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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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不死鳥の伝説 前編

 レクトからの質問を受けたレンカイであったが、どうやらその話は少し長くなるようであった。そこでレクトたちはレンカイから「場所を変えましょう」との提案を受け、今は客間らしき部屋で彼と一緒にいる。


「そうでしたか、私たちが捕まっている間にそんなことが…」


 これまでの経緯いきさつをレクトたちから聞いて、レンカイは何とも言えない表情を浮かべている。


「レンカイさんたちはネコの姿にはならなかったんですか?」


 アイリスが尋ねた。確かに、寺の敷地内にいたのだから男性であるレンカイや他の僧侶たちもカゲロウの結界によってネコに変えられていた筈である。

 しかしレンカイは全く知らないといった様子で、首を横に振った。


「いいえ。大きな物音などは何度か聞こえてはいたのですけどね」


 結界魔法の範囲内にいたにもかかわらず、どうやらレンカイたちはネコの姿にはならなかったらしい。その点について、サクラには心当たりがあるようだった。


「おそらく、扉の前に貼ってあった札の効力でしょう。あれでネコの姿に変わるのを防いでいたのだと思われます。もしネコの姿になってしまったら、縄が簡単に解けて逃げ出せるようになってしまいますから」

「なるほど。用意周到だったってわけね」


 サクラの説明を聞いて、リリアが納得したように頷く。やはりこれまでの出来事があったからか、敵側もかなり慎重になっているというのが改めて実感できた。

 兎にも角にも一通りの説明が済んだところで、レンカイは改めて本題についての話を切り出す。


「さて、先程の話の続きをいたしましょうか。レクト様のおっしゃった通り、確かにこの寺は古来より姫巫女と関係がございます」


 レンカイの説明を聞いて、レクトは「はーん」と相槌を打つ。自分から質問しておいて、この態度はいかがなものかというのもあるが。いい加減なレクトの態度を見かねたのか、横に座っていたアイリスが「先生!」と小声で注意しながらレクトの脇腹を軽く小突いた。

 そんなレクトの返事はさておいて、レンカイはある事実を口にする。


「ただ厳密に言いますと、この寺に本当に深く関係しているのは姫巫女ではなく、ヤマトの守護神である不死鳥の方なのです」

「あー、なるほどなぁ」


 その説明を聞いて、レクトは納得したように頷いた。とはいえ、姫巫女の役割は守護神である不死鳥に祈りを捧げることであると言われているので、姫巫女自体にも関係があるというのも間違いではないのだろうが。


「というか先生。いつの間にそんな事を調べていたんですか?」


 レクトが一体どこからそんな情報を仕入れてきたのかがどうにも気になったのか、唐突にルーチェが質問をした。


 何しろ、ヤマトに着いてからはレクトとS組メンバーはほとんどの時間を一緒に行動している。そのため、レクトがいつどのタイミングでその情報を入手したのかが全くわからないのだ。

 だが、その質問に対するレクトの答えは意外なものであった。


「昨日の夜、ユウジョのねーちゃんたちから聞いた」

「「えっ!?」」


 レクトが思いもよらない情報源を挙げたので、昨晩その場にいたフィーネ、エレナ、リリアの3人は呆気にとられたような表情になった。というのも、思い返してみても昨晩のレクトはただ遊んでいるようにしか見えないかったからだ。


「そもそもお前らはお子様だから知らないだろうが、実は娼館っていうのは多くの情報が集まる場所なんだぞ?」

「えっ、ウソ!?」

「そうなんですか?」


 レクトが口にした意外な事実に、生徒たちは目を丸くしている。

 当たり前ではあるが、10代の少女であるS組メンバーは娼館を訪れた経験などあるはずがないため、そもそもどういう場所であるのかもぼんやりしたイメージしかない。単純に娼婦が金を貰って客の相手をしている、程度の認識しかなかったので、情報収集に役立つなど考えたことすらないのだ。


「あぁ。何しろ娼館っていうのは不特定多数の人間が集まる場所だからな。お忍びで政府高官や軍の士官なんかが利用することだってあるし、反対に裏の世界の人間が訪れることもある。色々な人間を相手にしている娼婦っていうのは貴重な情報源になるんだぜ?」

「「へぇ〜」」


 レクトの説明を聞いて、アイリス、ベロニカ、ニナの3人が感心したような声を上げた。一方で、それ以外のメンバーは黙ったままレクトのことを見ているが。


「じゃあ昨日の夜に先生が女の人たちと一緒にいたっていう話は、遊んでたわけじゃなくて情報収集をしてたってことなんですか?」

「そういうこと」


 アイリスの質問に、レクトは得意気に答えた。しかし昨晩にレクトと遊女たちのやり取りを直に目の当たりにしていたエレナとフィーネは、どうにも信じられないといったような目をしつつ、レクトに気付かれないように小声でヒソヒソ話している。


(ねえ、フィーネ。あれって絶対、情報収集は二の次で遊びがメインだったわよね?)

(私もそう思うけど、ここは黙っておきましょう)


 やはり2人からすると昨日のレクトの態度を見るに、真面目に情報収集目的のみで遊女たちと接していたとは素直に思えないらしい。もっとも、これに関してはレクトの日頃の行いも少なからず原因に含まれているのだが。


「それで、どうなんだ?この場所と不死鳥の関係っていうのは」


 2人の内緒話には特に気付いた様子もなく、レクトは話を本題へと戻す。だがその質問に答えたのはレンカイではなく、自身も何か知っているような様子を見せているサクラであった。


「まず、この寺の名前は『えんすう』といいます」

「エンスウジ?」


 寺の名前を聞いて、ベロニカが疑問に満ちた声を上げた。確かにレクトからは寺の名前どころか今日どこへ行くのかすら聞かされていなかったので、かなり今更ではあるがS組メンバーはここで初めて寺の名前を聞かされたことになる。

 そして、寺の名前に関するサクラの説明が続く。


「はい。ヤマトの守護神である不死鳥『エンスウ』にゆかりのある寺なのです」

「確かに、名前が一緒ね」


 エレナが納得したように言った。寺の名前がわかったところで、更にレンカイから詳しい説明が入る。


「そしてこの寺には、過去数千年に渡って不死鳥エンスウが現れた際の記録が残されているのです」

「数千年前の記録が、今も残されているんですか?」


 アイリスが驚いたように言ったが、流石に数千年という長さ自体には彼女だけでなく全員が驚愕しているようだ。


「えぇ、その通りです。只今お持ちしますので、少々お待ちください」


 そう言ってレンカイは立ち上がると、扉を開けて奥の部屋へと消えていった。彼が戻るのを待つ間、フィーネはふとあることをレクトに尋ねる。


「でも先生、どうして急に不死鳥のことを調べようなんて思ったんですか?」


 少しばかり唐突な質問であった。とはいえ、フィーネとしては昨日の段階では全くそんな話は挙がらなかったのに、レクトが急に守護神である不死鳥のことを調べようと思い立ったことが少し不思議に感じたようだ。修学旅行の一環として捉えることもできなくはないが、それでもいささか唐突すぎるような気がしないでもない。


「そうだよー。せんせーなら別に守り神の力なんてなくっても、教団のやつらなんてズバーって倒せちゃうんじゃないの?」


 心配そうなフィーネとは対照的に、呑気な様子でニナが言った。おそらくニナの中ではレクト=誰にも負けない、という図式が完全に成り立っているのだろう。


「念の為だ」

「「念の為?」」


 端的に答えたレクトであったが、フィーネとニナは当然のように疑問の声を上げる。しかし、レクト自身はいつになく真面目な様子だ。


「もしかしたら、冗談抜きで不死鳥の力が無いとどうしようもない事態に発展するって可能性もゼロじゃないからな」


 そう口にしたレクトは、いやに冷静なようであった。そんな彼の態度が少し気になったのか、アイリスは若干聞きづらいと理解しつつも思い切ってあることを質問してみた。


「先生でも勝てない相手っているんですか?」


 あまりにもストレートな質問であったからか、それを聞いたフィーネとエレナはギョッとしたようなリアクションをしている。日頃から負け知らずのレクトに対して、いかにも「それ聞いちゃうの?」とでも言いたげな表情だ。

 しかしそんな彼女たちの思考とは裏腹に、レクトの返答は真っ当なものであった。


「単純な力比べだけでいいのなら俺も自信があるが、そうもいかないこともあるからな。時には人間の常識では考えられないような手段を用いることだってある。神っていうのはそういう連中だ」


 経験談であろうか、レクトは特に隠した様子もなくさらりと述べる。やはりかみと呼ばれるような存在は、普通のモンスターとは一線を画すものであるらしい。


「神様を連中呼ばわりする時点で、既に先生自身も人間の常識から外れているような気がしますが」

「言えてるー」

「お前らなあ…」


 割と真面目な話をしていたつもりであったのに、横からルーチェとベロニカに茶々を入れられ、レクトは呆れたような表情になる。だがレクトが反論する前に扉の奥から木の箱を携えたレンカイが戻ってきたため、その話は一旦中断ということになった。


「お待たせしました。こちらが、不死鳥エンスウにまつわる記録になります」


 そう言ってレンカイは腰を下ろし、木の箱を開ける。中から取り出したのは、古ぼけた数枚の巻物であった。巻物はところどころ薄汚れていて、見るからに年代物であるということがわかる。


「随分と古そうね」

「数千年前の記録だから、当たり前といえば当たり前なのかもしれないけどね」


 古い巻物を見て、リリアとエレナが率直な感想を漏らした。口には出さないが、他のメンバーも皆似たような考えのようだ。

 レンカイはそのうちの1つを手に取ると、するすると静かに開いていく。そこには黒いインクのようなもので描かれた何かの絵と、おそらくその絵の説明とおもわしき文章が記載されていた。


「伝承では、不死鳥エンスウが最後に姿を現したのはおよそ500年前であるといわれています」


 文章を指でなぞりながら、レンカイが説明する。もっとも文章自体はヤマトの、しかも今は使われていないと思われる古い文字で書かれていたためにレクトたちには全く読めなかったが。


「500年?そんなに昔なのか」


 あまりにも大昔のことであったからか、流石のレクトも多少なり驚いているようだ。年数そのものが桁違いであったからか、生徒たちに至ってはいまいちピンときていない様子である。


「当時、ヤマトは過去に前例のないほどの大嵐の被害に遭っていたそうです。そしてその大嵐は実は天災などではなく、ある邪悪な術師とその人物が呼び出した邪竜によってもたらされたものだったと記録にあります」


 レンカイは人と竜の絵を指で差し示しながら、説明を続けている。相変わらず横に書いてある説明は読めないレクトたちであったが、絵だけでも何となく描かれている内容が理解できた。


「そこで当時の姫巫女が不死鳥エンスウを呼び出し、その力を借りて術師と邪竜を打倒したというのが500年前の出来事ですね」

「なるほど、大体は理解できた」


 レクトの返答を聞いて、レンカイは広げていた巻物を元に戻す。次はそれよりも更に古いと思わしき巻物を手に取ると、同様にするすると開き始めた。


「次がこちらです。これはおよそ1200年前の記録ですね」

「また一気に年代が飛んだわね」


 リリアが少し呆れたような口調で言った。何しろその間に空いているのが700年というこれまた途方もない期間であったため、いざ聞いても全くピンと来ないのだ。

 しかしそれでも、貴重な情報であるのは変わりない。レクトたちはその後も真剣な様子でレンカイの話に耳を傾けた。

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