横から質問を重ねた。


「その鍵は、サクラが握ってる」

「わ、私ですか?」


 急に話を振られ、それまで黙っていたサクラは少し驚いたような反応を見せている。


「そうだ。俺を不死鳥エンスウの所へ連れて行け」

「守護神の元へ?」


 レクトの口から唐突に守護神の名が出たので、サクラは少し拍子抜けしたようだった。


御神刀こいつの事で、エンスウに用がある」


 そう言って、レクトは鞘に収まったままの御神刀を手にする。それを見て、アイリスはふとあることを思い出した。


「そういえば、大剣で攻撃した時にはまったく通用しなかったのに、御神刀で斬った時にはカグツチの腕に切り傷みたいなのができていましたね」

「あぁ、確かに。あんまり効果なかったけど」


 アイリスの話を聞いて、リリアも頷いた。ただリリアの言うように斬れたことは斬れたのだが、カグツチ自体にはほとんどダメージが無かったのも事実だ。


「御神刀なら斬れるってこと?」


 状況がまだよくわかっていないニナが、率直な疑問を投げかけた。だがレクトは腕を組んだままで、首を縦には振らない。


「ただ単に“斬れる”だけじゃ駄目だ。小さなダメージしか与えられないんじゃ、倒すなんて夢のまた夢だしな」

「う、そっか…」


 レクトの説明を聞いて、ニナはがっかりしたようにうなだれた。だが、レクトの話を聞いて今度はエレナにも疑問が浮かんだようだった。


「先生、御神刀を使ってもあまり有効な攻撃手段にならないのはどうしてなんですか?それだけカグツチの防御力みたいなのが凄いんですか?」

「それ、私も気になってました」


 エレナが挙げた疑問点に、ルーチェも同調するように頷いた。

 そもそも、御神刀は不死鳥エンスウの加護を受けた刀の筈である。それを使っても大したダメージを与えられないというのであれば、それだけカグツチの力が凄まじいという風に考えるのが自然だろう。

 だが、実際に御神刀を使ってみた立場であるレクトの考えは違っていた。


「いや。あくまでも俺の予想だが、今の段階だと御神刀の方に問題があるんだと思う」

「御神刀の方に?」


 何のことだかわからないといった様子で、リリアが首をかしげる。レクトは御神刀を鞘から少しだけ抜き、ハクレンに見せるように掲げた。


「ハクレン。俺が思うにこの刀、本来の力を発揮できてないよな?」

「何故、そう思われるのですか?」


 予想と言いつつもレクトは確信を持っている様子だったので、それが気になったのかハクレンは聞き返した。


「物にもよるが、ルークスの奴が持ってた聖剣グラニみたいに神の加護が宿った武具は使用者にオーラというか、独特な雰囲気をまとわせるような感覚があるからな。この刀もそれが無いってわけじゃないが、どうにも小さいような気がしてならないんだ」


 説明しながら、レクトは御神刀の刀身を明かりにかざす。神の加護を受けた武器など普通の人生を送っている人間にとっては無縁の代物であろうが、生憎とレクトは普通の人生など欠片ほども送っていない。


「なるほど、流石はレクト殿。正にその通りでございます」


 レクトの話を聞いたハクレンは、驚きと納得が混じったような表情を浮かべた。


「伝承によると、御神刀が本来の力を発揮するには不死鳥エンスウの力が必要だといわれています。そもそも、御神刀自体が大昔に不死鳥エンスウのまとう炎によって鍛え上げられたそうですからね」

「だろうな」


 ハクレンの話を聞いたレクトは、少しだけ刀身をのぞかせていた御神刀を再び鞘に収める。

 ようやく話が見えてきたところで、改めてフィーネが口を開いた。


「ということは、不死鳥エンスウの力を借りれば御神刀の本来の力を発揮できるってことですよね?だから先生、エンスウの所へ連れて行けって…」

「そういうこと」


 フィーネの質問に対し、レクトは軽く返事をした。

 兎にも角にも、今やるべき事は決まった。それまであまり口を挟まずに黙って話を聞いていたサクラは、決心したような様子で立ち上がる。


「わかりました、ご案内します。不死鳥エンスウの眠る山へ」

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